パーペトレイターズ・ギルト   作:【自爆】

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ボクとヒロちゃんの関係

おばあちゃんがボクに対して言った。

 

 

「この人殺し」

 

 

ネックレスを持った少女が、泣きながらボクを恨む。

 

 

「お前なんか存在しなければ」

 

 

ヒロちゃんが、ボクを睨んだ。

 

 

「魔女め」

 

 

 

 

 

ボクの朝の始まりは、悪夢から目覚めるとこから始まる。

自分の罪を忘れないように、言葉を反芻してボーっとしている頭をスッキリさせる。

よしと、自分の頬を軽くたたいてからベッドから降りる。

 

 

「今日もできる限り、頑張ろう」

 

 

動きやすい服装に着替えて、小学生の必需品ランドセルを。

 

 

「……」

 

 

一瞥してから通り過ぎる。

朝ごはんはいつも用意されているから、食べに行く。

最期の晩食はどうしても不味かったから、今は何を食べてもおいしく感じる。

好き嫌いは正しくない、だからいいことかもしれない……また食べたいとは思わないけど。

 

そんな過去(未来)を思い出しながら、自分の部屋の扉を開け――

 

 

「やあ、桜羽エマ。おはよう」

 

 

――勢いよく閉めた。

今日の悪夢は変則的だ、なんて思いながらまたベッドに潜る。

起きるために寝るなんて、なんだかおかしいなあ……

ガチャリという音が聞こえた。

 

 

「挨拶は返すものだし、今日は学校だ。起きろ」

「殺意がない……夢じゃない」

「君はどういう夢を見ているんだ?そして私をなんだと思ってるんだ??」

 

 

正しい子だよ、とは言わない。

渋々ベッドから出ると、そこにはランドセルを背負ったヒロちゃんがボクのランドセルに教科書などを入れていた。

 

記憶の中にあるヒロちゃんと比べると、やっぱり幼い。

大人っぽい精神と、可愛さだけは変わらないみたいだけど。

 

 

「じゃない、どうしてここに……」

「君のお母さまに入れてもらったんだ。学校に連れていくためにね」

「そっか、気を付けていってらっしゃい」

「連れていくために来たと今言っただろう。さあ、早く持て」

 

 

準備が終わったのか、ボクのランドセルを渡そうとしてくる。

ヒロちゃんは正しくないものを正すのが大好きだった。

つまり、学校に行っていないボクを正すのが今の目的なんだ。

 

 

「……ボクは行かないよ」

「何故だ?私が知る限り、君がいじめられている等の話は聞いていない。もしそうなら私が……」

「ううん、そんなことはないよ。いじめられるほど学校行ってないし」

「それはそれでどうなんだ……」

「ボクはできる限り、誰かを助けたいんだ。……笑顔を増やしたいから」

 

 

言い訳をしながら、スマホだけ持って外に出ようとする。

朝ごはんはしょうがないけど、抜こう。

そのまま通り過ぎようとすると、腕を掴まれる。

 

 

「なら、その行動はやめた方がいい」

「……どうして?」

「君は学費、という言葉を知っているかな?」

「……」

「ああ、気にしなくていい。君の親御さんは別にそのことは気にしていなかったよ。それよりも、寂しそうな顔をしていたんだ。勉強が出来なくてもいい、ただ、友達などは……とね」

「…………」

「だがまあ、確かにそうだな。親の顔色よりも、どこかの誰かの笑顔というのは立派な志だろう」

「………………」

「……さて、どうする?」

 

 

ボクは、ランドセルの重みを久々に知ることにした。

 

 

 

 

 

「……疲れた」

 

 

昼休み、ボクは誰もいない校舎裏で項垂れていた。

通学途中にヒロちゃんがいろいろ教えてくれたのもあって、勉強はそんなに難しくなかった。

問題は、人付き合い。

 

優しい子が多かったのか、単純に好奇心からか、不登校だったボクに対して話しかけてくれる子が多かった。

昔のボクなら構ってくれることに喜んでいただろうけど、今は違う。

 

