中立魔術師は黄昏を纏う   作:zeroが個人的に好き

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第三話 運命の夜

その夜は、静かすぎた。

虫の声も、風の音も、やけに遠い。

 

「来るな」

俺は短く呟く。

 

時間はほぼ一致している。

遠坂凛はアーチャーを召喚し、ランサーが動き出す頃だ。

 

「いよいよか?」

モードレッドが楽しげに笑う。

 

「最初の血だ」

 

俺は位置を把握している。

 

衛宮邸。

そして――あの倉庫。

 

「走るぞ」

 

中立は、ここで終わる。

 

     ◆

 

倉庫に辿り着いたとき、空気は既に裂けていた。

 

魔力の残滓。

英霊同士の衝突の痕。

 

間に合わない。

 

そう思った瞬間。

金属音。

そして、肉を貫く鈍い響き。

 

俺は踏み込んだ。

 

視界に飛び込んできたのは――

床に倒れた少年。

赤い槍を引き抜く、青い槍兵。

 

ランサー。

 

「……チッ」

舌打ち。

 

原作通り。

士郎は心臓を貫かれた。

 

「マスター」

 

「分かってる」

 

ランサーはこちらに気付く。

「ほう? もう一組いたか」

 

飄々とした声。

だが油断はない。

 

俺は即座に判断する。

 

ここで戦えば、消耗する。

だが、引けば士郎は死ぬ。

 

選択肢は一つ。

 

「モードレッド!」

 

「任せろ!」

 

爆発的な魔力と共に突撃。

赤雷のような斬撃が空間を裂く。

 

ランサーが跳ぶ。

「ほう、セイバーか!」

 

「違えよ、馬鹿!」

 

刃と槍が激突する。

衝撃で倉庫の壁が軋む。

 

俺は士郎のもとへ駆け寄る。

 

血が広がっている。

鼓動は――ない。

 

知っている。

 

この後、凛が来る。

宝石で蘇生する。

 

だが。

それは“原作”の流れだ。

 

俺が介入した今、同じ保証はない。

 

俺は歯を食いしばる。

「死ぬな」

 

回復魔術を流し込む。

心臓の傷を強引に縫い止める。

 

だが限界がある。

くそ。

 

足音。

屋根の上から気配。

 

遠坂凛。

 

間に合った。

 

彼女が状況を見て、舌打ちする。

「……何やってるのよ、あなた」

 

「説明は後だ!」

 

彼女は一瞬で理解し、宝石を砕く。

膨大な魔力が士郎に流れ込む。

 

鼓動。

微かな震え。

生き返る。

 

その瞬間。

外で爆発的な魔力。

 

モードレッドとランサーの衝突が激化している。

 

「凛、下がれ!」

 

「言われなくても!」

 

俺は立ち上がる。

 

ランサーは撤退を選ぶだろう。

ここで深追いはしない。

 

だが――

 

モードレッドが笑っている。

「いい夜だなぁ、マスター!」

 

戦いを楽しんでいる。

血と鉄の匂いの中で。

 

やがて、ランサーは距離を取る。

「今日はここまでにしておこう」

 

軽く手を振り、霊体化。

 

静寂が戻る。

 

     ◆

 

倉庫の床。

士郎はまだ意識が戻らない。

 

凛が睨む。

「あなた、何者?」

 

当然の疑問。

 

「中立の魔術師」

 

「嘘ね」

 

即答。

 

俺は苦笑する。

「……聖杯を壊す側の人間だ」

 

凛の目が僅かに揺れる。

「馬鹿じゃないの」

 

「知ってる」

 

そのとき。

空気が震える。

 

士郎の体から、魔力が溢れる。

 

召喚陣が光る。

白銀の光。

風。

 

そして。

鎧の少女。

剣を携えた騎士。

 

「問おう。あなたが、私のマスターか」

 

セイバー。

 

運命は、原作通りに回り始める。

 

だが違う。

俺はここにいる。

観測者ではない。

 

介入者だ。

 

士郎が目を開ける。

混乱。

状況を理解できない目。

 

その姿を見て、胸の奥が軋む。

 

この少年は、自分を消費する。

正義の味方という理想のために。

 

俺は一歩、前に出る。

「ようこそ、地獄へ」

小さく呟く。

 

運命の夜は終わった。

戦争は、正式に始まった。

 

次回

「正義の味方」

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