やっとデュエル回です めっちゃ長いのでゆっくり読んでね
【本作品内でのデュエルルール】
LP4000
アニメ本編〜2020年頃までに登場したカードを使用しています。
(マスターデュエル:OCG準拠/スピードデュエル:リンクス準拠)
一部アニメオリジナルのカードの使用もあります。
人影のないLINK VRAINSの路地裏。
降り注ぐデータの雨がアスファルトを模した地に落ち、冷たいノイズへと変わっていく。私はローブを深く被り、手中のフォルダに収まった数枚のカードを見つめていた。
「……確かに受け取りました」
電子の脈動を宿す『サイバース族』のカード。それは、現在のデュエルシーンではほとんど知られていない、名もなきガラクタ――あるいはバグの産物とされている。
「……用途も出所も一切不明。どこで拾ったかすらも覚えていない、気味の悪いカードだ。まともなデュエリストなら見向きもしないブツだが……お前のような物好きな『
眼前の男の、低くざらついた声。
「ええ、コレクションとはそういうものですから。誰に理解されずとも、その価値は私が決めるもの。……代金は指定の口座へ」
感情を殺した私の声は、雨の音に混じって消えていく。
男は報酬額を確認すると、それ以上の興味を失ったように、一度も振り返ることなく闇に消えた。取引は成立した。私は再び、路地裏を歩き出す。
(……お父様。あなたが残した『ハノイ・プロジェクト』という空白。それを埋めるピースは、もうすぐ揃う……)
父の遺したパズルを解いたあの日。私の心は一度、真っ黒に染まった。
父を奪い、平然と日常を営む世界を、組織を、その根源を呪った。必ず犯人に辿り着き、その心臓を握り潰すことだけが、生きる意味だとさえ思っていた。だが、月日は残酷なまでに静かに流れ、その煮え滾る思いはいつしか形を変えていった。
怒りに狂う視界では、父が最後に託したデータの真意は読み解けなかった。調査や解析を進めるほどに、それは私に問いかけてきたのだ。
――お前が見るべきは、絶望の果てか。それとも、その向こうにある真実か。
今の私を突き動かしているのは、復讐という熱ではない。喉の奥に張り付いて離れない『なぜ』という渇きだった。
なぜ、父はあの言葉を残したのか。なぜ、このカードたちが『鍵』を握っているのか。
父が最後に何を視て、何にそのすべてを賭けたのか。今の私は、その答えを書き留める観測者だ。そして、もしその答えが救いようのない絶望であるのなら――私は、私の時間を動かすために、この物語に終止符を打たなければならない。
「――そこまでだ」
突然、声が重なった。
目の前にいるのは複数の男たち。白の装束と仮面が路地裏の闇に浮き上がり、出口を塞いでいた。一人、二人――三名。
「貴様、その下に何を隠している。そのカードは、我らハノイの騎士が管理するものだ。大人しく渡してもらおう」
彼らの言葉に、私はフードの下で薄く唇を歪める。
やはりそうだ。彼らは特定のカード――『サイバース族』を組織的に狙っている。
父のデータには、プロジェクトの到達点として、人類の意思を介在させない『次世代ネットワーク』の構築が予言されていた。彼らが血眼になって探している異質のデータ群。これこそが、父が設計段階から最も危惧していた、制御不能な『禁忌の進化』なのだと私は確信していた。
「管理? 随分と勝手なことを。これは対価を払って手に入れた私の所有物。ですが、もしどうしてもと言うのなら……『交渉』と参りましょう」
デュエルディスクを起動させると、雨のノイズを切り裂いて鋭い電子音が響く。
襲撃者の一人が嘲笑を浮かべた。
「我らに歯向かうつもりか。身の程を知れ!」
『――デュエル!』
だが、彼らは知らない。
これまで私があらゆる
「現れろ! 真理へ至るサーキット!」
流れるような手捌きでカードを展開する。私のフィールドに並ぶのは、闇を纏う機械の残骸たち。やがて路地裏に響いたのは、男たちの断末魔と、ライフポイントがゼロを刻む電子音だった。
「な……何なんだ、一体……!」
ローブの裾が風にたなびく。
私は地に伏した男たちを見下ろし、静かに告げた。
「あなた方の『主』に伝えなさい。……真実を求める者が、地獄の底からあなたを迎えに来たと」
――その言葉が引き金となったのか。湿った空気の向こうから、空間を切り裂いてその男は現れた。
ハノイの騎士を統べる首領、リボルバー。
彼は倒れた配下たちに目もくれず、ただ真っ直ぐに私を見据えた。その仮面越しに放たれる威圧感は、先ほどの男たちとは比べ物にならない。
「……ほう。『真実を求める者』か。増長したネズミの言葉にしては、少々耳障りが良いようだが……。よもやサイバースの力を欲する、とでも言うまいな」
