貴殿転生 元の知識で本気出す 作:肉と米と愛
ロアの町での新生活が始まった。
しかしロアに来たからと言って、俺の朝の習慣が変わるわけではない。
朝になる前の薄暗い内にロアの町の外に飛び出し、ひたすらに拳を硬そうなものにぶつける。
別に館の外でやっても良いが、俺は客人だ。
流石に朝とも言えない時間からやってたらうるさくて怒られるだろう。
そして日が昇ると館にもどり、軽く身体を洗い、朝食を取る。
部屋を出ると、大抵はルーデウスに会う。
「おはようございます、ヘルスさん」
「ああルーデウス、おはよう」
二人で雑談をしながら少し時間を過ごす。
話す内容は大体魔術に関する事だ。
「ヘルスさんの動物に変身する魔法、あれはどうやるのですか?」
「さんはつけなくていい、ヘルスにしろよ。そういえば教えるって言ったんだったな。じゃあ後で俺がやり方を教えてやる」
「本当ですかヘルス!?ありがとうございます!」
「お前には魔神語を習うからな、そのお礼だ」
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その後はルーデウス、エリスと共に、ギレーヌからの剣術の指導を受ける。
俺は剣を使わないのでギレーヌはどうするのかと疑問に思ったが……
「お前は剣を使わないが、通常の剣士は剣を使う、ならば私と戦い続ければ、大抵の敵は倒せるようにはなるだろう。たまにエリスともやってもうが」
「構わない。正直、剣王直々に戦うなんて、思ってなかったしな」
軽口を叩いているが、剣王ギレーヌ、その肩書きは本物だった。
彼女はルーデウスやエリスとは比べ物にならない程の境地にいる。
彼女はまず速い、とにかく凄まじいスピードで俺を翻弄する。
素早く切る。
とにかく速さに特化していた。
俺がアスラにいた時に教えてくれていた剣神流上級の護衛の人は決して速くはなかったが、その分パワーがあり、受け止めきれなかった一方。
こっちはスピード重視、攻撃の動作が読めずやりにくいがとてもためになる。
エリスもエリスで強い。
彼女は力もそこそこあるが、剣の才能がピカイチだ。
実際俺は武装色なしで戦うと、負けてしまう事もある程。
年下に負けるってのは、結構辛いが、それはかえって俺のやる気に繋がっていった。
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剣術を学ぶ事でエリスとギレーヌとの関係も、よくなっている気がする。
エリスは確かに凶暴だが、心を許した人間には比較的優しい。
俺も最初は警戒されていたが、俺がエリスに勝ったのと、変な動物になれるのを知ってからは、少しは心を許してくれたらしい。
この家系は本当に獣好きだな。
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午後が過ぎて、次は魔術の特訓の時間だ。
一番年下のルーデウスが師匠ってのはなんかおかしい気もするが、彼の教え方はすごい上手だ。
実際、俺は魔術は全部理解した気になっていたが、まだまだ知らない部分があった事に気付かされた事もあった。
やはり天才、魔術に対する考え方が全く違う。
しかし、そんなルーデウスでも変身魔法を使うことはできなかった。
なんでも、魔力を全身に流し込むという感覚を掴む事ができないらしい。
正直ホッとした。
もしルーデウスが変身魔法まで使えてしまったら、俺はただの無詠唱の魔術師になってしまうからだ。
そしてその後はルーデウスによる算術の時間
俺もルーデウスに誘われてやってみたが、どれも前世でやったようなものばなりだったので、当然楽勝だった。
だがエリスとギレーヌは
「全然わからないわ!!」
「ルーデウス、ここを教えてくれるか?」
全滅だ。
にしてもこの教材、凄い分かりやすい。
問題から解答を求める為の手順が詳しく書かれていて、バカでも分かりそうな例え方もされている。
この教材を使っても理解できないエリスとギレーヌは、圧倒的なバカという事なんだろうか?
