ポケットモンスター ブラック・ホワイト とあるトレーナーが綴る、イッシュ地方の旅路 原作ゲーム沿いノベライズ 作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった
8つのバッジがゲートを一つずつ解き放ち、ついに僕は辿り着いた。イッシュ地方における「廃人の最終選別会場」――チャンピオンロード。
「……長い。ソウリュウジムの龍の首より、ネジ山の迷路より、物理的にエグい構造してるだろ!! ゲーフリさん、この岩の配置、一箇所でも押し間違えたら最初からやり直しになるパズルを、なんでこのクライマックスに持ってくるんだよ!!」
僕は絶叫しながら、手持ちの「かいりき」要員(※もはや戦力外の秘伝要員)を酷使して巨大な岩を穴に落としていた。
「(……ああ、重い。岩も重いけど、ここに来るまでに浪費したスプレー代と、伝線した三千円の靴下の恨みが、僕の背中を物理的に地面にめり込ませようとしてるよ……!!)」
出口の光が見えかけたその時、背後からこれ以上なく聞き慣れた、そして今は少しだけ「戦闘力(種族値)」の上がった声が響いた。
「……待ってよ、主人公!」
「チェレン!? お前、10番道路で僕と熱いバトルをして、爽やかに別れたばっかりじゃないか!! なんでこの迷路の出口で、待ち伏せ(リスキル)みたいな真似をしてるんだよ!!」
チェレンは、洞窟の湿気で少し曇った眼鏡をクイッと押し上げた。
「……僕も考えたんだ。チャンピオンになるために必要なのは、数値や理屈だけじゃない。……君という、僕とは正反対の『執着の化身』を倒さなければ、僕は先へ進めない」
「執着の化身って言うな!! 僕はただ、ゲーフリの乱数に愛されたいだけの善良な市民だよ!!」
一方で、ベルは少し離れた場所で、穴に落とした岩の上に腰掛けていた。
「……えへへ。二人とも、すっごく険しい顔。……私は、ここで二人が『自分自身』と戦うのを見届けるね。……あ、主人公、大丈夫! もし負けても、私のミジュマルがその泥だらけの靴を、涙が出るくらい綺麗に……」
「水没させるなと言ってるだろぉぉ!!」
シリアスなBGMが鳴り響く中、本当の「最後の試練」が始まった。
それはチェレンとの戦いであり、同時に、効率と数値ばかりを追い求めてきた「これまでの僕自身」との戦いでもあった。
「(……ああ、分かってるよ。ここで勝たなきゃ、Nの理想(数式)なんてぶち壊せないんだ!!)」
僕は、ボロボロになったスニーカーを踏み締め、エンブオーを突き出した。
「行け、エンブオー!! 相手は自分自身、つまり僕の心の迷いという名の『デバフ』だ!! 物理法則も、公式の調整も、全部その拳で焼き尽くして、四天王への道をこじ開けろ!! 掃除は全部ベルに……って、彼女、岩の上で居眠り始めちゃったよ!!」
洞窟内に響き渡る轟音。
僕らは、自分たちの積み上げてきた時間をすべてぶつけ合い、ついに光射す出口へと、泥まみれのまま飛び出した。