逆行ゲーマーが色々と悩み苦しみながら世界大会優勝するお話   作:キリンレモン

1 / 1
初投稿です

主人公くんちゃんがプレイしてたのはヒーローシューター系統ですね
一応ルールやプロリーグのルールも自分の中で作ってます。


逆行

失敗した。失敗した。失敗した。

 

 

頭から外れたヘッドホンから、ゲームのBGMとアナウンス、そして悔しがるチームメイトのボイスチャットが小さく漏れている。

モニターには、無機質に光る DEFEAT(敗北) の文字。

 

アジア大会進出をかけた準決勝は、終わってみればあっけないものだった。

試合時間は、合計しても一時間にも満たない。

それでも、僕の心を完全に折るには十分だった。

 

いつの間にかVCからは全員が退出している。

部屋には、パソコンのファンの回る音だけが残っていた。その単調な音が、かえって虚しさを強める。

 

普段は酒もタバコもやらない。

けれど、この時だけは、何かに縋りたい気分だった。

 

コンビニまでの道は静かだった。

 

さっきまで、数万人に見られていたはずなのに。

外の世界は、何事もなかったみたいに夜のままだった。

アーカイブのコメント欄をみると

 

『最後の判断なんであれ?』

『戦犯じゃん』

『ランク野良の方がまともに勝てたわ』

『あいつ外した方がいい』

 

言われたい放題だった。

言ってることは理解できる。確かに僕が1番チームで足を引っ張ってたし、何回もミスをしてた。

『でも』はもうない、準決勝敗退。もう終わったんだ。考えるのを放棄して、コンビニに向かう足を早めた。

 

ビールと、タバコを一箱。

 

どちらも、普段なら手に取ることのないものだ。

 

吸い方も、うまい飲み方も知らない。

それでも、何かを変えないと、このままではいられない。

 

⸻

 

部屋に戻り、袋をテーブルに置く。

窓を少し開けると、夜風が入り込んできた。

冷たい空気が、熱を持った頭をゆっくりと冷ましてくれた気がした。

 

柄にもないようなことはするもんじゃないな。

風に揺られたカーテンの奥に見える彼は机に突っ伏してすで寝落ちしていた。

 

布団の感触で目が覚めた。

硬い椅子ではなく、柔らかい布団の上に横たわっている自分に、まず小さな違和感が走る。

手足を軽く動かすと、まだぼんやりとしていてぎこちない。

 

天井を見上げると、懐かしい室内。

色や形は知っている。でも懐かしすぎて、どう反応すればいいのか分からない。

不思議とあったかさを感じた。

 

「どうして、僕ここに、」

小さく声に出す。眠気でかすれた声が、耳に心地よく響く。

 

目覚めたばかりの頭はまだ重く、考えを整理できない。

体の違和感は感じるが、周囲の景色、布団の柔らかさ、天井の懐かしさ――その全てが僕を包み込み、静かに戸惑わせる。

 

 

 

 

 

布団の感触で目が覚めた。

 

硬い椅子ではなく、柔らかい布団の上に横たわっている自分に、まず小さな違和感が走る。

手足を軽く動かすと、まだぼんやりとしていてぎこちない。

 

天井を見上げると、懐かしい室内。

色や形は知っている。でも懐かしすぎて、どう反応すればいいのか分からない。

不思議とあったかさを感じた。

 

「どうして、僕ここに、」

 

小さく声に出す。眠気でかすれた声が、耳に心地よく響く。

 

――声が、幼い。

 

一瞬、違和感が胸を掠める。

 

上体を起こす。

 

体が、軽い。

 

布団の上に置いた手は、小さい。

指が短い。骨ばっていない。

 

ゆっくりと自分の腕を見る。

脚を見る。

視線の高さが、低い。

 

「……え?」

 

昨日まで、自分は二十代前半だった。

大会に出て、敗れて、コンビニに行って――そこまでははっきり覚えている。

 

なのに、今あるのは小学生の体。

 

心臓が、どくん、と大きく鳴る。

 

昨日まで、自分は二十代前半だった。

大会に出て、敗れて、コンビニに行って――そこまでははっきり覚えている。

 

理解が追いつかない。

 

頭の中で、あり得ないはずの仮説が浮かぶ。

過去に戻った――?

 

そんな馬鹿な、と思う。

だが、この部屋、この体、この状況を説明できる言葉は、他に見つからなかった。

 

 

布団の感触も、空気の匂いも、全部が“あの頃”だ。

 

夢じゃない。

 

そう思うほど、逆に現実味がない。

 

階段を降りる時の足音も軽い。

 

昨日の敗北の感覚だけが、胸に残っている。

 

リビングの扉を開けると、味噌汁の湯気が広がった。

 

焼き鮭の匂い。

炊き立てのご飯。

テレビから流れる朝のニュース。

 

父が新聞から目を上げる。

 

「おはよう」

 

「……おはよう」

 

声が少しだけかすれる。

 

父はしばらくこちらを見て、ふっと言った。

 

「なんだその顔。試合に負けた翌日の翔平みたいだぞ」

 

