ポケットモンスター ブラック・ホワイト とあるトレーナーが綴る、イッシュ地方の旅路 原作ゲーム沿いノベライズ 作:寝て起きたら異世界じゃなくて会議室だった
バッジを手にした感動で、僕の目頭が少し熱くなっていたその時だった。
博物館に、ありえないほどの煙が立ち込めた。「火事か!?」と叫びかけた僕の目に飛び込んできたのは、煙の中から現れた、あの例の中世コスプレ集団。プラズマ団だ。
しかも彼らは、あろうことか展示されていた「ドラゴンの骨」を丸ごと担ぎ上げようとしていた。
「……なあ、チェレン。見てよ、あいつら。あんなデカい骨を人力で運ぶつもりだよ。ゲーフリさん、これ『プラズマ団の採用基準は筋力』っていう設定だったの!? 思想家集団じゃなかったの!?」
僕は、煙を吸い込んでむせ返りながら、あまりにもアナログな窃盗現場にツッコんだ。
「やれやれ。主人公、君は彼らの『目的』が見えていないのかい?」
チェレンが、煙の中でも一切乱れない手つきで眼鏡を拭く。
「あの骨はイッシュの伝説の断片だ。歴史を奪うことで、彼らは自分たちの『新秩序』を正当化しようとしているんだよ。……しかし、あの重そうな骨を抱えて走るなんて、プロテインの過剰摂取を疑わざるを得ないね」
「分析してる場合かよ、チェレン!!」
「あわわわー!! 煙で前が見えないよー!! ……あ、待って、展示してある壺の中に頭がスッポリ入っちゃった! ……取れない! 助けてー!!」
ベルだ。彼女は事件が起きるたびに、物理的なトラブルのデパートと化す。
「……モゴモゴ(壺の中から)。でも大丈夫! 犯人の一人が私のリュックの紐に引っかかって、盛大に転んだ音がしたよ! ゲーフリさん、私のドジを『防犯トラップ』として計算してたのかなー!?」
「ベル、今すぐその壺を割って戦いに参加しろ!!」
激怒したアロエさんがエプロンを翻して叫ぶ。
「あんたたち! 博物館の財産は、みんなの思い出なんだよ! それを盗むなんて、考古学者として、そしてジムリーダーとして許さないよ!!」
プラズマ団は「ポケモンを解放しろ!」とスローガンを叫びながら、骨を抱えて裏口から逃走していく。思想を語りながら盗みを働くその矛盾。僕の中で、ラグを汚された時とは違う、もっと「正義に近い怒り」がふつふつと湧き上がってきた。
「待てよ、プラズマ団!!」
僕は、ポカブを抱えて走り出した。
「骨を返せ! ポケモンを解放する前に、その筋肉痛になりそうな骨を元の場所に戻せ!! 僕らの旅の思い出まで、勝手に持って行くんじゃない!!」
「……フッ。災い転じて福となす、だ」
チェレンが、逃げるプラズマ団を追って静かに地面を蹴る。
「バトルの後のクールダウンにはちょうどいい追いかけっこだね。……さあ、いこうか、主人公。歴史を盗む不届き者に、僕らの『今』という名の重みを教えてやろう」
「……もう、止まらないよ!! 追い詰めてやる!!」
僕は、泥が乾いてカピカピになったスニーカーで、シッポウの石畳を全力で駆け抜けた。
バッジを獲ったばかりの僕らを待っていたのは、ヤグルマの森という名の、さらなる混沌(カオス)への入り口だった。