パーペトレイターズ・ギルト   作:【自爆】

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目立ちたがり屋なあの子はきっと

「君がヒロくんの言っていた、桜羽エマくんだね?」

「……君は」

「私の名は蓮見レイア。売り出し中の子役さ」

 

 

知ってる。

いや、この年齢から役者だったのは知らなかったけど。

……蓮見レイア。

 

近い未来にボク達と一緒に攫われ、殺し合いをさせられる一人。

それまでは遠い他人の存在、そのはずなのに。

 

 

「……どうしてここに?」

「それはだね!」

「用事でこの町に来たらしいが、不慣れな場所だったから迷子になっているらしい」

「……ということだよ!」

 

つい出てしまった言葉に、意図とは違う答えが帰ってくる。

説明されても凄い自信だ……ちょっと困ったような顔してるけど。

でもなるほど、それならこの場所で出会うのも納得……できるかもしれない。

 

 

「正直、私は別に手伝わなくてもいいと言ったんだけどね……」

「人に囲まれて道を塞いでいたからな。他の通行人に迷惑だ」

「ぐっ……それは、そうだね……」

「それで仕方なく、連れてきてしまっ……連れてきたんだ」

「隠せてないよヒロくん」

 

 

二人は出会ったばかりなのに、仲のいい友達のように話し合う。

ヒロちゃんもレイアちゃんも、社交的な部分が多いからかもしれない。

あの場所では、二人が話すところは見れなかったし、なんならボクはレイアちゃんと関わった時間は短い。

 

もしもあそこで、二人が一緒にいたなら、意外といい関係になれたのかも。

唯一無二の関係に……

 

 

「エマ」

 

 

ヒロちゃんの呼ぶ声で、ボクは現実に戻ってきた。

目を向けると、そこには絵になる二人が立っている。

まだ中学生ですらないのに、その色気はどこから来るんだろう。

 

 

「……どうしたの?」

「どうしたも何も、人助けだ。君のやるべきことなんだろう?」

「ああ……そうだね、やろう。レイアちゃん、どこに行きたいんだっけ」

「詳しいことは言えないけれど――」

 

 

レイアちゃんの話を聞き、目的地を聞いたボクはそこまで距離の離れていないことを知って少し、安心した。

今は理性があるはずなのに、心のどこかで殺してしまう、って思ってしまうから。

……あの牢屋敷の子達にだけそう思うのは、なんだか不公平感があるけど。

 

それはともかく、ボク達は目的地へと歩き始めた。

道中で、レイアちゃんはよく口を開いた。

ボクがあんまり喋らないことにしたのを感じ取ったヒロちゃんは、その声に主に答える。

 

そこで、こんな質問がレイアちゃんから飛んできた。

 

 

「しかし、今日は平日だろう?休日に趣味でならまだしも、大変じゃないのかい?」

「何がだ?」

「君達の人助けだよ。会って一時間も経っていないが、君達は手を抜かないことが分かる。簡単なことじゃないだろう」

「若い年ながら、厳しい役者をこなしている君にも言えることだろう。……私はつい最近始めたばかりだから、詳しいことはまだ分かっていないが……」

 

 

ちらっとボクを見るヒロちゃん。

心配されずとも、別にやましいことをしているつもりでもないから、普通に答える。

 

 

「大変だと思ったことはないかな。ボクにとってはそれは普通のことだから」

「それは……すごいね、私もその精神を見習うよ」

「だからといって、学校をサボってまでやるべきではないと思うけれどね」

「……エマくんは、思っていたよりなかなか自由な子だね……?」

 

 

ボクは困って目を逸らす。

仕方ない、ボクはヒロちゃんほど視野が広くないし頭もよくない。

最善があれだと思ったんだ……それが、身近な()を傷つけるとは思わなかったから。

 

 

「しかし意外だな……失礼だが、エマくんはそんな風に見えなかった」

「本当に失礼だな君は」

「別にいいよ、小学生が言ってることだもん」

「君も小学生だろう……」

「君もだよヒロくん。別に悪く言いたかった訳じゃないんだ。ただ……」

「ただ?」

 

 

レイアちゃんは少し困ったように言い淀む。

それは失礼な言葉というより、伝えるのが難しいという雰囲気だった。

だけど、少しずつ、その言葉は紡がれた。

 

 

「君の瞳が……少しね」

「ボクの目が……?」

「ああ、なんというか……()()()()()()()()……ような気がするんだ」

 

 

ボクは詰まりそうな息をなんとか吸い、吐き出した。

 

 

