パーペトレイターズ・ギルト   作:【自爆】

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同族愛好

肌寒いというより、ただただ寒くなったという時期。

ボクは冬休みという長期休暇に入り。

何をしているかと言えばボクらしく、人助けのための散歩――ではなく。

 

 

「……どこなんだろう、ここ」

 

 

知らない土地で無策で散策というのは、無謀な野望だったらしい。

なんて、くだらないことを考えて。

自分の無鉄砲さに、今更ながら呆れる。

 

ボク達家族三人は、遠くの方へと二泊三日の旅行に来ていた。

主にボクのせいで、中々三人でいる機会が少ないこの家族。

いつも頑張ってるから、今日くらいは休んでもいいんじゃない?とは母親の談。

 

別に説得されなくても、家族なら誘われたら行くよ、流石に。

……この人達が悲しむ顔はもう、見たくないから。

 

それはともかく、どうしてボクは一人なのかというと。

ホテルに着き、家族と談笑などをしていた……までは良かったんだけど。

語るには長い、本当に長いいろいろな事が起きてしまい。

 

父と母は同行できず、一人で知らない土地を見回ることになった。

二人は申し訳なさそうにしてたけど、一人寂しくホテルにいるのもということで外出許可を貰い、厚意に甘えてボクは歩いていた。

 

とはいえボクは目的も、見たいものもあるわけではないから何も考えずに歩いていたわけで。

 

 

「絶賛迷子中、か……」

 

 

子供らしいと言えば子供らしい、そんな状況に陥っていた。

こんな時に限ってスマホは充電切れ、考えてなさすぎで道の記憶もしていないし、周りはどうにも住宅街。

 

ヒロちゃんがいるわけでも、もうする必要もないんだから、ボクのポンコツは仕事しなくていいのに。

 

なんて頭の中で愚痴りながら、空を見る。

綺麗な青空だけど、予報では明日は雪らしい。

……雪、か。

 

 

「嬉しいような、寂しいような……」

 

 

なんだか雪を見ると、訳もなく哀しくなる。

大切なものを忘れているような気がして。

それはまるで、白い雪のように、真っ白に。

 

 

「なんて、今考えることじゃないよね。……困ったな」

 

 

人通りがない、そんな場所でそう呟けば、ボク以外の誰の耳に入ることはない。

何の意味もない、ただのぼやき。

 

 

「お困りなんですかー!?」

 

 

その、はずだった。

背後から聞こえたその声に、反射で振り向いてしまった。

 

それはさっきと違って、聞き覚えのある声で。

そこには、空のように青く澄んだ色の髪を靡かせて。

そういえば、この子はボクより背が高くて。

ボクが出会ってきた中で、一番と言っていいほど明るい子で。

誰よりも、友達想いの、優しい、優しい子で。

 

ボクの、ボク達の、大切な――

 

 

「いや……大丈夫。なんでもないよ」

 

 

――ボクは、顔を、逸らした。

 

 

「えー!?絶対言ってましたよ!困ったって!」

 

 

けどそれは意味がなかった。

大きく足を開いてボクの方へと近づき、無理矢理合わせるように目を合わせてきた。

そしてボクの手を取って、飛び切りの笑顔で言った。

 

 

「この名探偵シェリーちゃんにお任せください!何でもささっと解決しちゃいますよ~!って、大丈夫ですか!?」

 

 

ああ、そうだったのか。

ボクって、悲しむ顔を見せるのも、嫌だったんだ。

 

 

 

 

 

一度目は偶然。

二度目は奇跡。

三度目は必然。

 

なら、四度目は?

 

 

「運命……な訳ないか」

「どうかしましたか?エマさん」

「ううん、なんでも」

 

 

さっきと違って、空に吐いた呟きは空色の少女に拾われて。

ボクはそれに、懐かしさを感じた。

あの頃はよくシェリーちゃんと、あの二人がよく一緒にいてくれたから。

 

 

「でも、大丈夫ですか?さっき泣いてましたけど……」

「ちょっと目にゴミが入っちゃって。防衛本能だよ」

「えー?本当ですか~?このシェリーちゃん、問題解決はお手の物ですよ!」

「……例えば?」

「いじめを解決しました!」

「……流石だね」

 

 

なんだかちょっと嫌な予感をしつつも、優しいのは変わらないな、と安心する。

雑談を挟みながら、ボクはシェリーちゃんに頼んでホテルまでの道を案内してもらっていた。

二周目のボクが案内される側なのは、少し違和感を感じる。

 

 

「ところで、シェリーちゃんはどうしてここに?」

「それはですね、エマさん。あなたをつけてたんですよ!」

「なんで……?」

「この辺だと見ない人だったからですよ!名探偵の勘が何かある、と言ってまして!」

「……まあ、間違いじゃないかもね」

 

 

シェリーちゃんは普段の言動はあれだけど、勘や頭の良さは悪くない。

直感が優れてるんだと思う。

ボクとしては、出会ったのは嬉しいような、嬉しくないような。

 

まだ、後悔が残っているから。

 

なんて思っても、どんなに強く拒否しても、更に押しが強いシェリーちゃんには意味がない。

だからボクは致し方なく、シェリーちゃんと行動していた。

……そう言うには、ちょっとばかり言い訳らしいか。

 

そもそも誰に対しての言い訳なんだろう、と考えていると、シェリーちゃんからの視線が凄く強くなっていることに気づいた。

 

 

