パーペトレイターズ・ギルト   作:【自爆】

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変わる本質、変わらない事実

中学生生活が始まり、すでに三週間が経った。

久々の少し重い制服にも、再び慣れてきた頃合い。

 

ただ、水に浸された状態は初めてかもしれない。

 

 

「……ぺっ」

 

 

口に入った水を自分の足元に吐き捨てれば、ぺちゃっと小さく音を立てて排水口に流れていく。

苦いというか臭いというか、直球で言えばまずい……けど、牢屋敷の食事に比べればマシかもしれない。

そもそも掃除バケツの水というのは、口に含むものでもないけど。

 

そんな雨を……滝を降らせた張本人を見る。

自分からやったのに、そんなつもりじゃないなんて顔。

実際ボクにかけるつもりはなかったんだろうから、おかしいことはないかもしれない。

周りの女の子達も目を白黒させて、驚いてる様子。

 

 

「……どうして」

 

 

そして、後ろの友達もそうらしい。

ボクは振り向かず、目の前の子達をただ見る。

すると「ひっ」なんて声が零れ落ちて、それはそこにいるみんなの耳に流れていった。

 

別に恨みつらみ怒りがあるわけじゃないし、本当にただ見てるだけなんだけど、どうもボクの目や顔は怖いらしい。

気分は良くはないけど、都合は良いので利用する。

 

 

「なんでこんなことしたか教えてくれる?」

「……あ、あんたがそいつの前に出たからでしょ」

「それはそうだけど……ごめんね、聞きたかったのはそういうことじゃなくて」

 

 

どうしてユキちゃんに水をかけようとしたの?

 

単純な質問。

そう聞けば、気まずそうな、ばつが悪そうな雰囲気が流れる。

聞かなくても、十中八九いじめなんだろうけど、聞かなくちゃいけない。

あの場所の経験を持ったボクは、正確な事実を求める癖がついてしまった。

 

なぜ、どうして。

他人から見て大したことじゃなかったとしても、本人にとって大事な意味がある。

……そんなことはないかもだけど、知らないよりはいい。

 

 

「だ……だって、気持ち悪いじゃん、そいつ」

 

 

それが、自分本位なものだとしても。

まあ、人を傷つける理由なんてそんなものだ。

 

 

「可愛い顔してると思うけどね」

「そこじゃなくてっ!……あんた、そいつと仲いいのに知らないの?」

「お互いを知ろうとしてるんだけど、成果はいまいちなんだ。まだ何にも分からないんだ」

「……」

「ボクのこと、めんどくさいって思ってること以外は」

 

 

冗談っぽく言ってみるけど、実際その通り。

ユキちゃんはボクに対して心を開いていないらしい。

めんどくさがられるのは慣れてるから、別に構わないけど。

 

 

「そんなこと知らないし……そいつが近くにいると変な事ばっかり起こんの」

「例えば?」

「触った花が突然腐ったり、池の鯉が死んだりするんだよ」

「……あー、なるほどね」

 

 

振り返れば、素知らぬ顔で逸らすユキちゃん。

わざとこういう状況を作るために、魔法を悪用したのは間違いない。

なんで……なんて、なんとなく分かる。

 

きっとこうなんだ、そうなんだと()()()()()()()()ためなんだろう。

ボクがそうだったから、ぼんやりと自分と当てはめた。

 

 

「気持ちは分かった。この子が悪いわけじゃないんだけど……多分なんとかできるから。ね?」

「……」

「ほら、余裕だって」

「何も聞こえなかったんだけど」

「まあまあ、細かいことは気にしないで。だから「何をしている」……時間切れか」

 

 

新しい登場人物は凛としつつも、明らかに怒りの声色を発していた。

 

 

「に、二階堂さん」

「大勢で女子トイレにたむろしているのは良くない。急を要する人もいるだろうしね。それに」

 

 

二階堂さんはボク達を一瞥し、ボクは二階堂さんから目を逸らす。

 

 