兄が「やめろよ」と苦笑する。

 

胸の奥がかすかにざわつくが、言葉は出ない。

 

母が台所から振り向く。

 

「あら、顔色悪いわよ?寝れなかった?」

 

「……うん」

 

それ以上、言葉が続かない。

 

母は少し心配そうな顔をするが、深刻には捉えていない。

 

「ぼーっとしてるわねぇ」

 

父が新聞を畳みながら言う。

 

「飯食ったら顔洗ってこい。まだ夢の中だろ」

 

兄が笑う。

 

「いや、食う前に洗ってこいよ。目ぇ半分閉じてるぞ」

 

小さな笑いがテーブルを回る。

 

みんな、ただ“元気のない朝”だと思っている。

 

母が茶碗を置く。

 

「ほら、カズハ。ご飯よ」

 

「……うん」

 

名前は、音として耳に入る。

 

けれど意味までは追いつかない。

 

頭の中はまだ、昨日で止まっている。

 

箸を持ち、味噌汁をすする。

 

温かい。

 

その温度が、妙に胸に沁みる。

 

こんなふうに家族と同じテーブルで朝を迎えるのは、

ずいぶん久しぶりな気がした。

 

父の低い声。

母の動く音。

兄の軽口。

 

当たり前だったはずの空気。

 

思わず口を開きかける。

 

「俺――」

 

昨日まで、息子で、成人しててプロゲーマーしてて。

 

でも、気づいたらここにいるんだ。

 

そう言いかけて、やめる。

 

あまりにも現実離れしていて、

声に出した瞬間にこの朝が壊れてしまいそうだった。

 

それに。

 

目の前で味噌汁をよそい直してくれる母の横顔が、

あまりにも穏やかで。

 

この空気を、自分の混乱で濁したくなかった。

 

だから、何も言わない。

 

ただ、黙ってご飯を口に運ぶ。

 

兄が肩をすくめる。

 

「ほらやっぱ寝ぼけてるだけだって」

 

父も小さく笑う。

 

「今日は早く寝ろよ」

 

「……うん」

 

立ち上がる。

 

椅子が小さく軋む。

 

その瞬間まで、世界は静かだった。

 

ふと、尿意を覚える。

 

それはあまりにも自然で、何の意味も持たない感覚だった。

 

「トイレ」

 

短く告げて、廊下へ向かう。

 

廊下は静かだった。

 

リビングの食器の触れ合う音が、かすかに聞こえる。

 

トイレの扉を閉める。

鍵をかける。

 

カチリ。

 

外と切り離された、小さな空間。

 

まだ少し、ぼんやりしている。

 

朝食の温かさが胸に残っている。

 

パジャマの裾をつまむ。

 

下ろす。

 

布が足元に落ちる。

 

何も考えていない。

 

ただ、いつもの動作。

 

そのまま下着に手をかける。

 

指先が、わずかに止まる。

 

――こんなパンツ、履いてたっけ。

 

ほんの一瞬の引っかかり。

 

けれど思考は続かない。

 

そのまま、下ろす。

 

空気が肌に触れる。

 

そこで初めて、違和感が“形”になる。

 

視線が落ちる。

 

白い肌に細い脚。

 

そして――

 

あるはずのものが、ない。

 

思考が止まる。

 

理解が遅れる。

 

何を見ているのか、脳が拒む。

 

もう一度、見る。

 

変わらない。

 

心臓の音が急に近くなる。

 

子どもに戻っただけじゃない。

 

その前提が、音もなく崩れる。

 

朝の声が、遅れて浮かぶ。

 

――カズハ。

 

音だった名前が、意味を持つ。

 

喉がひくりと鳴る。

 

触れる。

 

確かな感触。

 

逃げ場がない。

 

息が浅くなる。

 

声が出ない。

 

ただ立ち尽くしたまま、

 

自分の身体が、自分のものではない事実を、

 

ゆっくりと突きつけられる。

 

外では、いつも通りの朝が続いている。

 

世界は変わっていない。

 

変わったのは、自分だけだ。

 

 

 

膝を抱えたまま、動けない。

 

頭の中では考えが高速で巡っているのに、

身体がついてこない。

 

逆行。

 

性別。

 

世界の整合性。

 

家族の記憶。

 

もし最初からこうなら――

 

いや、違う。

昨日までの記憶は確かにある。

自分は男だった。

 

確実に。

 

思考が回転する。

けれど結論は出ない。

出るはずがない。

 

そのとき。

 

「カズハ?」

 

ドア越しに、母の声。

現実が、割り込んでくる。

 

「大丈夫? ずいぶん長いわよ?」

 

心臓が跳ねるが、母に心配を掛けるわけには行かない。

 

咄嗟に、声を出す。

 

「……うん」

 

掠れた声。

 

少し高い。

 

自分の声に、また一瞬だけ刺さる。

 

母は深刻には思っていない。

 

「お腹痛いの?」

 

「……平気」

 

短く返す。

 

思考より先に、言葉が出る。

 

受動的に。

 

母が続ける。

 

