貴殿転生 元の知識で本気出す   作:肉と米と愛

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19話 奇跡

 

 

 

 

 

 

 

 

 冒険者としてワクワクしていた俺だが、初めの依頼は冒険者とは思えない依頼だった。

 

 まず俺たちのランクはF、最低ランクだ。

 そんな俺たちに入ってくる仕事はほぼ雑用なみたいな依頼だけ。

 

 草むしり、落とし物探し、どれも俺の知る冒険者イメージとはかけ離れていた。

 

 正直期待外れで、がっかりしたが、そのおかげで雑談する時間が増え、サテラとの仲は深まった気がする。

 

 「そっちには何もないか?」

 

 「うん」

 

 「そうか、じゃあ場所を変えるぞ」

 

 「うん」

 

 頷くだけじゃなく、返事も多少してくれる様になった。

 

 この調子で、元気なってくれる事を願おう。

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 そこから3ヶ月、毎日依頼をしている俺たちはCランクまで上がる事ができた。

 

 C級まで上がれば、受けれる任務も多少はマシになる。

 

 そして今俺達は、まさにC級の任務である馬車を護衛している最中だ。

 

 アスラ王国では危険な魔物よりも、盗賊が多い。

 だからこうやって経験のある(C級とかいうまだまだ見習いの冒険者)を雇い、馬車の荷物や人間を守るのだ。

 

 

 サテラは最初、馬車という単語を聞いてビクビクしていただが、今ではかなり落ち着いていて、俺の荷物に入っていた魔術本を馬車の中で読んでいる。

 

 あの本は、俺が魔術に出会うきっかけとなった物だ。

 まさかそれをサテラが読むなんて……

 

 その光景を微笑ましく思い見ていると、突然馬車が止まった。

 

 「ん?どうしたんだ?」

 

 「あ……ああ…」

 

 中から顔を出すと、運転していた男の額には汗がでている。

 

 「はいはい止まってくれ、こんな場所で何を運んでんだあんちゃん?」

 

 その男の見ている先を見ると、前には顔を隠した男達が数名立っていた。

 

 「お、俺は人運びの仕事をしているだけだ……だから、何もないぞ……!」

 

 おいおい、白々しすぎるだろ。

 嘘が下手くそだな、この男

 

 「おいおい、嘘はよくねぇな。その荷台の中に商品があるのは知ってんだ。大人しく渡してくれないか?安心しろ、命まではとらねぇよ」

 

 

 中にいたサテラを見ると、そこには読んでいた本を落とし、ガタガタと震えてうずくまっている姿があった。

 

 まあ当然だよな、トラウマなんだもの。

 

 「サテラ、どこが身を潜める場所に……」

 

 その瞬間、後ろで閉まっていた扉が開いた。

 

 「おい!こりゃいい!見た事ねぇ珍獣に、可愛らしい女の子。こりゃいい小遣い稼ぎができそうだな」

 

 外からはガタイのいい男が二人。

 

 「おいお前ら二人、死にたくなきゃあ大人しく荷台から降りろ」

 

 「お前達、こんなことやめて、家に帰れよ。まだ間に合うぞ?」

 

 俺がそう言うと、男達は顔を見合わせ、声高らかに笑い始めた。

 

 「あ?なんだこの珍獣、ここに来て説教を始めるつもりらしいぞ」

 

 「自分の状況がよく分かっていないらしいな」

 

 『アハハハハハハ!!』

 

 他の奴らもつられて笑っている。

 

 話し合いでどうこうなる相手では……ないな。

 

 だったら、片付けるしかない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 バコッ!

 

 俺は早速、荷台に入ろうとしていた男の顔面を蹴り付ける。

 

 「ガハッ!?」

 

 男はそのまま地面に頭をぶつけ、気絶した。

 

 「こいつ……!」

 

 残る敵は後3人、いける。

 

 俺はそのまま外に身を乗り出し、剣を抜こうとしている男の腹に、武装色付きのパンチをお見舞いしてやった。

 

 「手が黒……バホォッ!」

 

 男はよろめき膝を崩す。

 

 「仲良く、しろよッ!」

 

 倒れた男の頭を掴み、もう1人の男に向かい投げつける。

 

  「ちょま……ぐぇ!」

 

 よし、後1人……どこだ?

 

 「嫌ァァァ!」

 

 甲高い声に、俺は咄嗟に馬車の方を見た。 

 

 

 

 

 

 

 「まずはテメェからだ!」

 

 そこには、今にも切られそうなサテラが……

 

 サテラは恐怖のあまりに動かずに、目を見開いている。

 

 「サテラ!」

 

 まずい、サテラが切られる!

 

 考えるより先に、俺の体は動いていた。

 

 サテラと男の間に空いている隙間に、俺は飛び込む様に割って入る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 振りかざされた剣が、俺の腕に食い込む。

 

 

 

 「チッ!!」

 

 

 

 クソ痛え!