彼の問いかけに、私は微動だにせず答える。
「私が求めるのは、この世界に隠された『空白』。それを埋めるために、あなた方の真実――あるいはその命を、差し出していただきます」
データの雨は、次第に激しさを増していく。
「目的が何であれ、我々の邪魔はさせん。貴様が握るそのカード……『サイバース』を回収させてもらう」
「……できるものなら。ですが、まずは対価を支払っていただきましょう。あなた方の『正体』という、最も価値ある情報を」
彼は冷たい笑みを浮かべ、指先を突きつけた。
「戯言を。貴様の歩んでいる道は、もはや引き返せぬ破滅へと続いている。……理由は三つ」
その瞬間、私の思考回路に雷鳴が轟いた。
脳裏に蘇るのは、かつての幸福な記憶。まだ父がいて、陽だまりのような温もりが日常だった頃の景色。
「一つ、貴様は我々ハノイの核心に近付きすぎた。二つ、そのカードを扱う資格は貴様にはない」
その独特の言い回し。そして傲慢なまでの自信と、それを支える揺るぎない理屈。
耳を打つ雨音が、遠い日の『約束』の声と重なる。
「そして三つ――私が、ここで貴様の歩みを止めるからだ」
男の言葉が終わる前に、私は深く被っていたフードに手をかけた。
指先が微かに震える。それが恐怖なのか、あるいはこれまで待ち望んだ最悪の『答え』への歓喜なのか、私自身にも判別がつかなかった。
ノイズと共に潜入用の擬装が剥がれ落ち、長い髪が風にほどける。
「……鴻上了見」
仮面の奥の瞳が、大きく見開かれる。
数秒の沈黙。時間が止まったかのように長い空白だった。
「やはり、あなただったのね――」
リボルバーの肩が、目に見えて震えた。先ほどまでの威圧感が一瞬で崩れ、仮面の下の『少年』が顔を覗かせる。
「なぜ、ここに……」
その声は、かつて私に微笑みかけてくれた、あの優しい響きそのものだった。だが、彼はすぐに自嘲するような笑いを漏らす。
「……そうか。地獄の底から迎えに来たというのは、言葉通りというわけか」
彼は突き放すように、冷たい声を重ねた。
「今すぐ立ち去れ。ここは、お前のような者が足を踏み入れていい場所ではない。お前は……光の中にいるべきだ」
「光……。そんなものは、もうどこにもないわ。あの日から」
私は一歩も引かず、デュエルディスクを構える。
かつて二人で見上げた一番星の輝きは、今はもう、この雨に掻き消されて見えない。
「私を拒絶すると言うなら、力で証明して。……デュエルよ、了見。この戦いで、お互いの『真実』を曝け出しましょう」
「……いいだろう。だが容赦はしない。このデュエル、私が勝てば――もう二度と私の前には現れるな」
激突する二つの意志。降り注ぐデータは、私たちを飲み込む黒い雨粒へと変わっていた。
***
『――デュエル!』
互いの宣言に呼応し、デュエルディスクが起動音を上げる。
かつて、父の傍らで彼とカードを並べていたあの日が霞んでいく。指先に感じるソリッドビジョンの感触だけが、今の私にとって唯一の現実だった。
「先攻はもらうわ。手札から魔法カード《星遺物の
映し出される五枚のカードデータ。その中から、一筋の希望を手繰り寄せる。
「デッキの上から五枚を確認し、その中の『星遺物』カード一枚を手札に加える。私は『星遺物を継ぐもの』を選択。残りのカードはすべて、墓地へ送るわ」
(私は、ただ知りたいだけ。お父様が遺したデータの先、あなたが選んだその道……その答えを)
指先でカードを弾く。オルフェゴール・スケルツォン、星遺物-『星盾』、オルフェゴール・コア、オルフェゴール・プライム――。次々と墓地へと送られていくそれらは、システム上で処理されているだけのはずなのに、どこか淀んだ音を立てる。まるで、父の無念が形を変えたかのように重い。
(……ああ、私は)
これは復讐ではない、と自分に言い聞かせてきた。それなのに、なぜ。このデッキを構成するカードたちは、これほどまでに喪失と執着の香りがするのか。
「私は、永続魔法《オルフェゴール・アインザッツ》を発動! さらに、モンスターとリバースカードをセット」
静かな初動。私の心は凪いでいる。だが、この手で選んだカードたちは、触れる者を呪うような禍々しい熱を放つ。この矛盾と重みこそが、私が押し殺してきた『あの日』からの憎悪そのもの――あるいは私という人間の正体だというのか。
「私はこれでターンエンド。あなたの番よ」
リボルバーは無言で私の盤面を見つめている。その仮面の下にある瞳が、私の虚勢も、その裏にある醜さもすべて見透かしているような錯覚に陥り、背筋に冷たさが走る。
