パーペトレイターズ・ギルト 作:【自爆】
「何故ですか」
彼女は、あり得ないものを、受け入れられないものを見る目で、そう言った。
対するボクは、確信した目で、彼女を見つめる。
「何故、その魔法を……いえ、それはいい」
あなたは何故、なれはてになっていないのですか?
「やっぱり、君が
中学校の屋上での、一幕。
時は戻り、数十分前。
ボク達は中学の入学式を終えたばかりだった。
慣れたように人気の少ない場所を探せば、使われてない空き教室を見つけて。
そして……達、ということは、もう一人いて。
「入学おめでとう、エマ」
「……そちらこそおめでとう。ヒロちゃん」
そこには黒い制服が良く似合う、まさに優等生を形にした少女、ヒロちゃんがいた。
なんでナチュラルにいるんだろう……
ボク達は一周目のように、同じ中学へと進学した。
この中学校は平凡的な学校、お嬢様のヒロちゃんには似合わない気がするけど、家の考えか都合かでそうなったらしい。
たまたまでもなんでも、同じ校舎……場所に行けたのは嬉しかった。
昔のボクなら、という言葉が付くけど。
「随分と嫌そうだな?」
「そんなことないよ、ただ……」
「ただ?」
「申し訳ないと思ってる」
「……なら、問題と思う行為を全てやめてくれないか?」
「……」
「
聞こえないふりをして、ボクはポケットに手を入れる。
そうすると、横からため息が聞こえてくる。
「行儀が悪い」
「正しくないって?」
「意味もなく入れるのは特に。……前から思っていたんだが」
「なに?」
「君はよく手をポケットに入れる。まるで隠すように」
「……意外?」
「外見だけ見ればね」
確かにヒロちゃんの言う通り、ボクは手を隠すのが癖になっていた。
というより、肌を見せないようにしていた。
綺麗な体じゃないからっていうのは前提。
本当は……
「……っ」
「エマ?」
「……なんでもない」
少し考えるだけでも、手は黒ずんでいくのが分かる。
昔からそうだった、知らそうとすれば、知られようとすれば、ボクには多大な
そうだ、なれはてへと近づいてるんだ。
でも、おかしい。
ボクがあそこで見てきた時とは、大きく違う。
少しは抑えられることはあっても、魔女に……なれはてになっていくのは、止められなかった。
ボクはポケットから手を出して、見る。
「……綺麗な手だ」
「……そうでもないよ、酷い手」
そこには、古傷が薄く見えるだけの、白い手があった。
いったい、どういうことなんだろう。
だけどボクは、深く考えなかった。
考えれば、ただでさえ少ない時間が消えていくから。
「さて、そろそろ行こう。一つの教室を占拠するのは、特に初日から怪しい行動は目を付けられる」
「ヒロちゃんが悪い意味で目立つのは良くないからね、そうしよう」
「君もそうだろう……まったく、どうしてこう、こういうのがモテるんだ……?」
「なにそれ、ヒロちゃんのこと?」
「私はモテないよ」
「モテるでしょ」
お互い首を捻りながら教室を出る。
するとこちらの方へ、遠くから誰かを探すように歩いている先生が来ていた。
先生は若い女性だった。
ボクと目が合うと、急ぎ足で近づいてくる。
怒られるかもね、君のせいにしようか、なんて軽口を言い合いながらボク達も近づく。
「二階堂さんと……えっと、ごめんなさい、まだ覚えきれてなくて」
「彼女は桜羽エマです。教師が覚えていないのは……」
「何十人も初対面が増えたらそうなるのが普通だよ。で、どうしたの?」
「敬語……!」
「うう、先生一年目から濃い人達に会っちゃった……」
じゃなくて、と気を取り直して、先生はボク達に聞いた。
「二人とも、月代ユキさんって知ってるかしら?」
ボクは知らなかった。
だけど、胸に、頭に、響くような痛みが走った。
「エマ、大丈夫か?」
「……いや、何も問題ないよ。それで、月代さん、だっけ。知ってる?」
「一応名前は憶えてるが……そう言えば、入学式に一人欠けていましたね」
「うん、その子。白い髪が目立つらしくて。学校には来てるっぽいんだけど……」
「見つからないんだ」
「だから敬語。もう家に帰っているとかでは」
「ないみたい。さっきお家の方に電話したけど、帰ってないって」
ヒロちゃんと顔を見合わせて、お互いに頷いた。
「私は軽く外を見て回ってきます。エマは中を見た後、私と合流しますから」
「えっ、あの」
「見つかったら放送で呼びます。じゃあ行ってくる、任せたよエマ」
「気を付けてね」
「君も」
怒られなさそうな範囲で、駆けていくヒロちゃんを見て、先生は唖然としていた。
「最近の中学生ってこんな……こう……凄いの?」
「ヒロちゃんだけが特殊なんじゃないかな……なんじゃないでしょうか」
「君ももちろん含まれてるからね?」
ボクは肩をすくめた。
先生と別れ、さてどこだろうと歩きながら考える。
ありきたりなところを探しても、どうせもう通った道、意味がないと思う。
じゃあどうするか……なんて思っているうちに気が付けば、ボクは最上階の三階の更に上、屋上に繋がる扉の前にいた。
アニメや漫画とは違って、普通なら施錠されてる場所。
気にする必要もなく、戻ればいい。
そのはずなのに、ボクはそのドアノブに手を掛けていた。
呼ばれている……?
