ポケットモンスター ブラック・ホワイト とあるトレーナーが綴る、イッシュ地方の旅路 原作ゲーム沿いノベライズ   作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった

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チェレンの決意:ジムリーダーへの道(あるいは、彼が理想の強さを求めて迷走し、最終的に眼鏡の度数が上がる瞬間)

アララギ研究所の騒がしい空気の中、ベルが資料の山を物理的に崩落させている横で、チェレンは静かに窓の外を見つめていた。Nとの戦い、そしてゲーチスの歪んだ支配欲を目の当たりにした旅の終わり。彼は眼鏡のブリッジを指先で押し上げ、自身の「強さ」という名の定義を再構築するかのように、重い口を開いた。

 

「……は? なあ、チェレン。見てよこれ。あっちでベルが顕微鏡を鈍器にしてポケモンの真実を解明しようとしてるのに、君はまた一段と小難しい顔をして。チェレンっていうか、完全に『論文の締め切り直前に、自分の論理的矛盾に気付いて宇宙の深淵に呑み込まれた若き哲学者』に見えるんだけど。ゲーフリさん、この最終盤で、彼の『理屈っぽさ』を物理的な色気(インテリジェンス)に変換して、女子プレイヤーの支持層を盤石にしにきてない!?」

 

 チェレンは僕の言葉を受け流すこともせず、ただ静かに、その理性的すぎる視線を自らの手のひらへと落とした。そこには、旅の中で何度も握りしめてきたモンスターボールの冷たい感触が残っているはずだった。

 

「……アデクさんに問われ、Nに否定され、そして君という名の『理不尽な執念の塊』と歩んできて、ようやくわかったことがある。……強さとは、誰かを踏み越えるための数値(パラメータ)じゃない。……僕が求めていたものは、自分一人の高みではなく、これから旅立つ少年たちが自分たちの『答え』を見つけるための、確かな道標になることだったんだ」

 

「道標になる前に、その『回りくどい言い回し』を簡略化する努力をしてよ!! チェレン、ジムリーダーならもっとこう……『バッジが欲しければ俺を倒してみろ!』みたいな熱いスポーツマン精神を見せてよ!! なんで決意を語るたびに、周囲の気温を物理的に二度くらい下げて、僕のエンブオーの火力を間接的に弱体化(デバフ)させようとしてくるんだよ!! ゲーフリさん、彼のジム、冷房代だけでイッシュの予算を圧迫するレベルのクールな場所になりそうじゃないか!!」

 

 チェレンが静かに、新しい教科書を鞄にしまい込む。

 

「(……ッ!? 出たよ、将来の教育者としての覚醒!! ゲーフリさん、この最終局面で『ストイックなライバル』を『厳格な教師役』にクラスチェンジさせるなんて、最高に二律背反な成長曲線を描かせるだろ!! 僕のエンブオーも、彼の眼鏡の反射が眩しすぎて、直視するだけで自分の命中率が下がってるんじゃないか。十五年間の思い出を人質に取った、教育的な威圧感だよ!!)」

 

 僕は絶叫した。彼がジムリーダーになるということは、将来的に僕が育てたポケモンを連れて遊びに行った際、一分一秒の行動に対して「その技構成の根拠は?」と、物理的に逃げ場のない口頭試問を課される未来が透けて見えたからだ。

 

「ふざけるな!! ジムリーダーになるなら、まずは一話で水没した僕のラグに対する『法的・道義的責任』を、ジムの挑戦課題として出題することから始めなよ!! チェレン!! お前の掲げる『新しい世代の育成』がどんなに尊くても、その眼鏡の奥で僕のパーティの個体値を一瞬でスキャンして、『非効率的だね』って切り捨てる冷徹な未来が、僕には物理的に見えてるんだよ!! 指導者になったからって、僕が二千回卵を割った時に流した、あの理性を捨てた血の涙まで論理的に解析できると思うなよ!!」

 

 一方で、ベルは博士の書庫の梯子に登りながら、チェレンの門出を無邪気に、それでいて彼女なりの優しさで祝っていた。

 

「やれやれ。主人公、君の心配は半分だけ当たっているよ。……僕は、君のように感情で世界を揺らすことはできない。だからこそ、僕は理屈で、世界を支える礎になりたいんだ。……ジムリーダーとして、君が次にここを訪れる時、君のその泥だらけのスニーカーに恥じない『壁』になってみせるよ。……ちなみに、ベルはさっきから僕の鞄の中に、『わあー! このお守り、私のパパが昔使ってた文鎮に似てるねー!』って言いながら、大量のサンプル用の石(重石)を詰め込もうとしてるよ。鞄の底が抜けるから止めてあげて」

 

「ベル!! それは文鎮じゃなくて『チェレンの重すぎる決意(物理)』だから!! 詰めるなよ!! 自分のミジュマルが僕のスニーカーを『洗浄(崩落)』した時の、あの重力に逆らえない絶望感を思い出して、一秒でも早くその石を戻してよ!!」

 

「あわわわー! 主人公くーん、チェレンくんが新しい眼鏡のカタログを見て、『これも真実に近い度数だね』って言いながら目が笑ってないよー! 大丈夫、この『眼鏡が語るイッシュの未来』、しっかり図鑑の脚注に高倍率録画(連打)しとくから! ……あ、チェレンくんの新しいジャケット、背筋がすっごくピンとしてて、モデルさんみたいだよー!!」

 

「服のシルエットを分析してる場合かぁぁ!!」

 

 整えられた研究所の床。チェレンは一度だけ深く息を吐き、眼鏡の奥に、かつての自分を超越した鋭い光を宿した。一話でラグを汚され、共に理不尽を呪った少年は、今、真実と向き合う「導き手」として、僕たちの前から……いや、イッシュの新しい秩序を守るために歩き出した。彼の決意は、十五年の時を越えて、次の世代の「英雄」へと繋がるためのバトンだったのだ。

 

「(……頑張れよ、チェレン。お前がどんなに偉いジムリーダーになっても、僕の部屋を水浸しにしたあの日の『物理的な連帯責任』だけは、絶対に教育方針から除外させないからな!!)」

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