パーペトレイターズ・ギルト 作:【自爆】
マーゴちゃんと出会った時から少し経って、長袖が無いと少し肌寒い季節になった。
まあボクは年中長袖なんだけど。
とはいえ、だからと服に悩むことはないわけじゃない。
悲しいことに服は消耗品で、ボクは成長する子供だった。
つまりそれらから導き出されることは。
「エマ、こんなのはどうだ?」
「ヒロちゃんによく似合ってるよ」
「君の服を選んでるんだが……」
ショッピングモールで服選び。
……ヒロちゃんを添えて。
いつもなら両親と共に買いに行き、適当に選んでもらっていた。
だけど今日に限って、外せない用事で来れなくなり……
「じゃあ次に行けそうな日って……」
「大丈夫、ヒロちゃんに頼んでいるから問題ないよ」
「は?」
「お金も渡してるから安心してね!余ったら好きに使っていいから!」
「は??」
他所の子にそこそこの大金を渡すのは大丈夫なの?とは言えなかった。
正しいヒロちゃんになら、ボクでも大丈夫と言ってしまうかもしれない。
……絶対よくない。
それはともかく、昔のボクなら喜びそうなイベントをなんとも言えない感情で過ごしていた。
あーでもないこうでもないと、服を選んでるヒロちゃんを少し離れたところで見つめる。
当たり前だけど、若い。
前……一週目の頃は、小学生になる前から一緒にいた。
出会った時から正義感が強くて、ボクはそれに助けられたり、怒られたりしてた。
それは今も変わらないと言えば、変わらないけど。
「エマ、君も近くで見てみないか?気に入ったものが見つかるかもしれない」
「……さっきボクには選ばせなかったのに?」
「それは君がジャージで済ませようとしたからだろう?……かわいいんだ、似合う服を着た方がいい」
優しいとこも変わらない……けど、こんな気安くかわいいとか言ってたっけ。
雰囲気も柔らかい。
それは日常だからっていうのもあるのかもしれない。
正しさには厳しいけど、嫌いな相手や普通じゃない出来事さえなければ、そこまで変な子じゃない。
ちょっと仕切りたがるところはあるけど。
「肌を隠せるなら、別になんでもいいんだけどな」
そう呟くと、ヒロちゃんは顔を伏せた。
どうしたんだろう、と顔を覗こうとしてふと思いついた。
もしかしてヒロちゃんは、
……一人に、それもろくでもない奴に優しくするのは正しいのかな。
ボクは自分のお腹に触れながら、ヒロちゃんに聞いた。
「気にしてるの?これ」
「……ああ」
「自業自得だし、気にしなくていいよ」
大したことじゃないよと言っても、それでも暗い顔は元に戻らない。
また昔を思い出すと、こんな暗い顔をしたとこを見るのは二週目からかもしれない。
ヒロちゃんは絶対の自信を持った女の子だったから。
「私を助けたからそうなったのも事実だ」
「ボクが選んだ選択でもあるよ」
「……頑固だな」
「君が言う?」
「私は柔軟だ」
「面白い冗談だね」
「ただの事実だ」
くだらない掛け合いで流せば、ヒロちゃんは呆れた表情になっていた。
ボクは気を引くためによく転んでいたから、この顔は見慣れてる。
とはいえ、流石に頼りっぱなしも情けないなとボクも近づき、服に手を伸ばし始めた。
「気になるのは見つかったか?」
「ん……いや、なんとなく見てるだけ」
「そうか」
そのままお互い黙々と服を見る。
……うん、今見るとただの布にしか感じない。
最低限の常識があればなんだっていいと。
というより、どうでもいい。
「エマ」
じっと布を見ていると、突然名前を呼ばれる。
その声の持ち主にチラッと視線を移せば、やっぱりヒロちゃんが写る。
「どうしたの?」
「私は、君が何と言おうと手助けし続けるつもりだ」
「……一人に甘いのは、正しくないんじゃないかな」