いや、案内されてるみたいだ。
この道が正しい、通らなければならない……通って
ボクは、ドアノブを捻り、道を作った。
……ありがとうございます、エマ。
「……誰です……か……?」
そこには、白い少女がいた。
儚い、白い桜のような……すぐに、枯れ落ちてしまいそうな、そんな少女だった。
そしてボクは、確定も、確実もないのに、確信していた。
対する目の前の少女は、まるで怯えたように、震えた声を放つ。
「何故ですか」
何が何故なのか、分からない。
分からないけど、なんとなく理解していた。
「何故、その魔法を……いえ、それはいい。……あなたは何故、なれはてになっていないのですか?」
確実に、確定した。
ボクはゆっくりと近づきながら、だけど敵意は一切持たない。
持てない、と言った方が良いかもしれない。
「やっぱり、君が元なんだね。月代、ユキちゃん」
ユキちゃんはボクの代わりに、敵意が止まらない。
牢屋敷で慣れてしまった視線、何気に久しぶりだな。
「元、ですか。元凶ではなく?」
「始まりってだけだよ。ボクは全てを知ってるわけじゃないから、更に前があるかもだけど」
「……ええ、あなた達人間が始めたことです」
「人間が、か。……多分、当事者が言うんだから、違いないだろうね」
「否定しないんですね」
「ボクはその時を知らないから」
何をしたか、どうしてそうしたのか、何故やり返されるのか。
肯定も答えることも何もできない。
過去の出来事なんて、変えられないんだ。
……今のボクは、変えているんじゃない。
繰り返させないためにできることをしてるだけ。
じゃないとボクは、殺してきた人達を忘れることになる。
完全に近づいたボクは、彼女の隣に座り込む。
ユキちゃんは抵抗も……抵抗感はありそうだけど、特に何もしてこない。
「最初の質問に戻ります。どうしてその魔法を?」
「……誰かに貰ったのだけは覚えてるけど」
「その誰かとは?」
「分からないって意味を込めてたんだけど……ボクの予想では、君だと睨んでるよ」
「そうでなければおかしいでしょう。今その魔法を持っているのは、私だけ」
「そのはずだった」
ユキちゃんは頷きで答えを返し、そのまま謎をまた増やす。
「それだけではなく、何故二つも魔法を持っているのか」
「……初耳だよ、それに関しては」
「自分のことも全ては知らないようですね」
「言い訳だけど、自分の体の中を知ってる人は少ないよ」
「人間はそうでしょう」
神様みたいだ、と言えば、魔女ですよ、と言われる。
なんだかその会話に懐かしさと、新鮮味を覚えた。
きっとボク達は、知り合い……もしかしたら、友達だったんだろう。
だけど何かがあって、ボクはユキちゃんのことを忘れた。
その何かは、目の前のユキちゃんですら知らないこと。
「……折角なら、教えてくれないかな。もう一つの魔法のこと」
「何故私がそんなことを?」
「ダメ?多分、君と長い付き合いになるんだし」
「……はあ」
「君も知りたいはずだよ。なぜボクが持っているのか……そのためには、ボクと関わるしかない」
「……他の方法があるかもしれませんよ」
「たった三年だけだよ」
「長い付き合いではなかったのですか」
「長生きしてそうな君にとっては、たったでしょ」
「……意外とめんどくさいですね、あなたは」
「桜羽エマ、よろしく」
「……月代ユキです」
知り合いのように、ボクらは名乗り合う。
ユキちゃんがどうかは知らないけど、ボクはなんだか嬉しかった。
彼女の前だと、さらけ出しても落ち着ける。
現に今ボクは、指の先を見ても白い雪のよう……なんて、自分で言うには自己肯定感が高すぎるか、傷だらけだし。
それはともかく。
頭を抱えているユキちゃんに、質問の続きを促した。
「それで、なんなの?ボクのもう一つの魔法って」
「あなたの仲の良い少女と同じですよ」
「……それって」
「二階堂ヒロが持つ、【死に戻り】です」
「……死に、戻り」
「正確には少し違いますが。まあ、困ったら死ねばいいでしょう?良かったですね」
「君がそれをしていない時点で何かのルール、デメリットがある。違う?」
「思ったより頭が回るようですね」
「勉強はほどほどにできたタイプだよ」
言葉を返しつつも、ヒロちゃんのことを思い出す。
ヒロちゃんは、【死に戻り】の魔法を持っていた。
首を断ち切られ、死んだヒロちゃんは過去に戻ったんだ。
今のボクのように……戻ったヒロちゃんは何をしてるんだろう。
きっと、正しいことをしてるはず。
ならボクも、正しいことをしなくちゃ。
「ねえ、ユキちゃん」
「今更ですが、馴れ馴れしい……なんですか?」
「さっきも言ったけど、お互いに知りたいことが多いでしょ。……最終的に、どちらかが人間を殺しつくしたとしても」
「……それで?」
「きっと君は、何かを調べるために人間の振りをして、ここにいる。だったらさ……」
友達になろうよ。
ボクはこの人生で、初めてまともに、笑った。