ようこそレスラーが行くBクラスの教室へ   作:ちょっと休憩

1 / 3
1-1.入学式

「席を譲ってあげようって思わないの?」

 

 バスの中で本を読んでいると、前方から女性の声が聞こえてきた。顔をあげて前を見ると、ガタイの良い金髪の高校生と、OL風の女性が口論をしている様子が目に入る。

 

-ああ、本当にこの世界に来たんだな。-

 

 ライトノベル「ようこそ実力至上主義の教室へ」で描かれた場面を実際に目撃したことで、俺-西宮圭斗-は、大好きだった世界に転生できたことを改めて実感する。こっそりと周囲を見渡すと、後ろの座席に綾小路と堀北の姿が確認できた。どうやら、俺は綾小路たちと同じバスに乗れたらしい。もう少し早く気が付いていれば彼らの近くに座れたかもしれない、などと少し後悔しつつ、彼らと同じバスに乗れたことをうれしく思う気持ちで胸がいっぱいになる。

 

 大学生だった俺は、ある日突然無機質な部屋で目を覚ました。ホワイトルームってこんな感じなのかな、なんて呑気なことを考えていると、神様らしき優しそうなお爺さんから、自分が死んだことを伝えられた。

 正直、聞いたときはかなりショックを受けた。面倒ながらも授業を受け、部活動でレスリングに打ち込む日々を気に入っていたからだ。

 そんな俺に、神は素晴らしい贈り物をしてくれた。神は、俺が記憶を保ったまま第二の人生を送れるように手配してくれた。しかも次の人生は、大好きなよう実の世界にしてくれるらしい。

 

 こうして転生した俺は今、めでたく高度育成高等学校の制服を着てバスに乗っている。実際に登場人物に会えた事が嬉しくなり、悪いとは思いつつも、ついつい堀北と綾小路の様子を盗み見てしまう。にしても、堀北マジでかわいいな。そして綾小路は本当に表情変わらないな。

 

「皆さん。少しだけ私の話を聞いて下さい。どなたかお婆さんに席を譲ってあげて貰えないでしょうか? 誰でもいいんです、お願いします」

 

 堀北と綾小路を盗み見る不審者ムーブを続けていると、前方の高円寺たちのやり取りに進展があった。櫛田がお婆さんのために、席を譲ってくれる人を探しているようだった。こうしてみると、櫛田は本当に天使にしか見えない。腹黒い裏の顔を差し引いても、櫛田は十分魅力的な女の子だ。

 

「良かったら譲りますよ」

「ありがとうございます!」

 

 お婆さんに譲るために席を立つと、櫛田は満面の笑みで俺に頭を下げ、お婆さんを誘導し始めた。正直、櫛田の笑顔が見たくて席を譲っただけなのだが、お婆さんがほっとした顔で席に座る姿を見ると、譲ってよかったなと心から思えた。

 

「さっきは席、ありがとう。私、櫛田桔梗って言います。よろしくね」

「俺は西宮圭斗。櫛田さん、よろしくね」

「西宮君。うん、覚えた」

 

 席を譲ってから櫛田の近くに立ったことで、彼女に自然に話しかけられた。好きなキャラと初めてする会話は緊張するが、せっかくなので楽しむ。

 

「櫛田さん、さっきは凄かったね。見ず知らずの人のためにあそこまで動ける人、中々いないよ」

「そう言われるとちょっと恥ずかしいな。でも、困ってる人を見ると、放っておけないじゃない?」

「おかげで俺までうっかり良い事しちゃったじゃん。柄にもなく親切にしたせいで、何かちょっとむず痒い」

「あはは。普段はやらないんだ?確かに、西宮君席を譲った時、ちょっと緊張してたもんね」

「緊張バレてたの?恥ず」

 

 櫛田と話をしていると、ついにバスが目的地に到着した。折角なので彼女と一緒にバスを降り、掲示板へと向かう。この世界にとってイレギュラーな存在である俺がどのクラスに配属されるかは、完全に未知数だ。できれば、知っているキャラが多いDクラスだと良いんだけど。

 

「私はDクラスだったよ。西宮君は?」

「俺は…Bクラスだ」

「違うクラスになっちゃったか~。残念」

「だね」

 

 どうやら俺は、そこそこの評価を受けているらしい。Dクラスじゃないのは残念だけど、Bクラスに選ばれてホッとしている自分もいる。坂柳や龍園にこき使われるのは嫌だ。二人ともキャラとしては大好きなんだけどね?

