貴殿転生 元の知識で本気出す 作:肉と米と愛
変身魔法が覚醒して3日が経った。
覚醒して手に入れた能力はとてつもなく強大だ。
まず一つにパワーがとてつもなくついていた。
力だけで言えば、俺はギレーヌを超えているかもしれない。
そして動物系特有のタフさと回復力の高さも尋常ではないものになっていた。
浅い傷ならば数時間で回復し、どれだけ打ちのめされても戦える体力。
これ程の力なら、近接戦で負ける相手はそういないだろう。
しかし、強さに伴う代償もあった。
まず獣型の姿になった時、俺は少し興奮状態になってしまう。
つまり、理性を少し無くしてしまうんだ。
これは動物系に定められた宿命。
恐らく、人間に備わっている野生の本能が刺激されてしまうのだろう。
そして、もう一つの問題、これが今早急に解決すべき課題。
変身すると、凄まじい眠気に襲われることだ。
これは俺がまだ能力を扱いきれていないためか、この麒麟の特性かどうかは分からないが、 食事中だろうが戦闘中だろうが関係なく寝てしまうのだ。
戦いでは一瞬の気の緩みが勝敗に関わる。
戦闘中に少しでも睡魔に襲われてしまえば、勝てるはずの戦いも勝てないかもしれない。
だがまあ、それでも体が強くなったというメリットはデカい。
事実、エリスを軽く完封できるようになったし、ギレーヌにほんの少しだが、擦り傷を与える事ができた。
まだまだ能力を扱うには時間をかけなければいけないだろうが、ここから成長すれば、とてつもない力を手に入れる事ができるかもしれない。
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「お二人とも、準備はいいですか?」
『ああ!』
ギレーヌの弟子となり半年ほどが経過。
俺は今、ギレーヌと真剣勝負をしようとしている。
ギレーヌはいつもの木刀ではなく、真剣だ。
油断すれば、死ぬ……!
「始め!」
ルーデウスが声を張り上げた瞬間、ギレーヌが視界から消える。
やはり速い!
ギレーヌが圧倒的なスピードで俺の前にそして剣を振る。
いつもの俺なら、ここでゲームオーバー。
だが今日の俺は違う。
振り下ろされた剣を避け、ギレーヌの背後に移動した。
「……!?」
「まずは一発!!」
俺はギレーヌの背中めがけ武装色つきの拳を振り下ろす。
ドゴォ!
ギレーヌが振り下ろされた拳をギリギリで回避し、後退した。
拳はそのまま地面へと衝突し、硬い地面がえぐれる。
「そうだ!相手が誰であろうと躊躇はするな!」
ギレーヌは少し満足そうな顔しながら、再び剣を持ち直し構えをとった。
ギレーヌの奴、ちょっと楽しんでねぇか……?
そんなに戦いが楽しいなら、今度はこっちからやってやる。
俺はZを描くように走りながらギレーヌに飛びかかり、今度は速度を下げて拳を振り下ろした。
当然、そんな拳をギレーヌは避ける。
拳は勢いを維持し、地面に再び食い込む。
「同じ手は喰らわないぞ?」
「ああ、分かってる」
ずっと戦った。
だからこそ、こいつは避けると分かっていた。
バコォ!
俺は避けたギレーヌの横腹に、回し蹴りをお見舞いした。
「くッ」
よし……!
決まった!
決闘で初めてギレーヌが唸り声を上げる。
ここで決めーー
いない!?
続けてギレーヌに攻撃を仕掛けようとした時、彼女は先程よりも速いスピードで俺の周りを走り始めた。
まだ本気じゃなかったのかよ。
俺は力を目に集中させ、走るギレーヌを捉えようと必死に首を動かす。
これじゃない……
これでもない……
これでも……
これだ!
「はぁッ!」
俺は真後ろに拳を振った。
しかし、そこにギレーヌはいない。
気づいた時には、ギレーヌに背中を蹴られていた。
「ぐぅッ!」
そのまま倒れ、俺は体制を立て直そうとしたが。
目の前には剣が突きつけられていた。
「勝負あり!」
再び声を張り上げたルーデウスの声で、試合は終わる。
また……負けた。
惜しかったのか?
