中立魔術師は黄昏を纏う   作:zeroが個人的に好き

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第五話 均衡点

遠坂凛という魔術師は、合理主義者だ。

感情で動くことはある。だが、最終判断は必ず理で下す。

 

だからこそ、厄介だ。

 

「で?」

 

縁側。

士郎とセイバーを室内に残し、俺と凛は向かい合う。

夜気は冷たい。

 

「あなた、本当は何を知ってるの?」

 

単刀直入。

予想通り。

 

「さあ」

 

「とぼけないで」

即座に切り捨てられる。

 

「ランサーの襲撃タイミング、把握してたわよね」

 

否定できない。

 

「偶然だ」

 

「偶然で倉庫の前に待機する?」

 

鋭い。

さすがは遠坂。

 

「……ある程度の流れは読める」

 

「未来予知?」

 

「違う」

 

少しだけ間を置く。

「統計と推測だ」

 

「便利ね」

 

凛はじっと俺を見る。

嘘を見抜こうとしている目。

 

だが俺は核心には触れない。

原作知識など説明できないし、信じられるはずもない。

 

「目的は聖杯の破壊、だったわね」

 

「ああ」

 

「理由は?」

 

「汚染されている可能性が高い」

 

凛の目が揺れた。

「……根拠は?」

 

「過去の戦争記録」

 

嘘ではない。

第四次の結末は事実だ。

 

「それが本当なら」

 

凛は小さく息を吐く。

「私の家は、何を継いできたっていうのよ」

 

遠坂家は聖杯戦争の管理者側。

聖杯の正統性は、誇りそのものだ。

 

「壊すかどうかは、最後に決めればいい」

 

俺は言う。

「だが、情報は共有する価値がある」

 

「同盟?」

 

「期間限定だ」

 

モードレッドが背後で笑う。

「信用してねえくせに、よく言う」

 

「信用はしていない」

凛は即答。

 

「でも、敵に回すには厄介すぎる」

 

それは本音だろう。

 

「あなたのサーヴァント、強いわね」

 

「自慢だ」

 

「うるさい」

小さく笑う。

 

一瞬だけ、緊張が緩む。

 

「条件がある」

 

凛が言う。

「情報は対価制。隠し事はお互い様。でも裏切りは即敵対」

 

「妥当だ」

 

「あと」

 

凛はじっと俺を見る。

「士郎を利用するなら、容赦しない」

 

核心。

 

「利用はしない」

 

「本当に?」

 

「……揺らすかもしれない」

 

正直に言う。

「彼の理想は危うい」

 

「それは分かってる」

凛の声は静かだ。

 

「でもあの子は、あれしか持ってないのよ」

 

知っている。

だからこそ、壊したくない。

 

「壊すつもりはない」

 

「壊すのは聖杯だけ、って?」

 

「ああ」

 

凛はしばらく考える。

 

沈黙。

風が鳴る。

 

やがて。

 

「いいわ」

短く言った。

 

「暫定同盟。少なくとも、アーチャーはあなたたちを敵認定しない」

 

「助かる」

 

「ただし」

 

凛の目が細まる。

「あなた、自分を切り札にする気でしょ」

 

鼓動が跳ねる。

 

「何のことだ」

 

「自分が異物だって顔してるのよ」

 

今日二度目だ。

 

「世界の外側に立ってる目」

 

モードレッドと同じことを言う。

 

「……買い被りだ」

 

「違う」

凛は断言する。

 

「自分を最後の保険にしてる。最悪、自分が消えれば丸く収まるって考えてる」

 

鋭すぎる。

 

「それは」

言葉が詰まる。

 

「同盟条件追加」

 

凛が言う。

「勝手に消えるの禁止」

 

「は?」

 

「勝手に自己完結するのも禁止」

 

理不尽だ。

 

「それは契約にない」

 

「今追加した」

 

強引だ。

だが、目は真剣だ。

 

「聖杯が本当に歪んでるなら、私だって壊す選択肢は考える」

遠坂凛が言う。

 

それは重い。

 

「でもね」

 

一歩、近づく。

 

「そのとき、あなた一人に背負わせるつもりはない」

 

夜風が止んだ気がした。

 

俺は目を逸らす。

「……甘いな」

 

「優雅と言いなさい」

 

小さく笑う。

「均衡点よ」

 

凛は言う。

「あなたは壊す側。私は見極める側。士郎は救う側」

 

「役割分担か」

 

「ええ。だから――」

 

真っ直ぐ、こちらを見る。

 

「勝手にいなくならないこと」

 

胸の奥が、わずかに揺れる。

 

異物のはずなのに。

物語の外のはずなのに。

縛られている。

 

いや。

繋がれている。

 

「……善処する」

 

「それ曖昧」

 

「努力する」

 

「もっと曖昧」

 

凛は呆れながらも、どこか安心したように息を吐いた。

「まあいいわ。今はそれで」

 

夜は深い。

だがもう、俺は完全な観測者ではない。

 

均衡は崩れ始めている。

それでも。

壊すべきものは壊す。

 

その覚悟だけは、まだ揺らがない。

 

次回

「叛逆の火種」

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