 櫛田と別れ、Bクラスの教室に向かう。Bクラスのメンツと対面するのを楽しみにしながら教室の扉を開けると、半数近くのメンバーがもう既に登校していた。

 黒板に張り出されている座席表を確認し、席に移動する。俺の席は、ちょうど教室の真ん中あたりにあった。

 

「おはよう。西宮圭斗です。よろしくね」

「神崎隆二だ。これからよろしく頼む」

 

 幸運なことに、俺はメインキャラクターの一人である神崎の隣の席になったようだ。口数は少ないが、頭も良いし運動もできて性格も真面目で優しい模範的な生徒だ。ついでに言えば、かなりのイケメン。

 

「西宮、格闘技の心得があるだろう。柔術か?」

「いや、俺がやっていたのはレスリングだ。にしても、俺が格闘技やってるって、よくわかったね」

「耳が変形しているからな」

「よく見てるなー。神崎は、何かスポーツやっていたの?」

「ああ。両親が教育熱心でな。小さい頃から色んなスポーツを体験させられていた」

「色々とか~。素敵なご両親だね」

 

 神崎と会話をしていると、続々と生徒が登校してきた。皆初めての高校生活で、少し緊張した顔をしている。大丈夫、このクラスは学年ぶっちぎりの仲良しクラスになるから。

 その後始業のベルが鳴ったすぐ後に、星之宮先生が教室に入ってきた。優しそうだし奇麗だし、普通の高校の担任の先生でこの人が来たら大当たりだ。多くの男子生徒も内心、俺と同様にガッツポーズをしているだろう。

 

「初めまして、今日からBクラスを担当することになりました、星之宮知恵です。普段は保健室の先生をしています。この学校には学年ごとのクラス替えは存在しないので、卒業までの3年間、私が皆さんの担任になります。皆、これからよろしくね。今から1時間後に入学式が体育館で行われるんだけど、その前にこの学校の特殊なルールについて書かれた資料を配らせてもらうね」

 

 前の生徒から、入学前に配布されていたものと同様の資料が配られる。そこには、原則として学校に通う生徒全員に敷地内にある寮での学校生活を義務付けると共に、在学中は特例を除き外部との連絡を一切禁じていることが改めて記載されていた。

 次に学生証が配布されると、星之宮先生はSシステムに関する説明を始めた。

 

「この学生証を使って、敷地内にあるすべての施設を利用したり、売店などで商品を購入することが出来るようになっています。クレジットカードをイメージしてくれると分かりやすいかな。何かを購入するときは、ポイントを消費するから注意してね。学校内ではこのポイントで買えないものありません。学校の敷地内にあるものなら、何でも購入可能です。ポイントは毎月1日に振り込まれるからね。

 ちなみに、皆さんの学生証には、既に10万ポイントが入っています。このポイントは、1ポイントにつき1円の価値があるからね」

 

 一瞬、教室の中がざわついた。そりゃそうだよな、いきなり学校から10万円のお小遣いを貰ったようなものだし。隣に座る神崎に目を向けると、目を見開いていた。中々お目にかかれないであろう彼の驚いた顔を拝んでおく。

 

「みんな驚いてるねー。このポイントは、入学を果たした皆さんの価値と可能性に対する学校からの評価みたいなものだから、遠慮せず使ってね。

 ただし、いくつか注意事項があります。まず、このポイントは卒業時に全て回収されます。現金化は出来ないってことを、頭に入れておいてね。

 また、振り込まれた後にポイントをどう使うかは、皆さんにお任せします。仮にポイントを使う必要が無いと思ったら、誰かに譲渡しても問題はありません。でも、無理やりポイントを他人から奪う行為は禁止されているので、注意してね。学校はいじめ問題には厳しいから。

 さて、ここまでの説明について、何か質問はあるかな?」

 

 星之宮先生は戸惑う生徒たちを見回す。この説明を聞いて思ったけど、ここでポイントが変動する可能性に気が付ける生徒は化け物すぎるだろ。少なくとも俺は絶対無理。プライベートポイントは沢山欲しいし、早い段階で皆に気が付いて貰えるように誘導したいけど、流石に今質問すると不自然だな。