 だが、隙はできた。

 

 痛みに耐えながら、食い込んだ腕に力を込め、剣が抜けないようガッチリと固定した。

 

 「はぁ!?抜けねぇ!?」

 

 剣を抜けずにいる男の顔面に、武装色をつけた拳で殴った。

 今度は躊躇せず、本気で。

 

 

 

 グチュ!

 

 殴った瞬間、あの生々しい音が俺の耳に入る。

 

 これは……死んだな。

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 戦いが終わると、3人の気絶した男、そして、1人の死体があった。

 

 「はあ……はあ……」

 

 俺は荒い息を整えようと近くの木へもたれかかる。

 

 

 

 

 この世界に来て17年。

 

 俺も流石にこの世界にも適応してきている。

 殺しの概念も多少変わったはずだ。

 命を狙うなら、命を狙われる可能性があるって事も分かってる。

 

 でも、いまだに殺すのには躊躇してしまう。

 

 

 後ろを見ると、サテラが顔面蒼白で俺を見ている。

 

 「サテラ、大丈夫か?怪我は……」

 

 サテラに近づくと、彼女は俺に勢いよく抱きついてきた。

 

 「怖かった……!」

 

 「ああ、そうだよな。でももう大丈夫だ。もう他に悪いやつはいない」

 

 俺は優しくサテラの頭を撫でる。

 

 まったく、両腕があるってのは幸せだな。

 

 

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 気絶した盗賊は縄で縛り、道の近くにある木に吊るしておいた。

 これなら誰か見つけてくれるかもしれない。

 

 助けるかどうかは別として……

 

 

 俺たちは任務を終え、別の町で報酬を受け取った。

 報酬は通常よりも多く、2倍近く出してくれた。

 任務以上の事をしてくれたお礼らしい。

 

 

 

 

 

 

 貰った金を使い、宿をとり、俺達は部屋に入る。

 

 

 

 

 

 

 「………腕」

 

 「ん?」

 

 ベットの上に座っていると、サテラが俺の前に来ていた。

 

 「腕……見して」

 

 「やめとけよ、結構……グロいぞ」

 

 「いいから、見して」

 

 俺は諦めのため息をつき、仕方なく腕を見せる。

 包帯に巻かれ、真っ赤に染まった腕がある。

 

 サテラは手を伸ばし、俺の腕の上に手をのせた。

 

 「おい、血が手についちま……」

 

 次の瞬間、俺は驚愕の目でサテラをみていた。

 

 サテラは俺の腕の上に手をのせて、治癒魔術をかけたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 それも、無詠唱で……

 

 恐る恐る包帯をとってみる。

 

 そこには元通りになったいつもの腕があった。

 

 嘘だろ?

 無詠唱だと……

 

 

 

 

 「お前、無詠唱……できるのか?」

 

 「治癒魔術、だけだけど」

 

 サテラは下を向きながら、浮かない顔で呟く。

 

 「すごいじゃないか……ありがとう。助かったよ」

 

 「いいけど、お願いを聞いて……欲しい」

 

 お願い?

 

 

 「なんだ?欲しい物なら買ってやるぞ。今ある金の範囲ならだが」

 

 「違う、約束して欲しい」

 

 サテラは元通りになった腕を強く握り、涙を流していた。

 

 「……約束?」

 

 「お願いだから、もう、1人にしないで」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「また1人はもう、嫌だ」

 

 「サテラ………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 サテラと冒険者を初めて、4ヶ月か5ヶ月ぐらいだろうか。

 

 サテラは強い子だ、他の奴らに馬鹿にされても気にしないし、泣いた所を見た事がなかった。

 

 

 でも、あの盗賊達に襲われた時、実感した。

 この子もまだ子供なんだ。

 13歳……いや、もうそろそろ14歳になるが、俺はその時、呑気に守護術師として過ごしていた。

 

 そんな俺に、サテラと同じ道を辿るなんて事をさせたら、不安で仕方ないはずなんだ。

 

 そんな小さな子供に、俺は随分と無理をさせてしまっていた。

 

 

 

 

 「分かったよサテラ、今日からお前からいなくなったりなんかしない。ずっと一緒だ。だから、安心していいぞ」

 

 そう微笑みかけて、俺はサテラを胸に押し付けた。

 

   

 

 

 

 

 

 こいつは俺が守る。

 アリエルはもう違う。

 

 

 俺は、この子に決めたんだ。

 

 そうやってしばらく、サテラを胸に当て続けていた。

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

  

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あるウィルシル領のはずれにある町に、魔物の襲撃が起きていた。

 

 「ターミネートボアだ!逃げろ!」

 

 「アサルトドッグもいる!それも数え切れないほどに!冒険者達は何してるんだ!?」

 

 男は慌てて用意した農具を魔物達に向けるが、魔物達は怯む事なく、ゆっくりと男達に近づいていく。

 

 「冒険者が食い止めてこの量だ!俺たちでやるしかねぇ……」

 

「そんなの、無理だ……」

 

 逃げようにも、村は四方から囲まれて逃げられない。

 

 子供や老人、女達は真ん中の方に避難させているが、それも殺される順番を遅らせる事にしかならない。

 

 「お父さんに、近づくな!」

 

 「やめろ!逃げるんだ!」

 

