ポケットモンスター ブラック・ホワイト とあるトレーナーが綴る、イッシュ地方の旅路 原作ゲーム沿いノベライズ   作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった

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ポケウッド:映画スターとしての活躍(あるいは、新主人公が脚本の論理的矛盾を脚本家に指摘して、監督を物理的に困らせる瞬間)

タチワキの爆音を後にし、船で辿り着いたのは、夢と虚構が物理的に交差するエンターテインメントの巨大な聖地――ポケウッド。巨大なスタジオ群と、過去の英雄(とされた)トレーナーたちの手形が並ぶこの場所は、僕にとって「感情という名の不確定要素」をエンターテインメントとして消費する、極めて不経済な場所に見えた。……けれど、僕は思うんだ。……この虚構の世界こそ、最も完璧な計算式(脚本)によって支配されるべき聖域である、と。

 

「……は? なあ、ヒュウ。見てよこれ。僕が今から撮影する映画の脚本なんだけど。……主人公がピンチに陥った時、突然空から伝説のポケモンが現れて敵を粉砕する……っていう展開。……ゲーフリさん、この55話という物語の中盤で、前作の『伝説降臨』という感動を、脚本の都合という名のデウス・エクス・マキナ(ご都合主義)で安価に消費させようとしてないかい?」

 

 ヒュウは脚本など見向きもせず、スタジオの豪華なセットに圧倒されながら、自身の復讐の舞台がここではないことに苛立ちを感じていた。

 

「……ッ! 俺は映画なんて興味ねえんだよ!! プラズマ団を全滅させ、妹のチョロネコを物理的に奪い返す!! それが俺の人生っていう名の脚本だ!! ここにいる演技派のトレーナーどもを全員ぶっ倒せば、チョロネコの居場所がわかるっていうなら、俺は今からこのセットごと全滅させてやるよ!!」

 

「ヒュウ、セットを全滅させても、居場所どころか弁償代(コスト)が増えるだけだよ。……効率的にいこう。……監督。この脚本の第3章、12ページ。……敵の秘密基地に潜入する際、なぜ主人公はわざわざ警備の最も厳しい正面ゲートから、デシベル数を最大にした叫び声を上げながら突入するんだい? ……秘密裏に潜入するなら、裏手の排水口を利用し、相手の『とくせい』を無力化する特殊な毒を物理的に散布するのが最適解だろ。……この論理的矛盾、脚本の修正を要求する」

 

 脚本家が顔を青ざめ、監督がメガホンを物理的に握りつぶした。映画の世界は熱い。だが、熱いからこそ、その「ご都合主義」には「プロットの綻び」という名の致命的なバグが存在する。

 

「(……ッ!? 出たよ、新進気鋭のスターへの洗礼!! ゲーフリさん、この55話という物語の入り口で、『エンターテインメントの熱量』を『論理の極致』で凍らせようとする僕を激突させるなんて、最高にドライな火花を散らせるだろ!! 僕のツタージャも、敵役のポケモンを見た瞬間に、相手の『演技力』という名のパラメータが物理的に無価値になる未来を予見して、蔓のしなりを最高演技周波数に設定し直しているじゃないか!! 十五年間の思い出を人質に取った、完全無欠のNGシーンだよ!!)」

 

 僕は静かに、監督の指示を無視し、脚本のバグを修正する。

 

「……無駄だよ、監督。……君の出す『アクション!』の合図に合わせて、敵役のポケモンは僕のツタージャを『演技』として攻撃してくる。……けれど、その攻撃軌道は、このセットの物理的な制約によって三パターンに絞られている。……僕はその全てを、僕の計算によれば既に三手先までシミュレーション済みだ。……虚構の興奮を勝利の言い訳にはさせない。……さあ、君たちの『演技力』という名の非論理を、僕の完全無欠の『即興(バグ修正)』の中に沈めてもらおうか」

 

 一方で、ベルさんはスタジオの隅で、巨大なカメラの振動に翻弄されながらも、僕たちの戦いを3D撮影(?)しようとしていた。

 

「やれやれ。監督さん、君の映画はイッシュ中の子供たちを物理的に熱狂させそうなパワーだけど、主人公くんのその『脚本家のプロットを根底からデバッグするような戦い方』は、ある意味で映画よりも過激かもしれないね。……世界はよりシニカルになった。夢を力に変える者と、それを論理として解析する者。……ちなみに、ベルさんはさっきからスタジオの照明機材に興味を持って、『わあー! この巨大なサーチライト、すっごく強力で、私のアブラナの光合成を千倍に加速できそうだねー!』って言いながら、戦場のど真ん中(照明ブース)で出力を最大にしようとしてるよ。スタジオが物理的に発火して、全員が『やけど』状態になるから止めてあげて」

 

「ベルさん!! それはライトじゃなくて『演出という名の目潰し』ですから!! 最大出力にしないでください!! 二年前、誰かのスニーカーを『洗浄(水没)』させた時の、あの全人類が風邪を引きそうな不快感を、光線過敏症の恐怖で再現しないでください!!」

 

「あわわわー! 主人公くーん、そんなに冷静に脚本の不備を指摘されると、監督さんが嬉しくなっちゃって、続編で君を『脚本家のプロットを根底から覆す物理学者のスター』としてキャスティングしちゃいそうだよー! でも大丈夫、この『虚構の中で行われる精密な論理の激突』、しっかり図鑑の3Dオーディオキャプチャ機能で全方向記録(連打)しとくから! ……あ、監督さんの髪型、二年前のアクロマさんよりもすっごく発色が良くて、物理的に重力がバグってるみたいに綺麗だねー!!」

 

「染料の化学組成を分析してる場合ですか!! ……でも……この観客の歓声。……悪くないね」

 

 爆音の残響が消え、僕の手のひらには二つ目のバッジ――「トキシックバッジ」が握られていた。ホミカは一度だけベースを高く掲げ、汗を拭うこともせず、不敵な笑みで僕を見送った。二年前、誰かがこの地で始めた「魂のぶつかり合い」は、今、音波を数式で制するという新しい「美学」となって僕の中に構築された。僕は煤煙で汚れ始めたスニーカーを見つめ、論理性という名のフィルタをさらに強化しながら、次なる目的地、銀幕の夢が待つポケウッドへの最適解を導き出した。

 

「(……見ていてください、前作主人公さん。あなたの親友たちは、今や強烈な『個性』となって僕の前に立ちはだかります。……僕はその個性を、僕のやり方で物理的に定量的評価を下し、真実の向こう側にある完全なる勝率を証明してみせますから!!)」

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