ポケットモンスター ブラック・ホワイト とあるトレーナーが綴る、イッシュ地方の旅路 原作ゲーム沿いノベライズ   作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった

52 / 86
サンギ牧場:奪われたチョロネコの記憶(あるいは、ヒュウの怒りが物理的に牧場の柵を破壊しそうになる瞬間)

ヒオギシティからほど近い、のどかなサンギ牧場。メリープたちが平和そうに鳴き声を上げるその場所で、僕の隣に立つヒュウの血管は、朝から物理的に破裂しそうなほど浮き上がっていた。二年前、プラズマ団に妹のチョロネコを奪われたという彼の過去。それは僕の計算高い脳内データにはない、極めて非効率的で、それでいてあまりにも重い「感情という名のバグ」だった。

 

「……は? なあ、ヒュウ。見てよこれ。牧場のおじさんがハーデリアを探してくれって頼んできただけなのに、君は今、プラズマ団の残党を見つけたかのような顔で柵を物理的に握りつぶそうとしてるんだ。……ゲーフリさん、この序盤のクエストに、ライバルの『深刻すぎるバックストーリー』をダイレクトに接続してくるなんて、物語のテンションの上げ方が物理的に急勾配すぎないかい?」

 

 ヒュウは僕の言葉など聞こえていないかのように、荒い呼吸を繰り返しながら牧場の奥へと駆け出した。その背中には、二年前の「あの日」から時が止まったままの、一人の少年の執念が張り付いている。

 

「……ッ! お前にはわからねえんだよ!! ポケモンを道具として奪い、心を傷つける奴らがこの空の下にまだ生きていることが許せねえんだ!! チョロネコ……! あいつがどんな思いで……! 俺は、俺は絶対に、奴らを一匹残らず物理的に駆逐してやるんだよ!!」

 

「ヒュウ、一匹残らず駆逐するのはいいけど、まずは目の前のハーデリアを見つけよう。……効率的にいこう。……牧場の地形とメリープの群れの密度から推測して、迷子になった個体が潜伏する可能性が高いのは、この奥の茂みだ。……怒りで周囲を威嚇しても、ハーデリアは恐怖で余計に隠れるだけだよ。……それは僕の構築する『救出のアルゴリズム』において、最も不必要なコストなんだ」

 

 茂みの奥で、不審な影が動いた。黒い防護服に身を包んだ、二年前の亡霊――プラズマ団員だ。彼らが放つ異様なオーラに、僕のツタージャも冷静に、しかし確実に尾を鋭くしならせた。

 

「(……ッ!? 出たよ、新旧の因縁が交差する瞬間!! ゲーフリさん、この52話という早い段階で、前作の『理想』を語っていた教団が、単なる『ポケモン泥棒』の集団へと成り下がった現実を物理的に突きつけてくるなんて、最高に皮肉めいたプロットだろ!! 僕のツタージャも、敵の繰り出すドガースを見て、自分の『とくぼう』の数値を脳内で再計算しながら、勝利への最短ルートを導き出しているじゃないか!! 十五年間の思い出を人質に取った、因縁の再燃だよ!!)」

 

 僕は静かに、しかし冷徹に指示を出す。ヒュウが怒りに任せて突進する隙を、僕の計算が物理的に補完する。

 

「……無駄だよ、プラズマ団。……君たちの逃走経路は、この牧場の唯一の出口である北側へと絞られている。……感情に支配されたヒュウが正面から叩き、論理を優先する僕が退路を断つ。……この挟撃作戦の成功率は、僕の計算によれば98.7%だ。……残りの1.3%は、君たちがここで自爆するくらいの非論理的な行動をとった場合のみだよ。……さあ、奪った過去を返してもらおうか」

 

 一方で、ベルさんは牧場の入り口で迷子になりながらも、僕たちの戦いをハラハラと見守っていた。

 

「やれやれ。ヒュウくん、君の怒りは牧場の干し草を物理的に発火させそうな勢いだが、主人公くんのその『統計学的な追い詰め方』は、アクロマさんという変人を彷彿とさせる危うさがあるね。……世界はより鋭利になった。奪われた痛みを知る者と、それを冷徹に分析する者。……ちなみに、ベルさんはさっきからメリープの毛を触って、『わあー! このモコモコ、冬用の研究室のスリッパにピッタリだねー!』って言いながら、戦場のど真ん中(戦闘区域)でバリカンを準備しようとしてるよ。牧場の経営が物理的に破綻するから止めてあげて」

 

「ベルさん!! それはスリッパじゃなくて『牧場の生命線(商品)』ですから!! 刈らないでください!! 二年前、誰かのスニーカーを『洗浄(水没)』させた時の、あの取り返しのつかない湿り気を、メリープの毛質で再現しようとしないでください!!」

 

「あわわわー! 主人公くーん、そんなに敬語で論理的に怒られると、なんだか自分がすごく知能指数の低い存在に思えてきちゃうよー! でも大丈夫、この『牧場に響く怒号と計算式』、しっかり図鑑の音声解析機能でステレオ録音(連打)しとくから! ……あ、プラズマ団の人の服、二年前よりもすっごく機能的で、洗濯がしやすそうな素材だねー!!」

 

「素材の利便性を分析してる場合ですか!! ……でも……この手応え。……悪くないね」

 

 プラズマ団員は捨て台詞を残して去り、ハーデリアは無事に飼い主の元へ戻った。だが、ヒュウの瞳に宿る火は消えるどころか、より激しく燃え盛っていた。二年前の「真実と理想」の激突が残した傷跡。それは、こののどかな牧場にさえ深く刻まれている。僕は泥に汚れ始めたスニーカーを見つめ、感情という名の不確定要素を抱えながら、次なる目的地への数式を書き換えた。BW2編、物語の歯車は、復讐という名の加速装置を得て回り始める。

 

「(……見ていてください、前作主人公さん。あなたの救った世界には、まだこれほどまでに理不尽な『バグ』が残っています。……僕はそれを、僕のやり方で物理的にデバッグして、完全なる秩序を再構築してみせますから!!)」

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。