「ルーデウス、この教材、お前が全部1人で作ってるのか?」
「そうですよ、毎日大変なんですよ」
一つの単元だけでも膨大な量がある算術の教科。
それをルーデウスは一人で作成するのはあまりに可哀想だ。
「なら俺にも手伝わせてくれ、これでも算術は得意なんだ」
「いいんですか!?助かります!」
希望に満ち溢れた顔を見れば、教材の一つや二つ、いや、何個でも作ってろうというやる気がみなぎってくる。
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こうして毎日の日課にプラスして、夜になると俺はルーデウスの部屋に行き、次の日の教材の手伝いをするようになった。
俺が問題を提案し、それをルーデウスが教材にまとめるという方針で進めている。
それにしてもエリスは十一歳にもなって、まだ小三ぐらいのをやってるのか……
地頭が悪いのか、親が教育をしてなかっただけなのか。
どちらもあるだろうな……
ギレーヌはまあ、うん、妥当だ。
見るからに剣しか知らそう。
教材を作り終わったあとは語学の勉強。
魔神語についてルーデウスに教えて貰う、まあ雑談も含まれているが……
これが俺の一通りのルーティーンだ。
正直、王都にいる頃よりも生活は楽になっている。
これは久々に帰った時、生活リズムを戻すのに苦労しそうだ……
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数ヶ月が過ぎたある日の夜。
俺はルーデウスの部屋で語学の勉強をしていた。
「なあ、ルーデウスはいつからここにいるんだ?」
「そうですね、ちょうどニ年前とかに来ましたね」
「ニ年前?意外に短いな、5年前辺りだと思ったぞ」
そう言うとルーデウスは少し笑い、持っていたペンを落とす。
「それだと僕は4歳なので、まだ家庭教師にすらなれませんよ」
そうか、あまりに知的過ぎて忘れていたが、ルーデウスはまだまだ子供だったな。
「そうか、でもなんでお前、家庭教師なんてやってるんだ?」
だからこそ純粋に謎だった。
それほどの実力があって、なぜ家庭教師なんてやってるんだ?
その才能があるなら、家庭教師の枠を超えて、どっかの王国の守護術師でもなれるはずだ。
ルーデウスは少し考える素振りを見せたあと、恥ずかしそうに頭をかき始める。
「……僕にはブエナ村に幼馴染の女の子がいるんですよ。その子とラノア魔法大学に行くための学費を稼ぐためにやってるんです」
なるほどぉ、幼馴染の女の子……ねぇ?
これはイジりがいがありそうだ。
「なるほどな、将来の嫁さんとお互いを支え合いたいと……」
「そうなんですよ。その子は本当にか弱いですから、僕がエスコ………え?」
話をしていたルーデウスの頬が少し赤くなる。
ダメだ……ニヤけ顔が止まらない。
「お熱いねぇ」
「違います!彼女とはそう言う関係じゃあ……」
「じゃあ、どういう関係なんだ?」
「………」
いかんいかん、ちょっと調子に乗り過ぎてしまったな。
ルーデウスは下向き、両指をコネコネと回している。
もしてして、拗ねちゃったか?
なんだ、子供らしい所もあるじゃねぇか………
「……る為です」
「ん……?」
「守る為ですよ……」
ルーデウスが静かに呟く。
「いつも泣いてばかりで、誰かが側にいないと壊れてしまいそうな程にか弱い彼女を、俺は守りたいんです」
「………そうなのか」
部屋の中には気まずい時間が流れる。
そうか、ルーデウスにはそんな理由があったのか……
それを知らずに俺は……
「……すまない、ルーデウス」
「別に気にしてないからいいです。でも、僕からも一つ聞きたい事があるんです」
「おう、なんでも聞いてくれ」
年下に恥をかかせてしまったのだ、答えれることはなんでも答えてなければ。
「ヘルスがここに来た理由はなんなんですか?」
「俺か?」
思わぬルーデウスの質問に戸惑ってしまう。
確かによく考えてみれば、なんで俺は強くなりたいんだ?
力を手に入れて、何を成したかったんだ?
