中立魔術師は黄昏を纏う 作:zeroが個人的に好き
夜空が、裂けた。
音はない。
だが空間が歪む。
街の上空、雲が渦を巻く。
「……来る」
セイバーの声が低い。
次の瞬間。
空に黒い孔が開いた。
重い。
圧倒的な魔力。
地面が震え、窓ガラスが割れる。
聖杯。
それは黄金ではなかった。
闇だ。
泥のように濁った光が溢れ出す。
「……これが」
士郎が息を呑む。
「願いの器」
違う。
これは器じゃない。
溜め込んだ“歪み”の塊だ。
◆
教会の屋根。
黒衣の男がそれを見上げる。
言峰綺礼。
「美しい」
愉悦に満ちた声。
「これが人の願いの果てだ」
空から泥が落ちる。
触れた地面が焼ける。
人々の悲鳴が遠くに響く。
◆
「行くわよ!」
凛が叫ぶ。
結界展開。
セイバーが前へ出る。
アーチャーが屋根へ跳ぶ。
モードレッドが笑う。
「派手だなオイ!」
俺は空を見上げる。
胸が熱い。
色が暴れ出す。
群青。
白銀。
朱。
薄金。
橙と紫。
聖杯が近いほど、共鳴が強い。
「健!」
士郎の声。
「分かってる」
これは器だ。
願いを叶える?
違う。
歪ませる。
「壊す」
短く。
踏み込む。
◆
泥が降る。
セイバーが斬る。
モードレッドが雷で焼く。
アーチャーが射抜く。
だが再生する。
「核がある!」
凛が叫ぶ。
「中心部!」
黒い孔の奥。
渦の中心に、心臓のような塊。
あそこだ。
「行く」
足が地面を蹴る。
屋根へ。
さらに跳ぶ。
泥が腕を焼く。
皮膚が裂ける。
だが止まらない。
「健!」
「来るな!」
叫ぶ。
これは俺の役目だ。
◆
空中。
泥の中。
圧力で呼吸が潰れる。
視界が黒に染まる。
だが色は消えない。
群青が腕を覆う。
白銀が指先に宿る。
朱が背に重みを作る。
薄金が胸を支える。
そして。
橙と紫。
混ざる。
「まだだ」
刃は未完成。
だが届く。
核に、あと数歩。
「器になれば楽だぞ」
声が響く。
言峰。
「内部から崩せる」
「断った」
吐き捨てる。
「残るって決めた」
圧力が増す。
身体が軋む。
10秒。
まだ使っていない。
今じゃない。
今は届くだけでいい。
核に触れる。
灼熱。
悲鳴が脳を焼く。
視界が白に弾ける。
◆
地上。
「健!」
士郎が叫ぶ。
セイバーが空を睨む。
「まだだ」
凛が歯を食いしばる。
「まだ終わってない」
◆
泥の中心。
俺は落ちていない。
立っている。
色が、はっきりと刃を描く。
だが完全ではない。
10秒の境界は、まだ越えていない。
聖杯が鼓動する。
街を呑み込もうとする。
言峰が笑う。
「さあ」
愉悦に満ちた声。
「叛逆を見せろ」
拳を握る。
橙と紫が強く光る。
これは願いじゃない。
選択だ。
終わらせて、進む。
聖杯は顕現した。
戦争は儀式へ変わった。
次は――
叛逆だ。
次回
「空虚を穿つ」