貴殿転生 元の知識で本気出す 作:肉と米と愛
冒険者としてワクワクしていた俺だが、初めの依頼は冒険者とは思えない依頼だった。
まず俺たちのランクはF、最低ランクだ。
そんな俺たちに入ってくる仕事はほぼ雑用なみたいな依頼だけ。
草むしり、落とし物探し、どれも俺の知る冒険者イメージとはかけ離れていた。
正直期待外れで、がっかりしたが、そのおかげで雑談する時間が増え、サテラとの仲は深まった気がする。
「そっちには何もないか?」
「うん」
「そうか、じゃあ場所を変えるぞ」
「うん」
頷くだけじゃなく、返事も多少してくれる様になった。
この調子で、元気なってくれる事を願おう。
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そこから3ヶ月、毎日依頼をしている俺たちはCランクまで上がる事ができた。
C級まで上がれば、受けれる任務も多少はマシになる。
そして今俺達は、まさにC級の任務である馬車を護衛している最中だ。
アスラ王国では危険な魔物よりも、盗賊が多い。
だからこうやって経験のある(C級とかいうまだまだ見習いの冒険者)を雇い、馬車の荷物や人間を守るのだ。
サテラは最初、馬車という単語を聞いてビクビクしていただが、今ではかなり落ち着いていて、俺の荷物に入っていた魔術本を馬車の中で読んでいる。
あの本は、俺が魔術に出会うきっかけとなった物だ。
まさかそれをサテラが読むなんて……
その光景を微笑ましく思い見ていると、突然馬車が止まった。
「ん?どうしたんだ?」
「あ……ああ…」
中から顔を出すと、運転していた男の額には汗がでている。
「はいはい止まってくれ、こんな場所で何を運んでんだあんちゃん?」
その男の見ている先を見ると、前には顔を隠した男達が数名立っていた。
「お、俺は人運びの仕事をしているだけだ……だから、何もないぞ……!」
おいおい、白々しすぎるだろ。
嘘が下手くそだな、この男
「おいおい、嘘はよくねぇな。その荷台の中に商品があるのは知ってんだ。大人しく渡してくれないか?安心しろ、命まではとらねぇよ」
中にいたサテラを見ると、そこには読んでいた本を落とし、ガタガタと震えてうずくまっている姿があった。
まあ当然だよな、トラウマなんだもの。
「サテラ、どこが身を潜める場所に……」
その瞬間、後ろで閉まっていた扉が開いた。
「おい!こりゃいい!見た事ねぇ珍獣に、可愛らしい女の子。こりゃいい小遣い稼ぎができそうだな」
外からはガタイのいい男が二人。
「おいお前ら二人、死にたくなきゃあ大人しく荷台から降りろ」
「お前達、こんなことやめて、家に帰れよ。まだ間に合うぞ?」
俺がそう言うと、男達は顔を見合わせ、声高らかに笑い始めた。
「あ?なんだこの珍獣、ここに来て説教を始めるつもりらしいぞ」
「自分の状況がよく分かっていないらしいな」
『アハハハハハハ!!』
他の奴らもつられて笑っている。
話し合いでどうこうなる相手では……ないな。
だったら、片付けるしかない。
バコッ!
俺は早速、荷台に入ろうとしていた男の顔面を蹴り付ける。
「ガハッ!?」
男はそのまま地面に頭をぶつけ、気絶した。
「こいつ……!」
残る敵は後3人、いける。
俺はそのまま外に身を乗り出し、剣を抜こうとしている男の腹に、武装色付きのパンチをお見舞いしてやった。
「手が黒……バホォッ!」
男はよろめき膝を崩す。
「仲良く、しろよッ!」
倒れた男の頭を掴み、もう1人の男に向かい投げつける。
「ちょま……ぐぇ!」
よし、後1人……どこだ?
「嫌ァァァ!」
甲高い声に、俺は咄嗟に馬車の方を見た。
「まずはテメェからだ!」
そこには、今にも切られそうなサテラが……
サテラは恐怖のあまりに動かずに、目を見開いている。
「サテラ!」
まずい、サテラが切られる!
考えるより先に、俺の体は動いていた。
サテラと男の間に空いている隙間に、俺は飛び込む様に割って入る。
振りかざされた剣が、俺の腕に食い込む。
「チッ!!」
クソ痛え!
