貴殿転生 元の知識で本気出す 作:肉と米と愛
その後も、パーティーは問題なく進行した。
泣き止んだ俺はルーデウスやエリスに食事を勧められ、なんとか機嫌を取り戻し、1時間後にはいつもの調子に戻っていた。
サウロスもいつの間にか戻ってきていて、パーティーは更に盛り上がりを増していく。
そこからは大騒ぎだ。
サウロスは俺とルーデウスの頭を撫で豪快に酒を飲む。
俺は人獣型になり、新たに覚醒した姿をサウロスとフィリップとエリスに見せたが、その後にどんな事がされたかは、言わなくても分かるだろう。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「ヒック!!」
パーティーが終わり、俺は酔ったサウロスを彼の部屋まで運んでいった。
フィリップとルーデウスは二人でパーティー会場に残り、何やら怪しい密談をしている。
「ヘルゥゥス!貴様の触り心地は最高だ!是非ボレアスにこい!!」
酔っているせいか、いつも以上に声を張り上げるサウロス。
「それだと俺がエリスを貰うことになっちゃいますよ」
「何!?それは許せん!エリスはルーデウスに嫁がせるのだ!」
そんな泥酔したサウロスを部屋に運び、魔術で出した水を渡す。
サウロスはその水を豪快に飲み干し、力強く空になったコップを机に置いた。
「サウロス様、少々お話を良いですか?」
「なんだ?」
今はサウロスと二人っきり。
こんな珍しい機会はもう来ないだろう。
だったら、今しか聞けない事を聞いてみよう。
「何故、サウロス様は俺の父がお嫌いなのですか?」
何故サウロスがピレモンを嫌うのかだ。
「お前の父……ピレモンの事か?あいつは昔から姑息な奴だった!兄であるパウロを貶めるために画策するほどにな!」
「成程、そのような姑息な男が、ノトスの当主を継ぐなどあり得ないっという訳ですか?」
「そうだ!まだパウロの方が当主として相応しい!」
そうか、ピレモンにはそんな過去があったのか……
確かに、兄弟を貶めようとしている姿を見て気分の良くなる人間はそういないだろう。
しかしそれは昔の話だ。
良くも悪くも、時間が経てば人は変わる。
俺の知るピレモンは、息子を思う男だ。
「サウロス様、確かに昔の父はそうだったのかもしれません。しかし今の俺の知る父は違います」
「ほう」
サウロスは俺の話に興味を持ったのか、自身の髭を触りながら俺を見る。
「俺は、父を尊敬しています。サウロス様が見た俺の姿を他の貴族が見た時、俺を化け物だと言い恐れました。父も恐れていたでしょう」
そう、俺を恐れていたんだ。
「しかし、そんな俺の姿を見た父は俺の事をとても心配してくれました。俺が変な目で見られる事がないよう、自身の立場を危うくしてまで俺を救ってくれた…………」
ボゴッ!!
その時、俺の頭に焼けるような痛みが走る。
え……痛ッ!?
「ええい!いじらしい奴め!さっさと要件を言わんか!」
サウロスの鉄拳が飛んできたのだ。
この人、やはりエリスの祖父、長話は耐えきれないタイプかよ……
「分かりました……では要件だけ言わせて頂きます。もう一度、俺の父と話をしてくれはしませんか?」
「この儂がピレモンと、話すだと?」
「はい、そうです」
先程まで真顔だったサウロスの顔が怪訝そうな表情に変わる。
「俺は、父が大好きです。でも、この一年でサウロス様も好きになりました。俺にとっての二人目の父みたいな存在です。だから、その……二人には仲良くなってほしいのが、俺の希望なんです」
サウロスはしばらく目を瞑り、そして上を向いた。
「………仕方がないか」
サウロスは座っていた椅子から立ち上がり、何かを決心した。
「分かった、次会った時はお前の言う通り、ピレモンという男をもう一度見極めてやろう」
「本当ですか!?ありがとうございます!」
自分から話しておいてなんだが、予想外だった。
(そんなの無理に決まっとるだろ!馬鹿者!!)
とか言われて拳骨喰らうのが落ちだと思っていたのに……
「しかし、条件がある」
あぁ、そういうやり方ね。
どうだろう、ノトスの財産を全て譲るとか言わないよな……
「ピレモンとの話が終わった暁には!貴様を存分に撫でさせろ!」
「えぇ………」
なんだよそれ……
そしてしばらくすると、サウロスは大きなイビキをかいて寝てしまった。
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先程までのパーティーが嘘のように静かになった屋敷の廊下を、俺は一人で歩いていた。
それにしても、今日はとても濃い一日だった。
「くあぁぁぁ……」
久々に欠伸が出たな……
今日は良く寝れそうだ。
部屋に入り、そろそろ寝ようと思った時、俺はまだルーデウスに、プレゼントを渡していない事に気がづいた。
明日渡すべきか?
