中立魔術師は黄昏を纏う   作:zeroが個人的に好き

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第二十話 引き金の夜

夜は静かすぎた。

風も止み、空気が凍っている。

 

違和感は一瞬だった。

 

「――士郎!」

セイバーの声。

 

次の瞬間、屋根の上に赤い外套。

弓が引かれている。

 

アーチャー。

矢の先は、士郎の喉元。

 

「待て」

俺は一歩前に出る。

 

「退け」

冷たい声。

 

「これは俺と衛宮士郎の問題だ」

 

「だから出てきた」

 

月明かりが矢に反射する。

 

「未来を断つ」

 

アーチャーが告げる。

「理想の芽を、今ここで摘む」

 

士郎は動かない。

目は逸らしていない。

 

「俺は……」

声が震える。

 

「俺はそれでもやる」

 

「分かっている」

アーチャーの声は静かだ。

 

「だから殺す」

 

弦が軋む。

 

     ◆

 

時間が伸びる。

この一射で終わる。

 

未来は閉じる。

聖杯の歪みも一つ消える。

 

合理的だ。

正しい。

 

だが。

 

「やめろ」

俺は踏み出す。

 

「退けと言った」

 

「退かない」

 

色が揺れる。

 

群青。

白銀。

朱。

薄金。

 

「お前は後悔してる」

 

「……」

 

「一人で背負ったからだ」

 

矢がわずかに揺れる。

 

「共有すれば違ったかもしれない」

 

「幻想だ」

 

「そうかもしれない」

 

一歩、さらに前へ。

 

「でも今は違う」

 

士郎の肩に手を置く。

「こいつは一人じゃない」

 

弦がきしむ音。

 

「どけ」

 

「どかない」

 

心臓が鳴る。

 

ここだ。

逃げれば全部崩れる。

 

「お前が撃つなら」

 

視線を真っ直ぐ返す。

「俺ごと撃て」

 

静寂。

 

セイバーが息を呑む。

凛が叫びかけて止まる。

 

「……本気か」

 

「ああ」

 

迷いはない。

消える前提ではない。

 

残る前提で立っている。

 

「俺は残る」

 

色が収束する。

 

白夜の細剣が右手に形を取り始める。

真昼の短剣が左に灯る。

 

「観測者が英雄気取りか」

 

「違う」

首を振る。

 

「境界だ」

 

群青が腕に沿う。

白銀が刃になる。

 

「未来と今の間に立つ」

 

矢が放たれる。

閃光。

 

だが。

白夜が弾く。

 

衝撃が腕を砕きかける。

血が滲む。

 

「健!」

士郎の声。

 

「まだだ」

 

真昼が閃く。

第二射を叩き落とす。

 

膝が軋む。

 

「なぜそこまで」

アーチャーが低く問う。

 

「簡単だ」

 

息を吐く。

 

「お前が間違ってるからだ」

 

「何?」

 

「未来を知ってるのに」

 

視線を外さない。

 

「未来を固定しようとしてる」

 

色が背後で混ざり始める。

朱と薄金が脈打つ。

 

「俺は選び直すって言った」

 

「理想は変わらん!」

 

「変わらなくていい!」

 

叫ぶ。

「折れなきゃいい!」

 

空気が震える。

 

橙と紫が重なる。

まだ完全ではない。

 

だが。

 

「アーチャー」

 

静かに告げる。

「お前は後悔してる」

 

「……」

 

「なら、こいつが後悔しない道を選ぶのを見届けろ」

 

沈黙。

長い、長い数秒。

 

弓が、ゆっくりと下がる。

 

「……愚かだ」

吐き捨てる。

 

「だが」

 

視線がわずかに柔らぐ。

「それでも進むというのなら」

 

背を向ける。

「見届けてやる」

 

赤い外套が夜に溶ける。

 

     ◆

 

静寂。

 

膝から力が抜ける。

 

色が霧散する。

まだ完全ではない。

 

まだ。

 

士郎が隣に立つ。

「……ありがとう」

 

「礼はまだ早い」

 

空を見上げる。

 

夜が揺れている。

聖杯の魔力が濃くなる。

 

決戦は近い。

 

未来は断たれなかった。

理想は折れなかった。

 

そして俺も。

消える前提では立たなかった。

 

黄昏は、あと一歩。

10秒の境界は、もうすぐだ。

 

次回

「王に背く者」

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