「だったら早く出なさい。着替えなきゃ遅れるわよ」

 

着替え。

 

その言葉が、重く落ちる。

 

けれど。

 

「……うん」

 

また、反射で返事をする。

 

足音が遠ざかる。

 

日常が、何事もなかったように続いている。

 

膝を抱えたまま、数秒。

 

息を整える。

 

ここで止まっているわけにはいかない。

 

今は――

 

考えるより、動くしかない。

 

ゆっくりと立ち上がる。

 

まだ現実感は薄い。

 

けれど、時間は待ってくれない。

 

着替える。

 

その行為が、次の確認になる。

 

 

 

トイレから出た後部屋に戻ろうとするが、まだ足元が少し頼りない。

 

一度、深く息を吸い、自室のドアを開ける。

一見すると昔の記憶通りの部屋だ。

多少細かい違いはあるがここは自分の部屋だ。

 

「着替えか…」

 

覚悟を決める。

どうせなら、全部確認する。

逃げても意味はない。

 

パジャマを整え直し、ゆっくりと鏡の前に立つ。

 

この鏡も前は部屋には置いてなかったものだ。

 

視線を上げるとそこにいるのは――

 

幼い顔立ち。

 

けれど、見覚えがある。

 

輪郭は柔らかいが、どこか自分の面影を残している。

 

ショートヘア。

 

寝癖が少し跳ねている。

 

思っていたより、違和感はない。

 

視線を下げる。

 

身体。

 

子どもの体つきだ。

 

胸元は、驚くほどに平らだった。

 

拍子抜けするくらいに。

 

身長も、極端に低いわけではない。

 

女子の中では少し高い方かもしれない。

 

肩幅も、そこまで華奢ではない。

 

「……」

 

思っていたより、変わっていない。

 

そう感じてしまう自分がいる。

 

もちろん、決定的に違う。

 

けれど、

 

想像していた“どうしようもない違和感”は、ない。

 

タンスを開ける。

 

並んでいる服を確認する。

 

Tシャツ。パーカー。ハーフパンツ。

 

色も形も、わりと中性的だ。

 

フリルも、派手な装飾もない。

 

――案外、困らないかもしれない。

 

その考えが浮かんで、少しだけ自分に驚く。

 

さっきまであんなに混乱していたのに。

 

冷静になっている。

 

いや、冷静にならざるを得ないだけかもしれない。

 

着替えを手に取る。

 

動作はまだぎこちないが、できないわけではない。

 

鏡の中の自分を見る。

 

違う。

 

けれど、完全に別人でもない。

 

静かに息を吐く。

 

「学校、行かないとまずいよな…」

 

小さく呟く。

 

パニックは、もうない。

 

ただ、事実がそこにある。

 

問題はこれからだ。

 

 

鏡から目を逸らす。

いつまでも立ち止まってはいられない。

時間は進んでいる。

 

制服ではない。まだ小学生だ。

 

タンスから適当に引いたTシャツとハーフパンツを身につける。

鏡の中の自分は、やはり中性的だった。

 

胸は平坦。

肩は思ったよりしっかりしている。

髪も短い。

 

黙っていれば、男子に間違われてもおかしくない。

 

喉を鳴らす。

 

「……よし」

 

出た声は、思っていたより高い。

 

昨日までの自分とは違う。

 

そりゃ昨日比べると10歳以上の差はあるし、認めたくはないが性別も違うんだ。

 

違和感はある。

でも拒絶ではない。

 

ドアを開ける。

 

廊下の空気は変わらない。

 

母が振り向く。

 

「やっと出た。ほら、ランドセル」

 

ランドセル。

その言葉に、一瞬だけ胸がざわつく。

けれど体は自然に動く。

 

肩にかけると思った以上に重くて一瞬びっくりした。

 

「もう目は覚めたかい?」

 

兄がニヤニヤしている。

 

「……起きてる」

 

少しぶっきらぼうに返す。

 

「あれ? もしかして拗ねちゃった?」

 

兄と喋ることも久々だ。別に嫌いではなかった。むしろ憧れではあった兄だ。これまた認めたくは無いが。

 

「別に」

 

母が心配そうに額に手を伸ばしかけるが、やめる。

 

「ぼーっとしないでね」

 

「うん」

 

短く返す。

 

玄関の扉を開ける。

 

朝の光が眩しい。

 

一歩、外に出る。

 

空気が冷たい。

 

肺に入る感触が、妙に鮮明だ。

 

(やり直せる)

 

その言葉が、自然と浮かぶ。

 

昨日は、終わった。

 

準決勝敗退。

 

戦犯。

 

コメント欄。

 

全部、確かにあった。

 

でも。

 

今は小学生だ。

 

プロでもない。

 

失うものもない。

 

知識はある。

 

経験もある。

 

口元が、わずかに緩む。

 

「悪くないな」




最後は殴り書きみたいになって申し訳ないです。
多分主人公くんちゃんが再びFPSに触れるようになるまでには少し時間がかかると思います。

テンポ感やディテールなどその他のアドバイスや感想などいただけると喜びます
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
点
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。