中立魔術師は黄昏を纏う 作:zeroが個人的に好き
夜。
柳洞寺へ続く石段の下。
冷たい風が吹く。
「結界、強化されてるわね」
遠坂凛が低く言う。
「昨日より密度が上がってる」
「歓迎ってわけだ」
俺は空を見上げる。
星は見えない。
代わりに、濁った魔力が空を覆っている。
「作戦は確認済みだな」
セイバーが頷く。
「私が正面突破。アーチャーは高所から支援」
「了解した」
赤い外套が揺れる。
視線が一瞬、こちらを向く。
試すような目。
俺は逸らさない。
「俺とモードレッドは内部へ直行」
「無茶よ?」
「分かってる」
凛を見る。
「でも、止めるなら中枢だ」
迷いはない。
壊すだけじゃない。
終わらせる。
「行くぞ」
◆
石段を踏み込んだ瞬間。
世界が軋んだ。
視界が歪む。
耳鳴り。
「侵入確認」
女の声。
甘く、冷たい。
「いらっしゃい」
紫の魔力が奔流のように流れる。
「セイバー!」
「はっ!」
黄金の刃が閃き、結界を裂く。
衝撃波が石畳を砕く。
「アーチャー!」
「言われるまでもない」
上空から矢が降る。
結界の節点を正確に射抜く。
解析済み。
観測者だった頃の知識が、今は武器だ。
「健!」
「分かってる!」
俺は駆ける。
山門を抜け、本堂へ。
◆
本堂内部。
燭台の炎が揺れる。
中央に、女。
紫のドレス。
長い髪。
「ようこそ」
優雅に微笑む。
キャスター。
「随分と堂々と」
「隠れる気はない」
俺は前へ出る。
「お前の術式は理解している」
「あら?」
細い瞳が楽しげに細まる。
「観測者さん」
呼び方に棘がある。
「未来を知る気分はどう?」
「終わった」
即答。
「俺は参加者だ」
一歩踏み込む。
空気が震える。
「あなた、面白いわね」
キャスターが手を上げる。
瞬間、床が光る。
拘束陣。
「モードレッド!」
「任せろ!」
赤い雷が炸裂。
魔力の鎖を力で引き千切る。
「力任せ、嫌いじゃないわ」
「光栄だな!」
踏み込む。
斬撃。
だが。
「甘い」
空間転移。
キャスターは背後へ。
高速詠唱。
紫電が収束する。
対軍級。
「チッ――!」
間に合わない。
その瞬間。
「健!」
凛の声。
外から宝石魔術が撃ち込まれる。
爆裂。
術式が乱れる。
「今だ!」
俺は腕を前へ。
魔力回路を開く。
まだ未熟。
だが。
イメージは明確。
「――投影、開始」
脳が焼ける。
剣の構造を走査。
強度、重心、由来。
完全ではない。
だが形になる。
光の刃。
「ほう」
背後から、低い声。
アーチャー。
「真似事にしては上出来だ」
「黙ってろ」
踏み込む。
キャスターの防御陣へ叩きつける。
衝撃。
空気が裂ける。
「……っ!」
防壁に亀裂。
「馬鹿な」
キャスターが初めて顔を歪める。
「あなた、魔術師としては未熟なはず」
「だからどうした」
押し込む。
「未熟でも、届く」
剣が砕ける。
だが防壁も砕ける。
「モードレッド!」
「おう!」
赤雷が一直線に走る。
キャスターを吹き飛ばす。
柱が崩れる。
瓦礫。
土煙。
◆
静寂。
だが。
「……甘いわ」
煙の中から声。
傷は浅い。
「今夜はここまでにしましょう」
空間が歪む。
「本気で殺すには、まだ準備が足りない」
視線が俺を射抜く。
「でも分かった」
微笑む。
「あなたは消える気がない」
胸が熱くなる。
「当然だ」
「なら」
唇が吊り上がる。
「削り甲斐がある」
気配が消える。
撤退。
◆
本堂は半壊。
結界は不安定に揺れている。
「深追いは危険だ」
セイバーが言う。
「ええ、十分よ」
凛が息を整える。
アーチャーが俺を見る。
「参加者になった感想は?」
「痛ぇ」
正直に言う。
「だが」
瓦礫を見る。
「手応えはあった」
壊した。
だが終わっていない。
「次は本気だな」
モードレッドが笑う。
「ああ」
夕焼けは終わった。
夜の戦いだ。
だが俺はもう、消える前提では動かない。
「次で終わらせる」
柳洞寺の闇を睨む。
これは叛逆だ。
沈むためじゃない。
明日を奪い返すための戦いだ。
次回
「愉悦の視線」