貴殿転生 元の知識で本気出す   作:肉と米と愛

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13話 英雄の死

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺が王都に戻るまでの間、また赤竜に会うことはなかった。

 それどころか嘘の様に静かな旅だった。

 

 不気味でもあり、魔力枯渇をしていた俺には幸運でもあった。

 今もし盗賊などに襲撃されたら、俺になす術はない。

 

 

 この静かな旅の間、俺は覚醒した変身魔法の能力を考えていた。

 

 麒麟の能力を使っていた人物は、夢を具現化し、それを使用していた。夢と言っても恐らく、自分が欲しい物を出せる便利な能力だろう。

 

 試しに、自分が今欲しい物を想像してみようか。

 そうだな、今俺はこんな危機的状況だが、腹が空いている。

 美味しい食べ物を想像してみよう。

 

 俺が食ってみて一番美味しかった食べ物……できれば前世の物がいいな。

 

 炒飯、カレー、ステーキ。

 頭の中から無数の選択肢が出てくる。

 

 

 

 

 

 ……よし、ハンバーガーでいこう。

 

 バンズに挟まれた牛肉100%、レタス、玉ねぎ、チーズ、ピクルス。

 トッピングにケチャップもいれよう。

 

 口に入れればレタスのみずみずしさ、そして肉汁が溢れでる。

 

 「………ふう」

 

 イメージをしながら魔力を込めてみる。

 

 ポン……

 

 目を開ける前に、肉の焼けたいい匂いがしてきた。

 

 目を開けなくても分かる………

 

 そこには俺が完全にイメージした通りのハンバーガーが浮いていた。

 

 浮いているハンバーガーを手に取ってみる。

 

 柔らかいバンズの感触がする。

 

 「……ッゴク」

 

 俺は恐る恐る口に運み、ゆっくりと食べてみた。 

 イメージした通りの味。

 

 ゆっくり噛み締める、そして名残惜しそうに飲み込む。

 

 

 

 「………だ」

 

 

 

 

 これは、ハンバーガーだ。

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 この夢のような能力は、本当に便利だった。

 

 まず夢から出せるのは食べ物だけではない。

 武器や装備も出す事ができ、それを実際に使用することもできる。

 武器なども俺がイメージした強さになるが、強度には限度がある。

 

 過度に強くしたり、強度をあげたりすると、取り出すことができなくなってしまうのだ。

 

 そして出したものは、時間経過で消えていく。

 

 いつ消えるかは分からない。

 恐らく出した本人が、出した物を意識しなくなることで消えるんだと思う。

 だから食べ物を出し、食べても、腹は満たされるが、栄養にはならない。

 

 そして当然だが、生きている物を出すことはできない。

 出せるには出せるが、それは動かないし、触るとすぐ煙の様に消えてしまう。

 

 だが、便利なことに変わりは無いし、武器もそこら辺に剣ぐらいには硬い。

 

 使い方によっては、戦いで非常に優位に立つ事ができる。

 

 試行錯誤は相応に必要だろうが………

 

 「ヘルス様、そろそろ到着です」

 

 馬車を運転していた男に言われ、外を見てみる。

 

 少し遠いが、懐かしい町並みが見えて来ていた。

 

 「随分と早いな、分かった」

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 門の近くまで行くと馬車を降り、男に金を渡した。

 

 ここから走った方が早い。

 

 「ヘルス様!ご無事でしたか!」

 

 

 門兵は俺を見ると驚いていたが、すぐ通してくれた。

 

 門をくぐり、俺は一目散に王都のアリエルのいる場所に向かい、走っていった。

 

〜〜〜アリエル視点〜〜〜

 

 

 

 

 今日も私は庭でお茶を飲みながら、デリックとルークと雑談をしています。

 

 ルークと宮廷にいる女性との性活について話し、デリックが私に王の重要性を語る。

 

 なんら変わりなただの日常。

 

