ポケットモンスター ブラック・ホワイト とあるトレーナーが綴る、イッシュ地方の旅路 原作ゲーム沿いノベライズ   作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった

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龍螺旋の塔(前):プラズマ団の総攻撃(あるいは、階段という名のエンカウント誘発装置)

 セッカジムでアイシクルバッジを分捕った僕を待っていたのは、勝利の余韻ではなく、ハチクからの「パシリの依頼」だった。

 

「……龍螺旋の塔にプラズマ団が? ハチクさん、正気!? ジムリーダーが上半身裸で修行してる間に、テロリストが世界遺産を占拠してるんだよ!? セキュリティ意識がカノコタウンの自宅の鍵よりガバガバじゃないか!!」

 

 僕は絶叫しながら、セッカシティの北にそびえ立つ「龍螺旋の塔」へ向かった。

 この塔。内部は階段だらけの構造だが、廃人の僕にはわかる。これは階段じゃない。一歩ごとにエンカウント判定を挟み込み、プレイヤーの精神を摩耗させるための「物理的な遅延回路」だ。

 

「……出たよ、したっぱの群れ!! 『ポケモンを解放する!』とか言いながら、お前ら一人が三匹ずつ繰り出してくるせいで、僕のプレイ時間が物理的に三倍膨れ上がってるんだよ!! 解放したいのはポケモンじゃなくて、僕の拘束時間の方だよ!!」

 

 したっぱを「作業」として処理しながら塔を登る僕の前に、またしてもあの眼鏡――チェレンが現れた。

 

「……主人公。君も来たんだね。上にはNがいる。伝説のドラゴンを、理想の数値を具現化するために」

 

「チェレン!! Nの理想とかどうでもいいから、この塔の『エンカウント率』について一言言ってやってよ!! スプレーが切れた瞬間にゴビットが飛び出してくるこのタイミング、ゲーフリのプログラマーが僕の操作を裏で監視してるとしか思えないんだけど!!」

 

 だが、チェレンは僕の叫びを「いつものこと」として無視し、塔の上層を見上げた。

 

「……ハチクさんたちがしたっぱを食い止めている。僕らは行くんだ。強さの答えを、あの上で確認するために」

 

「強さの答え!? んなもん、努力値を振り切った後の実数値以外に何があるんだよ!! ……ああっ、ちょっと待って! 今、階段の角で『最高級のシルクの靴下』を引っ掛けた!! 一足三千円もしたのに!! 伝線した!!」

 

 一話のスニーカー、二話のラグに続き、僕のなけなしの私財がまたしてもイッシュの不条理なオブジェクトによって破壊された。

 

「あああああ!! もう許さない!! プラズマ団もNも、僕の生活水準を物理的に削りにきすぎだろ!! ベルがいたら今頃『あわわ、繕ってあげるね!』とか言って、さらに穴を広げてるんだろうけど、今はいない!! この怒りをどこにぶつければいいんだよ!!」

 

「……フッ。災い転じて福となす、だ」

 

 チェレンが、伝線した靴下を履いた僕を見て、眼鏡の奥で冷酷に笑う。

 

「靴下が破れたのなら、風通しが良くなったと思えばいい。その軽やかさで、最上階の『神話』を最速で攻略しに行こう。……さあ、いこうか」

 

 靴下はボロボロ。スプレーの残量はわずか。

 だが、塔の最上階からは、すべてを数値化して支配しようとする僕のプライドを粉砕するような、凄まじい「伝説の咆哮」が響き渡ってきた。

 

「(……来る。ゲームのパッケージを飾る、あのチート級の種族値共が……!!)」

 

 僕は怒りと恐怖を混ぜ合わせた顔で、最後の階段に足をかけた。

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