「……『オルフェゴール』か。死した魂を物言わぬ器に閉じ込め、偽りの楽園を築こうとした哀れな残骸。実に相応しいデッキだ」
「……!」
言葉では綺麗に整理したつもりでも、無意識のうちに選び取ったのは、この救いのない闇の力だった。今、私の内側に澱む激情が、この冷たい機械たちと共鳴しているのを否定しきれない。
「だがお前がどれほどのものを積み上げようと、この弾丸がすべてを貫く。私のターン、ドロー!」
リボルバーの声が雨音を切り裂く。彼は迷いなく手札を突き出した。
「フィールド魔法《リボルブート・セクター》を発動。このカードの効果により、手札から『ヴァレット』モンスター二体を特殊召喚する。来い! 《メタルヴァレット》! 《マグナヴァレット》!」
咆哮と共に、弾丸の化身たちが彼を護るように並ぶ。その瞬間、私のデュエルディスクが反応する。
「この瞬間、《アインザッツ》の効果! 相手の場にモンスターが特殊召喚されたことで、私はデッキから《オルフェゴール・ディヴェル》を墓地へ送る!」
「無駄な足掻きを。私は《ゲートウェイ・ドラゴン》を通常召喚し、その効果で手札の《スニッフィング・ドラゴン》を特殊召喚。さらにスニッフィング・ドラゴンの効果で、同名カードをデッキから手札に加える」
ゲートウェイ・ドラゴンが次元の門を開き、そこからスニッフィング・ドラゴンが這い出す。リボルバーの場には、瞬く間に四体のモンスターが並んだ。
「顕現せよ、我が道を照らす未来回路! アローヘッド確認! 召喚条件は、ドラゴン族・闇属性モンスター二体。私は《スニッフィング》と《マグナヴァレット》をリンクマーカーにセット! リンク召喚! 現れろ、リンク2――《デリンジャラス・ドラゴン》!」
彼はさらに展開を重ね、私のフィールドを崩すための布陣を着実に整えていく。空に穿たれた回路へ、ドラゴンたちが吸い込まれる。
「さらにリンク召喚! 召喚条件は、効果モンスター三体以上。私は《メタルヴァレット》、《ゲートウェイ》、リンク2の《デリンジャラス》の三体をリンクマーカーにセット! サーキットコンバイン! 閉ざされし世界を貫く我が新風! 現れろ、リンク4――《ヴァレルロード・ドラゴン》!」
殺意にも似たオーラ。巨大な砲身をその身に宿したドラゴンが、地に落ちた雨を蒸発させるほどの熱量を放ちながら、私の前に立ちはだかった。
「バトルだ! ヴァレルロード・ドラゴンで、裏守備モンスターに攻撃――天雷のヴァレル・カノン!」
《ヴァレルロード・ドラゴン》ATK 3000 → 《オルフェゴール・スケルツォン》DEF 1500
放たれた一撃が、セットされたモンスター――オルフェゴール・スケルツォンを無慈悲に貫き、粉砕する。爆風に身を焼きながら、私は唇を噛み締めた。
「私はこれでターン終了だ。……さあ、選ぶがいい。その指先で絶望への引き金を引くか、それともここで賢明に屈するか」
今の彼にあるのは、すべてを焼き尽くさんとする破壊の意志だけだ。
「私のターン――ドロー!」
引き当てたのは、『オルフェゴール・カノーネ』。私は震える指で、そのカードをフィールドへ繰り出す。
「手札より《オルフェゴール・カノーネ》を通常召喚。そして墓地の《オルフェゴール・ディヴェル》の効果を発動! 自身を除外し、デッキから《オルフェゴール・トロイメア》を特殊召喚する!」
楽器を繋ぎ合わせた異形のモンスターたちが次々と現れ、駆動音を激しく鳴らす。
「現れろ、真理へ至るサーキット! 召喚条件は『オルフェゴール』を含む効果モンスター二体。私は《カノーネ》と《トロイメア》をリンクマーカーにセット! リンク召喚! 現れろ、リンク2――《オルフェゴール・ガラテア》!」
無機質な自動人形の乙女が、巨大な鎌を手に戦場に舞い降りる。私は間髪入れずに効果を重ねた。
「私は《ガラテア》の効果を発動。除外されている《ディヴェル》をデッキに戻し、フィールド魔法《オルフェゴール・バベル》をセット……そして発動! さらに墓地の《スケルツォン》の効果。自身を除外し、墓地の《カノーネ》を特殊召喚!」
「……底なしの泥沼へ、自ら足を沈めるというのだな」
その言葉に、拳を握りしめる。
父を奪い、真実を隠し続ける世界。そして、私を突き放そうとする目の前の彼。湧き上がるのは、もはや『答え』への渇望だけではない。すべてをなぎ倒し、この沈黙をこじ開けたい――心の奥底に沈むその衝動が、不協和音となって路地裏に木霊する。
「さらにリンク召喚! 召喚条件は『オルフェゴール』を含む効果モンスター二体以上。私は《カノーネ》とリンク2の《ガラテア》をリンクマーカーにセット! サーキットコンバイン!