 しかし今日は私……いや恐らく、デリックやルークにとっても特別な日。

 

 ヘルスがフィットア領から帰ってくる日です。

 

 もちろん今日が帰ってくる日なので、ここに来るにはまだ時間がかかるでしょうが、私はそれが待ち遠しくて仕方ありません。

 

 「早くヘルスに会いたいですわね」

 

 「そうですね。兄上の事なので、すぐ帰ってくるのではないでしょうか?」

 

 ルークも心なしか嬉しそうです。

 

 「しかし、時間の流れは早いですね。ヘルスがフィットア領へ行き、もう一年が経ちます。私もこの一年で彼がどう成長したか見るのが楽しみです」

 

 デリックも理由は違いますが、ヘルスに会いたいという気持ちは同じそうで安心しました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 私はヘルスが好きです。

 

 それは、私が暗殺されるのを救ってくれたヘルスを見る前からでした。

 

 彼は朝とも言えない時間に一人で外に出かけ、何やら特訓の用なものをしていました。

 

 それは恐らく、過酷なものなのでしょう。

 彼が私の守護術師になった時、彼の手はいつも包帯で巻かれていました。

 私は最初、そんな風に頑張る彼が好きでした。

 

 そして私を命の危機から救ってくれた時、私はさらに彼のことが好きになりました。

 

 彼は優しい。

 

 私がメイドを裸で掃除させている場面を見た時も、小間使いの少年に鞭を打っている所を見ても、全てを受け入れて、それを許してくれた。

 

 悪い事だと分かっていましたし、デリックはとても怒っていたけど、彼は違いました。

 

 そんな私を受け入れ、静かに見守ってくれています。

 

 私ももう12歳、大きい胸が好みなノトス家から見てみれば私はまだまだですが、多少は成長してきました。

 

 この調子でいけば………

 

 しかし、不安もあります。

 ヘルスのいるフィットア領には、私と同じくらいの少女がいると聞きます。

 

 もしその子にヘルスを取られてしまったら………想像したくはありません。

 

 しかし彼に限ってそんなことはないでしょう。

出発する前に釘も打っておきましたし。

 

 「さて、ではそろそろ部屋に戻りましょうーーー」

 

 

 

ドン

 

 その時、上から何か降った様な衝撃音が近くでなりました。

 

 音がする方向を見れば、地面からは砂埃が舞いっています。

 

 そしてその砂埃に紛れて、大きな影が現れました。

 砂埃が消え、出てきたのは、腕が四本ある二足歩行の魔物。

 

 牙があり、それが一目で危険な生き物であると分かる姿。

 王都から出たことがない私も聞いたことがある魔物でした。

 

 ターミネートボア

 

 単体でD級、他の魔物を率いている場合はB級にもなる、アスラ王国で最も危険な魔物。

 

 そんな魔物が、いきなり王城内に現れたのです。

 

 「アリエル様!お逃げを!」

 

 ルークがそう叫び、ターミネートボアに向かって行きましたが、彼は吹き飛ばされ、意識を失いました。

 

 ターミネートボアはそのままは残された私の元に向かってきます。

 

 

 

 気づけば、私の前にはデリックが立ちっていました。

 

 でもダメです。

 デリックは守護術師、近距離での戦いでは無力に等しい。

 

 では、何故私の前に立ったのか……?

 

 

 

 「アリエル様、必ず王になりますよう!ルーク!後は任せたぞ!」

 

 次の瞬間、デリックは横から殴られ、嫌な音を立てながら吹き飛んで行きました。

 

 「デリック………?」

 

 状況が読めず、その場に立ち尽くしている私の前に、ターミネートボアがいます。

 

 そしてそのまま、私も殴られて潰される。

 

 その時でした。

 ターミネートボアの体が、急に縮んだのです。

 比喩なのではなく、本当に小さくなっています。

 

 押し潰されたという方が、表現では正しいのかもしれません。

 

 潰されたターミネートボアの上には、白髪の子がいました。

 

 ターミネートボアはそのまま周りをふらつきながら、歩き、しばらくした後に倒れます。

 

 「デリック……」

 

 私は思い出したかのように、デリックが吹き飛ばされたであろう場所へ行きました。

 

 そこには、体が潰され、無残な姿に成り果てているデリックが………

 

 私はその場に座り込み、彼の頭を膝の上に乗せました。

 

 恐る恐る、彼の顔の上に手を乗せてみます。

 

 息を、していない。

 

 死んでいる。

 

 私は理解を拒みました。

 

 あのデリックが?

