中立魔術師は黄昏を纏う   作:zeroが個人的に好き

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第一話 願いは破壊

結末を知っている、というのは案外つまらないものだ。

冬木市。これから始まる第五次聖杯戦争の行く末を、俺は知っている。

 

七騎の英霊。七人の魔術師。

願いを叶えるはずの器が、既に泥に塗れていることも。

 

正義の味方を目指す少年が、血に塗れた夜を越えることも。

理想に殉じた英霊が、自らの在り方を否定する未来に辿り着くことも。

 

全部、知っている。

 

だから俺は、願った。

叶えたい望みなんてない。

取り戻したい過去もない。

英雄になるつもりもない。

 

ただ一つ。

「聖杯を、壊す」

 

それだけが、俺の願いだ。

 

中立魔術師、小鳥遊健。

これは――結末を知りながら、それでも選ばなければならなかった俺の物語だ。

 

深夜。アパートの一室。

蛍光灯は消してある。

床に刻んだ召喚陣だけが淡く光を放ち、部屋を黄昏色に染めていた。

 

霊脈の流れは安定。冬木の大結界も静かだ。

 

遠坂が動くより、ほんの少し早い。

触媒は置いていない。

 

狙いはある。だが縛る気はない。

こちらの都合で呼ぶ以上、最後の選択くらいは相手に委ねる。

 

俺は深く息を吐いた。

これが最初の分岐点。

未来は既に知っている。だが、ほんの僅かな揺らぎが大きな破滅に繋がる可能性もある。

 

それでも。

観測者でいるつもりはない。

壊すと決めたのなら、手を伸ばすしかない。

 

魔力を流す。

魔法陣が脈動する。

空気が軋み、部屋の温度がわずかに下がる。

 

詠唱覚えてるか?

 

「素に銀と鉄。

礎に石と契約の大公。

祖には我が大師シュバインオーグ。

降り立つ風には壁を。

四方の門は閉じ、王冠より出で、

王国に至る三叉路は循環せよ」

 

「閉じよ(みたせ)。閉じよ(みたせ)。閉じよ(みたせ)。閉じよ(みたせ)。閉じよ(みたせ)。

繰り返すつどに五度。

ただ、満たされる刻を破却する」

「―――――Anfang(セット)」

「――――――告げる」

「――――告げる。

汝の身は我が下に、

我が命運は汝の剣に。

聖杯の寄るべに従い、この意、この理に従うならば応えよ」

「誓いを此処に。

我は常世総ての善と成る者、

我は常世総ての悪を敷く者。」

 

「汝三大の言霊を纏う七天、

抑止の輪より来たれ、天秤の守り手よ―――!」

 

光が弾けた。

爆ぜる魔力。視界が白く染まる。

やがて、煙の向こうに影が立つ。

 

赤い外套。

金の髪。

反骨を宿した双眸。

 

そして――口元に浮かぶ、歪んだ笑み。

 

「ははっ……随分と捻くれた召喚だな、マスター」

 

低く、皮肉混じりの声が夜を裂く。

「“聖杯を望まぬ英霊”だと?喧嘩売ってんのか、それとも自虐か?」

 

叛逆の騎士。

モードレッド。

原作通り。いや、触媒なしでこれなら上出来か。

 

彼女は周囲を一瞥し、俺に視線を戻す。

「で?お前の願いは何だ。王位か?力か?それともくだらない復讐か?」

 

俺は首を横に振った。

「聖杯を壊す」

 

沈黙。

 

次の瞬間、モードレッドは盛大に吹き出した。

「はっ……はははははっ! お前、最高に馬鹿だな!」

 

笑いながらも、その目は鋭く俺を射抜いている。

「聖杯戦争で聖杯を壊す?それが願い?正気か?」

 

「正気だよ」

即答する。

 

「願いを叶える気はない。あれは使うべきものじゃない」

 

泥に塗れた器。

あれを使えば、誰かが壊れる。

それを知っている。

 

だから壊す。

 

モードレッドはしばらく俺を見つめ――ふっと笑った。

「気に入った」

 

短く、それだけ言う。

 

「願いを持たねえマスターなんざつまらねえと思ってたが……壊すために戦う、か。悪くない」

 

そして、剣なき手を差し出す。

「いいぜ。乗ってやるよ、その無茶な戦争」

 

俺はその手を握る。

 

熱い。

生きているような熱。

 

令呪が淡く輝き、契約が成立する。

これで後戻りはできない。

 

「一つ聞くぞ、マスター」

 

モードレッドが、僅かに目を細める。

「お前、自分が異物だって顔してるな」

 

心臓が跳ねた。

図星だ。

 

「世界に混ざってねえ目だ。まるで、自分だけ舞台の外に立ってるみてえな」

 

俺は目を逸らさない。

「……異分子なのは事実だ」

 

原作を知る転生者。

本来、この世界にいない存在。

 

「だから壊す。役目を終えたら消えても構わない」

ぽつりと漏れた本音。

 

次の瞬間、額に衝撃が走った。

「いっ……!」

 

モードレッドが拳で小突いてきたのだ。

 

「バーカ。勝手に終わる前提で語ってんじゃねえ」

真っ直ぐな視線。

 

「戦争はな、最後まで立ってたやつが勝ちだ。消える覚悟なんざ気取るな」

強い声だった。

 

俺は一瞬だけ、言葉を失う。

けれど――

 

「それでも、壊す」

決意は揺らがない。

 

モードレッドは肩を竦める。

「ならまずは生き残れ。話はそれからだ」

そう言って、窓の外を見る。

 

夜はまだ静かだ。

だが数日もすれば、この街は血に染まる。

 

俺はその未来を知っている。

知っていて、踏み込む。

中立を名乗りながら、破壊を選ぶ。

 

これは救済の物語ではない。

それでも――

願いは、破壊。

 

戦争は、もうすぐ始まる。

 

 

次回

「戦争前夜」

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