 

「質問は無いみたいだね。それじゃあ皆、改めて、これからよろしくね」

 

 星之宮先生はそう締めくくると、教室を出ていった。生徒たちだけになった教室は、ポイントの多さや使い道を浮足立って口々に話し合い始める。俺もポイントについて、隣の神崎と話し合う。

 

「神崎は、このポイント何に使う?」

「現状では良い使い道が思いつかない。今のところ、生活に必要なものを購入した後は貯蓄するつもりだ」

「堅実だね。確かに、今後何があるかわからないし、貯めておくのが1番良いと思うよ」

「俺も同意見だ。もっとも、高校生活において多額の費用が必要になるケースは、あまり考えられないがな」

「そうだよなー。何でこんなに大金くれるんだろうな?10万なんて、高校生だと中々使い切らないないだろうに」

「ああ、俺もその点が疑問だ。この学校は既に何年も運営されている。ポイントと学生証が紐づいている以上、歴代の生徒のポイントの使い方に関して、大量のデータが残っているだろう。となれば、大半の高校生の生活に10万も必要ないことは、学校も把握しているはずだ」

「確かに言われてみれば。学校って、これから俺たちがポイントをどう使うのか、全部把握できるのか」

「そう考えるのが自然だろう。なのに学校側は、俺たちに10万ポイントも支給している。しかもそのポイントは、毎月振り込まれる。正直、何かの社会実験の被験者になった気分だ。あるいは、この学校で生活するには、多額のポイントが必要になるのかもしれない」

「なるほど一理あるな。じゃあ神崎は、ポイントが必要になる場合に備えて貯めるつもりなんだね?」

「ああ」

 

 凄いな神崎。まだポイントが変動する可能性には気が付いてないけど、ポイントが大量に必要になる可能性はすでに考慮しているのか。やっぱり優秀だなー。

 

「皆、ちょっといいかな」

 

 いつの間にか黒板の前に立っていた一之瀬が、クラス全体を笑顔で見まわしながら声をかける。こうしてみると本当にとんでもない美少女だな。一之瀬と同じ教室で授業を受けられるだけで、この世界で15年間頑張ってきてよかったと思える。でも欲を言えば、櫛田や堀北、坂柳とも同じクラスになりたい。頑張ってポイントを貯めたら、彼女たちは移動してきてくれたりするんだろうか…無理だよなー、全員リーダー格だし。

 

「私は、ここにいる皆と少しでも早く仲良くなりたい。だから入学式が始まるまでの時間を使って、皆で自己紹介をしたいんだけど、どうかな?」

 

 一之瀬は人柄の良さが前面に出た優しい笑顔で、皆に提案をする。眩しいなー。これを断る人間は、多分世の中にいないだろう。

 多くの生徒から賛同の声が上がり、自己紹介が始まる。

 

「じゃあ、まずは私からだね。一之瀬帆波です。中学の頃は、陸上部に所属していました。趣味はお菓子作りです。これから皆さんと仲良くなれるよう精一杯頑張るので、3年間よろしくお願いします」

 

 一之瀬が自己紹介を終えると、温かい拍手で教室が包まれる。彼女が自己紹介を終えた後は、良い雰囲気のまま順番に自己紹介が始まった。Bクラスは名前や容姿が判明していなかった生徒も多いので、彼らの自己紹介は原作を読んでいた俺にとっても新鮮だった。

 しばらくすると俺の番が回ってきた。良い流れを作って貰えたおかげで、特に緊張もせずに自己紹介を始める。

 

「初めまして、西宮圭斗です。小さい頃からレスリングをやっていました。スポーツ全般が好きなので、運動をするときはぜひ誘ってください。これから3年間、よろしくお願いいたします」

 

 自己紹介を終えると、全員から温かい拍手を貰う。少し視線を感じたのでそちらを向くと、スポーツが得意そうな生徒がこちらに笑顔を向いていた。バレー部に入りたいと言っていた安藤紗代と、サッカーが得意な柴田颯だ。どうやら、スポーツが好きだといったことで、彼らに興味を持ってもらえたらしい。

 

 その後自己紹介を終えた後、入学式を経て、その日は解散となった。待ちに待った高育での生活が、ようやくスタートしたのだった。

 




これから少しずつ投稿していきます。よろしくお願いいたします。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。