逆行ゲーマーが色々と悩み苦しみながら世界大会優勝するお話 作:キリンレモン
主人公くんちゃんがプレイしてたのはヒーローシューター系統ですね
一応ルールやプロリーグのルールも自分の中で作ってます。
失敗した。失敗した。失敗した。
頭から外れたヘッドホンから、ゲームのBGMとアナウンス、そして悔しがるチームメイトのボイスチャットが小さく漏れている。
モニターには、無機質に光る
アジア大会進出をかけた準決勝は、終わってみればあっけないものだった。
試合時間は、合計しても一時間にも満たない。
それでも、僕の心を完全に折るには十分だった。
いつの間にかVCからは全員が退出している。
部屋には、パソコンのファンの回る音だけが残っていた。その単調な音が、かえって虚しさを強める。
普段は酒もタバコもやらない。
けれど、この時だけは、何かに縋りたい気分だった。
コンビニまでの道は静かだった。
さっきまで、数万人に見られていたはずなのに。
外の世界は、何事もなかったみたいに夜のままだった。
アーカイブのコメント欄をみると
『最後の判断なんであれ?』
『戦犯じゃん』
『ランク野良の方がまともに勝てたわ』
『あいつ外した方がいい』
言われたい放題だった。
言ってることは理解できる。確かに僕が1番チームで足を引っ張ってたし、何回もミスをしてた。
『でも』はもうない、準決勝敗退。もう終わったんだ。考えるのを放棄して、コンビニに向かう足を早めた。
ビールと、タバコを一箱。
どちらも、普段なら手に取ることのないものだ。
吸い方も、うまい飲み方も知らない。
それでも、何かを変えないと、このままではいられない。
⸻
部屋に戻り、袋をテーブルに置く。
窓を少し開けると、夜風が入り込んできた。
冷たい空気が、熱を持った頭をゆっくりと冷ましてくれた気がした。
柄にもないようなことはするもんじゃないな。
風に揺られたカーテンの奥に見える彼は机に突っ伏してすで寝落ちしていた。
布団の感触で目が覚めた。
硬い椅子ではなく、柔らかい布団の上に横たわっている自分に、まず小さな違和感が走る。
手足を軽く動かすと、まだぼんやりとしていてぎこちない。
天井を見上げると、懐かしい室内。
色や形は知っている。でも懐かしすぎて、どう反応すればいいのか分からない。
不思議とあったかさを感じた。
「どうして、僕ここに、」
小さく声に出す。眠気でかすれた声が、耳に心地よく響く。
目覚めたばかりの頭はまだ重く、考えを整理できない。
体の違和感は感じるが、周囲の景色、布団の柔らかさ、天井の懐かしさ――その全てが僕を包み込み、静かに戸惑わせる。
布団の感触で目が覚めた。
硬い椅子ではなく、柔らかい布団の上に横たわっている自分に、まず小さな違和感が走る。
手足を軽く動かすと、まだぼんやりとしていてぎこちない。
天井を見上げると、懐かしい室内。
色や形は知っている。でも懐かしすぎて、どう反応すればいいのか分からない。
不思議とあったかさを感じた。
「どうして、僕ここに、」
小さく声に出す。眠気でかすれた声が、耳に心地よく響く。
――声が、幼い。
一瞬、違和感が胸を掠める。
上体を起こす。
体が、軽い。
布団の上に置いた手は、小さい。
指が短い。骨ばっていない。
ゆっくりと自分の腕を見る。
脚を見る。
視線の高さが、低い。
「……え?」
昨日まで、自分は二十代前半だった。
大会に出て、敗れて、コンビニに行って――そこまでははっきり覚えている。
なのに、今あるのは小学生の体。
心臓が、どくん、と大きく鳴る。
昨日まで、自分は二十代前半だった。
大会に出て、敗れて、コンビニに行って――そこまでははっきり覚えている。
理解が追いつかない。
頭の中で、あり得ないはずの仮説が浮かぶ。
過去に戻った――?
