中立魔術師は黄昏を纏う   作:zeroが個人的に好き

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第十二話 夕焼けの先へ

夜。

柳洞寺へ続く石段の下。

冷たい風が吹く。

 

「結界、強化されてるわね」

遠坂凛が低く言う。

 

「昨日より密度が上がってる」

 

「歓迎ってわけだ」

俺は空を見上げる。

 

星は見えない。

代わりに、濁った魔力が空を覆っている。

 

「作戦は確認済みだな」

 

セイバーが頷く。

 

「私が正面突破。アーチャーは高所から支援」

 

「了解した」

 

赤い外套が揺れる。

 

視線が一瞬、こちらを向く。

試すような目。

 

俺は逸らさない。

 

「俺とモードレッドは内部へ直行」

 

「無茶よ?」

 

「分かってる」

 

凛を見る。

「でも、止めるなら中枢だ」

 

迷いはない。

 

壊すだけじゃない。

終わらせる。

 

「行くぞ」

 

     ◆

 

石段を踏み込んだ瞬間。

世界が軋んだ。

 

視界が歪む。

耳鳴り。

 

「侵入確認」

 

女の声。

甘く、冷たい。

 

「いらっしゃい」

 

紫の魔力が奔流のように流れる。

 

「セイバー!」

 

「はっ!」

 

黄金の刃が閃き、結界を裂く。

衝撃波が石畳を砕く。

 

「アーチャー!」

 

「言われるまでもない」

 

上空から矢が降る。

結界の節点を正確に射抜く。

 

解析済み。

観測者だった頃の知識が、今は武器だ。

 

「健!」

 

「分かってる!」

 

俺は駆ける。

山門を抜け、本堂へ。

 

     ◆

 

本堂内部。

燭台の炎が揺れる。

 

中央に、女。

紫のドレス。

長い髪。

 

「ようこそ」

 

優雅に微笑む。

キャスター。

 

「随分と堂々と」

 

「隠れる気はない」

 

俺は前へ出る。

「お前の術式は理解している」

 

「あら?」

 

細い瞳が楽しげに細まる。

「観測者さん」

 

呼び方に棘がある。

 

「未来を知る気分はどう?」

 

「終わった」

 

即答。

 

「俺は参加者だ」

 

一歩踏み込む。

空気が震える。

 

「あなた、面白いわね」

キャスターが手を上げる。

 

瞬間、床が光る。

拘束陣。

 

「モードレッド!」

 

「任せろ!」

 

赤い雷が炸裂。

魔力の鎖を力で引き千切る。

 

「力任せ、嫌いじゃないわ」

 

「光栄だな!」

 

踏み込む。

斬撃。

 

だが。

 

「甘い」

 

空間転移。

キャスターは背後へ。

 

高速詠唱。

紫電が収束する。

対軍級。

 

「チッ――!」

 

間に合わない。

 

その瞬間。

 

「健!」

 

凛の声。

外から宝石魔術が撃ち込まれる。

 

爆裂。

術式が乱れる。

 

「今だ!」

 

俺は腕を前へ。

 

魔力回路を開く。

まだ未熟。

 

だが。

イメージは明確。

 

「――投影、開始」

 

脳が焼ける。

剣の構造を走査。

強度、重心、由来。

 

完全ではない。

だが形になる。

 

光の刃。

 

「ほう」

 

背後から、低い声。

アーチャー。

 

「真似事にしては上出来だ」

 

「黙ってろ」

 

踏み込む。

キャスターの防御陣へ叩きつける。

 

衝撃。

空気が裂ける。

 

「……っ!」

 

防壁に亀裂。

 

「馬鹿な」

 

キャスターが初めて顔を歪める。

「あなた、魔術師としては未熟なはず」

 

「だからどうした」

 

押し込む。

 

「未熟でも、届く」

 

剣が砕ける。

だが防壁も砕ける。

 

「モードレッド!」

 

「おう!」

 

赤雷が一直線に走る。

キャスターを吹き飛ばす。

 

柱が崩れる。

瓦礫。

土煙。

 

     ◆

静寂。

 

だが。

 

「……甘いわ」

 

煙の中から声。

傷は浅い。

 

「今夜はここまでにしましょう」

 

空間が歪む。

 

「本気で殺すには、まだ準備が足りない」

視線が俺を射抜く。

 

「でも分かった」

 

微笑む。

「あなたは消える気がない」

 

胸が熱くなる。

 

「当然だ」

 

「なら」

唇が吊り上がる。

 

「削り甲斐がある」

 

気配が消える。

撤退。

 

     ◆

 

本堂は半壊。

結界は不安定に揺れている。

 

「深追いは危険だ」

セイバーが言う。

 

「ええ、十分よ」

凛が息を整える。

 

アーチャーが俺を見る。

「参加者になった感想は?」

 

「痛ぇ」

正直に言う。

 

「だが」

 

瓦礫を見る。

 

「手応えはあった」

 

壊した。

だが終わっていない。

 

「次は本気だな」

モードレッドが笑う。

 

「ああ」

 

夕焼けは終わった。

夜の戦いだ。

 

だが俺はもう、消える前提では動かない。

 

「次で終わらせる」

 

柳洞寺の闇を睨む。

これは叛逆だ。

沈むためじゃない。

 

明日を奪い返すための戦いだ。

 

次回

「愉悦の視線」

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