貴殿転生 元の知識で本気出す 作:肉と米と愛
しばらくして、俺は立ち上がった。
ルーデウスがシルフィエットと言う幼馴染がいると言っていたのを思い出したからだ。
もちろん、俺の心はまだ完全に立ち直ってないない。
しかし今は、やるべき事がある。
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アリエルとルークを先に部屋に行かせ、俺は軽く水で体を流す。
そしてしっかりとした着替え、部屋に向かった。
部屋に戻るとシルフィエットは寝ていた。
その間に、俺はアリエル、ルークと話し合った。
「それで?この子を、どうするつもりなんだ?」
そう問いかけると、アリエルがゆっくり口を開く。
「彼女の家族は、現在行方不明になっています。家もなくなっているようですし、しばらくは私の守護術師になると言う事で、私のそばに置いておく予定です」
「兄上、先程も言いましたが彼女はターミネートボアを一撃で倒す実力を持ち、さらには無詠唱魔術を使えると聞きます。平民の身という事ではありますが、守護術師として、申し分ない強さを持つかと」
無詠唱魔術、ルーデウスの言っていた通りだ。
ということは彼女が、ルーデウスの幼馴染であるシルフィエットで間違いないのだろう。
親友の友人だ、守らなければならないだろう。
そういう事なのであれば、アリエルの守護術師として側に置いておくというのが確かに今できるベストな策だ。
中途半端な奴に任したりして、後で死んでしまいました、なんて事になったら、ルーデウスに顔向けできない。
「……分かった。俺も彼女をアリエルの守護術師とするのには賛成だ。だが他の奴らにはどう説明する?こっち側の貴族ならまだしも、他の王子や王女の貴族達は何か言ってくるだろう」
「ですから、彼女には今から名前も姿も全てを変えて、別人として生きてもらうことにします」
なるほど、確かに素性がバレなければ、怪しまれはするが、何か言われる事は避けれるだろうな。
そんな事まで考えれるようになるとは、アリエルも成長したな。
俺は改めてアリエルを見てみた。
一年前とは見違えるくらいの成長をしている。
顔は少し大人っぽくなっているが、これも成長期だからだろうか?
「う……ううん」
しばらくすると、シルフィエットの目が目覚めた。
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アリエルが彼女に話を伝えると、彼女は悩んだ末にそれを承諾した。
シルフィエットは今この瞬間いなくなり、新たに守護術師フィッツが誕生した。
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そこから俺とルークは、フィッツに守護術師としての生活の仕方、貴族のマナーなどについて教え始めた。
フィッツは最初から貴族の挨拶ぐらいは出来ていたが、それでもまだまだ未熟。
マナーなどについてはルークが教える事になり、俺はフィッツに守護術師としての任務の内容、そして魔術について教える事になった。
そして、フィッツはやはり無詠唱魔術を使えた。
ルーデウス程ではないにしても、魔力総量も俺を上回っているし、使える魔術も多い。
「お前、ルーデウスの幼馴染なんだよな?」
魔術の練習をしているフィッツにさりげなく聞いてみた。
「うん、そうだけど、ヘルスもルディを知ってるの?」
いきなり呼び捨てとは……でもまあ、悪い気はしない。
「あぁ、俺もルーデウスと同じロアの町で修行していたんだ」
「そうなんだ。ルディはどういう感じだったの?」
フィッツは魔術の特訓をしながら、横目で俺を見ている。
「すごい男だったよ。初めて戦った時は、本当に負けるかと思った」
「ルディと戦ったの!?」
魔術に集中していたフィッツが、突然俺の方を向いてきた。
彼女は距離感なんて気にせず、ぐいぐいと俺の顔に近づく。
「べ、別に本気でやり合った訳じゃない、ただ実力を知るために、師匠の指示でやっただけだ」
なんだよ、その疑うような目つきは……
「……そうなんだ、よかった」
フィッツが張り詰めた顔を解く。
「……お前は、ルーデウスが好きなのか?」
「うん、ルディは僕にとって大切な人だよ」
大切な人か……
エリスもそうだが、ルーデウスは本当よくモテるな。
「ルーデウスはやっぱりモテるな」
「モテるって、ルディは他の女の子にもモテてたの?」
「ああ、特にエリスという子にな。見ていると……」
俺は最後まで言い終えずに、そこで押し黙る。
フィッツが再び怖い顔で俺を見てくるからだ。
「ルディはどうだったの!?その子の事どう思ってた!?」
まずいな……余計な事を言ってしまった。
ここはやり過ごすか。
「どうもこうも、あいつは普通に家庭教師として過ごしていたぞ」
「本当?」
「本当だ。多少すけべな事はしていたが」
「やっぱり、ルディはそうなんだ」
おや?
