貴殿転生 元の知識で本気出す 作:肉と米と愛
18話 仲間
「治癒魔術を高いレベルで使える奴ねぇ」
「別に高いレベルじゃなくても良いんだ。治癒魔術が使える奴なら、とりあえず見せて欲しい」
奴隷商人は頭をかきながら、リストの書かれた紙をめくる。
「まず、お前さんは来るところ間違えてないか?ここは奴隷市場だぞ?」
「………まあな」
旅に出てから時間が経ち、俺は今奴隷市場に来ている。
理由は冒険者をするにあたって、回復役である人物が欲しいのだ。
俺は一七歳になったが、恥ずかしながらいまだに治癒魔術を使う事ができない。
だから俺はそれを補う為にも、相方……いわばパートナーが欲しい。
もちろん、こんなとこに行かずとも、冒険者パーティーを組めばそんなやつ沢山見つかる。
しかし、アリエ……いや、あのアバズレのせいで、俺は今軽く人間不信になっている。
パーティーを組もうと誘ってくれる奴らもいたが、それを心から信じる事ができなかった。
はっきり言って、居心地が悪いんだ。
そんなギクシャクとした関係で冒険してちゃ、胃に穴が空いてしまう。
ならば、俺に絶対に逆らえない奴をパーティーに組ませればいい。
ちょっと残酷な方法だが、そこで思いついたのが奴隷ってわけだ。
最初、この世界で奴隷と言う言葉を聞いた時、俺はワンピース世界にいる天竜人に過酷な労働を強いられる可哀想な奴隷を想像していた。
しかし、この世界ではそう言うわけでもないらしい。
確かに、そういった扱いを受けている奴はいるが、それはごく一部のサディスト共の趣味で、大抵の奴隷にはある程度の自由がある。
せっかく買ったのに壊れてしまっては困るからな。
奴隷になるのは皆揃って力仕事しか出来なかったり、家族に売られた可哀想な子しか居ない。
俺はその可哀想な子を救う事はできるが、そいつらだって、いきなり俺の旅について来させられても迷惑だろう。
旅は危険だ、命を落とす危険だってある。
だったらここでもう少し待って、いいご主人様を見つけた方がいい。
見つからなかった場合は……まあ俺の知った事じゃない。
でもやっぱり、そういう境遇の奴らが魔術を使える訳ないか……
そう考え、仕方なく立ち去ろうとした時。
「ああいたいた!丁度良いのがいたよ!」
奴隷リストの紙をめくっていた男が叫んだ。
「人族の少女、こいつはミリス神聖国の教会の子だ。一応治癒魔術も使えるらしい。他の魔法は知らないがおそらく習得しているんじゃないか?」
「本当か!?是非見てみたいな」
これはまた運がいい。
「しかしちと問題があってな。貴族の連中にたらい回しにされたせいか、健康状態はいいんだが、精神面はダメだな、壊れちまってる」
「……まじかよ」
なんだって?ごく一部のサディストに買われてしまっていたのか、運のない子だ。
まあ確かに、そんな上物がいて、今の今まで買われないなんて事、普通はありえないよな。
それにしても心が折れてるか、そんな奴多分使い物にならんだろう。
でも一応、見てみたいな。
「とりあえず会わせてくれないか?そこで決める」
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……これは、想像以上に酷いな。
初めて会ったその子の感想は、それに尽きていた。
飯は無理やり食わされているらしいので、痩せているわけではないのだが、その体は何処か弱々しく、今にも倒れそうな体だ。
この子についての情報を、俺は詳しく聞かせてもらった。
名前は不明、ミリス神聖国の教会の子として生まれ、何不自由ない生活をしていたらしいが、8歳の時に馬車で移動している最中に盗賊に襲われる。
そして父は死亡、母は目の前で……
この子は奴隷として中央大陸の奴隷市場に出され、少女を痛めつけるのが大好きな変態貴族共に、五年間散々遊ばれ、反応が無くなったのを見て興味を無くしたのか、売られてここに辿り着いたらしい。
話を聞くだけで吐き気がしてきた。
また貴族………本当にどうしようもない連中だ。
「それで、こいつをどうするんだ?買うのか買わないのか、こいつはもう商品の価値としてはもう低いからそろそろ処分しちまうし、買うなら安くしとくぜ」
「………」
俺はこの子を救ってあげたい気持ちでいっぱいだ。
だけどさっきも言ったが、俺が買う事は、俺の旅に連れて行くと言うことだ、果たしてそれをこいつが望むかどうかはわからない。
「……少し話をしてもいいか?」
「いいが、あんまり乱暴にすんなよ?低いとはいえ商品なんだから」
「そんなことするかよ」
男が檻を開けると、少女は少し俺を見上げたが、すぐに視線を下に逸らした。
「君、治癒魔術を使えるんだって?」
「………」
返答はない。
少女は下を向きながら座り込んでいる。
「俺は麒麟、冒険者でな、今は治癒魔術を使えて一緒に旅してくれる奴を探しているんだ」
「………」
「しかしこれがまた、なかなか見つからなくてな。君、冒険者に興味はないかい?」
「………」
やはり返答はない。
どうするべきか?
