鏡合わせのアル、あるいは透き通った陸八魔【ブルーアーカイブ×ジャンケットバンク】 作:ていん?が〜
黄金の聖杯に沈む無残な炭塊。それはかつて生きていた人間だ。
アステカを模した極彩色のステージの中心で、鬼方カヨコは腕を組み、冷徹にその光景を睨みつけていた。
「(……灼熱の罰。あの焼け焦げた死体の有様を見るに、ただの熱線じゃない。細胞の水分を一瞬で沸騰させ、骨の芯まで焼き尽くす高密度のエネルギーレーザー。あるいは、それに類する兵器……)」
カヨコは、自らの内に生じそうになる動揺を強引に抑え込もうと、思考を別の方向へと巡らせる。
「(キヴォトス人の頑強な肉体なら、普通の銃弾や爆発には耐えられる。でも、あのレベルの熱をまともに浴びせられたら、私たちの身体だって無事じゃ済まないわ。一撃で死に至らなくとも、肉組織がどれほど破壊されるか分からない……最悪のペナルティね)」
カヨコが唇を噛み締めたその瞬間、ステージ全体のスピーカーから不快な高音が響き渡り、蒲郡福寿の叫び声が空間を震わせた。
『さぁーーて皆様!! お待たせいたしました!
巨大なアステカ風のバックスクリーンに、自動ランダムシステムによって決定された陣営の文字が踊る。
【第1ラウンド・陣営配置】
『お嬢さんたちが、巫女を殺した犯人を隠蔽する『国民陣営』! そして我が班の純黒が、それらを暴き立てる『神官陣営』だ! それでは国民陣営の皆様、1分間の役職選定の密談を開始してください!』
「……よし、切り替えるよ。2人とも、私たちの選ぶべき役割の配置だけど――」
カヨコは低く短い息を吐き出して振り返ったが、その言葉は途中で凍りついた。
ムツキとハルカの2人は、青ざめた顔でガタガタと全身を激しく震わせ、完全に言葉を失っていたからだ。
「アルちゃん……どこぉ……? 怖いよぉ……死にたくないよぉ……」
ムツキのいつもなら悪戯っぽく細められている瞳は限界まで見開かれ、その奥に言葉を失った純粋な恐怖が張り付いていた。
「うわあああん! アル様、助けてくださあああああい!!」
ハルカは涙をボロボロと流し、自分の両腕を壊れるほどの力で抱きしめながら過呼吸気味に泣き叫んでいる。
2人は、本物の『死』を今初めてその目で見たのだ。カヨコとて無理に切り替えただけで、あの死体の衝撃は脳裏にべったりと焼き付いて離れなかった。
「(あの灼熱の罰を受ける可能性のある『
カヨコはそう判断すると、優しく2人の頭へと手を伸ばした。
「ムツキ、ハルカ。私の目をしっかりと見て」
カヨコは2人の頭を優しく撫でながら、力強い声で告げた。
「今回の『
カヨコの温かい手のひらの感触に、2人は涙を浮かべたまま、無言でコクン、と、うなづいた。
『タイムアップーー!! 国民陣営の役職設定が完了いたしました! 続いて、神官陣営の役職開示です!』
【
『それでは尋問を開始せよ! まずは第一の尋問、下級神官ムツキパペットのターンです!』
黒装束の怪人――純黒道三郎の左手が持ち上がり、木製のマリオネットの顎がカチカチと細かく動いた。
怪人の喉から直接放たれた『浅黄ムツキ』の声が響く。
『それじゃあ、ムツキちゃんの真似をしてる君に決〜めたっ! ねえねえ! 昨日の夜、あなたは渋谷のクラブで何杯目のジュースでお腹がいっぱいになったのかなー? クフフフ!』
何の変哲もない、雑談に近い質問。ムツキはカヨコの後ろでビクリと身体を強張らせながらも、必死に答えた。
「え……あ、私は3杯目のメロンソーダ、だけど……」
『はーい、正解! 嘘はついてないみたいだねー!』
『続きまして第二の尋問、下級神官ハルカパペットのターン!』
怪人の右手が跳ね上がり、今度は木製の『ハルカパペット』の大きな目がパチクリと動き、純黒の肉声による『伊草ハルカ』の声が吐き出される。
『ひ、ひいいぃ……それじゃあ、私如きの格好をしたあなたに質問ですぅ……。あなたたちが探していた迷い猫は、首輪にどんな飾りがついていますかぁ……?』
「ひっ……! え、えっと、金色の、小さくて丸い鈴が、ついていました……!」
ハルカもカヨコの入れ知恵通り、淀みなく事実をそのまま答えた。
カヨコは、対面でパペットを操る怪人を鋭く観察しながら思考を巡らせる。
「(何の変哲もない雑談……。これで何を探ろうとしてる? いや、無駄な動揺から犯人を探ろうとしてるだけ? いずれにせよ、次が本命ね)」
『さぁさぁ! 尋問フェーズのラスト!