やっぱりおちょくってやろうと思ったが、想像よりも反応が薄いな。
「お前はルーデウスがすけべな奴って知ってたのか?」
「うん、ルディは昔からそう言う感じだったよ」
なるほど、英雄色を好むと言うが、本当らしいな。
まさかそんな小さい歳で色を覚えるとは、あいつもグレイラットの血を濃く継いでる。
そこで俺は、突然思い出した。
そうだ!
指輪!
これで安全を確認できるじゃないか!
左手がなくなった俺は、右手に残っていたルーデウスとの指輪をみる。
アリエルとの指輪は無くなってしまったから、また今度作るとしよう。
俺は指輪に魔力を込める。
そうすると指輪は変色し、赤黒い色へと変化した。
「ヘルス、何してるの?」
「ルーデウスの、生存確認だ」
「そんな事できるの!?」
フィッツは驚いた表情で指輪を眺めている。
「ああ、この指輪の存在に、ルーデウスが気づいてくれればの話だけどな」
まあいきなりやっても気づく筈もない、定期的にやっていくとしよう。
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アリエルがここ最近おかしい。
今まで、アリエルは自分王になる事に対して、さほど興味を持っていなかった。
既に王になる事の諦めがついていて、その気持ちはずっと変わる事はないと思っていた。
しかし、アリエルは最近、他の貴族に積極的に話すようになってきた。
作り笑いを浮かべ、相手の機嫌をとりながらコネを作り、仲間を増やす。
俺はそんなアリエルに少し気味悪く思ったが……
恐らくアリエルは、デリックの願いを叶えようとしているのではないのだろうか?
気高く死んだデリックが常に願っていた、アリエルが王になる事。
それを実現しようとしているのではないか?
そう思うと、彼女の行動を否定する気にはなれなかった。
でも今のアリエルの状況は劣勢だ。
現在、うちの仲間であるリストン卿の早まった行動により、第一王子派のダリウスに猛攻撃を受けている。
リストン卿はなんとか耐えているが、彼が落ちる日も近い。
彼の地位が落ちれば、必然的にアリエルは弱くなり、勝てない事を悟り、諦めてくれるだろう。
デリックには悪いが、俺はアリエルに幸せに生きて欲しいのだ。
それはきっとデリックも同じだろう。
あいつならきっと、分かってくれる筈だ。
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守護術師フィッツの噂は瞬く間に広まっていった。
素性の知れない男、フィッツは恐れられ、そして一部では寡黙でクールと良い評判だ。
そんなフィッツについた名が、無言のフィッツ、かっこいいな。
正直羨ましい。
俺にはそんな二つ名ないのに……
そしてある日、知り合いの貴族から一つの話を聞いた。
なんでも、フィットア領で居なくなった人物が戻ってき始めていると言う事だ。
サウロスの執事であるアルフォンスが、その人達の為難民キャンプを立て、まだ見つかっていない人々の捜索と、フィットア領の復興の為に尽力しているという。
フィッツはそれを聞くと、すぐに協力したいと言ってきた。
しかし、フィッツに今そんな行動を取られてはまずい。
「お願い、僕にもフィットア領の復興と捜索を手伝わせて欲しいんだ」
「……残念だが、それは出来ない」
ルークが即答した。
「なんでさ!?」
「お前は今、無言のフィッツ……アリエル様の守護術師として活動しているんだ。そんなお前が、いきなりそんなフィットア領の協力なんてしたら、素性がバレる可能性があるんだぞ?」
そう、素性がバレてしまうのだ。
悪知恵の働くアスラ貴族、そんな彼らに、あの無言のフィッツがフィットア領に行ったなんて事が知られたら、何をされるか分かったもんじゃない。
仮にもしフィッツの素性がバレてしまったら、こちら側が不利になるような事を言いふらすに決まってる。
「でもそれじゃあ、僕の家族は……!」
しかし、フィッツの気持ちも分かる。
家族も、親友も、全てが生存不明、そんな状況で、今まで通りの行動をしろだなんて無理だ。
確実に生活に支障が出てしまう。
だったら、第三者が介入してしまえばいい。
「よし、なら俺が行こう」
『ヘルス!?』
俺の言葉に、アリエルとフィッツは驚いた顔でこちらをみる。
「フィッツの気持ちはよく分かる。それに、俺にもルーデウスとエリス、ギレーヌと言う仲間が気になるし、丁度いいだろ」