もう夜も遅い、普通子供は寝ている時間だ。
部屋をノックして、反応がなかったら引き返そう。
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「ーーー!」
「ーーー」
ルーデウスの部屋に着いたが、何やら妙な気配を感じた。
ルーデウスの部屋のはずだが、エリスの声が聞こえてくるのだ。
そして、エリスとルーデウスの声は、どこか緊張している感じがする。
あーなるほど、そういう感じか……
恐らくだが、二人は今日、大人の階段を登るのだ。
まだ十歳と十二歳、明らかに早すぎるが、愛に年齢は関係ない。
それにこの世界じゃあ、これぐらいの年齢で色を覚える者も少なくない。
ルークとかな……
まあこれは、今まで頑張ってきたルーデウスのご褒美と捉えればいい。
祝福しよう。
おめでとうルーデウス
パンッ!!
「いやぁっ!」
「ぐへぇッ!」
弾けるような音と共に、エリスの叫び声が聞こえた。
ドン!
「ちょっとって言ったじゃない!ルーデウスの馬鹿!」
「うおッ!エリス……!?」
エリスが扉を蹴破る様にでてくると、彼女はズカズカと音を立てて去っていく。
過ぎ去った嵐の跡を見てみると、そこには天井を見ながら倒れている哀れな少年が一人。
「………ヘルスですか。覗きとは、貴方も趣味が悪いですね」
「いやいや、そんな事してねぇよ。むしろお前達の邪魔しないようにそっとしといてやろうとしたんだよ」
変な勘違いをしないでほしいものだ。
俺に覗きの趣味はない。
「そうですか………」
「ああ……」
『…………』
部屋の中に、気まずい沈黙が流れる。
しばらくすると、ルーデウスは大きなため息を吐きながらゆっくりと口を開いた。
「僕は最低ですね。自分の欲を優先して、エリスの気持ちを考えていなかった」
「十歳なんて、そんなもんだろ。それにまずエリス、お前がそう言う雰囲気にしたのが悪いんだからな」
「私は少しって言ったわ!」
気づけば横にいたエリスにそう言うと、ルーデウスは素早く正座の体制をとり、土下座をした。
「ご、ごめんなさい」
エリスはそんなルーデウスを見ながら顔を赤らめる。
「きょ、今日は特別な日だから、特別に許してあげる。で、でもこう言うのはまだ早いから、五年!あと五年経って、ルーデウスがちゃんと成人したら、その時は、その時まで我慢しなさい!」
そのまま捨てゼリフの様におやすみを言い放つと、エリスは自分の部屋に帰っていった。
「よかった……」
ルーデウスの呟きが部屋に響く。
「これに懲りたら、すけべは我慢するんだな」
「ええ、肝に銘じます」
流石はノトスの男、色を覚えるのが早い。
ルークの方も大丈夫だろうか?
女遊びが過ぎて背中を刺されていないといいが………
ああいかんいかん。
ここにきた目的を忘れるところだった。
「そうだ。今日お前の部屋に来たのは、これを渡すためなんだ」
俺は用意しておいた袋から、ルーデウスにプレゼントを渡す。
「これは………指輪?」
「そうだ。試しにこれをはめて魔力を込めてみろ」
ルーデウスが指輪をはめて少しすると、その指輪についていた宝石が赤黒く変化し始める。
「これはすごいですね、魔法石ですか?」
「ああ、お前がその指輪に魔力を込めれば、こっちの指輪もそれに連動するんだ」
「なるほど、それなら離れていてもお互い安全が確認できますね。でもヘルス、貴方は2個つけていますが、もう一つは誰のなんですか?」
「これか?アリエルだ」
俺は薬指に前からつけてあった指輪をルーデウスに見せる。
「成程、確かに姫様の護衛には役立ちますね」
ルーデウスは納得したように頷き、貰った指輪を自身の薬指へとはめる。
これじゃあただのプロポーズじゃねぇか……
まあいい。
「ルーデウス。俺はそろそろアスラ王国へ戻り、いつも通り王女様を護衛をする日々になるだろう。だけど、できれば、できればでいいんだが、俺の事を忘れないで欲しい」
ルーデウスはこの世界でできた初めての親友。
別れたとしても、その絆を失いたくない。
「忘れる訳ないじゃないですか、貴方と僕はもう親友なんですから」
ルーデウスの言葉に、俺は不思議と口角が上がる。
「………そうだったな。ありがとうルーデウス、おやすみ」
「ええ、おやすみなさい」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
とうとう、ロアの町を離れる日になった。
最後の別れには三人が来てくれている。
エリス、ギレーヌ、ルーデウスだ。
「一年間世話になった。ギレーヌ、エリス、ルーデウス」
「ああ、王都でも鍛錬を怠るなよ」
「寂しくなるわね」
「王都でも頑張ってくださいね、ヘルス」
三人の表情は笑顔だ。
それでいい、涙ありの別れは辛いからな。
「あぁ、本当に世話になった。ありがとうございました」
思わず敬語になってしまったが、それでも良いだろう。
この三人は俺にとってのかけがえのない仲間なのだから。
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馬車に揺られてルーデウスからもらったパウロの人形をみていた。
パウロが生きていることは秘密だから、これを誰かに見せびらかすことはできない。
しかし、見せびらかしてしまいたいほど、この人形は非常に良くできている。
「あれ……?」
フィットア領を抜け、少ししたあたりだろうか?