いや、ギレーヌのスピードがさらに上がった所を見ると、彼女はまだ本気ではなかったのだろう。
「……てもいいぞ」
「何?」
「お前は今日から、剣神流聖級を名乗って良い」
ギレーヌは額から汗が垂れ、呼吸も少し荒くながらその言った。
「本当か!?」
「ああ、本来なら光の太刀を覚えなければ聖級は名乗れないが、お前は剣を使わないからな、特例ということでいいだろう」
「そうか……そうなのか……!」
「すごいわね!ヘルス!」
「おめでとうございます!ヘルス」
ルーデウスとエリスは自分事のように喜んでくれた。
「ありがとう、エリス、ルーデウス」
そうか……そうなのか。
俺は剣神流聖級になったんだ。
しかし本当に俺は剣神流なんて名乗って良いのだろうか?
剣を使わない剣神流聖級……変だな。
でも、嬉しいことに変わりはない。
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聖級と認定されてから数ヶ月。
エリスも剣神流上級になり、平穏な日々が続いている。
ある日、ルーデウスが町へ買い出しへ出向いた時、俺はエリスに突然呼び出された。
言われるがまま厨房に行くと、獣族のメイドとエリス、そしてギレーヌがいた。
「ヘルス!あなた、ルーデウスがもうすぐ十歳になるのは知ってるわよね!」
「ああ、もちろん知ってるよ。もうプレゼントも用意してあるしな」
「そう!なら話が早いわね!あなたもルーデウスのお祝いを手伝いなさい!」
「十歳のお祝い、パーティーか」
そうだな。
この世界じゃあ毎年誕生日パーティーなんてしないから、一回一回の行事がすごい大切なんだ。
家庭教師であるルーデウスがそのような待遇を受けれるのは、日々の行いがいいからだろう。
それにしても誕生日パーティーか、懐かしいな。
俺は色々あって小規模のパーティーだったが、あれはあれでとても楽しい思い出になった。
そして叶うならば、幼いながも頑張っているルーデウスに、その楽しさを教えてやりたい。
考えていた矢先にこんな話が舞い込んできたのだ。
協力しない手はないだろう。
「もちろん手伝うよ」
俺は迷う事なく了承した。
「本当!じゃあまずはこれお願い!」
こうしてルーデウスの十歳の誕生日パーティーの準備に、急遽俺が参加する事となった。
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パーティーの準備は順調に進んでいく。
フィリップが俺が誕生日パーティーを参加することを知ると、何故か動揺していたが特に気にしなかった。
この誕生日パーティーが、俺とルーデウスにとって大きな分岐点になるとも知らずに……
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『ルーデウス様、十歳の誕生日おめでとう』
会場内から巻き起こる拍手が、やかましいぐらいに聞こえる。
「こ……これは………」
ついにルーデウスの誕生日パーティーが始まった。
「ルーデウス!お誕生日おめでとう!」
エリスが立派な花束をルーデウスに差し出した。
「あ、そっか。俺、今日で10歳か……」
ルーデウスは唖然とした表情でその花束を受け取る。
それにしても、ルーデウスは愛されているな。
平民の生まれなのに、誕生日会にはメイドや従者たちがたくさん揃っている。
まあ、彼に世話になった奴らも多い。
この機会に、その恩を返そうという思いなのだろう。
ルーデウスは下を向き、気づけば泣いていた。
「ごめんなさい。俺……こんな、初めてで。ここにきて、失敗しちゃいけないと思ってて、歓迎されていないって、失敗したら、お、お父様に迷惑がかかるからって、祝ってもらえるなんて、思っていなくて、ぐずッ……」
「え……う……え?」
エリスは泣きじゃくるルーデウスに困惑していた。
俺も少し動揺している。
まさかルーデウスがここまで泣いてしまうなんて……
相当溜まってたなこりゃあ……
「えぇい!!」
その時、サウロスが突然声を張り上げた。
「せ、戦争じゃぁ!ノトスん所と戦争じゃあ!ピレモンをぶっ殺してルーデウスを当主に添えるぞ!フィリップ!アルフォォンス!ギレェェィヌ!わたしに続けぇぃ!まずは兵を集めるぞ!」
「父上!抑えて!抑えてください!」
暴れるピレモンをフィリップは必死に抑え込んでいる。
「フィリィィップ!邪魔立てするか!貴様とて!あんなクソタワケよりルーデウスが当主になった方がいいと思うであろが!」
「思いますけど落ち着いて!今日はおめでたい日なんですから!それに戦争はまずいです。ゼピロスとエウロスも敵に回します!」
ノトス、ゼピロス、エウロス。
どれもグレイラット家のものだ。
「愚か者ぉ!わし1人でも勝ってみせるわ!離せ!離せぇぇい!」
しばらくして、サウロスはフィリップに引きずられて退出していった。
………おかしい
何故平民のルーデウスをノトスの当主に変えるんだ?