「しかし兄上!その間の護衛は俺とフィ……」
「確かにそうだ。俺はそれで大切な仲間を失った」
デリックの死、それは俺の人生に大きな影響を与えた。
もうあんな経験は、二度としたくない。
だから……
「だから約束して欲しいフィッツ。必ず、お前も、アリエルも、ルークも、誰一人として死なせないようにする事ができるか?」
それができないのならば、俺はロアへは行かない。
フィッツはしばらく考えた後、俺の方に顔を向け、覚悟を決めた顔で言った。
「僕はできるよ!その間死なないし、アリエル様もルークも死なせない!」
その目には迷いはなかった。
よし、その言葉が聞きたかったんだ。
「分かったよ。そう言う事ならアリエル、いいよな?」
アリエルは不安そうな顔を一瞬浮かべるが、やがていつもの優しい表情に戻る。
「ええ、しかし、私からもヘルスに約束があります」
「なんだ?」
「絶対に無茶しないでくださいね?ただえさえ、片腕がないのですから」
その言葉に、俺は苦笑いをしてしまう。
「分かってるよ」
そんな無茶、俺だってごめんだ。
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こうして俺のフィットア捜索、まあ本当の目的はルーデウスとエリス、ギレーヌを探す事だが、捜索を始める事にした。
父も最初は渋っていたが、アリエルの許可がおりたと言ったら、渋々承諾してくれた。
「分かったが、くれぐれも無茶だけはするなよ?」
「分かってますよ」
やはり、父は変わらず優しい。
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フィットア領に到着した。
道中の村で聞き込みをしたが、やはりサウロスの執事であるアルフォンスが指揮をとり、フィットア領の復興を手伝っているそうだ。
「到着です」
馬車を降り立ち、俺はフィットア領の荒れ果てた地に辿り着く。
水は枯れ果て、草木などは一つもなく、あるのは虚無だけだ。
ここが、本当ロアの町だったんだよな……
本当に何もない。
周りには難民キャンプが点々とあり、そこには生きる屍のような人達が歩いていた。
みんなが希望を打ち砕かれたような、絶望した顔をしている。
これは、想像してたよりも……酷いな……
「あの、貴方様はもしや、ヘルス様ではございませんか?」
そんな光景を見ていると、後ろから声がかかった。
振り向けば、見慣れた人物の姿……
「アルフォンスさん、久々ですね」
アルフォンスだ。
元々体は細かったが、以前会った時よりもさらにやつれている感じがする。
「ええ、あまり時間は経っていませんが、懐かしい感じがしますね。それで、貴方様がこちらに居られるのですか」
「あぁ、俺はフィットア領の捜索を手伝いに来たんですよ」
俺がそう言うと、アルフォンスは驚いたような顔をした後、柔らかい笑みを浮かべた。
「おお、それはなんとも頼もしい。そして運のいい事に、丁度同じような事をしようとしている方が来ているのですよ」
「そうなんですか?一体誰です?」
俺が聞くと、アルフォンスの口が少し引き攣る。
「………ルーデウス様の父、パウロ様です」
「……は?」
何?
パウロだと?
奴が、ここに来ているのか?
「是非お二人には会ってもらい、協力してもらいたいのですが、パウロ様とあなた様の父……ピレモン様の関係は知っておられますよね」
俺はその場に立ち尽くし、下を向く。
「ヘルス様の要望であれば、会わないと言う選択もできますが、どうされますか?」
「いや会う、会わせてほしいです」
会いたくない気持ちの方が強いが、今はそんな事言ってられる場合じゃないだろう。
それに、少し興味もあった。
父が嫌い、恐れていた人物、パウロ。
そいつがどういった人物なのか、見極めてみたい。
「分かりました、ではこちらに」
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アルフォンスに連れられてしばらく。
案内された一つの難民キャンプの前にきた。
中は少し騒がしい、何やら揉めているようだ。
中に入ると、入り口付近に男がいた。
「なんだ、坊主、ここはガキの来る所じゃねぇぞ、帰りな」
そういいながら持っていた剣を手入れし始める茶髪の男。
その姿を見て、俺は一瞬で確信した。
こいつが……あのパウロだ。