ポケットモンスター ブラック・ホワイト とあるトレーナーが綴る、イッシュ地方の旅路 原作ゲーム沿いノベライズ   作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった

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龍螺旋の塔(後):Nが伝説のドラゴンを覚醒させる(あるいは、ムービー中に操作不能になるプレイヤーの無力感)

 伝線した三千円の靴下を履いたまま、僕はついに龍螺旋の塔の最上階へと辿り着いた。

 

 そこには、かつてカラクサタウンで僕の「孵化余りへの執着」をボロクソに言ってきた数式少年――Nが、巨大な光の塊を前にして立っていた。

 

「……遅かったね、トモダチ。今、伝説が僕の『数式』に合流するよ」

 

「N!! お前、こんな塔のてっぺんで何やってるんだよ!! その光ってる岩、どう見てもパッケージを飾る『メインディッシュ(伝説)』だろ!! それを一人で独占するなんて、ゲーフリのパワーバランス設定を無視した独占禁止法違反だぞ!!」

 

 僕の叫びなど、今の彼には届かない。

 Nが手をかざすと、塔全体が激しく振動し始めた。電子音の咆哮が、僕のDSのスピーカーを物理的に割りにくるような大音響で響き渡る。

 

「(……ッ!? なんだよこの演出!! エフェクトのクオリティが、1番道路のミネズミの時と比べて明らかに予算配分を間違えてるだろ!!)」

 

 光の中から現れたのは、白き英雄(あるいは黒き英雄)――伝説のドラゴン。

 その圧倒的な威圧感。その神々しい種族値。

 

「……見てごらん。彼が目覚めた。この世界の『不条理なルール』を、数値による支配を、すべて無(ゼロ)に帰すために」

 

「数値による支配を無にする!? やめろぉぉ!!」

 

 僕は思わず、崩れゆく塔の床で絶叫していた。

 

「それをやられたら、僕が昨日までネジ山でガントルを数百匹狩って調整した『素早さ(S)の努力値』はどうなるんだよ!! 伝説の一撃でリセットされたら、僕の費やした電気代と睡眠時間が、ただの『虚無の納税』になっちゃうだろ!!」

 

「やれやれ。主人公、君は相変わらず『伝説の誕生』という歴史的瞬間ですら、自分の電気代に換算してしまうんだね」

 

 チェレンがいつの間にか背後に立ち、眼鏡をクイッと押し上げながら冷静に――いや、少しだけ悔しそうに呟く。

 

「でも確かに、この力の差は……僕らが積み上げてきた『バトルの仕様』を根底から否定する、最高に絶望的なプロットだよ」

 

 Nは伝説のドラゴンの背に飛び乗り、僕を見下ろした。その瞳には、かつてのような迷いはなく、完全に「物語の主導権を握った者」の余裕があった。

 

「……次は君の番だ、トモダチ。僕を止めたければ、君ももう一匹のドラゴンを見つけるといい。……君の愛が、ただの『ラグへの執着』ではないことを、僕に証明してよ」

 

 Nが去った後の静寂。

 塔の最上階には、風の音と、僕の伝線した靴下だけが残された。

 

「……ふざけるなよN!! 証明してやるよ!! 僕の愛が、どれほどドロドロしてて、重くて、数値に忠実かってことをね!! もう一匹のドラゴンを捕まえたら、そいつに『ラグのうらみ』ってニックネームを付けて、お前の理想を物理的に粉砕してやるからな!!」

 

「……フッ。災い転じて福となす、だ」

 

 チェレンが、空っぽになった祭壇を見て不敵に笑う。

 

「伝説が奪われたのなら、僕らはそれ以上の『伝説』を捏造(厳選)すればいい。それが、この理不尽な世界を生き抜くための、廃人の正しい『逆襲』だよ。……さあ、いこうか。リゾートデザートへ」

 

 靴下は伝線。伝説は逃走。

 だが、僕の心には、Nへの怒りと、さらなる「高種族値」への渇望が、激しく火花を散らしていた。

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