中立魔術師は黄昏を纏う   作:夜神桜

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第二十一話 王に背く者

夜は静かだった。

聖杯の気配は、もう隠していない。

空気が重く、街の灯りが滲んで見える。

 

屋敷の庭。

誰もいない。

 

「……おい」

 

背後から声。

振り向くと、銀色で赤い模様がついた鎧。

 

モードレッド。

 

「一人で黄昏てんじゃねぇ」

 

「別に黄昏てない」

 

「似たようなもんだろ」

 

乱暴に隣へ腰を下ろす。

月明かりが鎧を鈍く照らす。

 

「明日だな」

 

「ああ」

 

聖杯は顕現する。

言峰も動く。

 

全部終わる。

 

「聞くが」

 

モードレッドが空を見たまま言う。

「お前の“叛逆”ってのは何だ」

 

沈黙。

 

「王に逆らうことか?」

 

「違う」

 

「じゃあ何だ」

 

少し考える。

 

「決められた終わりに従わないこと」

 

「……ほう」

鼻で笑う。

 

「運命様に中指立てるってか」

 

「そんな感じだ」

 

「甘ぇな」

即答。

 

「叛逆ってのは血が出るもんだ」

 

拳を握る。

「王に刃向かえば、国が割れる。仲間も死ぬ」

 

目が細まる。

「俺はそれをやった」

 

重い声。

「間違ってたと思うか?」

 

真っ直ぐな問い。

 

「……分からない」

 

正直に言う。

「でも」

 

「でも?」

 

「間違いでも、選んだんだろ」

 

視線がぶつかる。

 

「選んだ」

 

「なら、それはお前の叛逆だ」

 

モードレッドは一瞬、目を見開き、そして笑う。

「お前、王より王っぽいこと言うな」

 

「やめろ」

 

「ははっ」

 

笑い声が夜に溶ける。

 

「で、お前は何に叛逆する」

 

「聖杯」

 

「それだけか?」

 

「違う」

 

空を見る。

「自分にも」

 

「……あ?」

 

「消える前提で動く自分」

 

静かに言う。

「異物だから最後に帳尻合わせればいいって思ってた」

 

「今は?」

 

「残る」

短く。

 

モードレッドがニヤリと笑う。

「いいじゃねぇか」

 

「叛逆ってのはな」

立ち上がる。

 

「王だけに向けるもんじゃねぇ」

 

月明かりを背に。

 

「自分の弱さに刃向けるのも叛逆だ」

 

その言葉が、胸に落ちる。

 

「明日」

 

赤雷が微かに走る。

 

「俺は全力で暴れる」

 

「分かってる」

 

「10秒だろ」

 

ぎくりとする。

「何で」

 

「顔に書いてある」

 

鼻で笑う。

「限界越える気だろ」

 

沈黙。

否定しない。

 

「死ぬ気か?」

 

「違う」

首を振る。

 

「残る」

 

「ならいい」

即答。

 

「死ぬ叛逆は三流だ」

鋭い言葉。

 

「生き残って、後悔ごと抱えるのが一流だ」

 

拳を突き出す。

「最後まで立ってろ」

 

俺も拳を合わせる。

「お前もな」

 

「当たり前だ」

 

雷が一瞬、強く弾ける。

 

「叛逆の騎士を舐めんな」

 

     ◆

 

モードレッドが消えた後。

庭に一人残る。

 

空を見上げる。

色が揺れる。

 

群青。

白銀。

朱。

薄金。

 

そして。

橙と紫。

 

今までより濃い。

はっきりと、腕を覆いかける。

 

「……叛逆の騎士、か」

 

明日、その名が意味を持つ。

 

王に背いた騎士と、

運命に背く少年。

 

叛逆は破壊じゃない。

選び直すことだ。

自分に、世界に。

 

聖杯はもうすぐ顕現する。

戦争は終わる。

未来は決まらない。

 

決める。

10秒の向こうで。

 

生きたまま。

 

次回

「泥の器」

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