だが、隙はできた。
痛みに耐えながら、食い込んだ腕に力を込め、剣が抜けないようガッチリと固定した。
「はぁ!?抜けねぇ!?」
剣を抜けずにいる男の顔面に、武装色をつけた拳で殴った。
今度は躊躇せず、本気で。
グチュ!
殴った瞬間、あの生々しい音が俺の耳に入る。
これは……死んだな。
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戦いが終わると、3人の気絶した男、そして、1人の死体があった。
「はあ……はあ……」
俺は荒い息を整えようと近くの木へもたれかかる。
この世界に来て17年。
俺も流石にこの世界にも適応してきている。
殺しの概念も多少変わったはずだ。
命を狙うなら、命を狙われる可能性があるって事も分かってる。
でも、いまだに殺すのには躊躇してしまう。
後ろを見ると、サテラが顔面蒼白で俺を見ている。
「サテラ、大丈夫か?怪我は……」
サテラに近づくと、彼女は俺に勢いよく抱きついてきた。
「怖かった……!」
「ああ、そうだよな。でももう大丈夫だ。もう他に悪いやつはいない」
俺は優しくサテラの頭を撫でる。
まったく、両腕があるってのは幸せだな。
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気絶した盗賊は縄で縛り、道の近くにある木に吊るしておいた。
これなら誰か見つけてくれるかもしれない。
助けるかどうかは別として……
俺たちは任務を終え、別の町で報酬を受け取った。
報酬は通常よりも多く、2倍近く出してくれた。
任務以上の事をしてくれたお礼らしい。
貰った金を使い、宿をとり、俺達は部屋に入る。
「………腕」
「ん?」
ベットの上に座っていると、サテラが俺の前に来ていた。
「腕……見して」
「やめとけよ、結構……グロいぞ」
「いいから、見して」
俺は諦めのため息をつき、仕方なく腕を見せる。
包帯に巻かれ、真っ赤に染まった腕がある。
サテラは手を伸ばし、俺の腕の上に手をのせた。
「おい、血が手についちま……」
次の瞬間、俺は驚愕の目でサテラをみていた。
サテラは俺の腕の上に手をのせて、治癒魔術をかけたのだ。
それも、無詠唱で……
恐る恐る包帯をとってみる。
そこには元通りになったいつもの腕があった。
嘘だろ?
無詠唱だと……
「お前、無詠唱……できるのか?」
「治癒魔術、だけだけど」
サテラは下を向きながら、浮かない顔で呟く。
「すごいじゃないか……ありがとう。助かったよ」
「いいけど、お願いを聞いて……欲しい」
お願い?
「なんだ?欲しい物なら買ってやるぞ。今ある金の範囲ならだが」
「違う、約束して欲しい」
サテラは元通りになった腕を強く握り、涙を流していた。
「……約束?」
「お願いだから、もう、1人にしないで」
「また1人はもう、嫌だ」
「サテラ………」
サテラと冒険者を初めて、4ヶ月か5ヶ月ぐらいだろうか。
サテラは強い子だ、他の奴らに馬鹿にされても気にしないし、泣いた所を見た事がなかった。
でも、あの盗賊達に襲われた時、実感した。
この子もまだ子供なんだ。
13歳……いや、もうそろそろ14歳になるが、俺はその時、呑気に守護術師として過ごしていた。
そんな俺に、サテラと同じ道を辿るなんて事をさせたら、不安で仕方ないはずなんだ。
そんな小さな子供に、俺は随分と無理をさせてしまっていた。
「分かったよサテラ、今日からお前からいなくなったりなんかしない。ずっと一緒だ。だから、安心していいぞ」
そう微笑みかけて、俺はサテラを胸に押し付けた。
こいつは俺が守る。
アリエルはもう違う。
俺は、この子に決めたんだ。
そうやってしばらく、サテラを胸に当て続けていた。
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あるウィルシル領のはずれにある町に、魔物の襲撃が起きていた。
「ターミネートボアだ!逃げろ!」
「アサルトドッグもいる!それも数え切れないほどに!冒険者達は何してるんだ!?」
男は慌てて用意した農具を魔物達に向けるが、魔物達は怯む事なく、ゆっくりと男達に近づいていく。
「冒険者が食い止めてこの量だ!俺たちでやるしかねぇ……」
「そんなの、無理だ……」
逃げようにも、村は四方から囲まれて逃げられない。
子供や老人、女達は真ん中の方に避難させているが、それも殺される順番を遅らせる事にしかならない。