そんな必要ないし、別にボレアスの当主にしても良いだろう。
フィリップもサウロスも、ボレアス当主の座をエリスに継がせる雰囲気でもないしな。
謎だ。
「お、お祖父様の事は置いといて……今日はルーデウスがビックリするものを用意したわ!」
エリスは顔を真っ赤にしたまま胸を張る。
「びっくりするもの……ですか?」
「なんだと思う!?」
エリスがルーデウスに何か用意するのは知っていた。
……が、それが何かまでは分からなかった。
ルーデウスが驚く様なもの、なんだろう。
「まさか、父様がここに……?」
なるほど、家族か。
確かにそうだな。
ルーデウスは家族とずっと会っていない。
家族が住んでいるブエナ村はロアの町から近い、会おうと思えば会えるだろう。
しかし、ルーデウスの言葉にエリスの顔が曇った。
エリスだけじゃない。メイドや執事も、気の毒そうな顔に変化した。
「ぱ、パウロ……さんは、最近、森で魔物が活性化してるからこれないって……で、でもルーデウスなら別に俺なんかいなくても大丈夫だって。ゼニスさんも、子供が急に熱を出したからって……」
おい。
今エリス、パウロって言ったか?
パウロってあの、ピレモンの兄か?
ピレモンが憎んでいる、あの男?
いや違うだろう。
第一にパウロは幼い頃にノトスを家出したと聞いた。
貴族のお坊ちゃんが生きていけるほど、この世界は甘くない。
今この時まで、生きているわけないだろう。
………しかし
しかし似ている。
ルーデウスは、弟のルークとよく似ている。
髪型も違うし、顔つきも違う。
でも、どこか似た雰囲気がある。
同じ血筋といえば納得できるほどに……
「え、えっと、あのね、ルーデウス。その、ね……」
「そうですか、父様も母様もきていませんか……ッ!?」
次の瞬間、落ち込んでいるルーデウスを、いきなりヒルダが抱きしめていた。
「うわッ!」
ヒルダ、何してるんだ?
「大丈夫よルーデウス、安心していいの。あなたはもうウチの子よ」
ヒルダのルーデウスを抱きしめる腕が、どんどん強くなっていくのが見てて分かる。
「誰にも文句なんて言わせないわ! 養子……いえ、エリスと結婚しなさい!そうよ!名案だわ!そうしなさい!」
「お、お母様!?」
ヒルダの突然の奇行に、突然の養子宣言。
さすがのエリスもびっくりだ。
「エリス!あなたウチのルーデウスのどこが不満なの!」
「ルーデウスはまだ十歳よ!」
エリスの顔は赤い果実の様になってしまっている。
「年齢なんて関係ないわ!あなたは言い訳ばかりしていないで、もっと女を磨きなさい!」
「してるわよ!」
そうやって二人は終わる事のなさそうな口喧嘩をし続けている。
意外だった。
俺は、ずっとヒルダがルーデウスを嫌っていると思っていた。
彼女がルーデウスと目を合わせれば、出てくるのは舌打ち。
誰から見てもそれは、嫌悪の態度だった。
しかし今のヒルダは、親に引き剥がされた子供を抱きしめている。
慈愛に満ち溢れた母だ。
やばい、色々な情報が入りすぎて頭がパンクしそうだ。
ルーデウスが父の嫌っていた兄の息子、つまり、俺の従兄弟?