現れろ、リンク3――『オルフェゴール・ロンギルス』! そして魔法カード『星遺物を継ぐもの』発動! 《ロンギルス》のリンク先に、墓地の《ガラテア》を呼び戻す!」
回路が開き、闇が溢れ出す。
「
黄金の巨躯が君臨し、リボルバーのヴァレルロード・ドラゴンと対峙するように、重低音を響かせる。
「……あなたに届くまで、何度でも這い上がってみせる。バトルフェイズに移行するわ! この瞬間、墓地の《トロイメア》の効果発動――」
「させるものか! 《ヴァレルロード・ドラゴン》の効果――『アンチ・エネミー・ヴァレット』! 《オーケストリオン》の攻撃力を500ダウンさせる!」
ヴァレルロードの咆哮が、オーケストリオンの出力を抑え込む。だが、私の指先はすでに次のカードに触れていた。
「墓地の《トロイメア》の効果! 自身を除外し、デッキから《星遺物-『
《オルフェゴール・オーケストリオン》
ATK 3000 → 2500 → 3300
「バトルよ……《オーケストリオン》で《ヴァレルロード・ドラゴン》に攻撃!」
《オルフェゴール・オーケストリオン》ATK 3300 → 《ヴァレルロード・ドラゴン》ATK 3000
力の差が逆転し、ヴァレルロードがオーケストリオンの奏でる死の旋律によって崩壊していく。その瞬間、凄まじい衝撃がフィールドを埋め尽くした。
「……く、っ……!」
リボルバー
LP 4000 → 3700
「私はこれでターンエンド。フィールド魔法《オルフェゴール・バベル》がある限り、進軍は止まらない……もう終わりにしましょう。『ハノイの騎士』とは一体何なの? あの日から、あなたに何があったの?」
絞り出した声は、雨音に混じって消えた。
私の知っている彼なら、きっとこの問いに答えてくれる。彼とともに過ごした、あの穏やかな日々の続きがある。どこかでそう信じていた。
だが、彼は答えない。硝煙の向こうから聞こえてきたのは、冷たく乾いた声だった。
「……お前は、何も分かっていない」
リボルバーは、ゆっくりと顔を上げた。
倒れたヴァレルロードを顧みることもなく、一点の曇りもない、狂気すら孕んだ眼をこちらに向ける。
「その、失ったものを蘇らせようとする願い。それは『種』に執着し、滅びを拒む『イグニス』――奴らの醜悪な生存本能と何が違う?」
「え……?」
「お前は真実を求めているのではない。ただ、かつての『幸福な過去』という幻影に縋っているだけだ。その甘さこそが……この世界を、そして私をも破滅へ追い込むものと知れ!」
その言葉は、私が抱いていた淡い期待を最も残酷な形で踏みにじる。
「違う、了見! 私はただ……!」
「もうその名を呼ぶな! 私は、ハノイの騎士――
リボルバーの手がデッキへとかかる。私の指先が、怒りとそれ以上の絶望で激しく震え始めた。
「……私のターン、ドロー! フィールド魔法《リボルブート・セクター》の効果発動。墓地の『ヴァレット』を守備表示で特殊召喚する。来い、《マグナヴァレット》! さらに、墓地の《デリンジャラス・ドラゴン》の効果! 自分フィールドに『ヴァレット』が特殊召喚されたことで、自身を特殊召喚する!」
私のデュエルディスクが、リボルバーの展開に反応して甲高い音を上げた。
「この瞬間! 再び《アインザッツ》の効果で、《ディヴェル》を墓地へ送る!」
「抜かりないな。だが、その執念がお前自身を追い詰める。私は《トリガーヴルム》を通常召喚! 現れろ、我が道を照らす未来回路! 召喚条件は『ヴァレット』モンスターを含むドラゴン族二体!」
彼はトリガーヴルムとマグナヴァレット・ドラゴンを回路へと捧げる。
「現れろ、リンク2――《ソーンヴァレル・ドラゴン》!」
両腕に二連の銃身を構えるドラゴンが、オーケストリオンを照準に捉えた。
「《ソーンヴァレル》の効果発動! 手札の《スニッフィング・ドラゴン》を捨て、《オーケストリオン》を破壊する!」
「っ、そんな……!?」
「残骸を繋ぎ合わせたガラクタなど、一発の弾丸で十分だ」
轟音と共に、鋼鉄のパイプが砕け散る。
父が遺したデータの象徴とも言えるオーケストリオンが、いとも容易く蹂躙された。その喪失感に、胸の奥が疼く。
「さらに《ソーンヴァレル》の効果により、破壊したモンスターのリンクマーカーの数まで、墓地の『ヴァレット』を特殊召喚する。蘇れ《マグナヴァレット》、《メタルヴァレット》! 見るがいい、これが私の『答え』だ。現れろ、我が道を照らす未来回路! 私は《マグナヴァレット》、《メタルヴァレット》、リンク2の《ソーンヴァレル》をリンクマーカーにセット! リンク召喚! 現れろ、リンク4――《ヴァレルガード・ドラゴン》!」
それは不動の守備か、絶対的な拒絶か。
眼の前に座す新たなドラゴンは、先ほどのヴァレルロードとは違う、威圧的な沈黙をもって私を見下ろす。
「お前の場に盾となるモンスターはいない。このバトルで終わりだ! 《ヴァレルガード・ドラゴン》でダイレクトアタック!」
「それはどうかしら……! 墓地の《ディヴェル》を除外し、デッキから《トロイメア》を守備表示で特殊召喚! 《トロイメア》は、リンクモンスターとの戦闘では破壊されない!」