そんな馬鹿な、と思う。
だが、この部屋、この体、この状況を説明できる言葉は、他に見つからなかった。
布団の感触も、空気の匂いも、全部が“あの頃”だ。
夢じゃない。
そう思うほど、逆に現実味がない。
階段を降りる時の足音も軽い。
昨日の敗北の感覚だけが、胸に残っている。
リビングの扉を開けると、味噌汁の湯気が広がった。
焼き鮭の匂い。
炊き立てのご飯。
テレビから流れる朝のニュース。
父が新聞から目を上げる。
「おはよう」
「……おはよう」
声が少しだけかすれる。
父はしばらくこちらを見て、ふっと言った。
「なんだその顔。試合に負けた翌日の翔平みたいだぞ」
兄が「やめろよ」と苦笑する。
胸の奥がかすかにざわつくが、言葉は出ない。
母が台所から振り向く。
「あら、顔色悪いわよ?寝れなかった?」
「……うん」
それ以上、言葉が続かない。
母は少し心配そうな顔をするが、深刻には捉えていない。
「ぼーっとしてるわねぇ」
父が新聞を畳みながら言う。
「飯食ったら顔洗ってこい。まだ夢の中だろ」
兄が笑う。
「いや、食う前に洗ってこいよ。目ぇ半分閉じてるぞ」
小さな笑いがテーブルを回る。
みんな、ただ“元気のない朝”だと思っている。
母が茶碗を置く。
「ほら、カズハ。ご飯よ」
「……うん」
名前は、音として耳に入る。
けれど意味までは追いつかない。
頭の中はまだ、昨日で止まっている。
箸を持ち、味噌汁をすする。
温かい。
その温度が、妙に胸に沁みる。
こんなふうに家族と同じテーブルで朝を迎えるのは、
ずいぶん久しぶりな気がした。
父の低い声。
母の動く音。
兄の軽口。
当たり前だったはずの空気。
思わず口を開きかける。
「俺――」
昨日まで、息子で、成人しててプロゲーマーしてて。
でも、気づいたらここにいるんだ。
そう言いかけて、やめる。
あまりにも現実離れしていて、
声に出した瞬間にこの朝が壊れてしまいそうだった。
それに。
目の前で味噌汁をよそい直してくれる母の横顔が、
あまりにも穏やかで。
この空気を、自分の混乱で濁したくなかった。
だから、何も言わない。
ただ、黙ってご飯を口に運ぶ。
兄が肩をすくめる。
「ほらやっぱ寝ぼけてるだけだって」
父も小さく笑う。
「今日は早く寝ろよ」
「……うん」
立ち上がる。
椅子が小さく軋む。
その瞬間まで、世界は静かだった。
ふと、尿意を覚える。
それはあまりにも自然で、何の意味も持たない感覚だった。
「トイレ」
短く告げて、廊下へ向かう。
廊下は静かだった。
リビングの食器の触れ合う音が、かすかに聞こえる。
トイレの扉を閉める。
鍵をかける。
カチリ。
外と切り離された、小さな空間。
まだ少し、ぼんやりしている。
朝食の温かさが胸に残っている。
パジャマの裾をつまむ。
下ろす。
布が足元に落ちる。
何も考えていない。
ただ、いつもの動作。
そのまま下着に手をかける。
指先が、わずかに止まる。
――こんなパンツ、履いてたっけ。
ほんの一瞬の引っかかり。
けれど思考は続かない。
そのまま、下ろす。
空気が肌に触れる。
そこで初めて、違和感が“形”になる。
視線が落ちる。
白い肌に細い脚。
そして――
あるはずのものが、ない。
思考が止まる。
理解が遅れる。
何を見ているのか、脳が拒む。
もう一度、見る。
変わらない。
心臓の音が急に近くなる。
子どもに戻っただけじゃない。
その前提が、音もなく崩れる。
朝の声が、遅れて浮かぶ。
――カズハ。
音だった名前が、意味を持つ。
喉がひくりと鳴る。
触れる。
確かな感触。
逃げ場がない。
息が浅くなる。
声が出ない。
ただ立ち尽くしたまま、
自分の身体が、自分のものではない事実を、
ゆっくりと突きつけられる。
外では、いつも通りの朝が続いている。
世界は変わっていない。
変わったのは、自分だけだ。
膝を抱えたまま、動けない。
頭の中では考えが高速で巡っているのに、
身体がついてこない。
逆行。
性別。
世界の整合性。
家族の記憶。
もし最初からこうなら――
いや、違う。
昨日までの記憶は確かにある。
自分は男だった。
確実に。
思考が回転する。
けれど結論は出ない。
出るはずがない。
そのとき。
「カズハ?」
ドア越しに、母の声。
現実が、割り込んでくる。
「大丈夫? ずいぶん長いわよ?」
心臓が跳ねるが、母に心配を掛けるわけには行かない。
咄嗟に、声を出す。
「……うん」
掠れた声。
少し高い。
