中立魔術師は黄昏を纏う   作:zeroが個人的に好き

22 / 24
第二十二話 泥の器

夜空が、裂けた。

音はない。

だが空間が歪む。

 

街の上空、雲が渦を巻く。

 

「……来る」

セイバーの声が低い。

 

次の瞬間。

空に黒い孔が開いた。

 

重い。

圧倒的な魔力。

 

地面が震え、窓ガラスが割れる。

 

聖杯。

それは黄金ではなかった。

 

闇だ。

泥のように濁った光が溢れ出す。

 

「……これが」

士郎が息を呑む。

 

「願いの器」

 

違う。

これは器じゃない。

 

溜め込んだ“歪み”の塊だ。

 

     ◆

 

教会の屋根。

黒衣の男がそれを見上げる。

 

言峰綺礼。

 

「美しい」

愉悦に満ちた声。

 

「これが人の願いの果てだ」

 

空から泥が落ちる。

触れた地面が焼ける。

人々の悲鳴が遠くに響く。

 

     ◆

 

「行くわよ!」

凛が叫ぶ。

 

結界展開。

 

セイバーが前へ出る。

アーチャーが屋根へ跳ぶ。

 

モードレッドが笑う。

「派手だなオイ!」

 

俺は空を見上げる。

 

胸が熱い。

色が暴れ出す。

 

群青。

白銀。

朱。

薄金。

橙と紫。

 

聖杯が近いほど、共鳴が強い。

 

「健!」

士郎の声。

 

「分かってる」

 

これは器だ。

願いを叶える?

 

違う。

歪ませる。

 

「壊す」

短く。

 

踏み込む。

 

     ◆

 

泥が降る。

セイバーが斬る。

モードレッドが雷で焼く。

アーチャーが射抜く。

 

だが再生する。

 

「核がある!」

凛が叫ぶ。

 

「中心部!」

 

黒い孔の奥。

渦の中心に、心臓のような塊。

 

あそこだ。

 

「行く」

 

足が地面を蹴る。

 

屋根へ。

さらに跳ぶ。

 

泥が腕を焼く。

皮膚が裂ける。

 

だが止まらない。

 

「健!」

 

「来るな!」

叫ぶ。

 

これは俺の役目だ。

 

     ◆

 

空中。

泥の中。

 

圧力で呼吸が潰れる。

視界が黒に染まる。

 

だが色は消えない。

 

群青が腕を覆う。

白銀が指先に宿る。

朱が背に重みを作る。

薄金が胸を支える。

 

そして。

橙と紫。

 

混ざる。

 

「まだだ」

 

刃は未完成。

だが届く。

 

核に、あと数歩。

 

「器になれば楽だぞ」

 

声が響く。

言峰。

 

「内部から崩せる」

 

「断った」

吐き捨てる。

 

「残るって決めた」

 

圧力が増す。

身体が軋む。

 

10秒。

まだ使っていない。

 

今じゃない。

今は届くだけでいい。

 

核に触れる。

灼熱。

悲鳴が脳を焼く。

 

視界が白に弾ける。

 

     ◆

 

地上。

 

「健!」

士郎が叫ぶ。

 

セイバーが空を睨む。

「まだだ」

 

凛が歯を食いしばる。

「まだ終わってない」

 

     ◆

 

泥の中心。

俺は落ちていない。

立っている。

 

色が、はっきりと刃を描く。

だが完全ではない。

 

10秒の境界は、まだ越えていない。

 

聖杯が鼓動する。

街を呑み込もうとする。

 

言峰が笑う。

「さあ」

 

愉悦に満ちた声。

「叛逆を見せろ」

 

拳を握る。

橙と紫が強く光る。

 

これは願いじゃない。

選択だ。

 

終わらせて、進む。

 

聖杯は顕現した。

戦争は儀式へ変わった。

 

次は――

叛逆だ。

 

次回

「空虚を穿つ」

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。