虚無の器が盾となり、ヴァレルガードの攻撃を辛うじて受け止める。だが、衝撃波が私の身体を叩き、濡れたアスファルトへと打ち付けた。
ライフへのダメージは無くとも、痛い。だがこの痛みさえも、今は彼と繋がっている証のように思えてしまう。
「……っ、くっ……!」
「……愚かだな。お前が手にしているデッキ、ましてや『サイバース』など……そんなものを振りかざし、真実を語るとは」
仮面越しに投げかけられる言葉が、物理的な衝撃よりも深く、私の心を抉る。
「……どうして、そこまで……」
「我々のことも、このネットワークに沈む闇も……お前の求める『真実』の中に、救いなどない。もはや残された道は、ここで私に敗れ、すべてを忘れて光の下へ帰ることだけだ」
「……言ったはずよ。私にはもう、光などないと。あなたがそうまでして私を拒むと言うなら、その身に食らいついてでも剥ぎ取るまで……!」
「ならばそのまま、憎しみと共に朽ち果てるがいい……。私はカードを一枚伏せ、ターンを終了する」
奥歯を強く噛み締める。たとえ、このデュエルの果てに待つのが絶望だとしても、もう目を逸らすことはできない。
降り注ぐ雨が、鉄の味を含んで唇を濡らした。
「……このエンドフェイズ時、墓地の《スケルツォン》の効果を発動」
「っ……! 何のつもりだ……」
「自身を除外し、《オーケストリオン》を墓地より特殊召喚する」
「そこは……!」
地を割るような音と共に、黄金の自鳴機が再起する。降り立ったのは、ヴァレルガード・ドラゴンのリンク先――その喉元に食らいつく至近距離。
「……私のターン、ドロー!」
このターンが最後になる。そう予感させるほどの熱が、引き抜いたカードから伝わってくる。私の視界が滲んでいるのは、この止まない雨のせいか、それとも。
「墓地の《星遺物-『
機械仕掛けの亡霊たちが光へと還っていく。やがてその粒子が集まり、巨大な『器』へと形を変えた。
「《星遺物-『
戦場の中央に、すべてを呑み込むような櫃が鎮座する。リボルバーは微動だにせず、冷たい視線をただそこへと向けた。
「バトル! 私は《星櫃》で、《デリンジャラス・ドラゴン》に攻撃!」
「無駄だ! 《ヴァレルガード》の効果発動! 《星櫃》の表示形式を、攻撃表示から守備表示へと変更する!」
ヴァレルガードが放つ不可視の圧力が、星櫃を沈黙させる。
フィールドには攻撃権を残したオーケストリオンが静かに構えているが、リボルバーの瞳に揺らぎはない。むしろ、この瞬間を嘲笑うかのようにリバースカードを起動した。
「甘いと言ったはずだ! さらに永続罠《六芒星の呪縛》発動! 《オーケストリオン》の攻撃を封じる!」
空間に描かれた魔法陣がオーケストリオンを閉じ込める。両腕が軋みを上げ、動きを止めた。だがリボルバーの狙いは、この攻撃の封殺だけではない。
「今に《デリンジャラス・ドラゴン》の効果が牙を剥く。このターンのエンドフェイズ時に、攻撃宣言を行っていない《オーケストリオン》を破壊し、その元々の攻撃力分のダメージをお前に与える! 次のターンで引導を渡してくれよう!」
絶望が背筋を這い上がる。だが、この凍てつく恐怖こそがあの日から私が抱え続けてきた現実の温度だ。
「……いいえ、このバトルで決着をつけるわ! カウンター罠《オルフェゴール・クリマクス》発動! 《オーケストリオン》が場にいることで、《六芒星の呪縛》の発動を無効にし、除外する!」
「さらに墓地の《トロイメア》の効果! デッキから《星遺物-『
《オルフェゴール・オーケストリオン》
ATK 3000 → 3800
魔法陣が闇に消え、オーケストリオンの両腕が再び唸りを上げる。因果を断ち切るその一手に、リボルバーの仮面が驚愕に揺れた。
「……あなたの言う通り、私は過去に縋っているだけなのかもしれない。でもそれが、それだけが、今の私にある唯一の『繋がり』……それを手放してしまったら、私にはもう何も残らない……!」
一歩、アスファルトを強く踏みしめる。跳ね上がる泥水が脚を汚そうと構わない。濡れた指先は感覚を失うほど冷え切っているのに、胸の奥だけが焼けるように熱い。
「《オーケストリオン》の効果発動! 除外されている《トロイメア》、《ディヴェル》、《スケルツォン》の三体をデッキに戻し、リンク状態の相手モンスター全ての攻撃力を――0にする!」
「っ、何だと……!」
オルフェゴールたちの魂が、オーケストリオンの奏でる鎮魂歌とともに回帰する。その音色が響くたび、リボルバーの誇るドラゴンたちの輝きが、色褪せるように失われていった。
《ヴァレルガード・ドラゴン》
ATK 3000 → 0
《デリンジャラス・ドラゴン》
ATK 1600 → 0
「……っ……!」
「終わりよ……その沈黙ごと、全てを貫く! 《オーケストリオン》で《ヴァレルガード》に攻撃!」
《オルフェゴール・オーケストリオン》ATK 3800 → 《ヴァレルガード・ドラゴン》ATK 0
リボルバー LP 3700 → 0
「ぐ、あああああ……っ!」