これ以上の規模の奴隷市場は、多分この先しばらくはないだろう。
そうなれば俺は怪我をせず冒険者の任務をこなし、旅を続けなければいけない。
かなり難しい旅になるだろう。
しかしこの子はもう動く気もなさそうだし……
仕方がない、今回も諦めるしか……
「……ん?」
その時、足の裾を掴まれた。
足元を見れば、俺の横で体操座りをしていたその子が、俺の足を掴んでいたのだ。
「君……」
俺はその意味を理解した。
こいつは勇気を出したんだ。
まだ生きたいという意思を、自由になりたいという願いを、頑張って伝えてくれたんだ。
「………決めたよ。この子を買うよ」
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「これじゃあ三日の生活費も足りねぇじゃねえか……」
あの男、嘘つきやがった。
安いとか言っといてなんだよあの値段。
俺が持ってた金、ほぼ取られちまったぞ……
ブツブツ文句を垂れている俺の横で、その子はゆっくりと下を向きながら歩いている。
この子を購入した時、逃げられないよう奴隷の証を背中に刻むか聞かれたが、流石にそんな酷い事子供には出来ないので遠慮しておいた。
この状態じゃ、逃げる事すらできなさそうだしな。
少女のペースに合わせつつ、何処か食べれる所を探した。
そうだな、やっぱり最初は喉を通りやすい柔らかい物が食える場所がいいな。
しばらく町を歩いた後、なんでもありそうな飯屋に入り、俺はまずその子に飯を食わす事にした。
「君、食べたいものとかないのか?」
「………」
さっきは勇気を出してくれたが、まだ俺のこと信用してないのだろうか?
まあ最初はこんなもんだろ。
「じゃあ適当に頼むから、食えるやつ食えよ?」
適当に注文した料理が出され、硬そうな料理から食べ始めると、その子はその中にあった小さなパンだけ取り、ゆっくりと食べ始めた。
「食ってる最中に悪いが、今後について話すぞ?」
パンをちぎり、小さな口へ運ぶ少女に、今後の方針を教える事にした。
「まず、俺の目的は友達を探す事だ。だから途中で引き返したり、変則的な旅をするつもりだから、そこは許してくれ」
「………」
「明日はとりあえず、冒険者ギルドで俺たちのパーティーを作る予定だ。何か質問とかはないか?」
「………」
出会ったばかりで、面識もない男に、ズカズカと質問なんてできない。
まあ、これからゆっくりと関係は……
「……るの」
「……え?」
「冒険者って………何をするの?」
少女の小さな呟きが、二人だけの個室に響く。
「君……!ああ、そうだな!冒険者についても説明してやろう」
いきなり喋ってくれた!
やはり飯は人を安心させるな!
それとも、少しは俺を信じてくれているのだろうか?
その後、俺はその子に冒険者の内容を知ってる限り教えてあげた。
その子は下を向いたり、時々俺を見てくれたりしたが、今日はそれだけで満足だ。
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その後、俺達は安い宿を一室を借りた。
明かりは窓の隅に置いてある小さな蝋燭だけの、薄暗い部屋。
「君、名前はなんて言うんだい?」
「……覚えてない」
それにしても、一日でだいぶ警戒を解いてくれたな。
俺が人間の姿ではなく、こんな見た目だからだろうか?