蒲郡の叫びとともに、天井の太陽のオブジェが禍々しい深紅の光を放ち、カヨコを真上から照らし出した。
純黒が両手のパペットをだらりと下ろし、喉を開いて、初めて自身の声で問いかけてくる。
「――それじゃあ、鬼方カヨコ。あなたに質問よ」
カヨコの心臓が不快に跳ね上がった。怪人の口から漏れ出たのは、正真正銘、『鬼方カヨコ』自身の声だった。
「あなたの現在の役職を基準として……。あなたの、右隣のプレイヤーの役職の文字数と、左隣のプレイヤーの役職の文字数。……その2つの『文字数の合計』は、偶数かしら? それとも奇数かしら?」
カヨコはその声に激しい苛立ちを覚えつつも、すぐに冷静な頭で予想を立てた。
「(自分の声……。動揺を誘うつもりだろうけど、両手のパペットでもう慣れてるわ。問題は質問の答えね。一般国民の4文字と、一般国民の4文字……合計は8文字で【偶数】)」
もし、ここでカヨコが自分が一般国民であると偽るために『奇数』と答えれば、ルール違反でチームは即強制敗北となる。
しかし、正直に【偶数】と答えれば、両隣が一般国民であることが確定し、消去法で自分が『犯人』であることが一発でバレてしまう。
「(切り替えろ……! 私が犯人だとバレても、失うのはこのラウンドのポイントだけ。灼熱の罰の威力を確かめることに意識を向けろ。私が受けて、敵の出力を確かめるのよ。答えよう、でも――)」
カヨコが口を開きかけた、その瞬間だった。
純黒の両手のパペットが、生き物のようにキチキチと不気味に動き出した。
ムツキとハルカのパペットが自らの手を伸ばし、純黒の頭部を覆っている漆黒の顔布の端を掴んだ。
バリィッ!!! と音を立てて、その布を引き剥がした。
「あ――」
カヨコは、息をするのも忘れて凍りついた。
剥ぎ取られた黒布の下から現れたのは、影でも老人の顔でもなかった。
外ハネのついた白黒の髪、切れ上がった真紅の瞳、そして後頭部から生える2本の漆黒の角。
そこには、正真正銘、『鬼方カヨコ自身の顔』があったからだ。
「カヨコちゃん!! しっかりして!! 残り5秒だよっ!!!」
後ろからムツキの悲痛な叫び声が響き、カヨコはハッと我に返って急いで真実を叫んだ。
「――【偶数】よ!!」
チーン、という非情なタイムアップの音が鳴り響いた。
純黒は、カヨコの顔のまま口元を歪に歪ませ、滑らかなカヨコの声で宣告した。
「――神官陣営の代表者として、犯人を指名するわ。犯人はカヨコ、あなたよ」
ドグォォン!!! と、スクリーンに『正解』の文字が浮かび上がる。
「そんな……カヨコちゃんが……」
ムツキがその場に膝をつき、絶望に満ちた目でスクリーンを見上げる。
「カヨコ課長……」
ハルカも絶望に顔を染めて涙を流したが、カヨコはそんなことよりも、目の前の圧倒的な異常から目を離せなかった。
純黒は自身の顔を撫でながら、カヨコの声でゆっくりと口を開く。
「ふふ、不思議そうな顔をしてるわね。便利屋68は、リーダーの陸八魔アルを除くと、ちょうど『3人』。だけど、私の両手は、悲しいことに『2本』しかないの」
純黒の瞳の奥に、底なしの狂気が宿る。
「両手じゃ1人足りない。だから『整形』したのよ。数日かけて『自分の骨をノミで削り』『皮膚を張り替え』『眼を移植し』『髪を植え替え』『声帯も取り替えて』……『削った骨から作ったツノ』を『頭蓋骨にチタンビスで直接固定』したの。ふふ、これで『3人』揃ってるでしょ?」
三日月のように口を歪めて笑う純黒。カヨコの顔のはじだが、カヨコが決してしない醜悪な笑顔をケタケタと浮かべている。
「(狂気……。あいつは、本物の狂人だ……!)」
カヨコがただ人形劇を演じるだけのために取り返しのつかない手術をいとも容易く行う『本物の狂人』を見て戦慄している間にも、カメラの向こうのVIPたちのコメントがモニターに次々と流れ出す。
『ハハハハ! 見栄えがいいじゃねえか!!』
『純黒の枯れ木のような幽霊顔には飽き飽きしていたんだ!』
『ボサボサの長髪より、そっちの艶やかな髪の方が画面映えするぞ!』
『正解発表ーー!! ルール通り、敗者には太陽神からの天罰を受けていただきましょう!! 犯人・鬼方カヨコ、祭壇へ!!』
蒲郡の冷酷な宣告とともに、カヨコの手足は金属製のリングで自動的に固定され、そのまま床ごとゆっくりと上空へ迫り上がっていった。
高度が上がり、カヨコは固定された状態で祭壇の頂上へと到達する。
いつの間にか、天井に吊るされていたあの不気味な太陽のオブジェが、祭壇にいるカヨコの目の前、わずか数mの至近距離までゆっくりと降りてきていた。
『これより、灼熱の罰発動まで、30秒のインターバルをスタートいたします!!』
「(……落ち着け。冷静になるんだ、私……大丈夫、私はキヴォトス人。普通の人間とは肉体の強度が違う。多少の熱線くらいなら、耐えられるはず……)」
カヨコは必死に冷静さを装おうとするが、実際にあれほどの炭化死体を見せつけられた後だ。
一体どんな威力で来るのか全く分からず、本能的な恐怖がどうしても拭えない。心臓が早鐘のように激しく鳴り響く。
【00:05】
【00:04】
カウントダウンが非情に死を刻んでいく。残り3秒となったその時、カヨコは至近距離にある太陽のオブジェの『口元の構造』に、ある奇妙な違和感を覚えて目を見開いた。
「(……? あれ、何……? 太陽の口の奥に、何か……)」
カヨコがその『何か』に気づいた、まさにその瞬間だった。
無情にも、30秒のインターバルが終了した。
――ピキィィィィン!!!
空間が割れるような高周波の駆動音とともに、目の前の太陽のオブジェ全体が爆発的な白色の光に包まれた。
「カヨコちゃあああああああああああああん!!!!!!!」
手を伸ばすムツキの瞳の先、固定されたカヨコの身体に向かって、すべてを焼き尽くす一筋の凄絶な熱線が発射された。
ここまで見ていただきありがとうございます!
次も出来次第、投稿します!
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