「はぁ……いじめというのは、正しくない。間違いなく」

 

 

久しぶりに聞いた気がする、正しいと信じて疑わない言葉は。

(自殺)の時のヒロちゃんは本当にいたんだろうか、というくらいらしい。

逸らしていた目を再度ヒロちゃんに移せば……

 

 

「顔こわ」

「眉間にしわ寄りすぎでは?」

「聞こえてるぞ」

 

 

二人で顔を見合わせた後、押し付けるように指を指し合う。

すると「二人ともだ」と怒られてしまった。

あれ、ボク達が被害者側のはずなのに。

 

そんな風にふざけてるボク達をよそに、女の子達は落ち着かない様子。

ほとんど慌ててると言ってもいい。

それもそのはず、ヒロちゃんは教師からの信頼が厚いし正しい。

こんなところをチクられたら、始まったばかりの中学生活は大変なことどころじゃない。

 

 

「えっ……と、その……」

「今のところ、全員想定外だよ」

 

 

突然のボクの発言で、ボクとヒロちゃん以外があっけにとられたような雰囲気が流れた。

ボクは事実を求める癖がついたと言ったけど、状況というのは事実だけが動かすものじゃない。

流れ、雰囲気というのは場を動かすことについて重要ということも、また学んでいた。

 

 

「……なるほど、つまりこう言いたいわけか。これは()()だと」

 

 

その流れを読み取る力を持ってる人もまた、必要だけどね。

 

 

「うん。水がボクに掛かった、それだけははっきりとしてる」

「……そうか。では言えることは一つだな。謝るんだ、君達」

「えっ」

「え、じゃない。わざとじゃないとしても、悪いことをしたなら謝る。そう習わなかったか?」

「それは……」

 

 

困惑が止まらない様子だった少女達は、理解が進んだのか次々とごめんなさいという言葉をボク(幾人かは後ろのユキちゃんにも伝えるよう)に伝えた。

全員が謝罪したのを確認したヒロちゃんは満足そうに頷き、微笑みながら言った。

 

 

「今は見逃す。次はない」

 

 

さっさと消えろ、その言葉に従うように速足で少女達は去っていった。

 

 

「さて、二人とも」

 

 

その後ろをついていくように、帰ろうとしたボクを掴んだヒロちゃんの声はまだ優しく。

……笑顔は攻撃的、というのは使い古された表現だな、なんて最近思う。

 

 

「話を聞かせてもらおうか」

 

 

 

 

 

「まったく……体操服が必要な日で助かったが」

 

 

ボクは体操服に着替えた後、三人で何故か集合場所になっている屋上へと来ていた。

放課後になっても、まだ日は高く。

風に当たって髪を乾かしているボクと、腕を組んでいるヒロちゃん。

そして少し遠巻きにいるユキちゃん。

 

ボクは、微妙に仲が良くないように見えそうだな、なんて考えてしまう。

 

 

「それで、何があった」

「さあ、細かいことは」

「だとしたら、()()何故ユキが?」

「……ユキちゃん、心当たりはある?」

「分かって言ってるでしょう」

「分かんないって」

 

 

二人からジトっとした目線を感じる。

そんな目をされても、ボクは何も言えない。

 

ボクはヒロちゃんに、魔法のこともユキちゃんのことも伝えてなかった。

そもそも関わらせる気もなかったんだけど、ボクについて回ってきたヒロちゃんがユキちゃんと出会わないわけもなく。

 

何故かいじめられやすいユキちゃんと、それを見過ごせないヒロちゃん。

いや、それだけじゃない。

 

 

「……まあ、いいとは言えないが、君に何もなくてよかった」

「……そうですか」

 

 

ヒロちゃん、どうもユキちゃんのことが気になってるみたい。

ボクや周りの人に比べて、いつもより二割り増しくらい優しい気がする。

 

 

