ポケットモンスター ブラック・ホワイト とあるトレーナーが綴る、イッシュ地方の旅路 原作ゲーム沿いノベライズ 作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった
ポケモンリーグの巨大な門を潜り、僕が最初に選んだのは、左から一番目の階段……幽霊の気配が漂う、不気味な洋館のような部屋だった。
「……は? 待って。何これ。ここ、ポケモンリーグだよね!? チャンピオンを決める神聖な場所だよね!? なんで入った瞬間に、照明が落ちてシャンデリアがガタガタ揺れて、勝手にドアが閉まるんだよ!! ゲーフリさん、これ別のゲームのデータを間違えてインポートしてない!?」
暗闇の中から、カチカチというタイプライターを叩く音と共に、一人の女性が浮かび上がった。四天王の一人、ゴースト使いのシキミ。彼女は眼鏡を光らせ、狂気を感じさせる笑みを浮かべて原稿を読み上げた。
「……『その時、若きトレーナーは絶望を知る。彼の連れてきたエンブオーにとって、実体のない幽霊たちは、あまりにも相性の悪い死神だったのだ』……。ふふ、素敵な一節だと思いませんか?」
「思わないよ!! 勝手に僕の敗北フラグを執筆して、リアルタイムで朗読(リーディング)しないでよ!! シキミさん、四天王ならもっとこう……『正々堂々と戦おう!』みたいな爽やかなスポーツマンシップを持ってよ!! なんで作家の趣味を職場(リーグ)に持ち込んでるんだよ!!」
シキミが繰り出したのは、デスカーン。その特性「ミイラ」が、僕のエンブオーの唯一の誇りである「攻撃力(パワー)」を、物理的に腐らせにくる。
「(……ッ!? 出たよ、特性の嫌がらせ!! 触れただけでこっちの特性を書き換えるなんて、もはや存在の否定じゃないか!! 僕が二千回の卵割りで厳選した『個性の結晶』を、一瞬で『ミイラ』という無機質なラベルで上書きするなんて、ゲーフリの調整班は血も涙もないのかよ!!)」
僕は絶叫した。
「ふざけるな!! 物語の結末は、お前のペンじゃなくて、僕のAボタン連打が決めるんだよ!! いけ、エンブオー!! ミイラになっても、その包帯を焼き切るくらいの熱量で『かみくだく』だ!! 幽霊だろうが実体化させて、物理ダメージの現実を叩き込んでやる!!」
シキミのブルンゲルが放つ「しおふき」を、一話のスニーカー泥没事件で鍛えられた「水場への殺意」で耐え抜く。
「災い転じて福となす……? チェレン、見てるか!! 四天王の部屋がホラーすぎて、僕の三半規管だけじゃなく心臓まで止まりそうだよ!! 掃除は全部ベルに……って、彼女、入り口の演出が怖すぎて、まだ一歩も中に入ってこれてないじゃないか!!」
勝利の瞬間、シキミは満足そうに手帳を閉じた。彼女のペンが止まっても、僕の連打は止まらない。
「……いいわ。今の戦い、最高の『第1章』になったわ。次は……勝負の勝敗(ギャンブル)に命を懸ける男が、あなたの続きを待っているわよ」
僕は冷や汗を拭い、次の部屋――博打打ちが待つ、カジノのような空間へと足を向けた。