中立魔術師は黄昏を纏う   作:夜神桜

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第十八話 未来の残骸

夜。

冷たい風が庭を抜ける。

違和感は突然だった。

 

「……来る」

セイバーが低く告げる。

 

次の瞬間、屋根の上に赤い外套。

弓兵。

 

アーチャー。

 

「話がある」

 

視線は士郎だけを射抜いている。

 

     ◆

 

裏庭。

月明かり。

 

凛は黙認した。止めても無駄だと分かっているからだ。

 

士郎とアーチャーが向き合う。

俺は少し離れて立つ。

 

「単刀直入に言う」

アーチャーの声は冷たい。

 

「お前は、俺だ」

 

空気が凍る。

 

「……は?」

 

「未来のお前が、俺だ」

 

士郎が笑う。

「冗談きついぞ」

 

「冗談で英霊になるか」

 

淡々と続ける。

「理想を抱き、救い続け、最後に裏切られた」

 

士郎の顔色が変わる。

 

「それでも止まらなかった」

 

月光が刃のように落ちる。

 

「結果、守ったはずの者たちに否定され、処刑された」

 

沈黙。

 

「それが衛宮士郎の未来だ」

 

心臓が重く鳴る。

 

士郎の拳が震えている。

「嘘だ」

 

「事実だ」

 

「俺は……!」

 

「変わらない」

遮る。

 

「理想は腐る」

 

アーチャーの目は、怒りでも憎しみでもない。

疲労だ。

 

「お前は最後まで自分を削り、誰も救えず、何も残らない」

 

士郎が叫ぶ。

「それでも!」

 

声が割れる。

「それでも俺はやる!」

 

涙はない。

だが歯を食いしばっている。

 

「後悔してるのはあんただろ!」

 

一瞬、アーチャーの眉が揺れる。

 

「俺は後悔しない!」

 

「する」

即答。

 

「理想は人を救うが、救われた人間が理想を守るとは限らない」

 

冷酷な真実。

 

「お前は孤独になる」

 

士郎が沈黙する。

 

折れかけている。

 

     ◆

 

「……それで?」

俺が口を開く。

 

二人の視線が向く。

 

「未来がそうだから何だ」

 

アーチャーが睨む。

「口を挟むな、観測者」

 

「観測者じゃない」

 

一歩前に出る。

「参加者だ」

 

月明かりの下、色が揺れる。

 

「未来を知ってる」

 

士郎が驚く。

「健、お前……」

 

「ああ」

 

隠さない。

 

「大体はな」

 

アーチャーの目が細まる。

 

「なら分かるはずだ。理想の末路を」

 

「分かる」

即答。

 

「でもな」

士郎の肩を掴む。

 

「未来は“確定”じゃない」

 

「甘い」

アーチャーが吐き捨てる。

 

「人間の本質は変わらん」

 

「変わらなくてもいい」

 

静かに返す。

「折れなきゃいい」

 

士郎を見る。

「お前が後悔する未来はあるかもしれない」

 

飲み込む。

 

「でも、今ここで折れたら、確定する」

 

沈黙。

アーチャーの瞳が揺れる。

 

「俺は理想を否定しない」

 

言い切る。

 

「でも理想のために消えるのは否定する」

 

士郎が息を呑む。

 

「残れ」

短い言葉。

 

「最後まで」

 

アーチャーが冷笑する。

「残っても孤独だ」

 

「なら孤独じゃなくすればいい」

 

「どうやって」

 

「俺がいる」

即答。

 

静寂。

士郎の目が見開かれる。

 

「理想は一人で抱えるから歪む」

 

夕焼けの言葉が胸に蘇る。

 

「共有しろ」

 

アーチャーが初めて言葉を失う。

 

「お前は一人で背負った」

 

だから折れた。

 

「士郎は違う」

肩を掴む手に力を込める。

 

「俺が残る」

 

色が、はっきりと腕に沿う。

 

群青。

白銀。

朱。

薄金。

橙と紫。

 

「……面白い」

アーチャーが低く呟く。

 

「観測者が未来を否定するか」

 

「否定じゃない」

首を振る。

 

「選び直すだけだ」

 

長い沈黙。

やがてアーチャーが背を向ける。

 

「好きにしろ」

屋根へ跳ぶ。

 

「だが覚えておけ」

 

振り返らずに言う。

「理想は必ず代償を払う」

 

「払うさ」

 

俺は答える。

「でも、死ぬ前提じゃない」

 

アーチャーは消えた。

 

     ◆

 

静寂。

 

士郎が崩れるように座る。

「……怖かった」

 

本音。

 

「未来を見せられて、怖くない奴はいない」

 

隣に座る。

 

「でも」

 

士郎が小さく笑う。

「一人じゃないなら、やれる気がする」

 

胸の奥で、何かがはまる。

 

色が一瞬、完全な刃を描く。

まだ10秒も持たない。

 

だが。

確実に近づいた。

 

未来の残骸を越える。

それが今の選択だ。

 

理想は崩れかけた。

だが折れなかった。

 

そして俺も。

消える前提を、また一つ捨てた。

 

黄昏は境界。

終わりを知りながら、始まりを選ぶ色。

 

その刃は、もうすぐ形になる。

 

次回

「愉悦の選択」

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