貴殿転生 元の知識で本気出す 作:肉と米と愛
話をするために、俺はある部屋でアリエルを待っていた。
そこは俺が初めてアリエルとデリックと会った部屋だ。
懐かしいな。
そんな風に考えていると、アリエルは現れた。
横にフィッツとルークも連れて……
「珍しいですねヘルス、あなたから私を呼ぶなんて」
「あぁ、お前と話がしたくてな」
アリエルが俺の前にあるソファに座り、その横にフィッツとルークが並ぶ。
「まあとりあえず、紅茶でもどうだ?」
「ええ、ではお言葉に甘えて」
俺はテーブルに用意しておいたコップに、紅茶を注ぎ入れる。
「じゃあ、久々のお茶会に、乾杯」
俺の言葉に、アリエルは笑う。
「ふふ、なんですかそれ。乾杯」
紅茶を飲む。
緊張しているせいか、味がしないな。
「アリエル、最近体調はどうだ?」
紅茶を一口飲んだ後、俺はアリエルにさりげなく聞いてみた。
「なんですかいきなり?別に元気ですよ」
そう言って笑うアリエルだが、その顔に、本心で笑っている姿は見えない。
「特に苦しいわけでもないのか?」
「苦しくもないですし、つらくもないですよ」
埒が開かないな。
ここで俺が多分どんな質問をしても、こいつは俺の安心することを言うだけだ。
だったら、もう素直に言ってしまおう。
「分かった。アリエル、率直に言うぞ?」
「お前、王位継承の戦いをやめろ」
その瞬間、笑っていたアリエルの顔が一気に真顔になる。
「……何故ですか?」
「これ以上、お前が苦しまないためだ」
「私は別に、苦しくなん……」
「アリエル」
全く、どこまで嘘をつくつもりなんだ、こいつは……
「お前だって、分かってるだろ。もうお前はどう頑張っても、もう王にはなれない」
アリエルは黙ってしまう
「これ以上お前が戦おうとすればする程に、お前の命を狙う者は多くなる。そうなれば、俺達はお前をもう守り切れないかもしれない。そうなればお前は、死ぬんだぞ?」
「……覚悟の上です」
アリエルは俺の顔を見ながら、静かに呟く。
「覚悟?それは、デリックの願っていた事を叶える覚悟か?」
「はい、そうです。私はデリックが身代わりになる直前に、王になるよう託されたのです。ならば私は、それに応えなければいけません」
やはり、デリックの事を引きずっていたのか。
そんな覚悟、デリックは望んでない。
「ならもう十分だろ。お前はその願いを十分叶えようと努力した。でも無理だった。それで良いだろう」
「………」
「お前はデリックの事を考えすぎなんだ。あいつはもういない。デリックだってお前がそんな苦しむすが……」
「何故そんな事を言うのですか!?デリックの死を無駄にしろと言うのですか?」
そこまで言うと、アリエルが突然声を上げた。
今まで聞いたことない、アリエルが怒りに震えた声。
「なんで分からないんだ………お前は死ぬんだぞ?確実に、王になる事も叶わず、惨めに死にたいのか?」
「それを覚悟の上で、私は今この戦いをしています!デリックだけではありません!今まで私を王にするために何人もの犠牲がでました。もう後戻りなんてできないんです!」
なんでだよ……
苦しむのはお前だけじゃない。
みんなを巻き込むんだぞ?
「その犠牲者をもう出したくないだろ!これ以上続けて何になるんだ!ただの無駄死にだ。そうやってお前も死ねば、お前の言っていた犠牲者達は意味のない死になるんだ」
そう言った……間違えて言ってしまったんだ。
「兄上!今の発言は許せません!」
アリエルの横に立っていたルークも、俺に反論し出した。
「俺達と共に戦ってきた仲間が………今までの犠牲者の死が意味のない死などと……」
「ルーク!」
俺は立ち上がり、ルークの前に出た。
ルークはその気迫に押しやられ、怯えている。
「お前なら分かるだろ………もうこれ以上続けても、意味ないって事ぐらい、分かるだろ!」
「兄上……!」
ルークの胸ぐらを掴みそう叫ぶ。
「お前も、そんなくだらない事で死にたいのか!?違うだろ!?だったら今すぐアリエルを………」
パン!