そんなの、信じたくはない。
でも信じれば、全て辻褄が合う。
初めて会った時、自分の名前しか明かさなかったこと。
フィリップが俺が誕生日パーティーに参加すると言った時に、動揺していたのも、パウロの息子であるルーデウスを隠れて祝うつもりが、その祝いの場に隠さなければいけない原因の家系が参加しているからと考えたら、繋がるんだ。
俺のせいで、ルーデウスはわざわざこんな堅苦しい生活を送っているのかもしれない。
いやだ。
そんなの信じたくない。
否定してほしい。
「ルーデウス……」
「はい、なんですかヘルス?」
ヒルダによる長い愛の抱擁から解放されたルーデウスは、ゆっくりとこちらを向く。
その後ろにいるアルフォンスは、俺が今から質問することを察したのか、汗を垂らしている。
やめろよ、聞いてほしくなさそうな顔するの。
まるで、俺の予想が当たっているみたいじゃないか……
「これから俺が聞くことを、正直に答えてくれ...」
「…………はい?」
ルーデウスは純粋無垢な顔つきで、こちらを見ながら首を傾げる。
「お前の父、パウロと言ったな....」
「そうです」
「お前の父の本名は、もしかして、パウロ・ノトス・グレイラット……か?」
ルーデウスは黙り込んでしまう。
あぁダメだ、やめてくれ。
確信してしまった。
絶対にそうなんだ。
ルーデウスの本名はルーデウス・ノトス・グレイラットなんだ。
俺の父が幼い頃から憎み、恐れていた自分の兄、パウロ・ノトス・グレイラット
その息子が、今俺の目の前にいる。
否定してほしい、嘘でも良い。
そうだ……嘘でも良いんだ。
今この場で違うといえば、俺はそれを勘違いとして認識できる。
ここには父も、俺以外のノトスはいないんだ。
俺が言わなければ、誰もその事実を知る事はない。
しかし……
「そうです。僕の父は、パウロ・ノトス・グレイラット。あなたの父の兄に当たる人物です」
「あぁ」
思わず情けない声が出た。
なんて馬鹿正直な子なんだ。
違うといえば隠し通せた、逃げれたんだ。
誰だってそうするはずだ、俺だってそうしたはずだ。
それなのにこいつは、それを分かっていても尚、嘘はつかなかったんだ。
「今まで隠していて申し訳ありません、怖かったんです。せっかく仲良くなれて、親友になれたのに、それが、壊れるのが」
いつの間にかルーデウスの顔から涙は止まっていて、申し訳なさそうな表情を浮かべたまま頭を下げてきた。
親友。
ルーデウスは俺をそんな風に見てくれていたのか……
俺がノトスの子であると知っていて、自分がどんな立場にいるのかを理解していて、それでも、彼は俺と仲良くなってくれた。
親友として接してくれた。
途端に、俺はとても惨めに感じてしまう。
自分よりも5歳も下の子に気を遣わせて、俺はその気遣いに気づかず、日々ルーデウスに負担をかけていた。
いつ間にか、目から涙が出ている。
やっぱり、涙腺が緩い……
倒れるように、俺はルーデウスに抱きついてしまう。
「ヘルス……?」
「ルーデウス………すまない。お前に、とんでもない負担をかけていたな」
ごめんなさい。
本当に、ごめんなさい。
「ヘルス、僕は気にしていませんよ」
力なく倒れる俺の頭を、ルーデウスは優しく撫でてくれた。
〜〜〜フィリップ視点〜〜〜
父上を落ち着かせた時、ピレモンの名を叫んでいたことを思い出した。
まずい。
それだけではヘルスは気づかないと思うが、なんたってあのピレモンの息子だ。
もしルーデウスがノトスの血を引いている事が明るみにでれば、私達ボレアス家がノトスを乗っ取ろうと企てていると勘違いされかねない。
私としては是非したい所だが、今はとりあえずパーティー会場に戻らなければいけない。
最悪の事態になっていなければいいが……
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
パーティー参加に着くと、そこは修羅場だった。
苦笑するメイドや従者、慌てているエリスとヒルダ。
安心した顔でため息をついているアルフォンス。
そして、何故か泣き崩れてルーデウスに抱きついているヘルスと、それをあやすルーデウス。
「遅かったか……」
恐らく、ルーデウスがノトスということはバレたのだろう。
しかしアルフォンスを様子を見ると、それほど最悪の事態にはなっていなさそうだ。
「ルーデウス、どうしたのかな?」
「フィリップ様、僕がノトスの血筋だとバレてしまいました」
「そうかい。じゃあこれからヘルス君とは仲良くなれなそうだね」
「まさか、その逆ですよ」
ルーデウスは幸せそうな笑みを浮かべ、何やら楽しそうだ。
「逆?」
「今、僕たちはこうやってお互い正直になれたんです。きっとさらに仲良くなれますよ」
啜り泣くヘルスにも聞こえるよう、彼はゆっくりと噛み締めるようにそう言った。