「……すまない、私も確かなことは分からないんだ。ただ……その、前に演じたキャラに似ていてね!」

「エマに似ているキャラクターは癖が強そうだな……しかし、エマが私達を見ていないと言うのはどうかと思うが。彼女は善行というステータス目的だけでは人助けはしないよ」

「わ、分かっているとも!悪く言いたい訳じゃなくてね……」

 

 

妙に怒っている風に見えるヒロちゃんに、それに困った態度のレイアちゃん。

二人は、ボクが殺していない二人。

……とは、言い切れない。

 

ヒロちゃんは間違いなくボクがおかしくさせたから、死んでしまった。

レイアちゃんも、処刑を執行するボタンを押したのは()()だ。

 

だけど、目の前の二人はそんな結末にはまだたどり着いていない。

……そもそも、二人と二人は同じ人って言えるの?

名前も姿も(今は違うけど)同じ、性格も……

 

そこでふと、ボクは気になった。

 

 

「レイアちゃん、ボクからも一ついい?」

「私ばかり聞くのもアンフェアだね。いいよ、答えられることには限りがあるけれど」

「ありがとう。……レイアちゃんは、どうして役者に?」

「……また突然だね。もっと小さい頃の話だよ。テレビで見た演劇に感銘を受けたんだ。ただそれだけだよ」

 

 

つまらなかったかな?なんて笑うレイアちゃん。

それに対して、夢を早くも叶えるとは、凄いことだと真っ当に感心するヒロちゃん。

だけど、ボクは記憶していた。

 

レイアちゃんの断末魔を。

 

ボクは悩んだ。

そこはきっと、易々と人が踏み込んではいけない【禁忌】。

なぜそう思ったのか、感じたのか……ボクはあの場所で、それが深く深く暗いものとして存在していることを、知っている。

 

ボクは口を開け――

 

 

「……?どうしたんだい、エマくん」

「……ううん、なんでもない」

 

 

――すぐに口を閉ざした。

何を言おうとしたかなんて、ボクにも分からない。

君は君だよ、無理に目立たなくてもいい?誰かを蹴落とさなくても君がナンバーワンだよ?

 

ボクが何を言ったところで、今も昔も赤の他人だし、響くような言葉なんて思い付けない。

……ヒロちゃんなら、この記憶を正しく使いこなしてたのかな、なんて。

 

そう思いながら歩いていると、赤信号に足を止められた。

ここの交差点は、道と赤信号の時間が長いことで地元ではちょっと有名な信号。

それを伝えるとレイアちゃんは、スマホを取り出して時計を確認する。

 

 

「今の時間は……うん、余裕がある訳じゃないけど、無理をするほどじゃないね」

「そうか、それはよかった。余裕を持って行動するのは正しい」

「……今更だけど、別に二人で案内する必要はなかったよね。ヒロちゃんだけでも……」

「君を一人にしておくと何をしでかすか分からない。すぐに無理をするだろう」

 

 

ボクはまた目を逸らす。

 

 

「悪いことだと分かっているならやめろ……」

「ふふっ、最初は何を考えてるか分からないと思ってたけど……意外と分かりやすいんだね、エマくんは」

 

 

二人は何かを言っていたけど、それはボクの耳には届いていなかった。

逸らした先にあったのは、赤信号と、ボールを持った小さな子供。

柔らかい素材の、よく跳ねるタイプのボール。

それをバスケットボールのようにドリブルしている。

そして今日はたまたまか、車の通りがいい。

 

嫌な予感がした。

 

 

「……だが、人助けをするのも悪くないな。少し気分がよくなる」

 

 

ぱたん。

 

 

「情けは人の為ならず……少し意味は違うが、その言葉はよく身に染みるかもしれないね」

 

 

ぱたん。

 

 

「だがまあ、手段と目的は履き違えてはならない。最も、今のエマなら間違えないだろうが」

 

 

ぱたん。

 

 

「エマくんはずいぶん信頼されているんだね。気難しそうなヒロくん相手に、凄いね!」

 

 

ぱたん。

 

 

「誰が気難しいって?私は良好な関係を築くのが得意なんだ。エマからも何か……エマ?」

 

 

ぱっ……とん。

 

 

「なっ、エマ!?」

「エマくん!?」

 

 

懐かしい思い出がある。

それは一週目の、小さい記憶。

ボクもあの子のように、つまらない赤信号が変わるまで、手元のボールで遊んでいたことがある。

不器用なボクは、見事に手の中のボールを溢してしまった。

 

取りに行こうとしたけど、後ろに引っ張られたおかげで、それは叶わなかった。

 

 