 私を幼い頃からずっと護衛し続けていた、デリックが?

 そんなはずありません、きっと、何かの間違いです。

 

 「アリエル様!!」

 

 いつの間にか起き上がっていたルークが、私を呼びました。

 

 私が彼のところへ行き、彼が見ている所を見ると、そこには先程落ちてきた子が倒れていました。

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 しばらくして、落ちてきたエルフの子が目覚めました。

 

 私についている貴族の方々が、早速彼女に質問を始めています。

 

 

 

 彼女の名前はシルフィエット。

 フィットア領のブエナ村で猟師の娘として生まれ、魔術を同じ年の子に習い、気付けば空にいた。

 

 彼女の話はにわかには信じ難い話でした。

 当然です。

 身元を証明する物は一切なく、ましてやここから遠く離れた村の子が、なんの前触れもなく空から落ちて来たのですから。

 

 しかし、それを真実と受け止めるにも、嘘と断定するにも、今の私たちには情報が足りませんでした。

 

 今私達にできる事といえば、彼女からできる限りの情報を聞き出し、それを後から来るであろう正確な情報と照らし合わせる事ぐらいですから。

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 一週間が経ちました。

 今、王都にはフィットア領消滅の情報が入ってきています。

 

 フィットア領が消滅した範囲の、ギリギリにいた騎士がそれを目撃し、最寄りの町で事態を報告。

 そこから王都までその情報が来たとのことです。

 

 「フィットア領……?」

 

 その言葉を聞き、私はとてつもない不安が出てきました。

 

 ヘルスは?

 

 フィットア領へ向かったヘルスは、無事なんでしょうか?

 いや、彼ならきっと大丈夫です。

 

 だって、彼は今までもそうやって修羅場をくぐり抜けて来ました。

 今回だって、きっと……きっと……

 

 ………やめましょう。

 

 今いない者の話をした所で、事態は進展しません。

 今あるものを見なければ……

 

 

 しかし、その情報が入ってくると、シルフィエットの話が確かな物だと分かりました。

 

 

 私は、そんな命を守ってくれた彼女を守りたかった。

 

 だから私は、彼女を友達ということにして、迫り来る魔の手から守ろとしましたが、彼女は戸惑っています。

 

 平民という自分の身分が、王族である私とは合わないと言うのです。

 

 ならば私の守護術師はどうか?

 

 そんな話をしていると、何やら廊下が騒がしくなってきました。

 

 「アリエル!アリエルはどこだ!?みんなは、無事なのか!?」

 

 「はッ!」

 

 懐かしい声、忘れるはずもない、あの人の声です。

 

 勢いよく扉が開くと、私は目の前の光景に目を疑いました。

 

 

 

 

 

 そこには、片腕を失い、ボロボロの服を着ていた、ヘルスがいたのです。

 

 

 

 

 

〜〜〜ヘルス視点〜〜〜

 

 

 蹴飛ばすようにドアを開けると、そこにはルークとアリエル、そして白髪の子供がいた。

 

 「アリエル!ルーク!無事だったのか!?」

 

 「兄上!?」

 

 「ヘルス!」

 

 アリエルは叫ぶように俺の名を呼ぶと、そのまま抱きついてきた。

 

 「ヘルス……!」

 

 啜り泣く彼女は、俺の胸から離れようとしない。

 

 「アリエル……俺風呂入ってないんだ。臭いだろ、離れろよ」

 

 「私、怖かったんです……貴方がいなくなるのが、貴方もいなくなってしまうのが」

 

 しかし、俺の言葉はアリエルに届かなかった。

 しばらく離しそうのないアリエルにため息をつく。

 

 俺の視線は、ベットの上で縮こまっているエルフの子供に行く。

 

 

 「ルーク、あの子はだれだ?」

 

 「あの子は突然現れたターミネートボアを倒した。いわば、俺たちの恩人です」

 

 「………はあ?」

 

 ターミネートボア?

