中立魔術師は黄昏を纏う   作:夜神桜

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…てか書いといてなんだけど、サーヴァントに結婚の概念あるのかな?


番外編5 誓いは黄昏の色で

⸻残業帰りの夜。

スーツ姿の健は、コンビニ袋を提げてアパートの階段を上がる。

鍵を回す。

 

「ただいま」

 

「遅ぇ」

 

リビングから顔を出すのは

モードレッド。

Tシャツにスウェットという気の抜けた格好。

 

かつて王に叛逆した騎士の姿は、どこにもない。

 

「飯は?」

 

「今温める」

 

「焦がすなよ」

 

「今日は焦がしてない」

 

「“今日は”?」

 

いつものやり取り。

変わらない日常。

 

     ◆

 

食後。

テレビの音は小さい。

窓の外は夕暮れ。

 

橙と紫が街を染めている。

 

「……綺麗だな」

モードレッドが呟く。

 

「久しぶりにゆっくり見た気がする」

 

「忙しかったからな」

 

研究機関での仕事は落ち着いてきた。

前線には出ない約束は守っている。

無茶もしていない。

 

少なくとも、表面上は。

 

     ◆

 

「なあ健」

 

「ん?」

 

「オレ、たまに思う」

 

視線は夕焼けのまま。

 

「王になりたかった頃のオレが、今見たら笑うだろうなって」

 

「なんで」

 

「洗濯物畳んで、家賃計算して、将来の貯金考えて」

 

「小せぇって言うだろ」

 

健は少し考える。

 

「言わないと思う」

 

「なんで」

 

「今のほうが強い」

 

沈黙。

 

「……強い?」

 

「誰かに認められなくても立てる」

 

「王がいなくても折れない」

 

「十分だろ」

 

モードレッドは目を細める。

「お前は」

 

「なんだ」

 

「昔からそうやって肯定する」

 

「事実だ」

 

     ◆

 

健はポケットに手を入れる。

小さな箱。

何日も前から持ち歩いていた。

 

だが、タイミングが分からなかった。

戦場では迷わなかったのに。

 

「……どうした」

 

「いや」

 

心臓が少しだけうるさい。

 

「一つ確認」

 

「何だよ」

 

「ここにいていいか」

 

モードレッドは笑う。

「今さらか?」

 

「一応」

 

「追い出す理由ねぇだろ」

 

「一生でも?」

 

空気が止まる。

風がカーテンを揺らす。

 

「……それ」

 

モードレッドの声が、わずかに低くなる。

「どういう意味だ」

 

健は箱を取り出す。

 

大袈裟な宝石ではない。

飾り気のない指輪。

 

「王でも騎士でもない」

 

「叛逆者でもない」

 

「ただの一人として」

 

箱を開く。

 

「隣にいてほしい」

 

言葉は短い。

だが迷いはない。

 

「結婚しよう」

 

     ◆

 

モードレッドは動かない。

視線は指輪。

 

そして健。

 

「……命令か」

 

「違う」

 

「提案か」

 

「願いだ」

 

数秒。

長い沈黙。

 

「オレは」

ゆっくり口を開く。

 

「王に認められなかった」

 

「騎士にもなりきれなかった」

 

「英霊でもなくなった」

 

目が揺れる。

 

「そんなオレでいいのか」

 

「いい」

 

「子供もできるか分からねぇぞ」

 

「それでもいい」

 

「オレ、怒るぞ。理不尽に」

 

「知ってる」

 

「家事も雑だぞ」

 

「改善の余地あり」

 

「叛逆するぞ」

 

「歓迎する」

 

沈黙。

そして。

 

「……ずるいな」

 

目尻が少し赤い。

 

「お前はいつも逃げ道を塞ぐ」

 

「逃げなくていい」

 

健は言う。

「もう戦場じゃない」

 

夕焼けが二人を染める。

 

「選ぶだけだ」

 

     ◆

 

モードレッドはゆっくり息を吐く。

「王じゃなくていいんだよな」

 

「ああ」

 

「強くなくても」

 

「ああ」

 

「弱くても」

 

「一緒に立つ」

 

その一言で十分だった。

 

「……なら」

 

手を差し出す。

 

「オレを選べ」

 

「もう選んでる」

 

「形式だ、バカ」

 

健は笑い、指輪をはめる。

ぴたりと合う。

 

「……似合う」

 

「当たり前だろ」

 

だが声は少し震えている。

 

「健」

 

「なんだ」

 

「今度は叛逆じゃねぇ」

 

「うん」

 

「誓いだ」

 

指が絡む。

剣ではない。

契約でもない。

 

ただの約束。

 

     ◆

 

窓の外。

黄昏。

昼と夜の境界。

 

どちらにも属さない色。

かつて武器だった光。

 

今は、二人を祝福する色。

 

中立の魔術師は、

もう孤独ではない。

 

叛逆の騎士は、

もう証明を求めない。

 

夕焼けを背に、

二人は並んで立つ。

 

運命に抗うためではなく、

共に生きるために。

 

番外編5 完




見直したけど全体的に短いな。なのでいつか修正するかもしれません
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