「こらっ、エマ!くるまにひかれたらどうする!しんじゃうぞ!」

 

 

舌足らずな言葉でそう怒ったのは、同じように小さい頃のヒロちゃんだった。

幸いにも、そのお陰か、ボクもヒロちゃんもボールも怪我をせず、無事だった。

 

でも、目の前の子にはヒロちゃんがいなかった。

 

突然駆け出したボクに対応できなかった二人を無視して、一目散に子供に向かう。

車通りは運良く止まっていて、これならと安堵する。

 

 

「わっ!?」

「抱えるよ」

 

 

中央辺りで足を止めていた子供に、なんとかたどり着いたボクはすぐに抱え……るまではよかった。

どうしよう、戻るか、進むか。

どっちの方が近い?安全?

 

ほんの一、二秒……それは大きな命取りになる数秒だった。

大きなクラクションが、真横から近づいてくる。

目を向けると、そこには勢いが止まらない車が向かってきていた。

 

まずい、この子が危ない。

ボクは急いで、来た道を戻ろうとした。

けど不思議なことに、その足取りは重く感じて。

 

目は、何故か車に釘付けで、時が遅く感じて。

怖く感じるのが、普通のはずなのに……妙に安心感を感じて。

何故だろう、このままこの場所に居たい気がした。

 

 

「エマくん!!」

 

 

反射的に、その声が聞こえた方に目は向かった。

そこには、焦った顔のレイアちゃんが、ボクを見ていた。

ああ、レイアちゃん、やっぱり顔が綺麗だな……目が離せない……

 

 

「早く、こっちに来るんだ!!」

 

 

そこでやっと、ボクは正気に戻ることが出来た。

 

 

 

 

 

「横断歩道で、尚且つ赤なら足を止めるな!!!」

 

 

ボクと子供は正座させられ、怒られていた。

ヒロちゃんの正しい叱りに頭が上がらない。

となりに居る子はもう泣きそう……泣いていた。

 

 

「まあまあヒロくん、二人とも無事だったんだから良かったじゃないか」

「良くない!!正しくない!!いいか、命は大事なんだ。特にエマ、君は……」

 

 

右から左に流しながしつつも、反省する。

……死にたいのなら、誰かを巻き込まない方法にしよう、ボク。

 

 

「……これからはちゃんと気を付けることだ、いいな?」

「ぐずっ……えっぐ……はい……」

「小さい子にも遠慮がないんだね、ヒロくんは……」

「エマ!君も分かったか?」

「……うん、肝に銘じておくよ、本当に」

「相変わらず信用できないな……私達も時間がない、解散だ」

 

 

子供は泣きながら、ボールを大切そうに抱えて走り去っていった。

当分トラウマになりそうだけど……怪我をしづらくなったと思えばあの子にとっても得かもしれない。

 

時計を見れば、レイアちゃんが困る時間ギリギリ。

安全を説いた後にやるのは申し訳ないけど、ボク達は走って向かうことになった。

 

 

「まったく……私が居れば無理なことをしないと思ったが」

「ははっ!どうやら君でも、エマくんは完全に制御できないみたいだ。かわいい顔してやるね」

「……褒められてるのかな、それ」

「もちろんだとも!」

「そっか……そうだ、レイアちゃん。さっきはありがとう」

「……ん?なんのことだい?」

 

 

とぼけているけど、きっとレイアちゃんは魔法を使った。

【視線誘導】の魔法で、自身に注目を向けて、ボクを正気に戻してくれた。

レイアちゃんがそうなるように使ったのかは、分からないけど……一つ確かなことはある。

 

本心から、ボク達を助けようとしてくれてた。

 

 

「声をかけてくれなかったら動けなかったから。だから、ありがとう」

「なんだ、その事かい。私に出来ることをやったまでさ。助けたのは君だしね」

「……じゃあ、二人の……いや、三人の力ってことにしとこう」

「含みのある言い方だな、エマ?」

「ヒロちゃんは叱り担当だから」

「まだ叱られたりないようだな……!」

 

 

ボクは、レイアちゃんのことをよく知らない。

だけど……今思うと、あの時に出た建前は建前じゃなかったのかもしれない。

誰かを助けたい、守りたいという、優しさも、きっと。

あんな場所が、魔女因子がなければきっと……

 

 

「応援してるよ、レイアちゃん。一番注目されるようにって」

「……ははっ、変な応援だ。……でも、ありがとう。大切に受け取っておくよ」

 

 

そういうレイアちゃんは、今までの演じているような笑顔ではない、朗らかな笑みを浮かべた。

 

 

「やっと見てくれたね、エマくん」

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