中立魔術師は黄昏を纏う 作:zeroが個人的に好き
⸻冬。
大学四年。
部屋の空気は、少しだけ張り詰めていた。
テーブルの上にはエントリーシート。
企業説明会の資料。
そして、魔術関連の研究機関からの封筒。
「……で?」
腕を組んでいるのは
モードレッド。
「どっち行くんだ」
健は答えない。
視線は封筒に落ちている。
◆
選択肢は二つ。
一つは一般企業。
安定。
収入。
普通の生活。
もう一つは、魔術協会に近い研究機関。
黄昏の概念武装を解析し、管理し、抑止する側。
危険はある。
だが、世界の境界に関われる。
「中立を続けるなら、そっちだろ」
モードレッドが言う。
「でも、それ戦場の延長だ」
「違う」
「違わねぇよ」
空気が少し冷える。
◆
「オレはさ」
モードレッドが続ける。
「普通でいい」
「朝起きて、仕事行って、帰ってきて、メシ食って」
「それで十分だ」
健は静かに聞く。
「また命削る選択するなら」
「オレは止める」
真っ直ぐな目。
かつて王に向けた叛逆の視線。
今は、健に向いている。
◆
「怖いんだろ」
健が言う。
「何が」
「俺がまた消えそうで」
一瞬、言葉が詰まる。
「……当たり前だろ」
強い声ではない。
「戦争のとき、何回消えかけたと思ってんだ」
「11秒目、覚えてるぞ」
黄昏の限界。
自分を削る戦い。
「もう、ああいうのは嫌だ」
静かな本音。
◆
「でも」
健は封筒を手に取る。
「誰かが境界を見張らないと」
「誰かってなんだ」
「極端に傾く前に、少し押し戻す」
「それが俺の中立だ」
昔と変わらない言葉。
だが今は、守るものが違う。
◆
「……じゃあ聞く」
モードレッドが一歩近づく。
「オレは?」
短い問い。
「オレとの生活は、どこに置く」
沈黙。
夕焼けが差し込む。
橙と紫。
境界の色。
「両立する」
「簡単に言うな」
「簡単じゃない」
健は目を逸らさない。
「戦場には戻らない」
「管理側に行く」
「前線じゃなく、抑止」
「削らない方法を探す」
モードレッドはじっと見つめる。
「約束できるか」
「できる」
「無理するな」
「無理しない努力をする」
「それ曖昧だな」
「中立だからな」
数秒の沈黙。
そして。
「……バカ」
小さく笑う。
「でも嫌いじゃねぇ」
◆
数日後。
健は研究機関を選ぶ。
だが条件を出す。
前線任務は拒否。
過度な武装運用は禁止。
黄昏は封印管理下。
「ずいぶん強気だな」
面接官が言う。
「代替がいないので」
淡々と返す。
◆
夜。
引っ越しを控えた部屋。
「結局、普通じゃねぇな」
モードレッドが呟く。
「最初からだろ」
「……後悔すんなよ」
「しない」
「オレが怒鳴るぞ」
「それは怖い」
笑い合う。
だが手は離さない。
◆
窓の外。
夕焼け。
社会という現実と、理想の境界。
どちらにも振り切らない選択。
「なあ健」
「なんだ」
「オレは叛逆するぞ」
「何に」
「お前が無茶したら」
「頼もしい」
肩が触れる。
「中立ってのはさ」
モードレッドが空を見る。
「一人で立つもんじゃねぇだろ」
「……ああ」
ようやく理解する。
境界は一人で守るものではない。
共有するものだ。
「ならいい」
社会に出ても。
理想と現実がぶつかっても。
二人で立てば、傾きは緩やかになる。
叛逆の騎士と中立の魔術師は、
今日も黄昏の中で選び続ける。
戦いではなく、
未来を。
番外編4 完