中立魔術師は黄昏を纏う   作:zeroが個人的に好き

31 / 32
番外編4 選択のその重さ

⸻冬。

 

大学四年。

部屋の空気は、少しだけ張り詰めていた。

 

テーブルの上にはエントリーシート。

企業説明会の資料。

 

そして、魔術関連の研究機関からの封筒。

 

「……で?」

 

腕を組んでいるのは

モードレッド。

 

「どっち行くんだ」

 

健は答えない。

視線は封筒に落ちている。

 

     ◆

 

選択肢は二つ。

一つは一般企業。

 

安定。

収入。

普通の生活。

 

もう一つは、魔術協会に近い研究機関。

 

黄昏の概念武装を解析し、管理し、抑止する側。

危険はある。

だが、世界の境界に関われる。

 

「中立を続けるなら、そっちだろ」

モードレッドが言う。

 

「でも、それ戦場の延長だ」

 

「違う」

 

「違わねぇよ」

 

空気が少し冷える。

 

     ◆

 

「オレはさ」

 

モードレッドが続ける。

「普通でいい」

 

「朝起きて、仕事行って、帰ってきて、メシ食って」

 

「それで十分だ」

 

健は静かに聞く。

 

「また命削る選択するなら」

 

「オレは止める」

 

真っ直ぐな目。

かつて王に向けた叛逆の視線。

 

今は、健に向いている。

 

     ◆

 

「怖いんだろ」

 

健が言う。

「何が」

 

「俺がまた消えそうで」

 

一瞬、言葉が詰まる。

 

「……当たり前だろ」

 

強い声ではない。

 

「戦争のとき、何回消えかけたと思ってんだ」

 

「11秒目、覚えてるぞ」

 

黄昏の限界。

自分を削る戦い。

 

「もう、ああいうのは嫌だ」

 

静かな本音。

 

     ◆

 

「でも」

健は封筒を手に取る。

 

「誰かが境界を見張らないと」

 

「誰かってなんだ」

 

「極端に傾く前に、少し押し戻す」

 

「それが俺の中立だ」

 

昔と変わらない言葉。

だが今は、守るものが違う。

 

     ◆

 

「……じゃあ聞く」

モードレッドが一歩近づく。

 

「オレは?」

 

短い問い。

 

「オレとの生活は、どこに置く」

 

沈黙。

 

夕焼けが差し込む。

橙と紫。

境界の色。

 

「両立する」

 

「簡単に言うな」

 

「簡単じゃない」

 

健は目を逸らさない。

「戦場には戻らない」

 

「管理側に行く」

 

「前線じゃなく、抑止」

 

「削らない方法を探す」

 

モードレッドはじっと見つめる。

「約束できるか」

 

「できる」

 

「無理するな」

 

「無理しない努力をする」

 

「それ曖昧だな」

 

「中立だからな」

 

数秒の沈黙。

 

そして。

 

「……バカ」

 

小さく笑う。

「でも嫌いじゃねぇ」

 

     ◆

 

数日後。

 

健は研究機関を選ぶ。

だが条件を出す。

 

前線任務は拒否。

過度な武装運用は禁止。

黄昏は封印管理下。

 

「ずいぶん強気だな」

 

面接官が言う。

「代替がいないので」

 

淡々と返す。

 

     ◆

 

夜。

引っ越しを控えた部屋。

 

「結局、普通じゃねぇな」

モードレッドが呟く。

 

「最初からだろ」

 

「……後悔すんなよ」

 

「しない」

 

「オレが怒鳴るぞ」

 

「それは怖い」

 

笑い合う。

だが手は離さない。

 

     ◆

 

窓の外。

夕焼け。

社会という現実と、理想の境界。

 

どちらにも振り切らない選択。

 

「なあ健」

 

「なんだ」

 

「オレは叛逆するぞ」

 

「何に」

 

「お前が無茶したら」

 

「頼もしい」

 

肩が触れる。

 

「中立ってのはさ」

 

モードレッドが空を見る。

「一人で立つもんじゃねぇだろ」

 

「……ああ」

 

ようやく理解する。

境界は一人で守るものではない。

 

共有するものだ。

 

「ならいい」

 

社会に出ても。

理想と現実がぶつかっても。

二人で立てば、傾きは緩やかになる。

 

叛逆の騎士と中立の魔術師は、

今日も黄昏の中で選び続ける。

 

戦いではなく、

未来を。

 

番外編4 完

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。