中立魔術師は黄昏を纏う 作:zeroが個人的に好き
泥の核が脈打つ。
黒い心臓。
街を呑み込む鼓動。
俺は立っている。
膝は震え、視界は揺れる。
だが倒れない。
「健!」
士郎の声。
「行け!」
凛の結界が泥を押し返す。
セイバーが道を切り開く。
屋根の上から矢が降る。
アーチャー。
「10秒だ!」
モードレッドの雷が炸裂する。
赤い鎧が泥を裂き、隣に立つ。
モードレッド。
「遅ぇぞ、境界野郎」
「うるさい」
息を吐く。
「準備はいいか」
「叛逆の騎士を誰だと思ってやがる」
雷が弾ける。
泥が焼ける。
「核はあそこよ!」
凛が叫ぶ。
黒い塊が、さらに鼓動を速める。
まるで拒絶するように。
◆
「来るぞ!」
セイバーの警告。
泥が壁のように立ち上がる。
触れれば焼ける。
「任せろ!」
モードレッドが踏み込む。
赤雷が迸る。
泥を吹き飛ばす。
「今だ!」
走る。
足が悲鳴を上げる。
胸が焼ける。
だが止まらない。
核が目前に迫る。
「健!」
士郎の声。
振り向かない。
これは俺の間合いだ。
◆
泥が腕を掴む。
骨が軋む。
引き剥がす。
色が暴れる。
群青。
白銀。
朱。
薄金。
「使え!」
モードレッドの叫び。
「限界だろうが関係ねぇ!」
笑っている。
「死ぬ叛逆は三流だ!」
思い出す。
前夜の言葉。
「生き残って抱えろ!」
核が脈打つ。
鼓動が重なる。
俺の心臓と。
「黄昏」
橙と紫が重なる。
世界が染まる。
――1秒。
泥を断つ。
――2秒。
朱の夕が背に現れる。
大剣の重み。
――3秒。
薄金の朝日が腰に灯る。
刃が震える。
相性の良い二本。
夕と朝日。
終わりと始まり。
「いい色だ」
モードレッドが笑う。
「やれ!」
――4秒。
夕で核を斬る。
弾かれる。
――5秒。
朝日で穿つ。
亀裂。
――6秒。
泥が爆発する。
身体が焼ける。
――7秒。
血が喉を上る。
視界が揺れる。
――8秒。
モードレッドが前に出る。
雷を纏い、泥を押し返す。
「越えんなよ!」
叫ぶ。
「生き残れ!」
――9秒。
全ての色が腕に集まる。
夕と朝日が共鳴する。
橙と紫が濃くなる。
――10秒。
叩き込む。
終焉の一撃。
始まりの刃。
核が割れる。
◆
時間が戻る。
衝撃が一気に来る。
吐血。
膝が折れる。
視界が暗い。
だが。
核は砕けている。
黒い心臓が崩壊する。
泥が逆流する。
空の孔が閉じ始める。
「やった……!」
凛の声。
セイバーが剣を下ろす。
アーチャーが静かに頷く。
モードレッドが肩を掴む。
「立て」
乱暴だが支える。
「終わってねぇぞ」
泥が最後の抵抗を見せる。
だが勢いは弱い。
「残ったな」
モードレッドが笑う。
「ああ」
息を吐く。
「越えてない」
10秒。
また越えていない。
吐血はある。
全身は砕けそうだ。
だが。
意識はある。
立っている。
「上出来だ」
雷が最後に弾ける。
泥が消える。
空が静かになる。
孔が閉じる。
夜が戻る。
◆
瓦礫の中。
聖杯は消えた。
願いの器は砕けた。
叛逆は成功した。
王にではない。
運命に。
自分に。
モードレッドが空を見上げる。
「王様に言っとけ」
ニヤリと笑う。
「俺は最後まで暴れたってな」
光が彼女を包む。
「ありがとな、境界」
消える。
静寂。
俺は空を見る。
夜が明けかけている。
橙と紫が混ざる。
黄昏の色。
まだ、纏っている。
だが。
終わりじゃない。
次回
「結末を知る少年」