ガタガタと揺れていた馬車が止まった。
「どうしたんだ?」
「いや、急に空が」
馬車を走らせていた男に言われ、空を見てみる。
そこには紫と茶色に染まった空が、俺が通ってきた道……いや、フィットア領を覆い尽くすように広がっていた。
「あれば………なんだ?」
禍々しく渦巻いている空に、思わず固唾を飲む。
異質。
これは絶対に不吉な事が起こるに違いない。
とりあえずロアの町に引き返してこの事を報告しに…………
次の瞬間、渦巻く空から青い柱の様なものが飛び出してきた。
「なッ!?」
出現した柱はどんどん大きくなっていき、フィットア領を覆っていく。
まずい、飲み込まれる!
しかし俺が逃げようとした時、青い柱が止まった。
まるで、時間が止まったかのように……
青い柱は時間と共に消えて行く。
「嘘だろ……?」
俺は目の前に広がっていた光景に唖然とした。
何もないのだ。
木が……いや、森自体が消え、地面は抉り取られたかのようになくなっていた。
なんだ、これは?
そして状況を理解できない中、俺の頭をよぎったのは四人。
フィットア領にいるエリス、ルーデウス、ギレーヌ。
そして、王都で俺を待つアリエル。
どちらに向かうべきか?
ここから近いフィットア領に戻るべきか?
しかし、王都にも被害が出ているかも知れない。
もしアリエルにまで被害が及び、彼女が命の危機に晒されていたら?
どうすれば………
「うわぁぁぁ!」
その時、馬車を運転していた男の叫び声が聞こえた。
俺が振り向くとそこには……
竜がいた。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
血塗られたように赤く染まった竜。
本で見た事がある。
中央大陸の絶対強者……赤竜だ。
何故赤竜がここに?
本来赤竜は自分の縄張りから出てこないはず。
はぐれ竜だとしても、タイミングが悪すぎる……
赤竜は地面に降り立ち、俺達を静かに観察している。
逃げるか?
いや、不可能だ、確実に追いつかれる。
ならば、戦うしかないのか?
叫んでいた男も馬も、その場に立ち尽くして動きそうにない。
ボン!!
次の瞬間。
赤竜は叫び声を上げると同時に、俺達に向かって炎のブレスを放った。
「はッ!?」
俺は咄嗟に水壁を出すが、熱線に晒された水壁はどんどん蒸発していく。
それをカバーする為に、水壁の内側に岩壁を設置する。
頼む。
なんとか耐えてくれ……!
赤竜の長いブレスの攻撃が終わり、俺は痛感した。
こいつには……勝てない。
今ので、俺は魔力総量の半分を失った。
もう一回くらったりしたら、今度は防ぎ切れないだろう。
こうなったら、確率は低いが、逃げに全振りするしない。
俺は男と馬を守るため変身魔法を使用した。
人獣型となり、今まで使う機会のなかった剣を取り出す。
「おい!」
「は、はい!」
近くの男に声をかけ、馬を指差した。
「俺がこいつの気を引く。お前は馬を連れて遠くまで逃げろ!」
「それでは、貴方様は……」
「後で合流する!さっさと行け!」
戸惑う男を突き飛ばし、俺は赤竜に突進して行く。
「ギャアァァァス!」
赤竜は大きな口を開け、俺を飲み込もうと地面に突撃して来た。
速い……!