オーケストリオンの全身から放たれた闇の奔流が、無防備となったヴァレルガードを正面から粉砕した。吹き飛ばされるリボルバーの姿が、スローモーションのように視界に焼き付く。
ソリッドビジョンが消え、路地裏には静かな雨音だけが残った。
膝をつき、激しく肩で息をするリボルバーの元へ、私は震える足でゆっくりと歩み寄る。その距離は、かつて彼と手を取り合いながら通った帰り道よりも、ずっと遠く感じられた。
***
「……負けたのか、私は」
仮面の下から漏れる声は、酷く掠れていた。力無くうなだれた肩を、止まない雨が容赦なく叩く。彼は立ち上がろうとせず、ただ地面を見つめていた。
勝利の昂揚感など、まるでない。ただ、長年胸を塞いでいた問いを叩きつけるために、私は彼を見下ろした。
「約束よ……全てを話して。あの日から、私の父に何があったのか。あなたが何を背負って、その仮面を被っているのか」
「……君がそのデッキを選び、ここに辿り着いた時点で、私は悟るべきだったのかもしれない」
彼は静かに語り始めた。鴻上博士が主導した『ハノイ・プロジェクト』の全容。誘拐された六人の子どもたち――その悲鳴とデュエルデータから、意思を持つAIプログラム『イグニス』が産み落とされたこと。そしてシミュレーションの果てに、イグニスの存在が人類を滅ぼすという結論を出したこと。
「我々『ハノイの騎士』の使命は、人類の未来を阻む『イグニス』をすべて殲滅すること。……だが、その始まりとなったあの日……」
言葉が一瞬途切れた。彼は雨に濡れた自分の手を見つめ、口の端を歪める。
「……父は、一線を越えた。そして君の父――周防氏は、ずっと独りで戦っていた。私の父を止めようと、子どもたちを救おうと……。だが、SOLは彼を『危険因子』として処理した」
そこまでは、私があのパズルから読み解いた真実と同じだった。
父が、日常を捨ててまで守ろうとしたもの。それが組織という巨大な力に潰されていく光景が、ありありと脳裏に浮かぶ。
「匿名の通報があったことで、ロスト事件は解決したと知ったわ。……それなのに、なぜ父は消されなければならなかったの?」
「……SOLも、私の父さえも、あの事件を終わらせたのは君の父だと信じている。だが……実際にあの日、受話器を取ったのは私だ」
私の心臓が、嫌な音を立てて跳ねた。
「私は、あの実験への恐怖と、子どもたちへの罪悪感に耐えかねて事件を通報した。……私は、君の父がすべてを賭して叫んでいた『人の良心』を、震えながらなぞっただけに過ぎない。そして通報の後、SOLにより電脳ウイルスを流し込まれた私の父は意識を失い、生ける屍となった。……この手に残ったのは、肉親を、そして恩人をも裏切って得た、薄汚れた生存権だけだ。私は、君の父の犠牲の上に立っている偽善者だ」
「犠牲……? どういうこと!?」
「君の父は正しかった。彼こそが、あの場で真の正義を貫こうとした唯一の人間だった。だが、通報によって私の父が拘束された際、SOLの上層部は通報者を彼だと断定した。……彼は私の代わりに、組織の怒りをすべて買い、闇へと葬られたのだ」
その高潔な魂、そして誇りだけが、真っ黒に染まった私の心を支え続ける唯一の光だった。父は誰かを救おうとして戦い、抗い、そして排除された。そう信じることで、私は自らの憎しみを正当化し、かろうじて立っていられた。だが父は、親友の息子――了見の行為の身代わりとなり、すべての泥を被ったというのか。
「君は私を『味方』だと思ってここまできたのかもしれない。……だが、真実は逆だ。私は君から父を奪い、その名誉までも汚し、自分だけが今日まで生きてきた」
私の内側で、耐えがたい怒りと悲しみが渦を巻く。彼は父を奪った一因であり、同時に、父が守りたかったものを代わりに守った存在。
脳裏にあの日の光景がフラッシュバックする。父の腕をねじ上げた警備員たち。転がる眼鏡。そして、私を塞いだ彼の手。あの時、彼は私を庇いながら、きっと自分自身の恐怖とも戦っていたのだ。そしてやがて、耐えきれずに受話器を取った――。
「そんな、そんなことが……!」
今にも膝から崩れ落ちそうになるのを、必死に堪える。
私が今日まで抱いてきた憎しみは、一体どこへ向ければいい? 父を陥れたSOLか。狂気に走った
「私に、どうしろと言うの……」
「……裁くがいい。このデュエルの勝者として、そして仇として、私の存在を消し去る権利が君にはある。……ここで復讐を遂げ、この呪われた連鎖を断ち切れ」
彼は自嘲するように、自ら首を差し出した。その姿に、かつて私の耳を塞いだ少年の面影が重なる。
――殺したい。
この指先を少し動かすだけで、この男の意識をネットワークの藻屑に変えられる。この男がいなければ、父は今も私の隣で笑っていたかもしれない。その喉元を掻き切りたいという衝動が、肺の奥までせり上がってくる。だがその殺意を、別の痛みがせき止める。
――でも、殺せない。
あの日、父が手をかけたレバーを、代わりに引いたのはこの男だ。父が救いたかった命を、その手で掬い上げたのは、目の前でうなだれるこの男なのだ。自分自身の父親を――敬愛していたはずの鴻上博士を裏切った、幼い日の彼の絶望。あの日、私の耳を塞いだ手の、冷たい震え。