自分の声に、また一瞬だけ刺さる。
母は深刻には思っていない。
「お腹痛いの?」
「……平気」
短く返す。
思考より先に、言葉が出る。
受動的に。
母が続ける。
「だったら早く出なさい。着替えなきゃ遅れるわよ」
着替え。
その言葉が、重く落ちる。
けれど。
「……うん」
また、反射で返事をする。
足音が遠ざかる。
日常が、何事もなかったように続いている。
膝を抱えたまま、数秒。
息を整える。
ここで止まっているわけにはいかない。
今は――
考えるより、動くしかない。
ゆっくりと立ち上がる。
まだ現実感は薄い。
けれど、時間は待ってくれない。
着替える。
その行為が、次の確認になる。
トイレから出た後部屋に戻ろうとするが、まだ足元が少し頼りない。
一度、深く息を吸い、自室のドアを開ける。
一見すると昔の記憶通りの部屋だ。
多少細かい違いはあるがここは自分の部屋だ。
「着替えか…」
覚悟を決める。
どうせなら、全部確認する。
逃げても意味はない。
パジャマを整え直し、ゆっくりと鏡の前に立つ。
この鏡も前は部屋には置いてなかったものだ。
視線を上げるとそこにいるのは――
幼い顔立ち。
けれど、見覚えがある。
輪郭は柔らかいが、どこか自分の面影を残している。
ショートヘア。
寝癖が少し跳ねている。
思っていたより、違和感はない。
視線を下げる。
身体。
子どもの体つきだ。
胸元は、驚くほどに平らだった。
拍子抜けするくらいに。
身長も、極端に低いわけではない。
女子の中では少し高い方かもしれない。
肩幅も、そこまで華奢ではない。
「……」
思っていたより、変わっていない。
そう感じてしまう自分がいる。
もちろん、決定的に違う。
けれど、
想像していた“どうしようもない違和感”は、ない。
タンスを開ける。
並んでいる服を確認する。
Tシャツ。パーカー。ハーフパンツ。
色も形も、わりと中性的だ。
フリルも、派手な装飾もない。
――案外、困らないかもしれない。
その考えが浮かんで、少しだけ自分に驚く。
さっきまであんなに混乱していたのに。
冷静になっている。
いや、冷静にならざるを得ないだけかもしれない。
着替えを手に取る。
動作はまだぎこちないが、できないわけではない。
鏡の中の自分を見る。
違う。
けれど、完全に別人でもない。
静かに息を吐く。
「学校、行かないとまずいよな…」
小さく呟く。
パニックは、もうない。
ただ、事実がそこにある。
問題はこれからだ。
鏡から目を逸らす。
いつまでも立ち止まってはいられない。
時間は進んでいる。
制服ではない。まだ小学生だ。
タンスから適当に引いたTシャツとハーフパンツを身につける。
鏡の中の自分は、やはり中性的だった。
胸は平坦。
肩は思ったよりしっかりしている。
髪も短い。
黙っていれば、男子に間違われてもおかしくない。
喉を鳴らす。
「……よし」
出た声は、思っていたより高い。
昨日までの自分とは違う。
そりゃ昨日比べると10歳以上の差はあるし、認めたくはないが性別も違うんだ。
違和感はある。
でも拒絶ではない。
ドアを開ける。
廊下の空気は変わらない。
母が振り向く。
「やっと出た。ほら、ランドセル」
ランドセル。
その言葉に、一瞬だけ胸がざわつく。
けれど体は自然に動く。
肩にかけると思った以上に重くて一瞬びっくりした。
「もう目は覚めたかい?」
兄がニヤニヤしている。
「……起きてる」
少しぶっきらぼうに返す。
「あれ? もしかして拗ねちゃった?」
兄と喋ることも久々だ。別に嫌いではなかった。むしろ憧れではあった兄だ。これまた認めたくは無いが。
「別に」
母が心配そうに額に手を伸ばしかけるが、やめる。
「ぼーっとしないでね」
「うん」
短く返す。
玄関の扉を開ける。
朝の光が眩しい。
一歩、外に出る。
空気が冷たい。
肺に入る感触が、妙に鮮明だ。
(やり直せる)
その言葉が、自然と浮かぶ。
昨日は、終わった。
準決勝敗退。
戦犯。
コメント欄。
全部、確かにあった。
でも。
今は小学生だ。
プロでもない。
失うものもない。
知識はある。
経験もある。
口元が、わずかに緩む。
「悪くないな」
最後は殴り書きみたいになって申し訳ないです。
多分主人公くんちゃんが再びFPSに触れるようになるまでには少し時間がかかると思います。
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