最初の頃はただただ強くなりたかった。
強くなって、前世の俺とは違うことを証明したかったのかもしれない。
でも今は、ちょっと違う気持ちがあるんだ。
「アリエル達を、守るため……」
アリエル、ルーク、ピレモン。
俺の大切な仲間を守るために、俺は強くなりたい。
「アリエル?」
「ああ、アリエルっていうのは、俺のいるアスラ王国の第二王女の事だ。エリスと同い年ぐらいだが。頭も良いし、何より可愛いんだ」
アリエルの説明をすると、ルーデウスは少し笑っていた。
「なるほど、じゃあヘルスは僕と似ていますね」
「似てる?どこがだ?」
「だって僕たち、好きな人のために頑張ってるじゃないですか」
スキナヒト?
俺がアリエルを好き?
待て待て、確かにアリエルは好きだ。
でもそれは、ルーデウスのように恋愛的な意味ではなく、保護者のような感じだ。
恋人だなんて……そんなはずが……
頭の中にある記憶から、アリエルの姿が映し出される。
アリエルも、もう十一歳になるだろうか?
あの美しい姿、あの笑顔を見るたびに、俺は胸が熱くなっていた。
……はあ、認めよう。
今の俺は多分、アリエルに恋している。
まだ11歳になったばかりの少女に、俺の心は打たれてしまったんだ。
ちょっと気持ち悪がれるかもしれない。
もちろん俺は手を出すつもりはない。
でも俺は、アリエルが好きなのだ。
愛すべき者を守る。
その為に強くなる。
その瞬間に、決意が固まった気がした。
「ルーデウス……」
「はい?」
「大事な事を、思い出させてくれてありがとう」
「……へ?」
本人は理解してないが、俺はルーデウスの何気ない一言に気付かされたんだ。
自分のこの気持ちを……
同時に、俺の体の中で、何かを超えたのを感じた。
足りなかったパズルの最後のピースが、やったハマったかのような感覚だ。
今なら……できる。
そう確信した俺は、気づけば部屋から外にでていた。
後ろにはルーデウスがついてきている。
「ふう……」
夜の風に吹かれながら、体全体に魔力を込める。
いつもならそこでキリンの姿になるが、今回はさらに奥に進む。
進む
進む
そして掴む。
足りなかった最後のピースを土台に、俺は掴んだ。
この力を……
ボン……
皆が寝静まっているであろう城の中で、静かに爆発音がした。
暖かい……
気持ちいい……
例えることのできない幸福感に襲われながらも、俺はその目を開け、自分の手を見てみる。
その手は、キリンではなかった。
月が照らす影は、俺がいつもなっているキリンの姿ではない。
その影が写し出すシルエットから、首周りには白い羽衣の様なものがついているのが分かった。
この羽衣、これは、動物系が覚醒した証……
「まさか……これは……」
「ヘルス…!その姿はなんですか!?」
ルーデウスが横で驚いているが、俺はそれを無視してしまう。
恐らく、今の俺はそのルーデウスよりも興奮してしまっているからだろう。
俺は、とうとうやってのけたのだ。
長年の夢。
求めていた完全体。
幻獣種 リュウリュウの実
モデル 麒麟
「やった!とうとうなれたぞ!」
周りの目など気に求めず、俺は幼児の様にはしゃいで喜ぶ。
「すごいですね!なんですかその姿!」
ルーデウスも横で困惑しながらも、俺の覚醒を喜んでくれている。
全部彼のおかげだ。
感謝しなければ。
「ありがとうルーデウス。お前のおかげで……」
あ……やばい。
その時、俺の視界が急激に狭くなっていく。
魔力切れの感じはしない。
これは……
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「………」
「………ヘルス?大丈夫ですか?」
ルーデウスは先程まではしゃいでいたヘルスの背中を叩くが、反応はない。
彼はそれを不思議に思い、彼の顔を見てみる。
「どこか具合でも悪い………」
「ヘルス?」
気づけばヘルスは、安らかな表情を浮かべて寝てしまっていた。
ヘルスの覚醒した姿はワンピースの1140話ででてきたキリンガム聖を想像してほしいです
ネタバレ注意
もともとウシウシの実だったキリンがリュウリュウの実に変わっていますがご都合です