貴殿転生 元の知識で本気出す 作:肉と米と愛
俺は馬車に乗っている間も、警戒を緩めなかった。
前回はここら辺で赤竜が来たのだ。
もしまた来たら……
なんて想像すると、俺のトラウマが一瞬で蘇る。
今度は確実に死ぬ。ただでさえ腕は片方ないと言うのに……
しかしその厳重な警戒とは裏腹に、特に危険な事は起こらなかった。
多少魔物は現れたりしたが、余裕を持って対処が可能だったし、盗賊が出る訳でもなかった。
そして王都に戻る道にある村に到着した時、ある話を耳にした。
サウロスが王都に戻っている。
その話を聞いた俺は、思わず食いついた。
「サウロス様が戻ってきているのか!?」
俺は話をしていた村人達の所に割って入る。
「お、おう、そうだ。こんな田舎にまで噂が来るって事は、結構時間が経っていると思うがな」
結構な時間が経っている………か
どのくらいだろう、一週間、ニ週間?
もしかすると1ヶ月くらいだろうか?
でも良かった、生きているのか。
しかしなぜ王都に行ったんだ?
フィットア領の事は知っているのだろうか?
「……まあ、会えば全部分かるだろ」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
危険な事はなかったが、その分王都に戻る途中は様々なハプニングがおきた。
魔物の群れが現れて、襲われている人達を助けたり。
馬が途中で倒れ、しばらく立ち直らなかったりと、まるで誰かが仕組んでいる様な事が連発した。
偶然だろうが、俺には少し疑問が残った。
結果的に王都に着く頃には、かなり時間が掛かってしまった。
だが王都へ着くと、誰かがサウロスと口にしたのを耳にした。
やはりここに来ているのだと確信する。
………やっと会える
馬車の運転をしていた人に金を渡し、自分の屋敷へと帰る。
まだ昼間だが、俺はとても疲れていた。
帰って久々のフカフカベットに倒れ込みたい気分だ。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「おお、あれは……」
貴族が住む地区に入ると、貴族の奴らが近づいてきた。
「これはヘルス様、ご無事でしたか?」
「私はあなたの身に何かあったらと思うと心配で」
「フィットア領での生活は、さぞ苦しいものだったでしょう」
「………ああ」
気持ち悪い。
そうやって微塵も思っていない心配を、平然と俺に投げつけてくる奴らが、フィットア領の人々の感謝を受けた後に、こいつらのその言葉を聞くと、余計に気持ち悪くなる。
あぁ早く、早く家に帰りたい。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
屋敷に戻ると、父の姿はなかった。
手紙は読んでくれたのだろうか?
メイドに俺が戻った事を家族に報告して欲しいと伝え、俺は自分の部屋に入った。
懐かしい匂いに、懐かしい部屋、久々だな。
「ああ、しんど……」
部屋に入ってすぐ、俺はベットに倒れて横になる。
今まで溜まっていた疲れが、ここに来てより一層増えた気がする。
コツコツ……
しばらく横になっていると、廊下から足音が聞こえてきた。
「ヘルス、戻ったのか?」
ドアを開けて入ってきたのは、ディエゴだった。
「兄上、久しぶりですね」
「その顔………お前も大変だな。まさかフィットア領に行き、そこで人々を助けるなんて、ボレアスの連中に脅されでもしたか?」
「違いますよ。ただの私情です」
余計な勘違いをされてもらっては困る。
これは俺の善意なんだからな。
「そうか、それはジェイムズも喜んでいるだろうな」
ディエゴは苦笑しながら、部屋の隅に置いてあった椅子に腰掛ける。
ジェイムズって、確かボレアス家の………あ、フィリップの兄だ。
ボレアス………そうだ!
サウロス!
「そういえば兄上、今、王都にサウロス様が来ているとの噂を聞いたのですが、本当ですか?」
「………そうだ」
やはり、サウロスもこの王都に来ているのか!
途端に眠気が覚めた、早速会いに行こう。
「本当ですか!?是非お会いしたいのですが、今何処に居られるか、わかりますか?」
俺の問いに、ディエゴは顔を下に向けた。
「………兄上?」
「………サウロスは今、裁判にかけられている」
「え?」
は?
今、こいつなんて言った?