俺の頬に、鋭い痛みが走るのを感じた。
反射的にフィッツを見るが、彼女は何もしていない。
横を見ると、涙目になっているアリエルが、そこにはいた。
「やめてください!なんなんですかヘルス!私達がここまで頑張ってきて、それをいきなり諦めろって!」
「え………」
「デリック達の死が無駄だったような言い方をして、何がしたいんですか!?」
アリエルは大粒の涙をポロポロと流しながら、泣き叫ぶ様に言った。
「私達の事が、そんなに嫌いなんですか!?」
「ちが……俺はただ、お前らの安全を……」
「今日を持って、貴方を守護術師の任から解きます。第二王女の名において、これ以上私たちに口出しをする事は許しません!これ以上、私の仲間を傷つけるのは許しません!」
なんなんだよ。
なんでそうなるんだ……
アリエルの目を見る。
そこには、もうあの無邪気なアリエルはいなかった。
そこにいたのは、俺が今まで見てきた、気持ち悪い笑顔を浮かべる貴族に成り下がってしまったアリエルだ。
あぁ
「そうなのかよ……」
「……なんですか?」
「お前も結局、同じなんだな……」
俺は情け無い捨てゼリフを吐き、一度も振り返る事なく、部屋を後にした。
〜〜〜アリエル視点〜〜〜
朝、目が覚めると、そこにはいつもの部屋があります。
体を起こし、窓をみれば、美しい空が広がっています。
そんな光景を眺めていると、部屋から2人が入ってきました。
フィッツとルーク
ヘルスはもういません、
あんな事を言っておいて、もう私の側に置く事もできませんしね。
私は彼を信用していました。
だからこそ、あの時にあんな発言をされて、私も少し混乱していました。
きっとヘルスもそうなのでしょう。
しかし、あれからしばらく時間が経ちました。
時間が経てばお互い、いつも通りに戻れる筈です。
まずはもう一度話し合いをしましょう。
そしてお互いに謝って、仲直りするのです。
そうしてまた紅茶を飲んで、いつも通りの日常に戻れるんですから。
きっと大丈夫です……
いつも通り朝食をとり、午前中は貴族の方々に挨拶をした後。
ピレモン卿に会いに行きました。
「ピレモン卿、今日もいい天気ですね」
「ええ、こういう日は気分がよろしいですな」
そう言う彼ですが、その顔はどこか悩みを抱えている顔です。
しかし、私は気にしません。
「ピレモン、一つお尋ねしたいことがあるのですが……」
「はい、どうされましたかな?」
「実は私、少し前にヘルスと言い争いになってしまって、少々喧嘩をしてしまいました」
「なんと!?そうだったのですか!?」
ピレモンの顔が、苦しそうな物に変わります。
「申し訳ありませんアリエル様。まさかヘルスがその様な無礼を働いていたとは……」
「ええ、しかし私もその時は混乱していて、私にも非がありました。だからもう一度話し合って、お互いに謝りたいのです。ヘルスを一度、呼んでいただけませんか?」
私がそう言うと、ピレモンは悔しい顔をしました。
「それがですね……アリエル様、非常に申し訳にくいのですが」
「……ヘルスは先日、ノトスを出奔しました」
「え?」
その言葉を理解するのに、少々時間がかかりました。
〜〜〜ヘルス視点〜〜〜
ルーデウスを探しに行こう。
まだ薄暗い時、俺は今後の行動を決めた。
それしかやる事がなかったと言うのもあるが、俺は元々冒険したかったし、ちょうどいい。
気長に旅をしながら、ルーデウス達をみつける。
ルーデウスが無事なのは指輪で確認しているし、大丈夫だろう。
今からノトスという名を捨て、家も捨て、新しく生まれ変わるのだ。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
荷物を整え、俺が稼いだり貰っていたお金を持ち、外に出ようとした。
「おい」
暗い廊下を歩いていると、後ろから声がかかる。
恐る恐る振り返れば、そこには兄がいた。
バッタリ会ったと言うより、俺がここに来ると言う事を理解していたようだ。
「兄上……」
「ヘルス、こんな時間にどこへ行くのだ?」
できれば誰とも会わず行きたがったんだが。
相手がディエゴだったのは、不幸中の幸いか……
「まさかヘルス、ここを出るつもりか?」
「……見逃してくれませんか?」
「何があったんだ、話してみろ」
そう言われて俺は俯く、話したくない。
話したところで意味はないだろう。
「なあヘルス……お前にとって、俺は確かに頼りない兄かもしれない。だけど、お前の話を聞くことぐらいはできる。頼む、教えてくれないか?」
「兄上は頼りなくなんてありませんよ。むしろ俺が尊敬する、偉大な兄上です。だからこそ、俺の事で悩んで欲しくはありません」
兄はしばらく俺を見つめ、ため息をついた。
「……はあ、どうやら、本気みたいだな。なら、せめて何をするかだけでも、教えてはくれないか?」
「俺はこれから、冒険者として活動して、フィットア領で消えた友達を探す予定です。もちろんノトスの名前は名乗りませんし、名前も変えて活動するので、ご迷惑は掛けません」
ディエゴやピレモンには、できるだけ迷惑はかけないつもりだ。
「別にそんな配慮はしなくていいが、一つだけ、約束してくれないか?」
「約束……ですか?」
俺が聞き返すと、ディエゴはゆっくりとその頭で頷いた。
「必ず……帰ってくるとな」
「………」
兄にそう言われて、嬉しかった。
まだ兄は、俺のことを大切に思ってくれている。
それだけで、満足だった。
「ええ、約束します。その時は俺の土産話を聞いてくださいね」
「ああ、楽しみにしてるぞ、ヘルス」
お互いに握手を交わした後、俺は屋敷を出た。
そしてまだ薄暗い町を、ゆっくりと歩いて行くのだった。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
王都から出る頃には、すでに朝日が出ていた。
俺はいつも通りの姿で門を潜り抜け、しばらく歩くと森の中で着替えた。
これからは人獣型で活動するつもりだ。
人獣型になれば、なくなった筈の左腕がもどり、変装としても機能するからな。
服も変えた。サウロスが着ていた服だ。
これなら多少目立ってしまうが、逆にエリスやルーデウスが俺を見つけやすくなるだろう。
まあ、ただ俺がこの服を着たいってだけでもあるが……
これから俺は、とりあえずルーデウスの父パウロのいるミリス神聖国に向かう予定だ。
そこで事情を話し、パウロと共にルーデウスを探す。
我ながらいい考えだ。
その為にも、まず目指すはウィルシル領、そこに向かう。
「………はあ!」
心臓の鼓動が速くなっていくのを感じる。
やっと夢が叶う、俺は今生まれたんだ。
ここから俺が始まるんだ、そう考えながら、俺はゆっくりと歩き始めた。
一章 アスラ王国編 終
二章 ラノア魔法大学編 始