ポケットモンスター ブラック・ホワイト とあるトレーナーが綴る、イッシュ地方の旅路 原作ゲーム沿いノベライズ   作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった

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四天王戦(2):ギーマの博打(あるいは、影分身という名の運ゲーの極致)

 シキミのホラー執筆地獄を、精神的な「のろい」をかけられたような状態で命からがら抜け出した僕。次に僕が選んだのは、左から二番目の階段……そこには、ポケモンリーグの厳粛なイメージを根底から覆すような、煌びやかで退廃的な空間が広がっていた。

 

「……は? なあ、チェレン。見てよこれ。あそこに鎮座してる男、四天王っていうか、完全に『全財産をスロットに突っ込んで、最後の一枚のメダルに魂を売った末路の勝負師』の目をしてるんだけど。ゲーフリさん、最終決戦の場にカジノの地下室みたいな内装を許可したの!? 倫理観、どこに預けてきたんだよ!!」

 

 四天王の二人目、あくタイプ使いのギーマ。彼は指先でコインを軽快に弄び、チャリン、チャリンという金属音を洞窟のような部屋に響かせながら、こちらの「執着の数値」をじりじりと削り取るような、冷徹かつ愉悦に満ちた笑みを浮かべていた。

 

「……ようこそ、若き挑戦者。勝利という名の配当(ジャックポット)を欲してここまで来たか。だが、この世界は常に不条理な確率(ダイス)によって支配されている。君がどれほど努力値を振り、個体値を厳選し、血を吐くような思いで卵を割ってきたとしても……結局は、今この瞬間の『運』という名の乱数に勝てるかな?」

 

 世界は数式でできている、とチェレンは言った。だが、目の前の男が語るのは、その数式すらも嘲笑う「確率の暴力」だった。僕は泥だらけのスニーカーで床を強く踏みしめた。

 

「あるわけないだろ!! 僕は『命中率100%の技』以外は、この世の何一つ信じない主義なんだよ!! ギーマさん、四天王ならもっとこう……『盤石の理論武装で迎え撃つ!』みたいな横綱相撲を見せてよ!! なんで初手から『かげぶんしん』を三回も積んで、こっちのストレス値を物理的に沸点まで上昇させにくるんだよ!! 画面の中に、レパルダスの残像が五匹くらい見えてて、僕の三半規管がオーバーヒートしてるんだよ!!」

 

 ギーマのレパルダスが放つ、まさに「イッシュリーグ最悪の運ゲー」と名高いコンボが炸裂する。

 

「(……ッ!? 出たよ、回避率アップからの『いばる』!! ゲーフリさん、この最終決戦で『当たらなければどうということはない』上に『自傷ダメージで自滅しろ』っていう、バトルの根幹どころか友情すら破壊しかねない戦術を四天王に標準装備させるなんて、製作陣の性格がダークトリニティより暗黒面に落ちてるだろ!! 命中率の計算式が、僕の脳内でエラーを起こして火を吹いて、煙が出てるよ!!)」

 

 僕は絶叫した。この瞬間のために、僕はどれだけの泥を啜ってきたか。サンヨウシティで三つ子に翻弄され、ライモンシティでボルトチェンジの嵐に絶望し、フキヨセジムで大砲に詰め込まれて打ち出されたあの屈辱。そのすべてが、今、この「当たらない攻撃」への怒りへと変換されていく。

 

「ふざけるな!! 確率なんて、僕が二千回卵を割った時に流した涙の塩分濃度で、物理的に書き換えてやるよ!! いけ、エンブオー!! 相手が影に隠れて分身を増やすなら、この部屋の酸素を全部使い切る勢いで『かえんほうしゃ』だ!! 命中判定なんていう概念そのものを物理的に焼き切って、確定ダメージという残酷な現実をその博打打ちの眉間に叩き込んでやれ!!」

 

 一方で、チェレンは部屋の隅で眼鏡を拭きながら、冷ややかに分析を続けていた。

 

「やれやれ。主人公、君は熱くなりすぎだ。確率論を感情で凌駕しようとするなんて、計算の美しさを冒涜しているよ。……まあ、君がその『泥臭い執着』で一回でも攻撃を当てれば、期待値的には君の勝ちなんだけどね。ちなみに、ベルはさっきからコインの音に合わせて手拍子をして、完全にギーマさんのペースに飲み込まれているよ。……見てごらん、彼女、自分の図鑑をチップ代わりに賭けようとしてる」

 

「ベル!! それは学術的にも物理的にも取り返しがつかないからやめろ!! 応援しろよ!! 自分のミジュマルが僕のスニーカーを水没させた時のあのガッツを見せてくれよ!!」

 

「えへへ……だって、ギーマさん、すっごく格好いいんだもん! 『負けは負け、潔く認めるのが勝負師の礼儀』って言ってたよ! 主人公くんも、もし負けたら私の靴を磨いて……あ、間違えちゃった、スニーカーを洗ってあげるからね!」

 

「洗う(洗浄)と流す(水没)を混同するなと言ってるだろぉぉ!!」

 

 混乱と、怒りと、三D酔い一歩手前の視界。エンブオーの繰り出した拳が、ついにレパルダスの残像を物理的に突き破り、本体の腹部に深々と突き刺さった。運ゲーを根性と執念、そして物理的な「Aボタン連打の熱量」でねじ伏せたその時、ギーマは静かに、手元に残った最後の一枚のコインを天高く投げ上げた。そのコインの表裏すらも、もはや僕の「執着」の前では無意味な鉄の塊に過ぎなかった。

 

「……フッ。災い転じて福となす、か。運をも味方につける、あるいは運などという不確かな要素をその拳の重みで圧殺するとは……。君の『執着』、確かに今の勝負(ディール)では私を上回っていたよ。認めよう、君の勝ちだ。……だが、忘れないことだ。次の部屋では、重力すらも君の味方をしてはくれない。眠れる超能力王女が、君の脳細胞を物理的に、精神的に、そして演出的に揺さぶりにくるからね」

 

 僕は、勝利のファンファーレよりも自分の心臓の鼓動の方がうるさく感じるほど疲弊しながら、泥と汗でボロボロになったスニーカーの紐をきつく締め直した。三人目の四天王――カトレアが待つ、異次元の重圧が支配する「寝室」へと、僕は重い足取りで踏み出した。

 

「(……待ってろよカトレア。君のサイコパワーで僕の頭をどうにかする前に、僕のこの十五年分の『思い出という名のデバフ』を全部ぶつ

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