「サウロスは、フィットア領における魔力災害において、正当なる対処をせず、人々を混乱に巻き込んだ罪を問われている。今はちょうどその裁判をしている所だが、サウロスは恐らく、処刑され………おい!どこへ行く!!」
ディエゴが言い終える前に、俺は部屋を飛び出していた。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
城の中にある大きな空間の真ん中に、一人の男が座らされている。
その男の名前はサウロス・ボレアス・グレイラット。
横には二人の長い剣を持った男達と、サウロスの前にいる3人の男達。
アスラ王国上級大臣 ダリウス・シルバ・ガニウス。
第一王子 グラーヴェル・ザフィン・アスラ。
そしてこの国の王であるアスラ国王。
それを見下ろし観察している人々。
その中には、アリエル、フィッツ、ルーク、そしてヘルスの父であるピレモンもいた。
「フィットア領領主、サウロス・ボレアス・グレイラット。貴様はこのたびの魔力災害において、正当なる対処をせず、人々を混乱に陥れた。よってその任を解き、即刻死刑に処す!」
意気揚々と罪状を垂れるグラーヴェルの横で、ダリウスは顔をにやつかせながら言った。
「フィットア領のことは、このダリウスに任せたまえ」
サウロスはそれを睨みつけ、やがて目を閉じた。
(エリス、どうか生きていてくれ……)
横にいた男の一人が、ゆっくりと剣を上げ………振った。
その瞬間、扉の向こうから大きな声と足音が聞こえた。
「サウロス様!!サウロス様!!」
大きな扉を蹴破る様な勢いで出てきたのは、フィットア領に居たはずの男、ヘルスだった。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「お待ち下さいヘルス様!裁判はまだ続いています!ご覧になりたいのでしたら上から……」
「邪魔だ!」
そう言う護衛達を押し除け、俺は一直線、裁判が行われている場所へ走っている
間に合え!間に合え!
扉まであと少し、間に合う!
『行かせません!!』
その時、廊下の隅に隠れていた数十人の護衛達が、俺を行かせまいと押さえ込んできた。
「離せ!!」
「ヘルス様、見学したいのでしたらここからではなく………」
「うるせぇ行かせろ!!」
サウロスが、サウロスが危ないんだ!
一刻を争うんだ。
「あぁぁぁぁ!!」
「嘘だろ……!」
俺は雄叫びを上げながら、俺を押さえ込む護衛達を次々に吹き飛ばす。
道が空き、俺は無我夢中に走った。
「サウロス様!!サウロス!!」
サウロスの名前を叫び、扉を蹴破る様に開けた。
ドン!!
吹き飛ばしたドアの目の前に広がっていたのは、俺を見下ろしている人々。
その中にはアリエル、フィッツ、ルーク、そして父がいる。
そして俺の前には六人の人物がいた。
名前のわからない剣を持った男二人。
上級大臣ダリウスと第一王子グラーヴェルと、アスラ国王。
そしてそこに座っているのはサウロスだ。
しかし様子がおかしいな?
なんで男の持つ剣に、血がついているんだ?
何故サウロスから血が溢れているんだ?
理解できない。
なんで、サウロスの首と体が離れているんだ?
「ヘルス!何故ここに!?」
最初に口を開いたのは父ピレモン。
彼は俺を見ながら何やら叫んでいる。
うるさいな……
「父上、少々黙ってもらってもよろしいですか?」
「ッ!!」
そう言うと、父は大人しくなった。
一歩ずつ、サウロスに近づいていく。
剣を持った男達は、横に広がり、壁あたりに移動した。
「サウロス……様?」
もう一度近くでサウロスを見る。
そこには、やはり首と体が別れているサウロスがいた。
俺はサウロスの首の前に行き、その場に座り込んだ。
首を片手で持ってみた。
重たい。
近づけて顔を見てみると、そこには眠った様な、しかしどこか悔しそうなサウロスの顔があった。
サウロス……?