ボクと関わったところで、不幸を寄せ付けるだけなのに。

とはいえ、無理に離れさせようとしても傷つけてしまうかもしれない。

それはあんまり、ボクは求めていない。

 

 

「いや、でも……むしろ嫌われた方が都合がいいのかも」

「できるだけ他者からは好かれる方がいいとは思うが」

 

 

元から聞き馴染みはあった方だけど、最近は昔以上に馴染んでいる気がする。

と、ヒロちゃんの声に思った。

 

 

「人間は集団の生き物だ。自身を傷つけるほどでなければ、周りと合わせることは重要だろう」

「……確かに。()()ってそんなのだ」

 

 

ボクは魔女だから当てはまらないね。

 

 

「しかし、何故嫌われようと?」

「……どうでもいいことだよ。それよりもヒロちゃん、よくボクについてくるね。ボクのことが好きなの?」

「君が勝手にどこかに行かないよう見張ってるんだ。脱走でもされたら、いろんな人に迷惑がかかる」

「……しないよ、大丈夫」

「いまいち信用が湧かないな……」

 

 

酷いな、これは本当なのに。

……それはともかく、不思議な感じだ。

一週目はずっと、ボクがヒロちゃんを追いかけてる記憶しかない。

ヒロちゃんは人気者で、誰からも好かれていた。

 

そういえば、なんでボクはヒロちゃんと友達になれていたんだろう。

ボクは特に取り柄もないし、顔とか体とか、平均よりちょっと下くらいの質だと思うし。

昔のボクは今みたいに、積極的に誰かを助けるほど、善良でもなかった(もちろん今のボクが善良というわけじゃない)。

 

最期には、嫌われて終わったけど。

 

 

「……エマ」

 

 

いつの間にか訪れていた静寂を終わらせたのは、ヒロちゃんだった。

横に立っていたヒロちゃんを見ると、どこか気まずそうな……不安そうな顔をしていた。

珍しい、大抵そういう顔をするのはボクだったのに。

 

 

「どうしたの?」

「君は……これからも人助けの活動をするのか?」

「うん。しなくちゃ……いけないから」

「正直、君の行っていることは危険だ。見ず知らずの人にも手を差し伸べて……」

「手が届く範囲は伸ばしたいんだ」

「人間全てが善意で出来ているわけじゃない。騙すために弱者を演じる者もいる」

「うん、よく、知ってる」

 

 

ボクの常套手段だったから、よく知っている。

弱者を演じる弱者、それがボクだったから。

まあ、そういうことじゃないんだろうな、っていうのは分かってる。

 

 

「……君は自分を無敵のヒーローだと思ってるんじゃないか?」

「……」

「人は簡単に死ぬ。……命は一つなんだ。命だけじゃない。体も、心も。それを大切にするのが……正しいんだ」

「……?」

 

 

ヒロちゃんは正しいことには自信を持って、行動、発言ができる。

でもどうしてか、今の正しいだけ濁すような、躊躇っているような、後ろめたいことがあるように感じた。

 

気になる……けど、深入りはしちゃダメだ。

……また、怒らせて、嫌われるだけだし。

 

 

「ボクはスーパーマンじゃないよ。分かってる」

「なら……」

「でも、ごめん。これだけは譲れない。ヒロちゃん、君の正しさと一緒だよ。諦めることが出来ない、ここ()そのものみたいなもの」

 

 

自分の胸を軽く、二回叩くように手のひらを置く。

……思えば、これは殺してきた人だけのものじゃない。

ボクが守ってあげなきゃいけなかった()()にも、想っているのかもしれない。

 

守れてたら、みんな死ななかったのかな。

……ダメだ、考えるのをやめよう。

 

今すぐ死にたくなる。

 

ボクは黙って、その場から離れることにした。

今更、ヒロちゃんと分かり合おうとする必要もない。

それに、ボクが頑固なのは分かっただろうから、流石のヒロちゃんも諦めてくれるはず。

 

 

