ポケットモンスター ブラック・ホワイト とあるトレーナーが綴る、イッシュ地方の旅路 原作ゲーム沿いノベライズ 作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった
リゾートデザートで砂を噛むような思い(物理)をした僕らは、ついに最後のバッジが眠る街、ソウリュウシティに足を踏み入れた。
だが、その門を潜った瞬間、僕はDSの液晶を二度見した。
「……は? なあ、チェレン。ここ、本当にソウリュウシティか? 街全体が超古代の遺跡みたいな、やけに重々しい『歴史の押し売り』みたいな景色なんだけど! ゲーフリさん、これ設定ミスじゃないの!? 僕が攻略本で見たのは、もっとサイバーでネオンが輝く『未来都市』だったはずだよ!!」
このソウリュウシティ。ブラックなら「未来」、ホワイトなら「過去」という、もはや街を二つ作る手間を惜しまないゲーフリの狂気が詰まった分岐点だ。
「やれやれ。主人公、君はまだ自分が『ホワイト』の世界線にいるという自覚がないのかい?」
チェレンが、古びた石畳の年代表を指でなぞりながら冷徹に言う。
「ここでは歴史こそが正義さ。君が求めていたサイバーな電子音楽も、ネオンサインも存在しない。あるのは、この重苦しいアイリスの故郷としての空気感だけだよ。……あ、僕はあっちの骨董品屋で、ポケモンの歴史に関する資料を全巻予約してくるよ」
「チェレン、歴史を学ぶ前にバッジを獲りに行くって決めてるだろ!!」
「おっはよー!! ……あ、待って、歴史の重みに耐えきれなくて、階段の踊り場でリュックの底が抜けた! ……イテテ。でも大丈夫!」
そこへ、中世の石造りの階段をリュックの中身をぶちまけながら転がり落ちてきたベルが、千切れた肩紐を握りしめて滑り込んできた。
「見て見て、主人公! この街、すっごくお線香みたいな匂いがするよ! さっきの砂漠で焦げた私のリュックも、この街の『伝統の技』で直してくれるかな!? ゲーフリさん、この街のNPCにミシンを持ってる人はいないのぉー!!」
「ベル!! 膝の血と、今度はその散らばった着替えを早く拾いなよ!! 誰がこの石畳の上でパンツを晒してる女の子をジムまでエスコートすると思ってるんだよ!!」
そんな僕らのドタバタを、広場の中央で一人の老人が静かに、だが圧倒的な威圧感で制した。
この街の市長にして、最強のドラゴン使い――シャガだ。
「……ようこそ、異郷の若者よ。伝説のドラゴンを追う君たちが、この歴史の果てに何を見るのか。……未来を語るか、過去を尊ぶか。それを決めるのは、君たちの『理想』か、それとも『真実』か……」
「シャガさん!! 理想とか真実とかいう前に、なんでブラック版とホワイト版で、この街のBGMのテンポをあんなに極端に変えたのか教えてよ!! 音楽の趣味が合わないせいで、僕の攻略モチベーション(やる気)のバイオリズムがガタガタなんだよ!!」
だが、シャガは僕のメタな抗議を「若さゆえの過ち」と切り捨て、マントを翻してジムへと向かった。
「……ジムで待つ。伝説の楔(くさび)を巡る物語の終着点、君の力で見せてみよ」
「待てよ!! ジムで待つって言って、また誰かのパシリをさせるつもりじゃないだろうね!! 予約は!? 整理券はどこなの!!」
僕は、五本目のスプレー(空)を石畳に叩きつけた。
「……フッ。災い転じて福となす、だ」
チェレンが、資料を抱えて不敵に笑う。
「街が古いというのなら、僕らの『最新の戦術』で上書きしてしまえばいい。それが、この歴史あるソウリュウを攻略するための、廃人の正しい『温故知新』だよ。……さあ、いこうか、最後のジム戦へ」
「もうヤケクソだよ! やってやるよ!!」
僕は、底の抜けたベルのリュックから溢れた予備のモンスターボールをひっつかみ、ドラゴンの咆哮が響くジムの門を蹴り開けた。
「行け、チャオブー! 歴史が重いなら、僕の『二千回の孵化作業』という名の重い愛で、物理的に粉砕してやるからな!! 掃除は全部ベルに……って、パンツ拾うので手一杯かよ!!」