人獣型の俺は何処か抜けた顔をしている。
身長は高く、首は一メートル程あり、煙の様になびいている輪っかがある。
顔は馬の様になっていて、目は大きくて頭には角、口の上には左右に一本の毛が生えている。
そんなマスコットキャラクターみたいな見た目をしてるからか、初めて冒険者ギルドにこの姿で現れた時は、みんなに笑われてしまった。
しかしそうか、名前が分からないか、それは困ったな。
何事にも、名前は大事だ。
「………じゃあ、俺が名前をつけてもいいか?」
「……?」
少女はポカンとした表情で俺を見つめている。
「いや、いらないなら構わないんだが、名前がないと……ほら、色々不便だろ?別に自分でつけてもらっても良いが」
まずいな、いきなり踏み込み過ぎてしまったか?
「……つけて欲しい」
しばらくして、少女は弱々しくも、俺に聞こえる声量でそう答えた。
「いいのか!?」
「ヒッ……!」
ああ、いかんいかん。
少々騒ぎ過ぎてしまったのか、少女の体は震えていた。
しかしいざ名前をつけて良いと言われると、悩むな。
仕方ない、いくつか候補を出して、そこから選んでもらうか。
俺は能力で思いついた名前を書いた紙を数枚取り出し、それを少女の前に並べた。
「よし!じゃあこの中から一枚、気に入った名前を選んでくれ。それが今日から君の名前になる」
そして少女は、数分考えた末に、一つの紙を取った。
「それで、本当に良いのか?」
少女は静かに頷く。
「分かった。じゃあ明日からよろしく頼むぞ、サテラ」
少女の名前は、サテラに決まった。
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俺は次の日、早速冒険者ギルドに顔を出した。
中には厳つい顔をした冒険者がチラホラいる。
サテラはそんな奴らが怖いのか、俺の裾を掴んで離さない。
「サテラ、そんな怖がらなくても、あいつらは別に襲ったりはしてこねぇよ」
「………」
まあ、境遇が境遇だしな、怖がるのも無理はないか……
俺はサテラのペースに合わせながら、ゆっくりと受付嬢の所へ向かった。
「その姿……麒麟さんですね!今日はどうされました?」
「ああ、この子に冒険者登録をさせたいんだが、できるか?」
俺が後ろに隠れているサテラを前に出すと、受付嬢は怪訝そうな顔をし出した。
「……その子、まだ十五歳にもなっていないですよね」
「そうだが、冒険者に年齢制限はないだろ?」
「そういう話ではありません、大体そんな小さな子を冒険者にさせて、貴方は一体何をさせるおつもりなのですか」
受付嬢はギルド全体に聞こえるように白々しく声を大きくした。
勘弁してくれ、みんなの視線が集まるじゃないか……
誤解を解かなくては。
「どうもしねぇよ!ただ冒険者登録しとけば、旅の移動がスムーズになるだろ?その為だよ」
「本当ですか?」
「ああ本当だ、信じてくれ」
受付嬢は俺に疑いの目を向けていたが、しばらくすると大きなため息を吐いた。
「………はあ、分かりました。冒険者の登録……ですね?」
「そうだ。頼む」
「では、こちらに手を乗せてください」
受付嬢から差し出さられた透明な板に、サテラは言われるがままに手を乗せる。
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名前:サテラ
性別:女
種族:人間
年齢::13
職業:魔術師
ランク:F
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「……はい、完了しました。もし2人で活動をされるなら、パーティーを組むことを推奨しますが、どうされますか?」
「組ませてくれ」
「分かりました。ではパーティー名を決めてください」
パーティー名か……
できればかっこいいのが良いな、でもあんまりキラキラしすぎると、後で鼻で笑われてしまうかもしれない。
「ワンダーズ……で頼む」
「はい、分かりました」
いや、やっぱりクソダサいな。
相変わらず俺のネーミングセンスのなさを痛感する。
こうして俺たちワンダーズができた。
とりあえず今日はこれくらいにしよう。
明日から本格的な活動をはじめる。