パーペトレイターズ・ギルト 作:【自爆】
「……はい、ここまで持って来れば大丈夫?」
「いつもありがとうねぇ、エマちゃん。何かお礼を……」
「気にしないで、ボクに出来ることをしただけだから。じゃ……」
飴か何かを探すおばあちゃんに、軽く手を振りながらボクはさっさと歩いた。
引き留めるような声も聞こえるけど、要が済んだらもう関わる必要なんてない。
ボクなんかが他の人と関わるなんて、烏滸がましいから。
それはともかく、ボクは今日も見回りを続ける。
ボクの届く手の距離なんて微々たるものだけど、それでも届くなら伸ばしたい。
いや、伸ばさなければならない。
それが、ボクの罪であり、罰だから。
ボクの名前は桜羽エマ、一応小学六年生。
一応というのは、ボクは学校に行っていない。
不登校、つまりサボっている。
別に、未来のボクみたいに(本当は起こってなかったけど)いじめられているからとか、そういう訳じゃない。
「あれ……どこ……?」
「……どうしたの?」
「あっ、エマちゃん!大切にしてたストラップ無くしちゃって……」
「前に見せてくれた……フクロウのだっけ」
「うん、多分この辺なんだけど……」
「分かった、ボクも一緒に探すよ」
「本当?ありがとうエマちゃん!」
人助けをするために、致し方なく行っていない。
……どうして、そんなに人助けに固執するのかって?
ボクには、前世……ううん、未来の記憶がある。
なんで持っているのかは分からない、誰かの……例えば、魔女とかのいたずらかもしれない。
そんな記憶には、ボクの罪が浮かんでいた。
それは、全人類を滅ぼしたという罪。
一人残さず、大人も、子供も、関係なしに。
わざとじゃなかった、なんてことは言えない。
気の迷いとかじゃなくて、確かにあれはボクの意志で殺していったんだ。
そして、全員殺したボクは、自分をも殺して、全部が終わった。
……はずだった。
気が付けば、ボクは殺したはずのお母さんとお父さんの顔を見ていた。
赤ちゃんになって。
「ないなぁ……暗くなってきちゃったし、諦めるしか……エマちゃん、もう大丈夫だよ!」
「……そうだね、もう危ないから帰った方がいいよ」
「うん、そうする……エマちゃんは?」
「ボクはまだちょっと探すよ」
「危ないって自分で言ってなかった!?」
あの時はびっくりした。
ボクは死んだはずなのに、とか、もう記憶も無いはずなのに全部覚えてる、とか。
驚きと恐怖で思いっきり泣いちゃったけど、赤ちゃんだから何にも疑問には思われなかったし、とても愛おしそうにボクを見ていたんだ。
そうしてボクは、またボクとして生きている。
二週目の人生、最初の頃は絶望して、どう死のうかなんてばっかり考えていた。
ボクはたくさん人を殺す存在になってしまう、だからいちゃいけないし、それで人と関わる資格もない。
でも、死のうとしたボクを、止める人達がいた。
お母さんとお父さんだ。
怒りながら、泣きながら、エマは大事な娘だと、命は大切なんだと。
ボクは忘れていた。
命は簡単に消えてしまう、とても大切なものということを、親の言葉を聞くまで。
そして同時に、愛してくれる親を見て、考えを改めたんだ。
ああ、たくさんの大切な命を奪ったんだ。
できる限り人を助けて、死のう、って。
「もう大丈夫だよ、帰ろう?ね?」
「でも、大切なんだよね?」
「それは……確かに、そうだけど……死んだおじいちゃんから貰ったものだし……」
「……」
「で、でも大丈夫!また明日探せばいいし!明日学校休みだし!」
「……そうだね、そうしよっか。明日も手伝うよ」
「本当?ありがとう!じゃあ、また明日ね!」
「うん、また明日」
手を振りながら駆けていく女の子の背を見送った後、ボクはまた周りを探し始めた。
もしかしたら、明日には本当の意味で無くなってるかもしれない。
それに、亡くなった人の思い出なら、尚更大事だ。
「正しくないな」
またお母さんに怒られるな、なんて思いながら探していると、後ろから声がした。
まただ……と思いつつも、それはボクに対して言った言葉じゃないかもしれない、そう思って無視をする。
すると、今度はもっと近い距離で、咳払いが聞こえる。
流石にダメかな、と立ち上がって振り向くと、そこには一人の女の子が立っていた。
長い黒髪を垂らし、凛とした恰好で、腕を組んでボクを睨む、同い年の少女。
「……ヒロちゃん」
二階堂ヒロ。
あの
ヒロちゃんはまるで正しくないものを見るように(事実、正しくないけど)、ボクを見つめる。
「君、また学校をサボったな。それは正しくない」
「……ちょっと風邪気味で」
「だったらこんな場所にいないで家で寝ていたらどうだ。そしてその嘘は五回目だ」
どうやらヒロちゃんは嘘の回数を憶えていたらしい。
もう使えないな、この嘘は……そもそも、一度も成功したことはないけど。
ボクはまた振り返って、探すのを再開する。
そうすると、なんだか後ろからの圧が増した。
「……また人助けか。それには感心するが……」
「……」
「学生の本分を無視してまで行うのは正しくない。誰かを助けるのは、自身に余裕がある者だけが行える。君のやっていることは偽善だ」
「……そうだね」
「それに、こんな時間に一人でいるのも正しくない。君が言ったように、危ないだろう」
