中立魔術師は黄昏を纏う   作:zeroが個人的に好き

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第十四話 奪われた理想

異変は、静かだった。

朝。

屋敷の結界に、綻び。

 

「……おかしい」

遠坂凛が顔を上げる。

 

「侵入の痕跡はない。でも――」

 

嫌な感覚。

胸騒ぎ。

 

「士郎は?」

 

俺の問いに、セイバーが目を閉じる。

 

「……気配が、ありません」

 

一瞬、時間が止まる。

 

「は?」

モードレッドが顔を上げる。

 

「外出の形跡はない。戦闘痕もない」

 

凛の声が低くなる。

「……転移系」

 

嫌な予感が確信に変わる。

 

「キャスターだ」

 

     ◆

 

柳洞寺。

本堂の奥。

薄暗い空間。

 

床に刻まれた巨大な魔法陣。

 

中央に――士郎。

拘束。

意識はある。

 

「……くそ」

 

「目が覚めた?」

柔らかな声。

 

キャスターが微笑む。

「乱暴な真似をしてごめんなさい。でも、時間が惜しくて」

 

「何を……」

 

「あなた、面白いのよ」

ゆっくり歩く。

 

「理想を抱いているのに、折れない」

 

顎に指を当てる。

「だから見たくなったの」

 

囁く。

「砕ける瞬間を」

 

     ◆

屋敷。

空気が重い。

 

「探知できない」

 

凛が歯を食いしばる。

「結界ごと隠蔽されてる」

 

「正面突破だ」

俺は即答する。

 

「罠よ」

 

「分かってる」

 

視線を上げる。

「でも行く」

 

迷いはない。

消える前提じゃない。

 

守る。

 

「俺が行く」

 

セイバーが前に出る。

「マスターを救うのは私の役目だ」

 

「違う」

俺は首を振る。

 

「今回は俺が先行する」

 

「健?」

 

「キャスターは俺を見てる」

 

あの夜。

あの戦闘。

あいつは俺を“削り甲斐がある”と言った。

 

「誘いだ」

 

士郎は餌。

 

「俺が来ることを前提にしている」

 

なら。

 

「望み通り行ってやる」

 

モードレッドが笑う。

「やっと本気だな」

 

「ああ」

 

夕焼けは越えた。

ここからは夜だ。

 

     ◆

 

柳洞寺。

 

結界を破る。

正面突破。

 

轟音。

魔力の衝突。

 

セイバーとアーチャーが外縁を押さえる。

 

「中は任せる!」

凛の声。

 

俺は走る。

一直線に、本堂へ。

 

     ◆

 

扉を蹴破る。

 

「来たわね」

キャスターが微笑む。

 

その背後。

魔法陣の中心に士郎。

 

「健……!」

 

無事。

だが拘束が強い。

 

「離せ」

 

「嫌よ」

あっさり。

 

「彼は鍵だもの」

 

魔法陣が脈動する。

 

「何のつもりだ」

 

「観測者さん」

愉しげな声。

 

「あなた、壊す覚悟はある。でも」

 

瞳が細まる。

「守れない覚悟は?」

 

胸が凍る。

 

「彼を殺せば」

さらりと言う。

 

「あなたはどうなる?」

 

心臓が強く打つ。

 

「叛逆を続けられる?」

 

士郎が叫ぶ。

「来るな!」

 

「黙ってろ!」

怒鳴る。

 

視界が赤く染まりかける。

 

だが。

止まる。

 

呼吸を整える。

 

俺は消えない。

逃げない。

参加者だ。

 

「お前の狙いは俺だ」

静かに言う。

 

「士郎じゃない」

 

「ええ」

素直に頷く。

 

「でも彼は、あなたの楔」

にっこり笑う。

 

「壊れれば、あなたも歪む」

 

正しい。

だが。

 

「歪まない」

 

踏み出す。

 

「俺は壊れない」

 

魔力回路を開く。

 

痛み。

焼ける感覚。

 

「投影、開始」

 

今度は迷わない。

剣のイメージが鮮明。

 

無数の刃。

干渉。

魔法陣の構造を読む。

 

「無駄よ」

 

「無駄かどうかは」

 

剣を地面に突き立てる。

 

「やってから言え」

 

衝撃。

陣の一角が崩れる。

 

「なっ――」

 

拘束が緩む。

 

「士郎!」

 

セイバーが突入。

 

斬撃。

鎖が断ち切られる。

 

「ちっ」

 

キャスターが後退。

空間転移の構え。

 

「今日は退くわ」

 

舌打ち。

 

「でも覚えておいて」

 

俺を見る。

「彼は、あなたの弱点」

 

消える。

 

     ◆

 

静寂。

 

士郎が膝をつく。

「……すみません」

 

「謝るな」

 

手を差し出す。

 

「助けるって言っただろ」

 

士郎がその手を取る。

温かい。

生きている。

 

「俺は」

 

士郎が言う。

「足を引っ張った」

 

「違う」

首を振る。

 

「お前は理由だ」

 

「え?」

 

「俺がここに立つ理由だ」

 

夕焼けの決意が、胸にある。

 

壊す。

だが残る。

 

守る。

だが歪まない。

 

外では、戦闘の余波が消えていく。

 

戦争は、完全に個人的なものになった。

理想は奪われかけた。

だがまだ折れていない。

 

キャスターは理解した。

健を壊すには、士郎を揺らせばいい。

 

そして健も理解した。

士郎は弱点ではない。

 

守るべき核だ。

 

夜は深い。

だが。

 

夜を越える覚悟は、もう揺らがない。

 

次回

「魔女の終幕」

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