ポケットモンスター ブラック・ホワイト とあるトレーナーが綴る、イッシュ地方の旅路 原作ゲーム沿いノベライズ 作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった
サンヨウシティの喧騒を抜け、僕らは3番道路へと足を踏み入れた。
そこには、僕ら「孵化廃人」が一生の半分を過ごすことになる聖域――ポケモン育て屋が鎮座していた。その建物の前を通るだけで、僕の右手の親指が勝手に十字キーを左右に連打する「孵化モード」へ切り替わりそうになる。
「……なあ、チェレン。見てよ、あの育て屋。あそこにポケモンを預ければ、またあの『終わりなき卵の道』が始まるんだね。ゲーフリさんは僕に、また二千回自転車を漕げって言ってるんだね!?」
僕は、かつてシンオウ地方で使い古した自転車のサドルの感触を思い出しながら、虚空を見つめた。
「やれやれ。主人公、君のその『卵への依存症』はもはや病気だよ」
チェレンが、育て屋の生垣の長さを測りながら眼鏡をクイッと上げる。
「今はまだ、理想個体を求める時期じゃない。僕らに必要なのは、目の前の強敵に打ち勝つための純粋なレベル上げだ。……あ、ほら、あそこの幼稚園児たちが勝負を仕掛けてきたよ。ゲーフリが用意した『容赦ない年少者』たちの洗礼だね」
「幼稚園児に本気出せって言うのかよ、チェレン!!」
「おっはよー……。あ、待って、また道端の植木鉢に躓いて、前歯が『さよなら』しそうになっちゃった。……えへへ、でも大丈夫!」
ベルだ。いつも通り笑っているが、その瞳にはどことなく、サンヨウシティでパパに「家に帰れ!」と怒鳴られた時の影が差している。
「……ねえ、主人公。私ね、パパの言う通り、才能なんてないのかも。でもさ、このヨーテリーと一緒に歩いてると、なんか『帰りたくないな』って思っちゃうの。これって、ゲーフリさんが書いた『反抗期』のプロットなのかな……?」
「ベル……そんな寂しいこと言うなよ!!」
僕は、ポカブの鼻先をベルの方へ向けた。
「才能なんて、二千回卵を割れば後から付いてくるもんだよ! 僕なんて、才能がないから二千回も漕いだんだ! ベルのパパがなんだ! 僕のラグを汚したミジュマルがパパを『みずでっぽう』で追い払ってくれるさ!!」
「あはは、主人公、それはパパがかわいそうだよー!」
その時! 育て屋の影から、またしてもプラズマ団のしたっぱが現れ、子供のポケモンを奪って逃げていった。
「待てよ、お前ら!!」
僕は、スニーカーの泥が剥がれ落ちるほどの勢いで地面を蹴った。
「ベルが今、人生の進路について真面目に悩んでる最中なんだよ!! お前らみたいな『思想の押し売り集団』に邪魔させるかよ!! 返せ、そのポケモンを!! 子供の夢を奪うのが、お前らの言う『解放』かよ!!」
「……フッ。災い転じて福となす、だ」
チェレンが、冷徹な殺気を孕んだボールを構える。
「ベルの迷いを晴らすには、悪党を一人、叩きのめすのが一番の特効薬だ。……さあ、いこうか、主人公。僕らの『強さ』を、この理不尽な世界に見せつけてやろう」
「もうヤケクソだよ! やってやるよ!!」
僕は絶叫しながら、3番道路の直線コースをポカブと共に爆走した。
ベルの悩み、プラズマ団の横暴、そして育て屋から漂う卵の誘惑。
すべての感情を飲み込んで、僕らの旅は、大きな港町シッポウシティへと向かって加速していく。