「……どうしたの?」

「いや~、エマさん全然表情変わらないなー、と」

「まあ……君とは真反対だろうね」

「可愛い顔してるのにちょっともったいないですよね!」

「シェリーちゃんには負けるよ」

「そうですか~!?えへへ~!」

「……本当にかわいいね」

 

 

照れた風に頭を掻くシェリーちゃん。

その様子はあのころと変わらずで、安心感を思い出させた。

ああ、本当に懐かしい。

 

 

「どうしました?そんなに私の顔を見つめちゃって」

 

 

今度はボクの視線が強くなっていたらしく、逆にシェリーちゃんに問われてしまった。

ボクはどうにも、その場で適当な嘘をつくのが苦手で、いつもすぐに看破されてしまう。

それは死んでも変わらなかった。

 

 

「ちょっと……昔の友達のことを思い出したんだ」

 

 

だから、つい零れてしまった。

 

 

「友達、ですか?」

「……シェリーちゃんに似てたんだよ」

「へー!自分で言うのもなんですが、私に似てるって結構珍しいですね!」

「うん、可愛いとことか、優しいとことかね。そっくりだよ」

 

 

そっくりというより、全く同じというのは黙っておく。

ありきたりだけど本心の褒め言葉を伝えると、シェリーちゃんは不思議そうに驚いていた。

 

 

「可愛いのに~とは言われたことあるんですが、優しいは初めてです」

「君は優しいよ。今もこうやって案内してくれてるし」

「……そうですかね~」

「そうだよ」

 

 

ボクはつい、食い気味で肯定してしまう。

でも、それだけは肯定し続けないといけない。

死んでも、生き返っても、絶対に。

 

 

「気づけてないだけで、君は優しいんだよ。友達想いで……」

「シェリーちゃん友達いませんよ?」

「……」

「いろんな人にお誘いしたんですけどね~、拒否か逃げられてばっかりでした!……うーん。私、友達想いなんですかねー。友達がいないのでわかりませんけど!」

「……あー、その、えっと。ごめん、友達と混同してた。よく、似てたから」

「そんなに似てるんですか~?見てみたいです!写真とかないんですか?」

 

 

気になって仕方ないというのが溢れ出るくらいに、そわそわとボクの前へと大袈裟に立つ。

だけど、残念ながら。

 

 

「ないんだ、何にも。いろいろあって……」

「えー、どうしてですか?」

「いろいろあったから」

「言ってること変わってませんよ~」

 

 

ボクが持っていたのは記憶だけだから。

残念ながら、大切なものは何一つ持っていない。

……人形も、友達も。

 

 

「じゃあじゃあ、思い出はないんですか?そんなに大切なら、そうそう忘れませんよね!」

 

 

その一言は、ボクの頭を真っ白にして、足を止めた。

 

シェリーちゃんは何も知らない。

何も知らないんだ。

だから、何も悪くない。

悪いのは、ボク。

なんだ、まだあるじゃないか。

ボクの罪が。

忘れていた。

忘れていたことを、忘れていた。

 

約束も、願いも、想いも、名前も、優しさも、愛しさも、何もかも。

 

思い出していたふりを、していた。

 

 

「エマさん?」

「……うん、そうだね。覚えてるよ」

 

 

今は。

 

自己嫌悪の圧が増しているのを理解しながら、目を閉じてボクは大切な記憶を辿った。

過去から、一つずつ、巡るように、手に取るように。

だけど、ずっとボクに囁き、話しかけ、叫んでいるものがある。

 

目を開く。

そこには、()()()と変わらない優しい顔があった。

 

 

「その子は、友達のために、友達の命を……奪える子だった」

「……」

「それは正しくなかったけど……でも、それは間違いなく、優しさだったんだよ。でも、ボクは……否定したんだ。友達ってことも、何もかも」

「……人を殺したんですから、人なら普通だと思いますけどね~」

「望んでなんかなかった。望まれたから、しただけ。嫌だったはずなのに、苦しかったはずなのに……」

「人の命を奪えるのが、友達なんですか?」

「それは違うよ、はっきり言える。でも……ボクももう、分からないや」

 

 

シェリーちゃんにはもう笑顔はなくて、悩むような、困ったような顔をしていた。

それでも、ボクは続けた。

 

 

「ボクはもう、友達を作る権利はないから。知ることもない」

「……なんでですか?」

 

 

ボクは自嘲するように、言う。

 

 

「化け物なんだ、ボク」

 

 

魔女という名の、愚かな化け物。

 

どうにも最近、口が軽くなってる。

分かる、分かってる、喜んでるから。

皆に、出会っているから。

 

知ってほしいと、想ってしまっている。

 

 

「人は人とだけ友達になれるから」

 

 

ボクがそんなことを望んではいけない、望んではいけない、心を覗いてほしい、なんて。

顔を伏せ、シェリーちゃんの横を早歩きで通り過ぎようとする。

 

 

「じゃあエマさん!」

 

 

だけど、強い力で手首を掴まれたボクは逃げられなかった。

頭の中には、どうしてとまあまあ痛いで埋まり。

 

 

「私とお友達になりましょう!ね!」

 

 

それはオセロのように、疑問符へと変わっていった。

 

 

「人となら無理でも、化け物同士ならできますよね!」

「は……?何を、言って……」

「いや~、どうにもですね!」

 

 

アハハと笑ってから、シェリーちゃんは言った。

 

 

「気づいたんですが、私エマさんに一目惚れしたみたいなんです!」

 

 

驚きですよね~!なんて、他人事みたいに笑うシェリーちゃんを見たボクは、知った。

ボクは、まだシェリーちゃんを知らない。

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