中立魔術師は黄昏を纏う   作:zeroが個人的に好き

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第七話 蠢く影

違和感は、最初はほんの僅かだった。

 

「……霊脈の流れが変だ」

俺は地図を広げたまま呟く。

 

冬木市全体の魔力分布。

大まかな流れは把握している。

 

だが、柳洞寺付近。

そこだけ、濁っている。

 

「気のせいじゃねえのか?」

モードレッドが背後から覗き込む。

 

「いや」

俺は首を振る。

 

「吸われている」

 

川の水が一点に集まるように。

魔力が、静かに集束している。

 

原作知識が警鐘を鳴らす。

 

キャスター。

メディア。

 

柳洞寺を拠点に、霊脈を掌握し、結界を張る。

 

そして――

一般人を巻き込む。

 

「行くか?」

 

モードレッドの声は軽い。

だが目は鋭い。

 

「まだだ」

即答する。

 

早すぎる介入は危険だ。

 

キャスターは慎重だ。

正面から殴り込めば、罠に嵌る。

 

「様子見か」

 

「情報が足りない」

 

それは本音だ。

 

だが同時に。

俺は躊躇している。

 

原作では、犠牲は出る。

だが決定的な破綻はまだ先だ。

 

今動けば、流れが大きく変わる。

その結果、もっと悪い未来が来る可能性もある。

 

「……またそれか」

モードレッドが小さく呟く。

 

「何が」

 

「動けば壊れる、だろ」

 

図星だ。

 

「壊れるのは聖杯だけでいいんじゃなかったのか」

 

胸が痛む。

 

「分かってる」

 

「分かってねえな」

 

言い切られる。

 

「もう犠牲は出てる」

 

その言葉に、息が止まる。

俺は目を閉じ、感覚を広げる。

 

柳洞寺方面。

微かだが、人の気配が薄い。

 

夜だとはいえ、不自然だ。

 

「……魂を削ってるな」

 

キャスターの魔術。

直接殺さない。

だが、確実に奪う。

 

俺は拳を握る。

 

「今なら間に合うかもしれねえぞ」

モードレッドの声は低い。

 

「お前の“統計”だと、まだ軽傷なんだろ?」

 

皮肉だ。

否定できない。

 

「原作では」

そこまで言いかけて、止まる。

 

「何だよ」

 

「……何でもない」

 

モードレッドはしばらく黙り、それから笑う。

「未来知ってる目、してやがる」

 

心臓が跳ねる。

 

「本当に何者だ、お前」

 

答えない。

答えられない。

 

だが。

 

「キャスターは厄介だ」

 

話を戻す。

 

「陣地作成。霊脈掌握。長期戦型」

 

「つまり?」

 

「放置すると面倒になる」

 

モードレッドが口角を上げる。

「なら、叩くか」

 

その一言で、空気が変わる。

戦いの匂い。

 

「正面からは無理だ」

 

「なら?」

 

「削る」

 

霊脈の流れを乱す。

外周から結界の精度を落とす。

正面衝突は避ける。

 

「地味だな」

 

「死ぬよりマシだ」

 

俺は立ち上がる。

 

躊躇は、まだある。

だが。

 

犠牲を知っていて放置するのは。

それは、叛逆ではない。

 

「行くぞ」

 

「おう」

 

     ◆

 

柳洞寺の石段。

夜風が木々を揺らす。

 

静かだ。

だが、静かすぎる。

 

「気味が悪いな」

モードレッドが低く言う。

 

「罠は?」

 

「ある前提で動け」

 

結界の縁を探る。

目に見えない膜。

 

確かに張られている。

 

「完璧じゃない」

 

まだ初期段階。

今なら、外側から揺らせる。

 

俺は符を取り出し、地面に打ち込む。

魔力を逆流させる。

 

霊脈の流れが一瞬、乱れる。

空気が震えた。

 

同時に。

ぞわり、と。

背筋を撫でる視線。

 

「……見られてるな」

 

「ああ」

 

境内の奥。

闇の中。

女の気配。

 

直接姿は見えない。

だが確実に、こちらを認識している。

 

「派手にやるか?」

モードレッドが剣に手をかける。

 

「いや」

俺は首を振る。

 

「今日は挨拶だ」

 

さらに二枚、符を打つ。

結界が微かに軋む。

 

向こうも理解したはずだ。

 

“外から干渉できる者がいる”と。

 

「これで、向こうは警戒する」

 

「それだけか?」

 

「それでいい」

 

本格的に動けば、全面衝突になる。

今はまだ、均衡を崩さない。

 

だが。

放置もしない。

 

闇の奥で、何かが笑った気がした。

冷たい、女の笑み。

 

「面倒なことになりそうだな」

モードレッドが肩を竦める。

 

「最初から面倒だ」

俺は石段を下りながら言う。

 

背後の視線は消えない。

 

キャスターは、こちらを認識した。

これで、戦争は一段階進む。

 

蠢く影は、確実に形を持ち始めた。

 

そして俺は。

もう観測者ではない。

 

影に触れた。

ならば、最後まで踏み込むしかない。

 

次回

「魔女の提案」

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