憎悪と慈愛が、私の内側で濁流となってぶつかり合う。どちらを選んでも、私は父を裏切るような気がして、呼吸の仕方を忘れるほどの感覚が全身を走った。
「そんな言葉で、楽になれるとでも思ってるの……! 父は名前さえも消されて、ゴミのように捨てられた。……なのに、あなたは……!」
言いかけて、言葉が詰まる。
父が遺したパズル。あの冷たいデータ群に隠されていた、不自然なほどの『余白』が、ふいに脳裏に浮かぶ。
『――もしこれをお前が開いているのなら、私はこの家にいないのだろう』
父は知っていた。自分が動けば消されることを。それでも、あの時レバーに手をかけた。そして私に言ったのだ。
『 ……そして忘れるな、この子たちの声を!』
あの時、父が視ていたのは、娘である自分だけではなかったはずだ。私を庇い、震えていた了見。そして、モニターの向こうで苦しんでいた子どもたち。
父はリスク管理のプロとして、あの場の『最悪』を予測していた。自分が拘束されることも、職を追われることも。そして、それでも見過ごしてはならないということも。
(お父様は……賭けたというの? それとも――)
自分が動けなくなったとき、その『正義』が誰に宿るのか。
父の最後の言葉。あれは私へのメッセージであると同時に、あの場に残された者に火を灯すための、決死のバトンだったのではないか。
「……違う。あなたは、偽善者なんかじゃない」
私の言葉に、彼の瞳が大きく見開かれる。
――慈悲ではない。赦したわけでもない。この割り切れない苦しみは、一生消えることはないだろう。だが、ここで彼を消してしまえば、父が託した『良心』の種まで、今度こそ永遠に失われてしまう。
彼を憎もうとするたび、その言葉は喉の奥で崩れ落ちた。それ以上に重い、父からのバトンを天秤にかけ、私は血を吐くような思いで後者を選び取ったのだ。そして、私の視界を塞いだあの日の指先が、なぜあんなにも冷たく震えていたのか――その答えをようやく見つけた気がした。それは単なる恐怖ではなく、やがて彼が受話器を取るために振り絞った、あまりに早すぎる『決別』の予兆。
そして長い間、彼はこの重い事実を喉元に突き立てられたまま、痛烈な自責の念に焼かれ続けてきた。その地獄のような孤独の深さを思い、心の奥が疼いた。
「父が恐れたのは、真実が闇に葬られること。そして何よりも、あの子どもたちの命が犠牲になることだった。……あなたは、そのどちらも食い止めてくれた」
「……何を言っている! 私は――」
私は震える手を伸ばし、泥に汚れた手袋に包まれる彼の手をそっと取った。
「……いいえ。父の叫びがあなたに届いたのなら、父の戦いは無駄ではなかった。あなたはあの日、父が成し遂げられなかった『正義』を、その手で繋ぎ止めてくれたのね」
「違う……放せ! 私は、君の父を利用したに等しいのだぞ! 彼は、私のせいで……!」
「でもそう思わなければ、私はここであなたを殺めてしまう! ……それともあなたは、父の賭けは無駄だったと、父の行動は間違いだったと貶めるつもりなの……!?」
雨音を突き抜ける叫びに、彼の身体が弾かれたように強張る。
彼の拒絶は、優しさゆえのものだと分かっている。だが、私はもう守られるだけの子どもではない。父のパズルを解き、このデッキを組んだ瞬間に、私は安穏とした日常を捨てたのだ。
「……父は、ずっと前から分かっていた。自分ひとりの力だけでは、組織には決して抗えないことを。それでも叫び続けたのは、その声を受け継いでくれる『誰か』がいると信じていたから。……あなたは、父が一番望んでいた子どもたちの救助を、その手で実行してくれた。……父の味方は、あの日あの場所に、あなたしかいなかった」
彼の手を両手で包み込み、爪が食い込むほど強く引き寄せる。
その距離以上に、彼の魂が近くにあるのを感じる。彼が被るのは、世界を滅ぼすための武装ではなく、全ての毒を自分ひとりで飲み干すための、あまりに孤独な仮面だ。
父が守ろうとした人の『良心』が、もしこの世にまだ残っているのだとすれば――それは、目の前で絶望に打ち震えている、この鴻上了見という男そのものに他ならない。
「父が守ろうとしたのは、技術の倫理だけじゃない。それを扱う人の『心』……。あなたが今もこうして苦しみ、罪を背負おうとしていること自体が、きっと父が守りたかったものの証明なのよ」
仮面の奥から、激しい葛藤が伝わってくる。彼は私の手を振り払おうとして――果たせず、やがて私の逃げ場を奪うように、強く握り返した。
「……周防弥。君の思い、そして、その呪わしきデッキを力へと変えた意志……確かに受け取った。だが私が歩む道は、やはり地獄へと続いている。イグニスを滅ぼし、人類の未来を繋ぎ止めるための戦いに、情の入る余地などない。……それでも、すべてを敵に回す覚悟はあるか?」
その握りしめる力は、きっと彼が抱えてきた絶望の深さなのだろう。私はその痛みの中に安らぎすら覚えながら、彼を見つめ返した。
もう迷いはない。たとえこの先に待つのが、共に滅びる未来だとしても。父がすべてを賭けて繋いだこの心がある限り、私は