「あぁぁ……ああぁ、ダメだ、ダメですサウロス様!あなたはまだ……まだやるべきことが!」
目の前が滲み、ぼやけていく。
「約束したじゃないですか……父上と話し合うって!俺を撫で回すって!言ったじゃないですか……」
そう問いかけるが、サウロスからの返事はない。
思い出されるのはフィットア領、ロアの町で過ごした日々。
最初は歓迎こそされなかったが、日を追うごとに仲を深め、父ともう一度話す事を約束してくれたあの日、俺は、彼も父と認識したのだ。
俺の服が徐々にサウロスの血に深く染まっていく。
「あぁぁぁ!!」
決壊した。
俺はサウロスの首を抱きしめながら、前世でも今世でも出した事のない叫び声を上げた。
「おい、こいつを取り押さえろ!」
焦るダリウスが壁の近くに移動していた男達に命令すると、男達は慌てながらも俺を抑えようとした。
俺が無抵抗だったためか、簡単に拘束された。手からサウロスを取り上げられて、今は押さえつけられている。
抵抗する気さえ起きない。
「ピレモン!これはどう言う事だ!何故貴殿の息子がここにきた!」
グラーヴェルが叫ぶ
「………」
父は何も言わない、言えないのだ。
ここでどんな事を言おうと、彼の発言は捻じ曲げられ、彼らの都合のいい様に作り替えられるだろう。
だがそんなのは、もうどうでもいい。
俺は、ただそこで、サウロスから流れる血を見続けていた。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
俺は裁判中にいきなり乱入した事で処罰をされた。
処罰と言っても俺は特に何も感じなかった。
そこから一週間ほど経っただろうか、俺は自室のベットで座っていた。
決壊した心はまだ治っていないが、気持ちは少し整理された。
今は、ジェイムズから譲り受けたサウロスの服を眺めている。
俺が着るにはブカブカで、飾るぐらいにしか使い道はないが、それで俺は十分だ。
「なんで、なんであんたが死んだんだ……」
俺はこれからどうするべきか、このままずっと部屋にいてもいい。
そうしたい、一生この部屋の中で縮こまっていたい。
でも、流石にそれはダメだ。
俺はアリエルの守護術師としての任務に戻らなくてはいけない。
ギレーヌはその為に俺をここに戻らせた。
そうだ、俺にはアリエルの守護術師としての仕事があるのだ。
行かなくては、彼女に会わなくては………
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
次の日から、俺はアリエルの護衛に戻った。
しかしその前に父に裁判の時のことを謝る事にした。
父は気にしていないと言ったが、あの後父が受けた罰はきっと屈辱的ものだっただろうに、本当申し訳ない。
「ヘルス、もう大丈夫なの?」
「兄上、別にまだ来なくてもいいのですよ」
「ありがとう、でももう大丈夫だ」
ルークやフィッツから心配されるが、俺はもう大丈夫だ。
多分……
朝、俺とフィッツとルークは、アリエルの部屋に訪れた。
部屋を開けると、そこには既に起きていたアリエルの姿が……
嘘だろ?
「あらヘルス、おはようございます」
アリエルが既に起きてるなんて……俺はまだ寝ているのか?
「おはよう……アリエル、早起きとは珍しいな」
「ここ最近はずっと早起きですよ」
「あのアリエルが?信じられないな」
「ちょっと、失礼ですよ」
アリエルはそういって顔を膨らます。
そうやって談笑すると、俺の少し心が和らぐ。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
フィッツがアリエルの髪を整える。
「ルーク、本日の予定はどうなっていますか?」
「朝食の後、午前中は大広間で懇談会、午後からはいつも通り、ピレモン卿との会合があります」
すごいスケジュールだ。
「アリエル……もしかして、その予定は今日やりきるのか?」
「当たり前じゃないですか、ほらヘルス、あなたも支度してください」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「皆様、ごきげんよう」
美しいアリエルの声に、貴族達がこちらを向く。
「おお、アリエル様」
「今日もお美しい」
「ふふ、勿体無いお言葉です」
そうやってアリエルは貴族の輪に入っていく。
あの嘘で固まった奴らの所に、アリエルは堂々と入っていったのだ。
「なんで………」
アリエル、俺がいない間に何があったんだ?
なんでそんな、気持ちの悪い笑顔をするんだ?
「おお、クリス様!今日もお美しい!」
「あらいやだ!もうルーク様ったら!」
ルークもその輪に入っていく。
なんなんだ、みんな、どうしてしまったんだ?
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
しばらくして、アリエルが暗殺者に狙われた、
俺とルークが部屋に到着した頃には、壁には大きな穴ができていた。
そして倒れているフィッツと、それを抱きかかえるアリエル。
やっと気づいた。
アリエルは、まだデリックの言葉を引きずっているのだ。
俺がフィットア領にいた時も、ずっとそうだったんだろう。
なんでだよ、なんでそこまで引きずるんだよ。
もういいだろ、いい加減諦めろよ。
アリエルは十分頑張った、もうそこまで無理しなくていい。
もう、傷つかなくていいんだ。
なのに、アリエルはやめない。
これからもきっと、自分の身の危険を顧みず、王になろうとするだろう。
これは話し合わなければならない。
彼女に諦めてもらうために……
彼女の未来のために。