中立魔術師は黄昏を纏う   作:zeroが個人的に好き

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第六話 叛逆の火種

夜は、やけに静かだった。

衛宮邸の庭先。

月明かりが白く地面を照らしている。

 

屋根の上に腰を下ろす赤い影。

 

「見張りなんて退屈だな」

モードレッドが足をぶらつかせる。

 

「戦争は始まったばかりだ。焦るな」

俺は隣に立つ。

 

「焦ってねえよ。ただ、暴れ足りねえだけだ」

 

口調は軽い。だが、どこか違う。

あの夜、ランサーと刃を交えたときの笑みはなかった。

 

「不満か?」

 

「別に」

 

即答。

だが嘘だ。

 

俺は少し考えてから言う。

「お前は、王になりたかったのか」

 

沈黙。

風が止まる。

 

「……急に何だ」

 

「なんとなく」

 

嘘だ。

なんとなくじゃない。

 

“叛逆の騎士”。

王を否定し、王を求めた存在。

 

モードレッドはしばらく空を見上げていたが、やがて鼻で笑った。

「なりたかったわけじゃねえ」

 

「じゃあ何だ」

 

「認めさせたかっただけだ」

短い言葉。

 

「俺は王の子だ。なのに、あいつは最後まで認めなかった」

 

声は荒れていない。

淡々としている。

 

それが逆に重い。

 

「だから叛逆した?」

 

「……ああ」

 

一拍。

 

「でもな」

月明かりの下、金の瞳が細まる。

 

「今なら分かる。あいつが認めなかった理由も」

 

「聞いてもいいか」

 

「聞くな」

即答。

 

そして、小さく笑う。

「未熟だった。力も、覚悟も、何もかも」

 

叛逆は、衝動だった。

だが後悔ではない。

 

「それでも叛逆したことは否定しない」

 

「当然だ」

 

モードレッドは俺を見る。

「で? お前は何に叛逆してる」

 

核心。

 

「世界か?」

 

俺は目を逸らさない。

「聖杯に」

 

「違うな」

 

即座に切られる。

 

「聖杯は象徴だ。お前が気に食わねえのは“決められた結末”だろ」

 

心臓が跳ねた。

 

原作通りの未来。

決まっている破滅。

士郎の行き着く先。

 

それを知っている。

だから壊す。

 

「……似たようなものだ」

 

「違う」

 

モードレッドは立ち上がる。

「お前は、物語ごと叛逆する気でいる」

 

図星だった。

 

俺は異物だ。

本来いない存在。

決められた筋書きを壊す存在。

 

「そのくせ」

 

一歩近づく。

「自分は最後に退場するつもりでいる」

 

またそれだ。

 

「必要なら消える」

 

「気に入らねえな」

 

低い声。

 

「叛逆するなら最後まで立て」

 

強い言葉。

 

「王に叛逆したなら、王を超えろ」

 

月光が剣の輪郭を照らす。

 

「世界に叛逆するなら、世界に残れ」

 

胸の奥が、熱を帯びる。

 

「俺はな」

 

モードレッドは言う。

「未熟でも、足りなくても、最後まで立つって決めてた」

 

結果は敗北だった。

だが、最後まで立った。

 

「お前は最初から負け前提だ」

 

「……違う」

 

「違わねえ」

 

言い切られる。

 

「異物だから? イレギュラーだから? 笑わせんな」

 

赤い瞳が燃える。

 

「この戦争に正規品なんざいねえ」

 

マスターも、サーヴァントも。

皆、歪んでいる。

 

「叛逆ってのはな」

拳を握る。

 

「自分を肯定するためのもんだ」

 

その言葉に、息が詰まる。

 

「俺は王に否定された。でも、自分まで否定はしなかった」

 

強い。

だからこそ、叛逆の騎士なのだ。

 

「お前は、自分を否定したまま戦ってる」

 

痛いほど、正しい。

 

俺は、異物だと思い込むことで線を引いている。

消えてもいい存在だと、どこかで決めている。

 

「……もし」

気づけば、口にしていた。

 

「全部壊して、誰も不幸にならない道があったら」

 

「あるのか?」

 

「分からない」

 

「なら探せ」

即答。

 

「壊すだけが叛逆じゃねえ」

 

風が吹く。

 

「守りたいなら守れ。変えたいなら変えろ」

 

一歩、距離を詰める。

「でもな、マスター」

 

真っ直ぐに俺を見る。

 

「勝手に消えるな」

 

凛と同じことを言う。

だが意味は少し違う。

 

「俺の叛逆に、お前は必要だ」

 

契約の言葉ではない。

本音だ。

 

胸の奥が、強く揺れる。

 

「……重いな」

 

「叛逆は重いんだよ」

 

にやりと笑う。

いつもの不敵な顔。

 

「俺は最後まで暴れる。お前も最後まで立て」

 

月が雲に隠れる。

闇が少しだけ濃くなる。

 

だが、不思議と視界ははっきりしていた。

 

俺は、何に叛逆している?

聖杯か。

結末か。

 

それとも――自分自身か。

 

答えはまだ出ない。

 

だが一つだけ分かった。

叛逆するなら。

最後まで立っていなければならない。

 

消える前提での破壊は、叛逆ではない。

それはただの逃避だ。

 

「……分かったよ」

小さく呟く。

 

「何がだ」

 

「まだ消えない」

 

モードレッドが笑う。

「当たり前だ」

 

叛逆の火種は、静かに灯る。

 

それは聖杯に向けられたものか。

それとも、定められた物語そのものか。

 

夜は深い。

だが、炎は消えない。

 

次回

「蠢く影」

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