「ええ。父が視たものの先を、私もこの目で見届けなければならない。……それがきっと、私が残された意味だから」
最後のピースが埋まった。
それは希望に満ちた完成ではないかもしれない。だが、この虚構に埋もれた世界で、独り震えていた日々が終わりを告げたことだけは確かだった。
「ならば今この時から、君は人類の未来という暗闇を照らし、迷いなき進軍のための光となる」
彼はゆっくりと手を解くと、仮面の奥で一度だけ、何かを断ち切るように目を伏せ、遥か空を見上げた。
私をこの戦場へ繋ぎ止める言葉。それは、彼が自らに課した新たな『枷』のように響いた。鴻上博士を裏切ったあの日と同じ――あるいはそれ以上の痛みを伴う、逃げ場のない決断として。
(……ああ、彼は今……)
手のひらに残る熱。それが、彼が言葉の裏に押し殺した慟哭そのもののように思えてならなかった。私を救うべき対象から『駒』へと変えてしまった自分を、彼は今、この瞬間も許せずにいるのではないか。その身勝手なまでの優しさと、あまりに不器用な罪悪感の温度に、私は胸を抉られるような感覚に陥った。
「『
太陽が沈んだ後にしか輝けない、夜の訪れを告げる星。
私に与えられたのは、栄光の座ではない。共にこの地獄を歩むための、決して解けない鎖。
――だが、それでいい。それこそが、この真実という名の毒を飲み干した、今の私に相応しい。
データの雨は、いつの間にか止んでいた。
見上げた空には、雲の切れ間からあの時と変わらない星が瞬いている。それが、これから始まる長く険しい戦いの、唯一の道標であるかのように。
***
それから数日後。
ハノイの拠点の最深部。リボルバーから与えられたプログラムを統合し、私は新たなアバターを身に纏っていた。
汚れなき白を基調とした
「……リボルバー様、そちらは? 我々の
背後から声がした。振り返ると、そこにはスペクターと三騎士が控えている。
「紹介しよう。この者は、これから指揮官として部隊の前線に立つ。……名はヴェスパー」
リボルバーの厳かな声に、スペクターが興味深げに目を細める。三騎士たちも顔を見合わせ、戸惑うような視線を『
「我々も知らぬ間に、そのようなデュエリストを囲っていたとは」
三騎士の一人――ファウストが、警戒とも侮蔑とも取れる表情を浮かべて一歩前に出る。
「それにしても、ずいぶん唐突な抜擢ですねえ……。果たして、我らハノイの崇高な目的に相応しい器なのでしょうか?」
「ゲノムの言う通りです。素性も知れぬ者に前線を任せるなど、性急ではありませんか」
ドクターゲノムとバイラも冷ややかに付け加えた。
彼らから向けられる言葉の刃も、探るような視線さえも、厚い仮面の奥へと受け止める。だが私が口を開くより早く、リボルバーの声が空間を圧した。
「この者は私の『影』……とだけ言っておく。それ以上、お前たちが知る必要はない。正体を暴こうとすることは、私への反逆と同義だ」
スペクターは一瞬、その声に含まれた異質な響きに眉を動かしたが、やがて肩を竦めた。
「……承知いたしました。そこまで仰るのなら、我々に異存はありません」
彼はどこか不服そうに、だが隠しきれない好奇をその目に滲ませ、深く一礼する。リボルバーは振り返ることなく、ただ背中で語るように短く命じた。
「行け、ヴェスパー」
『……仰せのままに』
変声機越しの声が、自らの魂を削り取るように響く。私は転送ゲートを開き、データが渦巻く戦場へとダイブした。
目の前にはすでに構成員たちが整列し、私の号令を待っている。彼らを見下ろし、父が最後に見たであろう、歪んだ世界の景色を思い浮かべた。
『これより、サイバース世界捜索の新たなフェーズに移行します』
手元から一枚のカードを抜き放ち、目の前に掲げる。
翻したローブは、あの日父が奪われた潔白の色。それを血で染め上げる準備は、もうできている。
『未来を閉ざす『サイバース』を、一片も残さず掃討する。――総員、直ちに進軍せよ!』
湧き上がる
かつて、父が愛そうとした技術。そして、救おうとした命から産まれた
もしこの道の果てに、父の繋いだ『良心』さえ捨て去る時が来たとしても。私は、あなたの灯した光を、この闇の中で繋ぎ続ける。
【後書き】
現実での採用率が低いオーケストリオン(とヴァレルガード)をどうにか活躍させたい…あとなんとかして古の罠カードも入れたい…そんな思いで臨んだデュエルでした。
デュエル終盤にリボルバーが匂わせたデリンジャラス・ドラゴンの効果は、実際のところ不発とはなるのですが、強キャラ感を補強する演出として台詞にだけ盛り込んでいます。
ちなみに…
今後のデュエル回も含め、OCG化されているカテゴリ同士のデュエルは、実際に対戦した試合をベースに書いてます。
まだまだ改善の余地やツッコミどころはありますが、手札事故やプレミなども含め、架空デュエルにはないライブ感をお楽しみいただけたら嬉しいです(オブラート)
空岸 綴さま製作の特殊タグを使用しています。ありがとうございました!
https://syosetu.org/novel/396083/