「……だったら」

 

 

そう、思っていたのに。

 

 

「私とやろう、人助けを」

「…………は?」

「一人でやるよりも安全で、効率的だとは思わないか?」

「……いや、でも、勉強とか……友達とか、ヒロちゃんはやることがあるよ?」

「それらは君も同じことだ。そうだな、平日は真面目に学校へ行くのは確定事項だ。別に、そこでも困っている人がいないわけじゃない」

「ちょ、ちょっと」

「帰宅後は合流して、見回りはそうだな……正確な時間は後で決めよう。日や季節によって行える時間は変わるだろうしね」

「だからちょっと待ってって!」

 

 

大きな声で制止することで、やっとヒロちゃんは止まった。

だけど、その顔はいたずらが成功した子供(じっさい子供なんだけど)だった。

 

 

「……やっと見れたよ、君の仏頂面以外の表情を」

 

 

そう言われて、自分が困惑した顔になってることに気づいた。

今度はボクが気まずい顔になって、目を逸らす。

 

 

「君はよく目を逸らすな……人と話すときは目を合わせるのが正しいとは思わないか?」

「目を合わせて話せるほど、真っ当なことはしてきてないから」

「それをよりにもよって私に言うのか……これは私が決めたことだ。君が何と言おうと、ついていくし学校には来てもらう」

「……ヒロちゃんはもっと大人っぽいと思ってた」

「今度は皮肉みたいだな」

「これは本心だよ」

「それもどうなんだ」

 

 

何年振りかの、初めての雑談にどこか安心感を覚える感情を、ボクはどうにかまた、目を逸らすしか、なかった。

知らんぷりは得意のはずだよね、ボク。

 

 

 

 

 

宣言通り、ヒロちゃんはボクの人助けについてきた。

ヒロちゃんは進んで委員になるタイプの子、放課後とか時間が無いはずなのに。

 

 

「あの程度、すぐに終わらせることが出来る」

 

 

なんてできる人間なんだ。

なんでも平均以上にこなすのは、さすが優等生。

もちろん、それ相応の努力があるんだろうけど。

 

そういえば、留学なんかもしてたな、なんてまた過去(未来)の記憶に意識を寄せてしまう。

もうボクには関係ないこと……というには、ヒロちゃんが積極的だな。

前はボクがヒロちゃんに引っ付いていたのに、今度はヒロちゃんが引っ付いてくる。

 

変な話だ、あんなにボクが求めていたのに……

今からでも過去のボクに、気を引くなら善行だよって言おうか。

言ったところで、ボクにできるわけないか。

 

 

「できるなら……いや、やめよう。今すぐ死ねそうだから」

 

 

ああ、今すぐ死にたいけど、まだダメだ。

まだこの命には利用価値がある、限界まで消費しなきゃもったいない。

 

ボクは今、ネガティブになりながらヒロちゃんを待っていた。

肝心のヒロちゃんはというと、道すがらに困っている人がいたらしく、連れてきているらしい。

やっぱりヒロちゃんは真面目だ、ボクがいないところでも人助けになることをしている。

 

いや、ボク関係なく困っている人がいたら、助けるだろうな。

ボクとは違って、真面目で、正しい子だから。

 

そんなことを考えていると、離れたところから聞き覚えのある声が()()聞こえてきた。

 

 

「……まったく、隠れているつもりならもっとちゃんと変装したらどうだ」

「いやぁ、これでもしっかりと隠してるつもりなんだけどね……自分で言うのもなんだが、オーラが止まらないのかもしれないね!」

「言ってて恥ずかしくないのか?……くっ、顔がいい……!」

 

 

ボクは目を見開いた。

なんで、どうしてここに?

 

視線の先には、ヒロちゃんと並んで歩く……中性的で、通る人が振り返ってしまうほどに顔がいい人が立っていた。

そして、その人のことを、もう少し、成長した姿だけど、ボクは知っていた。

 

 

蓮見、レイア。

魔女裁判の、一番目の加害者だった、少女だ。

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