 あの凶暴な魔物がこの王城内に現れたのか?

 

 そんな訳ないだろ……

 第一に、王都にそんな巨大な魔物が現れれば、アリエルの元に着く前に討伐されるはずだ。

 

 あぁ、状況がよく分からないな。

 

 だがこう言う時、一番頼りになる人物を俺は知っている。

 

 「そうか、詳しい事はデリックに聞く。ルーク、悪いがデリックを呼んできてくれないか?」

 

 デリックだ。

 この中で一番の最年長者であるあいつなら、この状況を簡潔に教えてくれるだろう。

 

 「…………」

 

 しかし、ルークはその言葉に押し黙る。

 

 「ルーク?なんだよ?この状況でわがままか?勘弁してく………」

 

 「ヘルス………」

 

 俺の胸に泣きついているアリエルが、震えた声で俺を呼ぶ。

 

 「デリックは………死んだのです」

 

 「は?」

 

 何言ってんだ?

 面白くない冗談だ。

 

 あいつが死ぬはずがないだろ?

 だってあいつは、俺と一緒にどんな状況でも切り抜けて来た、戦友だぞ?

 

 「おいアリエル、さすがにその冗談は笑えねぇぞ?」

 

 「………」

 

 アリエルは何も言わず、ただ静かに俺を抱きしめている。

 

 「デリックは、アリエル様を守るため、自らを盾にして………死にました」

 

 理解できない俺に、ルークが更に追い討ちをかけてきた。

 

 そんなはずないだろ、あいつに限って……

 

 「デリックの葬式はもう終わりました。既に墓もあります。兄上、後で案内します」

 

 「………ああ」

 

 必死に出そうとした結果出たのは、声かも分からないものだった。

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 アリエルが俺を離してしばらく、俺はルークとアリエルに連れられ、デリックの墓の前に来た。

 

 シルフィエットと名乗る少女には部屋で待機してもらっている。

 

 目の前の墓には、デリック・レッドバッドと刻まれていた。

 

 「嘘だろ、おい……これは間違いだよな」

 

 目の前に刻まれたデリックの名前をなぞる。

 

 「兄上………」

 

 ルークとアリエルは、後ろで墓に向かい座り込む俺を静かに見ている。

 

 思い出されるのは、デリックとの思い出。

 

 アリエルと俺が雑談で笑っているところに真剣な話を持ち込み、それを俺かアリエルが茶化し、笑いがまた起こる。

 

 そんな日々が思い返される。

 そんな日々が、ずっと続くと思ってた。

 

 いつかアリエルが結婚して、子供を産んで、あんな日々が楽しかったと笑い合える日が来ると………

 

 

 「デリック……本当に死んだのか?」

 

 ドン……

 

 力強く地面を叩いたつもりだったが、拳に力は入っておらず、掠れた音が地面に響く。

 

 「あぁぁ……!」

 

 あぁクソ、涙で、視界がボヤける

 

 

 

 

 俺はクズだ。

 

 アリエルを守ると誓い合った仲間の窮地にも駆けつける事ができなかった。

 もっと早くロアを出ていたら、助かったんじゃないのか?

 

 いや、ロアへまず行かなければ、こんな事にはならなかったんじゃないのか?

 

 俺のせいで、俺の我儘で………

 

 

 

 

 俺はしばらく、デリックの墓の前で、静か泣き続けていた。

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