中立魔術師は黄昏を纏う 作:zeroが個人的に好き
その夜は、静かすぎた。
虫の声も、風の音も、やけに遠い。
「来るな」
俺は短く呟く。
時間はほぼ一致している。
遠坂凛はアーチャーを召喚し、ランサーが動き出す頃だ。
「いよいよか?」
モードレッドが楽しげに笑う。
「最初の血だ」
俺は位置を把握している。
衛宮邸。
そして――あの倉庫。
「走るぞ」
中立は、ここで終わる。
◆
倉庫に辿り着いたとき、空気は既に裂けていた。
魔力の残滓。
英霊同士の衝突の痕。
間に合わない。
そう思った瞬間。
金属音。
そして、肉を貫く鈍い響き。
俺は踏み込んだ。
視界に飛び込んできたのは――
床に倒れた少年。
赤い槍を引き抜く、青い槍兵。
ランサー。
「……チッ」
舌打ち。
原作通り。
士郎は心臓を貫かれた。
「マスター」
「分かってる」
ランサーはこちらに気付く。
「ほう? もう一組いたか」
飄々とした声。
だが油断はない。
俺は即座に判断する。
ここで戦えば、消耗する。
だが、引けば士郎は死ぬ。
選択肢は一つ。
「モードレッド!」
「任せろ!」
爆発的な魔力と共に突撃。
赤雷のような斬撃が空間を裂く。
ランサーが跳ぶ。
「ほう、セイバーか!」
「違えよ、馬鹿!」
刃と槍が激突する。
衝撃で倉庫の壁が軋む。
俺は士郎のもとへ駆け寄る。
血が広がっている。
鼓動は――ない。
知っている。
この後、凛が来る。
宝石で蘇生する。
だが。
それは“原作”の流れだ。
俺が介入した今、同じ保証はない。
俺は歯を食いしばる。
「死ぬな」
回復魔術を流し込む。
心臓の傷を強引に縫い止める。
だが限界がある。
くそ。
足音。
屋根の上から気配。
遠坂凛。
間に合った。
彼女が状況を見て、舌打ちする。
「……何やってるのよ、あなた」
「説明は後だ!」
彼女は一瞬で理解し、宝石を砕く。
膨大な魔力が士郎に流れ込む。
鼓動。
微かな震え。
生き返る。
その瞬間。
外で爆発的な魔力。
モードレッドとランサーの衝突が激化している。
「凛、下がれ!」
「言われなくても!」
俺は立ち上がる。
ランサーは撤退を選ぶだろう。
ここで深追いはしない。
だが――
モードレッドが笑っている。
「いい夜だなぁ、マスター!」
戦いを楽しんでいる。
血と鉄の匂いの中で。
やがて、ランサーは距離を取る。
「今日はここまでにしておこう」
軽く手を振り、霊体化。
静寂が戻る。
◆
倉庫の床。
士郎はまだ意識が戻らない。
凛が睨む。
「あなた、何者?」
当然の疑問。
「中立の魔術師」
「嘘ね」
即答。
俺は苦笑する。
「……聖杯を壊す側の人間だ」
凛の目が僅かに揺れる。
「馬鹿じゃないの」
「知ってる」
そのとき。
空気が震える。
士郎の体から、魔力が溢れる。
召喚陣が光る。
白銀の光。
風。
そして。
鎧の少女。
剣を携えた騎士。
「問おう。あなたが、私のマスターか」
セイバー。
運命は、原作通りに回り始める。
だが違う。
俺はここにいる。
観測者ではない。
介入者だ。
士郎が目を開ける。
混乱。
状況を理解できない目。
その姿を見て、胸の奥が軋む。
この少年は、自分を消費する。
正義の味方という理想のために。
俺は一歩、前に出る。
「ようこそ、地獄へ」
小さく呟く。
運命の夜は終わった。
戦争は、正式に始まった。
次回
「正義の味方」