だがギレーヌよりはまだ遅い!
俺はギリギリで赤竜の攻撃を避け、奴の頭上へと移動する。
「おらッ!!」
そのまま落下の重力に身を任せ、赤竜の首めがけて剣を振り下ろした。
バキ!!
しかし、俺が持っていた剣は悲鳴を上げ割れる。
こいつ……硬い……!
ザク………
剣を捨て後退しようとしたその時、左腕に焼き付くような痛みが走る。
左腕が………ない。
「あぁぁぁぁぁ!!」
痛い痛い痛い痛い痛い痛い。
滝のように流れる左腕を右手で押さえるが、その流れは収まらない。
こいつ……賢い…!
俺が首を狙うと分かってて、わざわざ口で攻撃をしたんだ。
そして首を切り損ねた所を、鋭利な爪を使って………
俺は荒い呼吸を立てながら、無様に地面へと倒れた。
変身魔法が解かれる。
死ぬ………
ダラダラと流れる左腕の血を見て、そう確信した。
赤竜に食い殺されるのが先か、出血多量で死ぬのが先かは定かではないが、遅かれ早かれ俺は死ぬ。
視界がボヤけ、頭が良く回らなくなって来た。
終わりか……ここで。
目を閉じれば、アリエルの姿が思い出される。
『ヘルス!あれはなんですか?』
『ヘルス、ここが分からないんですけれど……』
『ヘルス………』
あぁ、アリエル。
お前は今、何をしてるんだ?
優雅に紅茶とお菓子をつまみながら、デリック達と仲良くやっているんだろうか?
俺と一緒で、もしかしたら今、死にかけているんだろうか?
知りたい、アリエルの今を。
彼女が無事かどうかだけでも、確認したい。
それまではまだ……死ねない……!!
地面を這いずりながら、ゆっくりと、俺は立ち上がる。
足はガクガクと震え、体がおかしいぐらいに寒い。
赤竜は俺を睨みつけていた。
俺の無様な姿を見て、楽しんでんのか……?
「へ、舐めやがって……」
そのムカつく顔面に、一発ぶち込んでやる……!
俺は残っている右手の拳に、残っている全ての魔力を込める。
武装色。
拳から、紅色の稲妻がビリビリと溢れ出す。
「はあぁぁぁぁぁ!!」
震える脚を無理矢理動かし、俺は赤竜に再度突進した。
赤竜は前足の鉤爪を俺に放つが、ギリギリで回避する。
赤竜の顔面に飛び込み、溜め込んでいた拳を一気に解放した。
「
ドゴォォ!!
放たれた拳が、赤竜の顔面にめり込む。
周りから紅色の稲妻が飛び出している。
「おらぁぁ!!」
最後の力で腕を振り切り、俺は赤竜を吹き飛ばした。
赤竜は甲高い鳴き声を上げ、奥の方へと吹き飛んでいく。
「………あ」
地面に頭から、衝突し、俺の意識はそこで消えた。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「う……ううん?」
目を開けると、そこは真っ白な空間……ではなく、馬車の中にいた。
いつの間にか体の痛みは消えていて、外からは焚き火をしているのだろうか?パチパチと火が燃え上がる音がしている。
まだ重い腰を上げ、俺はゆっくりと馬車から出る。
馬車を出ると、先程俺が逃した男が、焚き火の前で座っていた。
「おお!目が覚めましたか!?」
「ああ……」
「あまり動かないでください。全身ボロボロじゃないですか」
男に言われ、自分の左腕を見てみる。そこに左腕はなかった。
どうやら、この男が俺を治してくれたようだ。
いやまずは状況の確認だ。
「……赤竜はどこに?」
「分かりません。しかし私が逃げている時、赤竜が叫び声を上げながら、赤竜山脈の方に飛んで行ったのを確認しましたので、恐らくは自身の縄張りに戻ったのかと……」
「……そうか」
よかった。
一応撃退はできたようだ。
「気になって戻って来てみたら、赤竜がいた馬車に貴方が倒れていました」
「そうか、俺……やったのか」
赤竜を撃退する。
想定外の事ではあったが、俺はそれをなす事が出来たんだ。
「とりあえず、今はアスラ王国に向かっています。それでよろしいんですよね?」
「………あぁ、そうしよう」
一先ずはアスラ王国に戻ろう。
ルーデウスとエリス、ギレーヌも、どうか無事でいてくれ。