「正しくない者を正しい道に戻すのも、私の使命だ」
「……ボクは正しくない、か」
「財布を
落とす、という一言だけ妙に強く聞こえた気がしたけど、気づかないふりをすることに決めた。
……わざと
「君は言ったことを守らないからね。例えば、念を押したのに一人で行動したり……」
「それは悪いと思ってるよ。ろくなことにもならなかったしね」
「反省してると?」
「心の底から」
「信用できないな……」
「嘘はついたことないよ」
「真実も言わない」
「……そうでもないよ」
「面白い冗談だ」
「ただの事実だよ」
流れた何かがボクに刺されば、苦い顔が生まれる。
どうにも、ヒロちゃんにだけは表情筋も甘いらしい。
そうだ、あの頃もそうだった。
ボク達はくだらないことで言いあって、ふざけあって。
特にボクがとんちきなことを言って、ヒロちゃんはそれに真面目にツッコミを入れて。
それをあの子が、面白そうにクスクス笑って……
……
痛みが走った頭を、ボクは咄嗟に片手で支えた。
「……ボクちょっと、そこのベンチで休んでくる」
「大丈夫か?……すまない、無理に付き合わせたか」
「いや、大丈夫。でもごめん。申し訳ないけど適当に選んでて」
最後にまたごめんと謝り、ボクはフラフラと店の外にすぐあるベンチに腰を下ろした。
そして瞼を閉じ、頭の中にいる白い少女のことを見つめる。
それが誰かは、ボクは
矛盾。
はっきりとわかる違和感の塊は、不思議と気持ち悪さを感じなかった。
そうだ、ボク達は三人だった。
決して長くはない、三年間の思い出。
だけどそれは、かけがえのない、大切なものだったことを思い出す。
問題は、大切だったことだけしか思い出せないこと。
白い、
顔も、全体像もぼやけて見えない。
「……君は……」
思い出そうとしても、頭が痛むだけ。
それはまるで、思い出してほしくないと、ボクに言っているようで。
五秒という長い時間考えた後に生まれた結論は。
「どうしようも、ないか」
今は無視する、だった。
情報不足の時には一旦深く考えない方がいい、という裁判の経験からボクは無理矢理納得した。
思考停止に近い答えになっても、服選びという現状は考えなくてはいけなくて。
五分も経っていない休憩を終わらせて、ヒロちゃんの方へと向かっていく。
やる気がないにしてもこれは自分のこと、他人に任せっぱなしは。
「……正しくない」
ぼんやりと呟いた、その時だった。
何かがボクの指に、
虫かなと思いつつ、腕を持ち上げて目にするとそれは。
「……黒い、リボン……?」
最近ボクは、連想しすぎなんじゃないかと思ってる。
過去のことをよく振り返るし、些細なことでもあの子達のことになってしまう。
間違いなくそれは、ボクの心があの場所に囚われているからだ。
でも、だけどこれは、しょうがないんじゃないか。
どこかからやってきたそれは、限りなくあの子のものだった。
ある意味では共犯者だった、あの子の……
「あっ……」
また過去に浸ってしまったせいか。
見つめるために空けていた手のひらから、リボンはやってきたと思われる方とは逆の方へと飛んでいってしまった。
ボクはそれに少しだけ違和感を感じながら、流れていくリボンを目で追っていた。
そういえばあれはなんだったんだろう、どこかの装飾だったのかな。
もしそうなら、そうでなくとも、逃がしてしまったのはダメだったのかもしれない。
この世にはありふれたものでも、誰かにとっての宝物になる。
ならそれは、持ち主の手元に戻るのが正しい。
「……なんて、いろいろ考えてるけど」
結局は、あの黒いリボンに興味が強くあるだけだと思う。
ボクは少し遠くのヒロちゃんを眺める。
そこには、ピンクが主体に見える服を持って、まだ考え込んでいるあの子がいた。