 そこに、1人の少年がいた。

 

 少年はアサルトドッグに足を噛まれ、歩けなくなっている父の前に立ち、ターミネートボアに叫んでいる。

 

 「お父さんは、お前みたいな奴なんかには負けないんだぞ!」

 

 そう言う少年の足はガタガタと震え、自身には重たすぎる剣を必死に持ち上げていた。

 

 「ゴアァァァァ!!」

 

 ターミネートボアが無慈悲にも突進してくる。

 

 少年は目を閉じて、死を覚悟した。

 

 「………?」

 

 

 しかしいつまで経っても、痛みはやってこない。

 

 

 

 

 ゆっくりと目を開けてみると、そこには自分の目の前で静止しているターミネートボアがいた。

 

 「かっこよかったぞ少年、後でお父さんに褒めてもらいなさい」

 

 ターミネートボアの後ろで、誰かの声がする。

 

 その瞬間、ターミネートボアが浮いていた、いや持ち上げられていた。

 

「えーと、硬いものは……あった!」

 

 抜けた声がすると、ターミネートボアは頭から硬い角に頭をぶつけ、即死した。

 

 死んだ魔物の前には、ある生き物がいた。

 

 顔は馬の様な形で、目は大きく、可愛らしい雰囲気がある。

 

 そして体は長く、首だけでも1mはいきそうだ。

 首元からは真っ白な煙の様な輪っかがついていて、尻尾が生えている。

 

 しかしその服装は、貴族が着ているような豪華なものだった。

 

 「麒麟?終わった?」

 

 その魔族の奥から女性……少女とも取れる声がする。

 

 建物の影から出てきたのは、フードを被った女だった。

 服装は謎の生き物が着ている豪華なものとは違い、いかにも冒険者の様な服装をしていた。

 

 「ああ、しかしアサルトドッグの数が多いな」

 

 「じゃあアレでいきましょ?あなたいつも通りお引き寄せてくれない?」

 

 女は杖を持ち、アサルトドックのいる方を指差す。

 

 「分かった、だけどやるなら俺の合図でやってくれよ?前みたいに俺も巻き込まれて丸焦げってのはごめんだからな?」

 

 「フフ、その時は私が治してあげる」

 

 二人は冗談混じりの会話を終えると、生き物の姿が変わる。

 

 先程と違い、下半身が馬の様になり、上半身は人間の男の姿になっている。

 

 男は空に浮き、いや、空を馬が歩く様に歩きながら、アサルトドッグの周りを旋回し始める。

 

 「よし……!」

 

 男がどこから出したかわからない、角笛を持ち、勢いよく吹いた。

 

 ブォォォォォ!

 

 アサルトドッグはその音を聞き、男を追いかけ、町のはずれの森まで誘導される。

 

 それを確認した女は詠唱を始めた。

 

 

 「今だ!やってくれ」

 

 男が叫ぶと、女は詠唱を終え、頭上にある大きな火の玉を、アサルトドッグと男に向かって投げつけた。

 

 

 

 

 ボンッ!

 

 火の玉は地面に直撃し、大きな音を立てて爆発した。

 

 煙が消えると、地面には大きなクレーターができている。

 

 しばらくすると女はこちらに振り向いて、こちらに近づいてきた。

 

「あなた達、怪我はない……って、足を怪我してるわね」

 

 女はそういうと、少年の父に向かって歩いてきた。

 

 少年は父を守るため女の前に立ったが、すぐにどかされてしまう。

 

 「別に殺す訳じゃないわよ。安心して」

 

 女は父の前に来ると、その場にしゃがみ込み、父の足に手を近づけた。

 

 そして、歩く事すらできないほどに抉れていた父の足を、治癒魔術で治してしまった。

 しかも詠唱をせずに……

 

 「はい、これで元通り。他にも怪我人はいる?」

 

 女は尋ねる

 

 「町の中央のところに、負傷者や子供達がいる。助けて貰えないだろうか?」

 

 父がそう懇願すると、女の口角が上がる。

 

 「元々そのつもりよ」

 

 「おーい、俺の心配はなしかよ」

 

 まだ燃えている所から声がする。

 地面にできた大きな穴の方から、先程の男が来ていた。

 今度はもとの謎の生き物に戻った状態で。

 

 

 

 

 

〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 「大丈夫か?」

 

 「ああ、痛みが嘘のように消えてるよ……」

 

 

 謎の生き物と共に、町の中央へ着くと、そこでは父を助けた女が、今度は別の負傷者達を治していた。

 

 腕や、足を、部位関係なく……無詠唱で。

 

 近くにいた村人がこう言った。

 

 「あれはまさに奇跡だ!やはり名前通りの方だ!」

 

 その言葉を皮切りに、村人達が次々と話し始めた。

 

 「やはりあれが、」

 

 「確かに噂と一致している」

 

 「こんな村にまで来てくれたのか」

 

 そしてみんな同じ名前を呼んでいた

 

 「あれが、奇跡のサテラだ!」

 

 A級冒険者 奇跡のサテラが、この村に来たのだ。

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