中立魔術師は黄昏を纏う   作:zeroが個人的に好き

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第十三話 愉悦の視線

教会は静かだった。

ステンドグラスを透ける月光が、長椅子を青く染めている。

 

「ほう」

低い声が響く。

 

祭壇の前。

黒衣の男が、わずかに口元を歪めた。

 

言峰綺礼。

 

「柳洞寺が半壊、か」

 

報告書を閉じる。

 

キャスターが直接動き、撃退された。

それ自体は想定内。

 

だが。

 

「予定より早い」

呟く。

 

椅子に腰掛け、指を組む。

「原因は」

 

赤い外套の英霊か。

否。

 

「異物、だな」

 

聖杯戦争は、儀式だ。

 

流れはある程度固定されている。

人間の感情が揺らしても、骨子は変わらない。

 

だが今回。

 

「観測者、か」

 

口にすると、僅かに愉しげな響きが混じる。

 

結末を“知る”ような動き。

的確すぎる介入。

 

そして。

 

「消える前提で動いていた男が、消えなくなった」

 

情報は少ない。

だが十分だ。

 

「これは愉快だ」

静かな笑い。

 

理想を掲げる少年。

それを見つめる赤い英霊。

 

そして。

物語の外から落ちてきたような男。

 

「どのように壊れる?」

 

興味はそこだ。

 

救いではない。

破滅でもない。

 

“過程”だ。

 

     ◆

 

教会の地下。

冷たい石壁。

 

暗闇。

鎖の音。

 

言峰はゆっくりと歩く。

「聖杯は未だ濁っている」

 

それが本質。

願いを叶える器などではない。

 

呪いの坩堝。

 

「彼は壊すつもりらしい」

小さく笑う。

 

「ならば見てみよう」

 

壊す者が、何を抱えて残るのか。

破壊は簡単だ。

 

だが。

 

「その後を生きる覚悟」

 

それは、最も難しい。

 

     ◆

 

回想。

 

屋根の上。

夕焼けを見上げる青年。

 

「叛逆は終わりじゃない」

 

そう言った。

報告にあった台詞。

 

言峰は目を細める。

「希望を持つ叛逆か」

 

実に、甘美だ。

絶望に落ちる理想ほど、味わい深いものはない。

 

「だが」

顎に手を当てる。

 

「もし落ちぬなら?」

 

沈まない夕焼け。

夜を越える叛逆。

 

それは想定外だ。

想定外は、面白い。

 

     ◆

 

地上に戻る。

 

教会の扉を開ける。

夜風が吹き込む。

 

「監視を強化しろ」

影に命じる。

 

「特に、あの青年を」

 

名は――小鳥遊健。

 

「干渉者か、触媒か」

 

あるいは。

 

「新たな器か」

 

聖杯は歪んでいる。

だが器は選ばれる。

 

強い感情。

強い矛盾。

強い破壊衝動。

 

「君はどれだ?」

 

月を見る。

 

「愉しませてくれ」

静かな声。

 

祈りではない。

期待でもない。

 

ただ純粋な興味。

愉悦。

 

聖杯戦争は加速している。

 

理想。

叛逆。

観測者の転身。

 

その全てが、混ざり合う。

 

そして。

教会の鐘が鳴る。

 

深夜。

誰もいないはずの街に、音が広がる。

 

開幕は既に終わった。

 

ここからは。

壊れる者と、壊す者の競演だ。

言峰綺礼は微笑む。

 

物語が、予定調和を外れ始めた。

それこそが。

 

何よりの愉悦だった。

 

次回

「奪われた理想」

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