「お父さんに、近づくな!」
「やめろ!逃げるんだ!」
そこに、1人の少年がいた。
少年はアサルトドッグに足を噛まれ、歩けなくなっている父の前に立ち、ターミネートボアに叫んでいる。
「お父さんは、お前みたいな奴なんかには負けないんだぞ!」
そう言う少年の足はガタガタと震え、自身には重たすぎる剣を必死に持ち上げていた。
「ゴアァァァァ!!」
ターミネートボアが無慈悲にも突進してくる。
少年は目を閉じて、死を覚悟した。
「………?」
しかしいつまで経っても、痛みはやってこない。
ゆっくりと目を開けてみると、そこには自分の目の前で静止しているターミネートボアがいた。
「かっこよかったぞ少年、後でお父さんに褒めてもらいなさい」
ターミネートボアの後ろで、誰かの声がする。
その瞬間、ターミネートボアが浮いていた、いや持ち上げられていた。
「えーと、硬いものは……あった!」
抜けた声がすると、ターミネートボアは頭から硬い角に頭をぶつけ、即死した。
死んだ魔物の前には、ある生き物がいた。
顔は馬の様な形で、目は大きく、可愛らしい雰囲気がある。
そして体は長く、首だけでも1mはいきそうだ。
首元からは真っ白な煙の様な輪っかがついていて、尻尾が生えている。
しかしその服装は、貴族が着ているような豪華なものだった。
「麒麟?終わった?」
その魔族の奥から女性……少女とも取れる声がする。
建物の影から出てきたのは、フードを被った女だった。
服装は謎の生き物が着ている豪華なものとは違い、いかにも冒険者の様な服装をしていた。
「ああ、しかしアサルトドッグの数が多いな」
「じゃあアレでいきましょ?あなたいつも通りお引き寄せてくれない?」
女は杖を持ち、アサルトドックのいる方を指差す。
「分かった、だけどやるなら俺の合図でやってくれよ?前みたいに俺も巻き込まれて丸焦げってのはごめんだからな?」
「フフ、その時は私が治してあげる」
二人は冗談混じりの会話を終えると、生き物の姿が変わる。
先程と違い、下半身が馬の様になり、上半身は人間の男の姿になっている。
男は空に浮き、いや、空を馬が歩く様に歩きながら、アサルトドッグの周りを旋回し始める。
「よし……!」
男がどこから出したかわからない、角笛を持ち、勢いよく吹いた。
ブォォォォォ!
アサルトドッグはその音を聞き、男を追いかけ、町のはずれの森まで誘導される。
それを確認した女は詠唱を始めた。
「今だ!やってくれ」
男が叫ぶと、女は詠唱を終え、頭上にある大きな火の玉を、アサルトドッグと男に向かって投げつけた。
ボンッ!
火の玉は地面に直撃し、大きな音を立てて爆発した。
煙が消えると、地面には大きなクレーターができている。
しばらくすると女はこちらに振り向いて、こちらに近づいてきた。
「あなた達、怪我はない……って、足を怪我してるわね」
女はそういうと、少年の父に向かって歩いてきた。
少年は父を守るため女の前に立ったが、すぐにどかされてしまう。
「別に殺す訳じゃないわよ。安心して」
女は父の前に来ると、その場にしゃがみ込み、父の足に手を近づけた。
そして、歩く事すらできないほどに抉れていた父の足を、治癒魔術で治してしまった。
しかも詠唱をせずに……
「はい、これで元通り。他にも怪我人はいる?」
女は尋ねる
「町の中央のところに、負傷者や子供達がいる。助けて貰えないだろうか?」
父がそう懇願すると、女の口角が上がる。
「元々そのつもりよ」
「おーい、俺の心配はなしかよ」
まだ燃えている所から声がする。
地面にできた大きな穴の方から、先程の男が来ていた。
今度はもとの謎の生き物に戻った状態で。
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「大丈夫か?」
「ああ、痛みが嘘のように消えてるよ……」
謎の生き物と共に、町の中央へ着くと、そこでは父を助けた女が、今度は別の負傷者達を治していた。
腕や、足を、部位関係なく……無詠唱で。
近くにいた村人がこう言った。
「あれはまさに奇跡だ!やはり名前通りの方だ!」
その言葉を皮切りに、村人達が次々と話し始めた。
「やはりあれが、」
「確かに噂と一致している」
「こんな村にまで来てくれたのか」
そしてみんな同じ名前を呼んでいた
「あれが、奇跡のサテラだ!」
A級冒険者 奇跡のサテラが、この村に来たのだ。