ポケットモンスター ブラック・ホワイト とあるトレーナーが綴る、イッシュ地方の旅路 原作ゲーム沿いノベライズ 作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった
一歩進むごとに「誰だお前!」と叫びたくなる一ばん道路の洗礼を抜け、僕らはカラクサタウンに辿り着いた。
だが、そこには安らぎなど微塵もなかった。
広場を埋め尽くすのは、中世のコスプレ集団としか思えない怪しい連中――プラズマ団。
彼らが作り出す不気味な静寂を、一人の男の「やたらと滑舌の良い声」が切り裂いた。
「……よろしいですか、皆さん!! 我々プラズマ団は提唱する! ポケモンは解放されるべきであると!!」
センターでマイクを握る男、ゲーチス。
そのマントの着こなしと言い、不動産投資の勧誘並みに淀みのない口調と言い、どこからどう見ても「公式が用意した、最高にうさんくさい刺客」だった。
「モンスターボールという名の『利権の檻』から、彼らを解き放つのです!! ……まあ、平たく言えば、『お前らが今まで十五年かけてやってきた捕獲も、個体値厳選も、全部虐待だし無駄だよ』っていう、ゲームフリークによる自己批判なんですけどね!!」
「……やめろぉぉ!!」
僕は思わず、広場の中心で絶叫していた。
「それを言ったら、僕が色違いを出すために二千回卵を割ったあの時間は、単なる『生命の工場勤務』になっちゃうだろ!! ゲーフリさん、自分で作った中毒システムを自分で否定し始めたら、僕らは何を信じてAボタンを連打すればいいんだよ!!」
「やれやれ。主人公、君は相変わらず公式の意図に過剰反応しすぎだよ」
チェレンが眼鏡を押し上げ、冷徹に分析する。
「でも確かに、彼らの言っていることは、これまでの『ポケモンの当たり前』を根底から揺さぶる、最高に意地の悪いプロットだね……」
「あわわわ、大変だよー!!」
そこへ、自分のリュックの紐が首に絡まって窒息しかけていたベルが、顔を真っ赤にして割り込んできた。
「見て見て、みんな! あの人たち、私のミジュマルと離れろって言ってるの!? そんなの、ゲーフリさんに一万通の抗議メールを送るレベルだよぉー!! 誰が私のスニーカーを濡らしてくれるっていうのー!!」
「ベル、そこは怒るポイントがズレてるよ!!」
混乱が極限に達したその時。
どこからともなく、浮世離れした「キラキラした音」を纏って、一人の美少年が僕の背後に立っていた。
「……トモダチ。君のポケモン、今、泣いているよ」
「……うわぁ!! なんだよこの超絶イケメン!!」
僕は飛び退いた。喋り方が完全に「エヴァンゲリオンの最終回間際に現れて、視聴者を置いてけぼりにする謎の少年」そのものじゃないか。
「『なんでこのトレーナー、個体値の計算ばっかりして僕の目を見てくれないの?』……ポカブがそう言っている。不思議だね。君の心からは、公式への文句と、ラグを汚された怨念の数式しか聞こえてこない……。君の愛、僕に見せてくれるかな?」
「チェレン、助けて!!」
僕は半泣きで叫んだ。
「こいつ、僕の『二千回の努力(孵化余り)』を完全にバカにしてる! 精神攻撃のクオリティが高すぎて、物理ダメージよりキツいよ!!」
「……フッ。面白いじゃないか」
チェレンが不敵に微笑み、僕の背中を叩く。
「公式が用意した『自己批判』という名のエンターテインメント、受けて立とうじゃないか。さあ、主人公。その震えを『こだわり』に変えて、目の前の数式少年に、僕らの積み上げてきたバトルの仕様を叩きつけてやるんだ!!」
「もうヤケクソだよ! やってやるよ!!」
僕は、水に濡れて半乾きのスニーカーを踏み締め、ポカブを突き出した。
「行け、ポカブ! 個体値なんて関係ない、君と僕の泥臭い絆……っていうか、ラグを汚された怒りのパワーを見せてやれ!!」
カラクサタウンに、電子音と、僕らの執着が混ざり合った激しい火花が散る。
物語は、ただの冒険から、「正義を問う戦い」へと、一気に加速し始めていた。