中立魔術師は黄昏を纏う 作:zeroが個人的に好き
夜。
柳洞寺は、完全に沈黙していた。
風が止んでいる。
虫の声もない。
「……罠だな」
モードレッドが笑う。
「当然だ」
俺は石段を踏みしめる。
「終わらせに来たんだ。歓迎されるさ」
背後。
セイバー、凛、アーチャー。
全員、覚悟が固まっている。
士郎もいる。
「今回は下がってろ」
俺は言う。
「でも」
「守る側でいたいなら、生きろ」
短く。
士郎は唇を噛み、頷く。
◆
本堂。
扉は開いていた。
中央。
魔法陣。
その上に、キャスター。
「来ると思っていたわ」
穏やかな声。
だが背後の魔力は桁違いだ。
「準備は万端よ」
天井に浮かぶ巨大な術式。
吸い上げられた魔力が渦を巻く。
「この寺ごと都市を呑み込む結界」
凛が舌打ちする。
「本気ね……!」
「あなたを壊すために、街一つ賭ける価値はある」
俺を見る。
「観測者改め、参加者さん」
微笑む。
「壊れる覚悟は?」
「壊れない覚悟ならある」
即答。
魔力回路を開く。
「行くぞ!」
◆
セイバーが突撃。
黄金の剣が閃く。
キャスターは空間を捻じ曲げ回避。
「遅い!」
上空からアーチャーの矢。
だが多重障壁が防ぐ。
「数で押すつもり?」
紫電が走る。
対軍級魔術。
「凛!」
「分かってる!」
宝石が砕け、衝撃を相殺。
だが押し負ける。
「健!」
「任せろ!」
踏み込む。
投影。
今度は一振りではない。
脳裏に浮かぶのは、無数の剣。
「――投影、連結」
痛みが増す。
だが止めない。
地面に剣を突き立てる。
魔法陣へ干渉。
「馬鹿な」
キャスターが目を見開く。
「構造を、読んでいる?」
「観測は終わった」
押し込む。
「今は壊す」
陣が軋む。
だが。
「甘い!」
キャスターが叫ぶ。
魔力爆発。
吹き飛ばされる。
肺から空気が抜ける。
「健!」
士郎の声。
立て。
消えるな。
ここで倒れたら、また同じだ。
夕焼けを思い出せ。
終わりの色じゃない。
始まりの色だ。
「……モードレッド」
「待ってたぜ」
赤雷が爆ぜる。
全魔力解放。
「一発で決める!」
「合わせろ!」
俺は最後の投影を行う。
脳が焼ける。
だがイメージは鮮明。
破壊する剣。
干渉する刃。
「セイバー!」
「承知!」
黄金の光が収束。
三方向同時。
キャスターを囲む。
「愚かな!」
防御陣、最大展開。
だが。
「足りない」
俺は踏み込む。
剣を突き立てる。
陣の“核”へ。
「これで終わりだ」
モードレッドの雷。
セイバーの一閃。
アーチャーの矢。
同時。
閃光。
◆
静寂。
崩れ落ちる魔法陣。
天井の術式が砕け散る。
中央。
膝をつくキャスター。
「……まさか」
血を吐く。
「観測者が、ここまで」
「違う」
俺は近づく。
「参加者だ」
キャスターが笑う。
弱々しく。
「面白いわ」
視線が士郎へ。
「あなたたちの理想……最後まで持つかしら」
「持たせる」
即答。
「壊れない」
キャスターは目を閉じる。
「なら、見届けたかった」
身体が光に包まれる。
霧散。
消滅。
◆
夜風が吹く。
柳洞寺の結界は消えた。
街の魔力流動が正常に戻る。
「……終わったか」
凛が座り込む。
「ええ」
セイバーが頷く。
士郎が俺を見る。
「健」
「ああ」
息を吐く。
重い。
だが。
「一つ、越えた」
観測者では辿り着けなかった場所。
自分の手で壊した。
そして。
残った。
空を見る。
夜は深い。
だが遠くに、薄く光がある気がした。
キャスターは退場。
策は潰えた。
だが。
黒幕はまだ動いている。
愉悦の司祭。
赤い英霊の迷い。
そして聖杯。
最終章が、静かに口を開ける。
次回「境界の色」