ポケットモンスター ブラック・ホワイト とあるトレーナーが綴る、イッシュ地方の旅路 原作ゲーム沿いノベライズ   作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった

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シッポウ:アロエとのジム戦(あるいは、かたきうちという名の洗礼)

 石造りの倉庫が立ち並ぶ、情緒あふれるシッポウシティ。

 

 だが、そのメインストリートにある博物館……もといシッポウジムの扉を叩いた僕を待っていたのは、情緒とは無縁の「圧倒的な実力差」だった。

 

 エプロン姿の肝っ玉母ちゃん――ジムリーダーのアロエさんは、図鑑を埋めることに必死な僕らに、ノーマルタイプの底知れぬ恐怖を叩き込もうとしていた。

 

「……なあ、チェレン。見てよ、あの博物館。化石が飾ってある横で、バッジをかけたデスバトルが繰り広げられてるんだよ。ゲーフリさん、これ『教養がないやつにバッジはやらん』っていう、アカデミックな嫌がらせかな?」

 

 僕は、展示されているドラゴンの骨を見上げながら、その巨大さに自分のポカブを重ねて溜息をついた。

 

「やれやれ。主人公、君は博物館の静謐さを味わう余裕もないのかい?」

 

 チェレンが、展示物のキャプションを読み解きながら、冷徹なトーンで眼鏡を直す。

 

「アロエさんは考古学者だ。過去を掘り起こし、真実を見極める人だよ。君のような『昨日汚したラグ』の恨みだけで動いている低俗な衝動が通用する相手じゃない。……あ、僕は後でそこの図書室で、イッシュの成り立ちについて三時間ほど籠らせてもらうよ」

 

「自分だけ賢くなろうとすんなよ、チェレン!!」

 

「おっはよー!! 待ったー!? ……あ、待って、博物館の入り口にある『触らないでください』っていう化石に思いっきり抱きついちゃった。……エヘ。でも大丈夫!」

 

 ベルだ。彼女の天然は、歴史的遺物にすら容赦がない。

 

「見て見て、アロエさん! すっごく強そう! 私、あの人のエプロンのポケットに、パパを説得するための秘策が隠されてる気がするんだー!! ゲーフリさん、そういう『家庭問題解決アイテム』もドロップさせてくれるのかなー!?」

 

「ベル、それはジムリーダーに求めるものじゃないよ!!」

 

 そして、バトルの火蓋は切って落とされた。

 

 アロエさんの先鋒ハーデリアをなんとか退けた僕に、彼女は不敵な笑みを浮かべて言い放った。

 

「……よくやったね。でも、ここからが本番だよ! 行きな、ミルホッグ!!」

 

 ……その瞬間だった。

 

 繰り出された技は『かたきうち』。

 

 倒れた仲間の遺志を継ぎ、威力が倍加したその一撃が、僕のポカブを容赦なく地面に叩き伏せる!

 

「……ッ!? なんだよその威力!!」

 

 僕は、あまりの衝撃に膝をついた。

 

「ゲーフリさん、序盤の二つ目のジムで、こんな『親の仇を討つ』みたいなガチの殺意を込めた技を使わせるの!? 僕の十五年間の経験値が、ミルホッグのあの血走った目に吸い込まれていくんだけど!!」

 

「……フッ。これぞ、真実の探求者が与える試練だ」

 

 チェレンが、図書室の窓から静かに見守っている。

 

「相性が有利とか、レベルがどうとか、そんな小賢しい計算を吹き飛ばす『重み』がそこにはある。……さあ、主人公。立ち上がれ。君のポカブが、二千回の孵化の記憶を超えた『新しい咆哮』を上げたがっているぞ」

 

「……もう、引くに引けないよ! やってやる!!」

 

 僕は、泥のついたスニーカーで博物館の床を強く踏みしめた。

 

「行け、ポカブ! アロエさんの『かたきうち』を、僕らの『ラグの恨み』で押し返せ!! 歴史に名を残すのは僕らだ!!」

 

 古い骨の軋む音が聞こえるような、静かで熱い戦い。

 

 僕は、アロエさんの放つ「ノーマルタイプの矜持」に翻弄されながらも、必死に勝利への活路を模索し始めていた。

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