「それはヒロちゃんもだよ。早く帰ったら?」
「私は習い事の帰りだし、家はすぐそこだ。不良少女を更生させるために少々寄り道している、それだけだ」
「不良少女を更生させるために不良少女になったってこと?ミイラ取りだね」
ああ言えばこう言う、なんていうのはヒロちゃんも思っていそう。
何の因果か、二週目の人生もヒロちゃんと出会っていた。
関係は、前と違っていて、最初から仲良くないけれど。
というのも、ボクは友達……知り合いそのものをできる限り、作るつもりがなかった。
だってボクは大罪人、誰かと友達になるなんて正しくない。
前なら寂しくてしょうがなかっただろうけど……ううん、今も寂しい。
でもあと数年したら死ななきゃいけないんだから、関係ないよね。
見つからないな、なんてスマホのライトを照らしていると、急にライトが増えた。
横を見てみると、ぼくと同じようにスマホ片手に何かを探し始めた。
何か、というのは多分、ストラップなんだろうけど。
「……どうして」
「このままだと、君が家に帰らないだろうからだ。……十分だ」
「……何が」
「十分見つからなかったら、君の親御さんに電話して連れ帰ってもらう。いいな」
「……なんでボクの親の電話番号知ってるの?」
「プリントを持って行ったときに知り合ったんだ。相談も受けている」
「……さすがヒロちゃんだね」
「皮肉か?」
「純粋な誉め言葉だよ」
ヒロちゃんは妙にボクと出会うなと思っていたけど、そういう理由があったのか。
妙な運命を感じながらも、未来では15歳という若さで死んでしまう。
正しくない化け物に返り討ちにあって。
「ヒロちゃん」
「なんだ、見つかったのか?」
「すぐ暴力に頼っちゃダメだよ」
「君は私をなんだと思っているんだ??そんな正しくないことはしない」
多分その場面まではぎりぎり生きているとは思うけど、死んでるかもしれないから一応忠告しておく。
うーん、どうしよう、看守の危険性を伝えるためにボクが殴りかかって死んだらいいのかな。
そんなことを考えながら、探し続ける。
スマホの時計をチラッと見てみれば、ヒロちゃんが宣言した十分の七進んでいた。
こんなに探して見つからないということは、もうどこかに消えちゃったんだろうか。
野良犬とかに食べられたりとか……いや、まだある可能性はある。
諦めきれない。
「……君はどうして、そこまで頑張ろうとする」
「え?」
「確かに人助けは正しい行為だ。だが、無理をしてまで人は人を助けるものじゃないと、私は思う。さっきも言ったように、自分に余裕がなければいけないくらいに」
「……」
「何故だ?君は……
本当のことは言えない。
何を言っているんだ、ってなるだけだから。
でも、嘘を言ってもヒロちゃんは頭がいいからすぐに見破ってくる。
ボクは器用な方じゃないから、探しながらだとうまい言葉が思いつかない。
だから、思ったことを言うことにした。
「たくさんの笑顔を見たいから」
「……笑顔を?」
「うん。もう、誰かが悲しむ顔は、たくさん見て、飽きちゃったんだよ。多分ね」
「飽きるほどに……そんなに人生経験を積んでいたのか?君は」
「どうだろうね」
でも、多分ボクの言ったことは本当。
だって、ストラップをなくしていたあの子の涙が、忘れられないから。
「確かなことは、あるよ」
「なんだ?」
「人は、笑って生きる方が正しい」
ピピピと、アラームが鳴った。
だからフクロウは、目覚めてボク達の方へと飛んできたのかもしれない。
「見つけてくれたの!?ありがとう、エマちゃん!」
「うん、帰り道にたまたまね」
「本当?エマちゃん、嘘ついてる時と一緒の雰囲気だよ~?」
「……本当だよ。それよりも、今日はもう探さなくていいんだし、遊んできたら?」
「そうだね!じゃあエマちゃん、一緒に……」
「ボクは用事があるから。じゃあ、もう無くさないようにね」
後ろから引き留めるような声が聞こえるけど、無視して足早に去る。
ボクなんかと遊んでも楽しくはないだろうし、人助けする時間が減ってしまう。
追ってくる様子もないし、多分納得してくれたんだろう。
「人は笑って生きる方が正しい、か」
曲がり角には、昨日ぶりのヒロちゃんが立っていた。
なんとなく、来るような気がしていた。
一緒に探した責任感もあっただろうし。
無視しようかと思ったけど、また怒らせそうだなと思い、足を止めてヒロちゃんの方へと向き直る。
「私もそう思うよ、君にしてはいいことを言う」
「それは良かった」
「だが、君は正しくない」
「……?」
「彼女の顔を見たか?とても悲しそうな顔をしていたよ。寂しそうでもあった」
「……まあ、ストラップも見つかったし、すぐに笑顔になるよ」
「君は優しいのか冷たいのか分からないな……だが、あの子だけじゃない」
ヒロちゃんはどこか、悲しそうな顔だった。
「君も、一度も笑っていないじゃないか」
ボクは、その言葉に答えず、目を背けて去った。
……それは、そうだよ。
人殺しの魔女は、笑う必要なんかない。
激鬱エマ
目と表情筋と声色が常に死んでいる。
服装は親が買ってきたものを着ているため意外とかわいい。
表情に似合わない可愛い顔と、その優しい性格でコアなファンが多い。
一週目の記憶しかなく、他の世界線が存在することを知らない。