「エマも何もなければ、完璧だったんだが」

「時期が早めの水浴びをしただけだよ」

「もう誤魔化す必要もない。君の望み通り、一度は見逃す」

「……そっか。ありがとう」

「貸し一つだ」

「……貸し借りは正しいの?」

「信頼関係の上で成り立つものはね」

 

 

今のヒロちゃんに貸しがあると、とても嫌な予感がする。

だけど、確かに彼女のおかげで大事にはならなかったから、黙って受け入れるしかない。

ため息をつきながらユキちゃんの方を見ると、何か考えていた様子で。

 

 

「誰も人を傷つけたくないから、そんなことを?」

「皆が笑顔であってほしい、だから見逃してと頼んだって?確かにそう思ってるけど、今回は違うよ」

「ではどうして彼女達を」

「罪にはそれ相応の罰はいる……けど、なぜそうしたのか、それでも罰は変わると思うんだよ」

「情状酌量の余地、というやつだね。学級裁判も起きてないが」

 

 

裁判という言葉に眉間にしわが寄っている感覚を感じつつも、ボクはユキちゃんにゆっくりと近づきながら話を続ける。

 

 

「ボクはあの子達がどんな子か、全てじゃないけど知ってる。特に先頭の子」

「お友達ですか?」

「ボクに友達は……まあいいや。あの子は意味もなく人をいじめないよ」

「あなたが知らなかっただけでは?人間は何を隠してるか分かりませんから」

「……かもね、人の心なんて見れはしない。だけど全ては隠せないよ。漏れ出るもの」

「つまり?」

「君、わざとでしょ」

 

 

ユキちゃんの手をつかみ取りながら言えば、嫌そうな顔でされるがままになる。

多分、分かってくれるはず。

 

 

「……聞いてますよ」

 

 

それは良かった。

魔法使ってるよね、多分。

自分が嫌われて、いじめられて、苦しめられるように。

 

そう考えると、ユキちゃんは頷く。

やっぱり。

 

 

「……何をしてるのかな」

 

 

その声を合図に手を離し、黒色の方の少女に目を合わせる。

 

 

「ユキちゃんのことを心配してるんだよ」

「さっきの発言からは考えられないな……」

「全くです、いつもこう不可思議なのですか?」

「ああ、何かを悟ってるみたいだろう。それにしては不注意が多いが」

「……本当に、不用心に触ってきて。殺す気だったらどうするつもりだったんでしょう」

 

 

小声で不穏なことを言った気がするけど、ボクはそれを無視する。

 

 

「結局のところ、何が正しいかなんてボクには分からない。だから最善を、何が正しいのかを考えていかなきゃいけないと思う。……君達が最後には、笑ってほしいから」

 

 

ボクはそれを伝えて、一足先に屋上から出ようと歩き出す。

そこに黒い少女が、ため息をつきながらボクに並び歩く。

後ろからは、白い少女からの声が飛んでくる。

 

 

「今日も行くんですか?」

「日課だからね。それに今日は、ちょっと休憩時間が多かったし」

「何を言っても無駄だ。人助けをしないと息ができないらしい」

「それがボクを動かす生きがいだからね」

「……意気は凄いですね」

 

 

ユキちゃんはヒロちゃんとは反対、つまりボクを挟むようにしてついてきた。

 

 

「帰り道、ついていこうか?」

「いえ、私がついていきます」

「どこに?」

「知らないふりする癖は、私から見ても正しくないように見えますが?」

「そうだな、ユキの言う通りだ。別に人手はあって困るものじゃないだろう?」

「……君達を危ない目に遭わせたくないだけなんだけど」

「あなたがお互いを知ろうと言い出したんでしょう」

「……私は言われたことないんだが」

 

 

人を離そうとすればするほど、人は近づいてくる。

たとえ死んで感情が、考えが変わったとしても二転三転し、戻ってきて。

そして、変わらないものもあって。

 

認めたくはないけど、ボクは。

 

 

「……ありがとう」

 

 

皆と居られることが最も嬉しい、寂しがり屋だった。

……でも、いつかボクは、ボクは……

 

 

死なないと、いけない。

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