泥の雨が街を焼く。
空の孔は脈打ち、黒い心臓の鼓動が響く。
その直下。
瓦礫の教会前に、黒衣の男。
言峰綺礼。
「降りてこい、対概念」
静かな招き。
俺は着地する。
膝が軋む。だが立つ。
「聖杯は順調に満ちている」
言峰は空を見上げる。
「止めるのだろう?」
「壊す」
「同義だ」
笑み。
「では、管理者を越えてみせろ」
次の瞬間、地面が爆ぜる。
黒鍵が閃く。
群青が腕に走る。
白夜。
細剣が形を取る。
弾く。
火花が散る。
「ほう」
言峰の体術が迫る。
拳が鳩尾を抉る。
肺が潰れる。
だが踏みとどまる。
真昼。
短剣が左手に灯る。
懐へ潜り、斬り上げる。
布が裂け、血が滲む。
言峰は下がらない。
「良い」
愉悦が混じる。
「だが浅い」
回し蹴り。
肋が軋む。
視界が揺れる。
「君は残ると決めた」
黒鍵が雨のように降る。
「ならば残るための力を見せろ」
白夜で払う。
真昼で断つ。
だが押される。
「理想を共有する?」
踏み込まれる。
「甘い」
拳が頬を打つ。
血が飛ぶ。
「人は裏切る」
腹に衝撃。
「願いは歪む」
喉元に黒鍵。
「それでも残ると言うか」
止まる。
刃が皮膚を裂く寸前。
「言っただろ」
息を吐く。
「俺は器にならない」
右手を握る。
群青が強く光る。
「聖杯は願いを増幅する」
言峰の目が細まる。
「俺は違う」
真昼が白く輝く。
「選択を増幅する」
踏み込む。
黒鍵を弾き飛ばす。
至近距離。
「終わらせる」
真昼で胸を裂く。
血が舞う。
だが言峰は笑う。
「それだけでは核は壊れん」
背後、泥が蠢く。
黒い腕が伸びる。
俺を掴む。
圧力。
骨が軋む。
「10秒を使え」
囁き。
「越えてみせろ」
視界が黒に染まる。
鼓動が速まる。
まだ早い。
だが――
ここで使わなければ、押し切られる。
「健!」
遠くで士郎の声。
モードレッドの雷鳴。
アーチャーの矢。
届かない。
俺一人の間合い。
橙と紫が混ざる。
朱と薄金が呼応する。
夕。
大剣が背に現れる。
朝日。
薄金の刃が腰に灯る。
同時に二本まで。
限界。
だが今は――
「黄昏」
四つの色が重なる。
腕を覆う。
視界が橙と紫に染まる。
時間が軋む。
――1秒。
泥の腕を斬る。
抵抗がない。
――2秒。
言峰の懐へ。
拳が迫る。
朝日で受ける。
火花。
――3秒。
夕で薙ぐ。
黒衣が裂ける。
血が舞う。
――4秒。
「素晴らしい!」
言峰が笑う。
――5秒。
黒鍵を全て叩き落とす。
――6秒。
拳を叩き込む。
肋が砕ける音。
――7秒。
泥が暴れる。
背後から圧力。
――8秒。
夕で核への道を切り開く。
――9秒。
視界が揺らぐ。
血が喉に上がる。
――10秒。
言峰の胸に、白夜と真昼を同時に突き立てる。
止まる。
時間が戻る。
衝撃が一気に来る。
吐血。
膝が折れる。
橙と紫が霧散する。
視界が暗い。
だが。
言峰は膝をついている。
血が地面に広がる。
「……10秒か」
苦笑。
「越えなかったな」
「越えない」
息を吐く。
「残るって決めたからな」
言峰は静かに笑う。
「ならば、次だ」
空を見上げる。
聖杯の核が脈打つ。
「器を砕け」
血を吐きながら立ち上がる。
限界は近い。
だが立てる。
10秒は越えていない。
まだ戦える。
言峰との決着はついた。
思想は砕いた。
残るは――
泥の器。
聖杯。
次回
「願いの底」