真面目で、特に他人に関係するものだからか、ヒロちゃんはこういう時よく長考する。
うん、やっぱり優しい子だ。
その優しさを邪魔するのもな、と思ったボクは黙って、もう見えないリボンへと追いかけていった。
よく考えれば、ボクは服を買いに来ていて。
買いに来るということは、大抵休日で。
休日ということは人は集まりやすくて。
それがショッピングモールなら、尚更で。
そんな状態で、どこに飛んでいったか分からないリボンを探すのは、難しい。
当たり前すぎる答えを導き出しつつも、ボクは目を凝らして黒いリボンを探す。
今更ながら、なんでボクはリボンを探しているんだろう。
見つけたところで、今度は持ち主を探さないといけない。
物から過去を読み取る魔法でも持っていれば簡単だっただろうけど、残念だけど持っていない。
そもそも、持ち主は探してすらいないかもしれない。
言ってしまえば、たかがリボンなんだから。
なら、なんで。
「ただ気になる、だけなのかな」
分からない。
無意味に近いことだと分かっても、何故か向かってしまう。
……そういえば、そういう時は不思議な感覚に包まれる。
学校へ行くと決めた時。
ヒロちゃんが付いてくると決めた時。
隣町へ行くと決めた時。
今思えば、そんな時も感じていた気がする。
まるで、
「……あ」
また思考の渦に捕らわれていたボクは、見つかりづらいはずの、目的のものが目に映ったことで、現実に戻ってきた。
それは十字路の中心にぽつんと落ちていて。
なんとなく怒られたくない、みたいな感情からかみんな避けて歩いていた。
とはいえ踏まれない可能性がないわけじゃない、そう思ったボクは駆け足でそれを拾う。
軽く見てみれば、汚れはついてなくて。
ボクは謎の安心感に包まれた。
「うーん……こっちに行った気がするんだけどなぁ……」
ヒロちゃんのところへ戻ろう、そう振り返って歩こうとすると、そんな声が聞こえた。
その声の方を探すと、その持ち主はすぐに見つかった。
それはボクより数個上に見える、白髪の少女だった。
「どこだろ……リボン……」
その言葉から、偶然にもボクのと同じものを探していたことを知った。
人が多ければ、困りごとの一つや二つは生まれるらしい。
リボンはもしかして、あの子に引き合わせるためにボクを連れてきたんじゃ。
そんなわけないかと否定して、ボクはその子に近づき、あの、と声をかけた。
肩を跳ねさせるほどではなく、だけど目は丸くするほどには驚かせる。
「え?えっと……どうしたの?迷子?」
「いや……もしかして、リボン探してるのかなって。これくらいの、黒いリボン」
手に持っていたリボンを見せながらそう言うと、少女は奪い取るに近い速さで受け取った。
その顔は、喜び一色に染まっていた。
「ありがとう……!これ、とても大切なものなんだ」
「それはよかった」
「これ、どうして私のだってわかったの?」
「……リボンがこっちだよって教えてくれたから」
「……」
「……嘘だよ、いろいろ偶然が重なっただけ」
「……あっ、嘘なんだ、そっかそっか」
なのちゃんと同じかと思った、という小声が耳に入った気がするけど、慣れたようにボクはそれから目を……意識を逸らした。
「それじゃあ……もう無くさないでね」
「……あっ、待って!」
ボクはそうして、今度こそ元の場所へと戻る……つもりだったのに、それを遮るようにして、リボンの少女が呼び止めてきた。
何事かと振り返ってみれば、勿論そこには呼び止めたその子が。
どうしたの?と聞けば。
困った表情から、悩んだ表情へ。
そして何かを決めた表情へと変えて、リボンの少女はこう答えた。
「良かったら、ちょっとした……デート、しない?……って、リボンが言ってるの」
ボクはその日最大の、一文字の